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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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内戦の始まり

「マリエッタ陛下。紅茶を入れました。少しご休憩なさってはいかがですか?」


 エリシアはメイド服に身を包み、マリエッタ皇帝の執務室に入ってきた。


 王宮にも侍女は数多く仕えていて、マリエッタ皇帝陛下の身の回りを世話するのは最も名誉な仕事なのだが、エリシアは最近雇われたばかりであるのにも関わらずその任についていた。


 マリエッタ陛下からの直接の指名なので、他の侍女たちも何も言えないのだが、いきなり現れたこの謎の人物には、当然やっかみや陰口が最初は溢れかえっていた。


 しかし、最近では完璧な仕事ぶりや教養あふれる話の数々に他の侍女たちも『これなら陛下がお気に入りになるのも分かる』という納得と尊敬の気持ちを持つように変わってきていた。


「む、エレーナ叔母上が動いた」


 窓際の机で書類に目を通しながら、幼い皇帝マリエッタはカーテンで半分顔を隠しながら中庭の様子を覗き込んでいる。


 今、皇帝陛下の部屋にいるのは、侍女に扮したエリシアだけで、エリシアは紅茶をのせたトレイをマリエッタの机に置くと自らも窓際に張り付いて中庭の様子を窺っていた。


「我が陛下を部屋に連れ込もうとしているようですね。エレーナ様が管理している帝都での各種儀式を扱っている部署ですね」


「帝都に音楽隊を出すとか言っておったな。……なるほど、自分の部下たちを遠征に出しておいて空き部屋を作ったのか」


 皇帝マリエッタは、小さくて整った顔から呆れたようなため息を吐いていた。


「城の外にでるわけでもなく、中庭のすぐ側だから警護の兵に止められることもない……か。こんなことには頭が回るのだな」


 肘を窓際について、馬鹿にしているのだけれど、どこか本気で感心しているようでもあった。


「いかがなさいます? 踏み込んでしまってもいいと思いますが」


 エリシアはそう提案する。本来は侍女ですらなく、他の国の人間だということを考えればかなり踏み込んだ発言だと自分でも思うがマリエッタはもうエリシアに全幅の信頼をおいていた。


「うーむ」


 ただ、マリエッタはまだ悩んでいた。踏み込んで捕まえたとしても、法律としては大した罪ではない。今、それをするべきかというタイミングかを何度も考えてしまう。


「タモン殿が叔母上を籠絡してくれる可能性はないか?」


「エレーナ様が相手ですと、襲われてしまって困っているところかと思います」


 にこやかに自分の主人を分析するエリシアに、マリエッタとしてはそうかと納得するしかなかった。


「大丈夫です。世論も家臣たちもマリエッタ陛下の味方をしてくれますよ」


 エリシアが笑って、マリエッタを後押しする。すでに色々手を回していることは知っているけれど、マリエッタ本人はあまり自信が持てていなかった。不思議とこうやってエリシアが後押ししてくれるとうまくいく気がしてしまう。


「よし、今が仕掛けるタイミングか」


 マリエッタは、しばらくの沈黙のあとで決意して立ち上がった。


「誰かあるか! 警備兵たちを呼べ!」


 数分後、叔母であるエレーナがタモンを押し倒している現場をマリエッタが自ら取り押さえた。

 この痴情のもつれのような事件から、帝国の内乱鎮圧は始まった。




「してやられました。こうやって帝都に足止めしている間に、反対派を潰していく計画でしたとは……」


 奇妙なドタバタからやっと解放されて部屋へと戻ろうとしているタモンの前に立ちふさがったのは、マリエッタの叔母であるアリョーナだった。


 今日はそれほど派手な色合いではないけれど、十分に高飛車お嬢様と呼ぶに相応しい格好のアリョーナは口元を派手な扇で抑えながらタモンに絡んでいた。


(アリョーナ様は別に足止めするつもりもなかったのだけれど……)


 タモンたちの計画にはなかったのだけれど、毎日、勝手にタモンに絡んできていた。


「でも、アリョーナ様とのやり取りは楽しかったですよ」


 うざ絡みしてくるアリョーナとの会話は、上辺だけの付き合いしかない帝都の中では毎日の楽しみだったとタモンは言う。


「はっ、何を言っているのあんた?」


 ほんの一瞬だけちょっと嬉しそうに口角を上げたが、あとはいつも通りに罵倒する口調だった。


「私は、北方の大領主だからあんたたちのことは以前から調べていた。簡単に倒せるだなんて思わないことね」


 捨て台詞のように慌ただしくそれだけを言うと、警備兵と揉めているらしい部下と合流して走り去っていった。王都からも脱出をするつもりなのだろうと、タモンはその背中を見送るだけだった。



