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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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タモンのお披露目

 王城のみならず帝都中が、朝からその知らせを受けてざわめいた。

 お忍びで外遊していた幼い皇帝陛下一行がいつの間にか帰ってきたと思ったら、『男』を連れてきて後宮に住まわせるという。

 権力闘争の最中にある人たちにとっては皇帝側が打った絶妙な一手に唸るしかなかったし、権力には興味がない人たちにとっても、久しぶりに『男』という物珍しいものが見られるということに政治的なことは分からなくても歓喜していた。

 タモンはわざわざ城の外に一度出てから、今朝、初めて入城しますという体で馬車を降り、家臣たちに先導されながら歩いて城の中を歩いていた。

 儀礼用のこの地方の民族衣装を着せられたタモンは、城に入ると大きな注目を浴びていた。

(ちょっとワンポイント入った神主さんみたいな格好だよな)

 タモンは、もっと派手な衣装を着せられてしまうことも覚悟していただけに、目立ちはするもののほどほどに落ち着いた衣装で良かったと思いながら、周囲の好奇の目を浴びながら無言で静かに歩いていく。

(エレナやマジョリーが僕の城に来たときもこんな気持ちだったのかな……)

 自分の夫人たちを改めて尊敬する。ただ、モントの城の様に、反対側の建物から身を乗り出して何人も見ているということはない。少し男に慣れていることもあるからか、タモンの元に押しかけるというようなこともなく、通りすぎる姿をじっと見つめながら、何やらひそひそ話している姿が目立った。

 謁見の間などにはいかずに、中庭に案内されるとそこにはマリエッタ皇帝が出迎えてくれていた。

 威厳ある態度で出迎えるのだが、親密さをアピールしようとすると結局、マリエッタの方がタモンの腕にしがみつくような形になる。その光景に周囲の反対派ではない大多数の皇族や家臣たちは、珍しく皇帝の可愛らしい一面を見たような気がして自然と笑みがこぼれながら見ていた。

「今日は後宮への引っ越し祝いの席である」

 中庭には立食パーティーの準備がされていて、すでに皇族や家臣たちが多く集まっていた。青い空の元、白い壁に囲まれた緑の芝が綺麗な中庭に、綺羅びやかな服装の人たちが集まっている。これでも、正式なパーティに比べれば抑えた服装だと聞かされるが、タモンや隣につきそうエリシアには十分すぎるほど眩しい人の群れだった。

 皇帝陛下の短い挨拶のあとで乾杯の音頭とともにみんながグラスを高々と上げて、ワインを飲み干した。

「陛下のそれはジュースですよね」

「そうだ。余計な心配はしなくていいぞ」

 覗き込んで確認するタモンに、ちょっと鬱陶しい保護者のように言われたかのように、幼い皇帝マリエッタは冷たく対応していた。

 パーティの参加者たちは、二人のそんなやり取りをじっと観察していた。

(それで……あの『男』は何なんだ?)

(たまに現れると聞きますし、どこかにいたのを捕獲してきたのでは?)

(あの皇帝陛下が随分と親しくなっているようだが、本当に恋人なのか?)

 結婚などとは言わないし、ただ、後宮に引っ越すというだけの宣言は家臣たちにも色々な憶測を呼び、真相を知りたい人たちがマリエッタとタモンの周りに押しかけて、質問攻めにしていた。

 南ヒイロのお国柄なのか、それとも偉い人ばかりだからなのか、遠慮なくタモンの体を触って確認をしようとするので、途中でマリエッタが見かねて後宮入り口にタモンを移動させて、厳しい警護とともに入場制限をするようにした。

「動物園のパンダの気分」

 エリシアに言っても伝わらないであろうことをぼそりとつぶやきながら、一人ずつ入ってくるお客さんを笑顔で出迎えて他愛のない会話を言い交わすということを繰り返していた。

「あなた。最近、現れたという北ヒイロの『男王』でしょ」

 十番目くらいに入ってきた若い女性は、腰に手を当てながらタモンにいきなりそう切り出した。見事にロールのかかった金髪で、派手な赤いドレスを身にまとったその姿はいかにも高飛車な悪役令嬢というのにふさわしかった。