「リュポフ様からは、お手紙が届いていました」


 マリエッタ皇帝陛下の執務室で、タモンはマリエッタとエリシアと合流するなり、エリシアからは手紙を手渡された。


「挑戦状みたいなものかな。お前を捕らえて私の夫としてみせるから待っていろと」


 内容はもう把握済みなのであろうけれど、マリエッタとエリシアに一応、手紙を読んだ内容をタモンなりに解釈して伝えた。


「さすがはリョポフ叔母上。さっさと逃げて東方騎士団と合流してしているな。まあ、叔母上が合流するまでの時間を稼げて、半分の兵を足止めできているだけいいとするか」


 マリエッタとしては、即、リュポフ叔母上に率いられた兵が帝都に攻めて来るといった最悪の事態は免れたのでほっと胸を撫で下ろしていた。


「マリエッタ陛下。ここは僕たちは、わざとらしく逃げて自分たちの兵と合流したいと思います」


 タモンは改まって、そう提案する。


「うむ……」


 マリエッタは少し迷っていた。


 追っ手が軍隊であれば、タモンの身の安全が保証できないことの不安。

 ヒイロ帝国が、少数とは言え他国の兵を借りることへの批判。

 それらの悩みがぐるぐると頭の中を回転していた。


「そんな悩まなくてもいいと思います。反乱なんて最小限でさっさと鎮圧してしまうのがいいに決まっています」


 タモンは優しく声をかける。それは、王になったものだけが分かる悩みなのかもしれないとマリエッタは思い笑顔を見せた。


「僕たちは、リュポフ様たちが怖いのでただ自領に逃げるだけです」


 そう笑いながら言って、マリエッタの気持ちを後押ししてくれる。そう、何よりもまずは反対勢力を素早く鎮圧しなければならない。時間が経てば、トキワナ帝国が介入してくる可能性も高くなってきてしまう。


「分かった。タモン殿の北への逃亡を認めよう!」


 マリエッタからは、タモンへの感謝の言葉はない。あくまでも皇帝としての仕事を成し遂げることに力を注ぐことに決めたようだった。


「さっさと、反乱勢力を制圧してみせる。無事に生き残って、また会おう」


 そう言うと、マリエッタは部屋の外にでて重臣たちを集めるように大きな声で呼びかけた。

 とても子どもには見えない皇帝らしい威厳に満ちた態度を見送りながら、タモンたちは帝都を後にした。


「馬車は無理だ。小回りが利く馬にしよう」


 馬を買い上げて、タモンたちは商人を装いながら帝都を脱出する。


 帝都およびその周辺は、マリエッタ皇帝派の軍が制圧している。ただ、正規軍とはいえ、出身地や家柄は様々だった。帝都側の正規軍の中にも、反皇帝派と通じている人物がどうしても混ざってしまう。


 マリエッタ皇帝から命を受けて、正式な手続きで王都から出ているが、すぐに反皇帝派にも伝わってしまうのは分かりきったことだった。


 タモンもエリシアも普通に馬は乗りこなせるがそれほど上手いわけではなかった。なので、商人を装った格好で、いつ反皇帝派の軍に狙われるのかに怯えながら自国を目指さなければならなかった。


「自分たちで誘っているとはいえ、なかなか厳しいですね」


 日も暮れ始めたので、大きな街道からは外れた脇道で二人は馬を休ませ、自分たちも野営の支度をする。


 自分たちの動きが全く敵に伝わらないと陽動の意味がないが、ここで敵の軍隊に追いつかれてしまっても逃れることは難しい。捕まってしまえば、陽動どころではなく北ヒイロ地方自体の存続の危機※だった。