「はい」

 自ら広める気もなかったが、嘘をつく必要もなかったのでタモンはあっさりとそう返事をした。

「……あんたたち、何を企んでいるわけ?」

 高飛車なお嬢様は、あまりにもあっさり認められてしまったので拍子抜けしてしまったようだったが、改めてタモンを問い詰める姿勢を崩さない。

「マリエッタ陛下は、僕たちの存在を認めてくれました。その感謝と、美しくも凛々しい人ですので側で支えてあげたいと思いついてまいりました」

 タモンは、今度は嘘ではないけれど、ちょっと恋人として慕っているかのような雰囲気を出しつつ答えていた。

「はっ、あんなお子様がいいってわけ?」

 馬鹿にしたように、高飛車お嬢様は詰め寄っていた。

「もちろん、でるところはでている大人の方が好きです」

 タモンは特に怯えた様子もなく、淡々とそう本心を語っていた。そして、あまり豊満とは言えなさそうな高飛車お嬢様の胸元に視線を移していた。

「ですので、マリエッタ陛下には特に将来に期待しています」

 これに関しては、嘘かもしれないと思いながらも、タモンは微笑みながらそう続けた。

「はあ? あんたね!」

「アリョーナ様、申し訳ありません。次の方もお待ちですので!」

 警備の人が、間に入りタモンから引き剥がそうとした。単に時間がかかりすぎなのか、それとも険悪になりそうな雰囲気を察したのかは分からないが文句を言いながら、アリョーナと呼ばれた高飛車お嬢様は警備の人に連れ去られていった。

「あんたたち、私を誰だと思っているのよ!」

「アリョーナ様、またいつかゆっくりと……」

(アイドルの握手会はこんな感じなのだろうか……)

 タモンは、そう思いながら笑顔で小さく手を振りながらお別れの挨拶をしていた。


「十四女アリョーナ様は、早速、タモン陛下に突っ掛かっていましたね」

「そうだね」

 あてがわれた後宮の部屋に戻ると、タモンはベッドに大の字になり倒れ込んでいた。結局、昼の間はずっと偉い皇族や家臣の相手をすることになってしまい、体力的にも精神的にも限界になったところで夜になりやっと解放されたところだった。

 エリシアは、紅茶とお茶菓子を持ってきてくれたようだった。紅茶のいい匂いが、タモンの鼻を刺激して起き上がってもいいかという気分にさせてくれる。

「まあ、でも、仲良く喧嘩できそうな気がする」

 タモンは仰向けになり木造の天井を眺めながらそう続けた。十分に豪華なのだけれど、大きすぎず派手すぎず落ち着いた雰囲気の部屋で良かったと和みながら、しばらくの間は上の空でぼーっとしていた。

「エレーナ叔母様からは、早速、贈り物が届いているな。何だこれは? 花と宝石か?」

「えっ、マリエッタ陛下!」

 エリシアと一緒にマリエッタが部屋に入って来たことに気がついていなかったので、タモンは慌ててベッドから飛び起きた。

「いいよ。今日は疲れただろう。休んだままでいてくれたまえ」

 風格と気品あふれる幼女からそう言われて、タモンは思わず平伏しそうになってしまう。

「いえ、陛下の方こそお疲れでしょう」

 休むにしても、さすがにベッドで大の字になりながらこの城の主人を迎えるわけにはいかないとマリエッタの側へと駆け寄った。

「ふふ、仕事が終わったあと、こうして『男』が出迎えてくれるというのはいいものだな」

 タモンの腕に頬をつけながら、マリエッタはそう言った。

 数年後であれば、とても威厳がありつつ艶めかしい台詞なのだろうとタモンは思う。

 ただ、現時点は、ちょっと男との生活を妄想しすぎている子どもの面が強く見えてしまう。

「ごほん。リュボス叔母様からは、何もアプローチがなかったのだな」

 マリエッタの方も、恥ずかしいと思ったのかごまかすように横を向いてエリシアにそんな質問をしていた。

「左様ですね。少し遠巻きにじっと見ているだけでしたね」

 エリシアはそう答えた。ちゃんと、要注意人物の顔を覚えながら、忙しい中でも動向を確認しているのはさすがだなとタモンは感心していた。

「近寄ってきていただかないと、さすがの我が主人でも口説くのは難しいですね。何らかの機会を作りませんと……」

「『さすがの』って何?」

 考え込んでいるエリシアの横顔に何か違和感を抱きながらも、タモンはまるで確実に狙った女性を落とすというような口ぶりに抗議したかった。

『明日、リュボス叔母様も出席する会議がある。わざと空き時間を作って誘導させよう」

「さすがです。マリエッタ陛下」

 マリエッタとエリシアは、二人で計画を推し進めていた。年齢の差はありつつも、この旅の中ですっかり自分よりも意気投合しているように見える二人の関係に、タモンは少し嫉妬さえ感じてしまう。

「……ところで、エリシアのその格好は何?」

 さっきから感じていた違和感に、やっとタモンは言及する。

「何と言われましても、帝国のメイド服ですが?」

 キト家の侍女たちが着ているメイド服とよく似たデザインだった。ただ、完全に足首まで隠すスカートなど、更に厳格な印象を与える服装で、わずかにスカートをつまんで広げながらエリシアは少し回ってタモンにその姿を見せた。