 タモンと一緒に修羅場は何度もくぐり抜けてきたエリシアも、独特の緊張が続く時間に悲鳴をあげていた。


「本当にね。帝国の……特に東方騎士団は、馬も乗り手も一級だからね。もし、見つかったらあっという間に追いつかれちゃうからね。気が休まらないよね」


 そう言いながら、タモンは魔導書を片手に薪木に火をつけていた。


「……え?陛下。今、何をなさいました?」


「魔法で火をつけてみた」


 エリシアははじめて見る主君の技とそのあっさりとした答えに目を丸くしていた。


 夜の食事をするのにも、寒くなってきた夜を過ごすのにもとても助かるのだが、初めてみる主人の魔法にただ驚いていた。


「魔法を……使えたのですか?」


「昨日から使えるようになった」


「過去の男王は魔法を練習しても使えないエピソードが残っているので、てっきり陛下も使えないのだと思っておりました」


「男は旧人類だからね。魔法を使えないんだけれど、僕はちょっと特殊だったらしい」


 話の内容も、言葉の意味も何となく伝わるけれど、はっきりとは分からないのでエリシアは首をかしげていた。


「そうは言っても難しいね。初等部の子と一緒に勉強しなきゃだめかな」


 魔導書を片手に持ちながらタモンは新しいおもちゃを手にした子供のように笑っていた。






「焚き火の跡がある」


「まだ、暖かい。遠くには行っていないはずだ」


 朝方になって、街道で得た情報を元にタモンたちの足取りを追っていた帝国の東方騎士団の斥候は、タモンたちの目と鼻の先まで近づいていた。


「リュポフ様に伝えよ。近くに皇帝の軍もいないと」


「余裕で国境まで先に抑えられる」


 一人を伝令に走らせて、残りの斥候はタモンの足取りを追うことにした


 さらに脇道に入って身を潜めているのかもしれないが、国境線にリュポフの本隊が回り込むのも時間の問題だった。もはや狩りの時間でしかないと斥候部隊は余裕をもって馬を走らせていた。


「隊長! あの二人組では!?」


 空けた道にでると、遠くに馬を走らせている二騎の姿がわずかに見えた。


「報告通りだな」


「あとは、急げば国境に滑り込めると思ったか? 甘いな。頭を抑えるぞ!」


 斥候部隊は、自慢の駿馬を操ってタモンたちにすぐに追いつき、姿を確認することができた。

 挟み込むように左右から追い上げて、頭を抑えようとする。


「タモン殿とお見受けする。大人しく止まってもらおうか!」


 斥候部隊は、比較的軽装とはいえ立派な剣に手をかけながら威圧する。一人は止まらないのであれば、馬を攻撃するために切りかかる姿勢をみせていた。


「むっ?」


「なんだと?」


 タモンたちは、斥候部隊から一瞬で見えなくなった。次の瞬間には方向を九十度変えて、抜け出していた。


「どうやった?」


 一瞬で速度を落として、方向を変えたのだろうが、全くどのようにしたのかは斥候部隊をもってしても誰も分からなかった。


「北方には、曲芸のような馬術があるというし」


 ショックを受けながらも、自分たちを落ち着かせていた。

 国境に逃げ込まれるわけではなく、むしろ遠ざかっている。それに横を見るとすでにリュポフが率いていると思われる本隊の姿が砂煙をあげながら見えてきていた。


 このまま国境への道をふさぎつつ、本隊と追いつめていけばすぐに海岸だ。逃げ道はないと安心していた。


「だが、なんだこいつら」


「速い……ぞ」


 情報でも、見た感じでも普通の馬なのに、帝国の東方騎士団の中でもさらに駿馬ぞろいの斥候部隊が追いつくことができなかった。


 乗っている者たちが軽く、軽装でさらにはただ道など考えずにひたすら海の方に真っすぐ走らせているだけということはあるが、それでも速かった。


 本隊と挟み込むようにできるつもりだったが、目論見は外れて本隊と一緒に追いかけるような形になってしまっていた。


「だが、ここまでだ」


「追いつめた」


 もう海が肉眼で確認できる。北側は切り立った崖だし、迎えの船があるようなこともない。もう本隊を突破しなければ、逃げる道もない。斥候部隊は、一安心してあとは本隊にすべてを任せようとした。


(速度が落ちない……)


 もう、海岸の砂浜まで二騎は入っているのだが、砂浜や濡れた海岸でも速度が全く落ちていなかった。


「罠です! リュポフ様!」


 斥候部隊の隊長は、思わず叫んだ。


 長年の経験から嫌なものを感じて周囲を見回すと、北の崖の上に北ヒイロの軍らしい姿を発見したのだった。

 だが、多すぎる騎馬の群れに阻まれてその声はすぐには届かなかった。


「あれって、幻影が見える魔法みたいなものですか?」


 崖の上からエリシアは、隣にいるタモンに小声で尋ねていた。

「そうだね。大人数に幻影を見せるのは大変だから、ちょっとコツがいる……って書いてあった」


「はあ」


 魔法に詳しくないエリシアだったが、この魔法自体がそれほど高度なものではないことは分かる。ただ、タモンが使うとちょうど効果的で、実践的な魔法を誰かが教えてくれたのだと感じていた。


 すごく頼もいと思ったエリシアだったが、どこか怖いものも感じてわずかに震えた体を自分の両手で抱きしめていた。


「弓兵構え!」


 ロラン将軍が、タモンと目くばせをしたあとで兵たちに指示を出した。


「弓の攻撃後にミハトの部隊は、背後から攻撃!」


「はっ!」


 タモンの言葉に遠くにいたミハトから大声の返事が返ってきた。崖の下の東方騎士団に聞こえてしまうかもしれない大声だったが、もう聞こえたところで状況は変わらなかった。


「撃て!」


 タモンの声を合図に戦闘は始まった。

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