「身分など秘密で入国したのですから、このままタモン陛下の身の回りのお世話をする侍女ということにしておいた方が都合がいいかと思いまして」

「こうして、夜に三人で密談するのに都合が良いしな。泊まり込んでも不自然に思われない」

 片棒を担いでいたらしいマリエッタもそう言って胸を張った。

「ですので、私はそちらの小部屋で寝泊まりさせていただきます」

 元々、侍女たちが待機するのに使用していたのであろう部屋を指しながらエリシアはそう言った。

「それとも、私がこんな近い部屋に住まわれるのは嫌ですか?」

 手を後ろに回しつつ胸を張りながら、エリシアは聞いていた。もちろん、この優しい主人が嫌がったりはしないことは分かった上でからかい半分の質問だった。

「嫌なわけないでしょ。じゃあ、身の回りの世話もよろしくね。メイドさん」

「お任せください」

 にこりと笑うエリシアだった。

「エリシアがメイド服を着ると可愛いよね。知的なメイドさんって感じ」

 つい、そんな言葉が漏れてしまったのだけれど、当のエリシアよりも横にいたマリエッタの方が皇帝の威厳はどこかへ行ってしまい変な声を出していた。

「ふお」

「マリエッタ陛下。お気をつけください。これが無自覚おんなたらしの手口です」

 何故か、マリエッタの方をタモンの毒牙から守りたいかのように両肩を抱いているエリシアだった。

「わ、分かった。すごいものだな」

「そんな納得されても困るのですが……」

「あの……。その……。聞きたいのだが……」

 マリエッタは皇帝であることは完全に忘れてしまい、ただの女の子としてエリシアの方を振り返りながらもじもじとしながら何やら質問しようとしていた。タモンは、当然のように悪い予感しかしていなかった。

「エリシア殿は、タモン殿に抱かれたことはあるのか?」

「はい。ございます」

 エリシアは特に隠すこともなく正直に答えていた。タモンは、別にやましいことは何もしていないと自分に言い聞かせながらもこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

「そうか! 深い仲の主従という奴だな。余も、いずれそういった信頼できる家臣が欲しいものだ」

 性的にちょっと歪んでいる気配を感じながらも、憧れの表情を浮かべるマリエッタに、タモンも『いつか出会えますよ』と応援したい気持ちになっていた。

「そ、それでだな。今晩、余も泊まるので、二人が愛し合うところを見せてはくれぬか?」

「え?」

 タモンはすっかり油断していたところに、ものすごく興味本位で真っ直ぐな視線を向けられてしまい困惑してしまった。

「分かりました」

 そんなタモンのことなど気にせずに、エリシアは即答していた。

「え。エリシア、いいの? だ、駄目じゃない?」

「マリエッタ陛下には、正しい性教育を行う必要があります。このまま、中途半端な知識と妄想だけだといつか、悪意あるイケメンに騙されてしまうこともありえます。そうなったら我が国も終わりです」

「……それは……そう……かもしれないけれど……」

 確かに自分たちの計画は、マリエッタが誰か変な人に騙されていうがままになってしまえば、元々終わりの危うい計画ではある。タモンもそれは分かっているが、まさかこんなことで繋ぎ止めるとは思っていなかった。

「……分かりました」

 タモンが承諾すると、マリエッタは目を輝かせながら明らかに興奮していた。

「で、では、あまり近すぎても邪魔だろうから、余はこの部屋から見ているな」

 そう言って、先程エリシアが住み込む予定と言っていた部屋へと引っ込み、顔を半分だけだしてこちらを覗き込んでいた。

「とても、家臣たちには見せられない姿だよね」

「まあ、それだけ、今まで、誰にも弱みを見せられなかったのでしょう」

「じゃあ、仕方がないのでベッドに行きますか」

「わっ」

 そう言うと、タモンはエリシアの足に手を伸ばしてお姫様抱っこをしようとした。エリシアもいきなりで驚きはしながらも、首に手を回して大人しく抱きかかえられていた。

「じゃあ、今日は誰がご主人か分かるように可愛がってあげる」

「え、なんですか? それは」

 タモンは、今まで誰にも油断した姿を見せることができなかったマリエッタが、自分もだが、それ以上にエリシアには心を許している気がしてしまっていた。

 将来、エリシアをとられてしまうかもしれないという、不安と嫉妬を持ちながらベッドへと運んだけれど、当のエリシアは何のことを言われているのか分からずにちょっと困ったような顔をしていた。

「何でもない。大人しく抱かれてて」

 恥ずかしくなったのか、タモンは一度顔を背けて照れていたけれど、すぐに強引に唇を唇で塞いで覆いかぶさるとメイド服を優しく撫でて中へと手を入れていく。

「あっ、陛下」

 久しぶりに触られるタモンの指先の感触にエリシアから甘い吐息が漏れる。

 しかし、その夜は、エリシアの声以上に、隣の部屋から幼女の唸るように絞り出した変な声が後宮に響くことになった。

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