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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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皇帝陛下のお泊り

 周囲が薄暗くなってくると、モント城と後宮を繋ぐ渡り廊下に沿って灯りがいくつも灯される。


 この一年あまりで後宮が増えて、渡り廊下も複雑になってきた結果、灯りも多く華やかになってきた。

 渡り廊下の南側にある池を含めたこの景観は、若く綺麗な夫人たちが競演する場所でもあり、モント城周辺の恋人たちにとって愛を語りあうロマンティックな場所でもあった。


「綺麗だな」


 ヒイロ帝国の皇帝マリエッタも、この眺めが気に入ったのか一度足を止めてじっくりと眺めていた。帝国で派手で美しいものは見慣れている彼女だったが、この少し窮屈で地味ながらも心奪われる場所は新鮮に感じていた。


「城の中に入らないと見られない景色というのがもったいないな」


 マリエッタは、心の底から残念そうに息を吐いた。ただ、今、この城に入ることができて、タモンの部屋に向かうために城の廊下を歩いていなければ気がつくことができなかったのだから自分は幸運なのだと思い直す。


「しかし、ものすごく見られているな」


 マリエッタは、視線を戻すとそう言って苦笑した。見ると後宮の窓や建物の陰に隠れて多くの人がマリエッタの様子を窺っていた。


「申し訳ありません。いつも渡り廊下を通るタモン様や夫人の様子を見るのがこの城で働くものの楽しみになっているところがありますので……」


 タモンの部屋までの案内をしてくれているモント城側の侍女長マルサが頭を下げながらそう答えた。マリエッタの背後に付き従う、帝国側の従者数人は、その説明に変な習慣だと思い怪訝な顔をしていたが、当のマリエッタは、最初こそ驚きながらも今は割と上機嫌そうに笑っていた。


「余もタモン殿を巡るライバルだと思っていただけているのかな」


「それもありますが、どちらかと言いますと、陛下がお召し物を含めてお綺麗なので憧れているのだと思います」


 マルサの答えに、マリエッタはちょっとだけ不服そうだった。


「ふむ。なるほど」


 ただそれだけを言って、うなずくとまた笑顔になってゆったりと歩きだした。


 マリエッタは、今は儀礼用の軍服ではなく、白く華やかなな南ヒイロの民族衣装に身を包んでいた。婚礼用であったり神事の儀式用に使われたりするこの服は、タモンの世界観で言えばスカートだけが美しく広がる巫女服のようだった。


 ただ、やはりヒイロ帝国の中でも一番高級であろうその衣装に身を包み、まだ十一歳ながら凛々しさと可愛らしさを併せ持ったヒイロの皇帝陛下が歩く様子に、モント城に仕える人たちは思わずため息を漏らして見守っていた。


 後宮に行くわけではなくて、マリエッタはあくまでも城の中から外側を回っている廊下を通って、タモンの部屋に行くだけだった。渡り廊下を渡って近づいてくれずに片側しか見えないことに後宮から眺めている侍女たちは、残念そうだった。


 『子どものくせに我が主人と張り合おうとしている』『帝国の圧力で無理やりタモン様のお部屋に行くなんて、ずるい』と思っている後宮の人も決して少なくはなかったが、マルサが言うように十一歳ながら凛々しく可愛らしく、また堂々とした美しさに感嘆する侍女たちが多かった。


 マリエッタは帝国を継いでいるので、高貴な家柄に憧れる人たちにとっても垂涎の的だった。つまり、どちらかといえば『五年後くらいに一晩の過ちでもいいから、抱いて欲しい』そんな視線で見ている侍女たちが大多数であった。


「陛下。お付きになりました」


「ようこそいらっしゃいました。マリエッタ陛下」


 マルサがタモンの部屋をノックすると、中からタモンが自ら丁寧に出迎える。


 マリエッタは部屋の中に侵入すると、タモンのお腹のあたりに胸が触れられそうな距離まで近づいてにこりと笑いながらタモンを見上げた。


「じゃあ、朝まで二人きりにしてもらえるかな」


 振り返って、自分の家臣や案内をしてくれたモント城のマルサたちにそう告げた。威圧すら感じて、家臣たちも慌ただしく一礼するとドアを閉めて立ち去っていった。


「ふふ、すまないね。こんな強引な感じで二人っきりにしてしまって」


 マリエッタはそう言うと、更にタモンに密着しようとした。タモンは、いったん座ってもらおうかと思って部屋の中央に向かおうとしていたけれど、押し込まれるような形でベッドまで後ずさっていた。


「まずは二人っきりで話したい事があってね」


 マリエッタは、片膝をあげてベッドに乗せた。美しいスカートから、白い膝が見えて、ついタモンもその仕草にどきっとしてしまう。


(子どもなのに……)


 ちょっとやましい心を振り払おうとしている間に、マリエッタは更に距離を縮めてくる。変に仰け反った形になっているタモンの腰をささえつつ、ほとんど押し倒しているような体勢になっているマリエッタだった。


「いくつか共有しておきたいことがある」


「はい」


 タモンはもう諦めつつベッドに腰掛けることにした。マリエッタは、片膝をベッドに載せつつ頭はタモンの胸に密着させつつ、そんなことを小声で囁いていた。


「余が連れてきた三人の家臣だが、一人、敵に通じているものがいる」


「……なるほど」


 ちょっと不自然なくらいに強引に二人っきりになりたい理由は、それだったのかとタモンは驚きつつもやっと腑に落ちていた。


「敵とは余の叔母上だ。特に十二番目の叔母エフゲーニヤ」


「うん」


「……この話は驚かないのだな。それくらいは調査済みか」


「そうですね。ですが、甘くはないですか?」


「うん。何がだ?」


「僕たちもすでにエフゲーニャ叔母様たちと通じているという可能性もあるのではないですか?」


 タモンは、胸に頭をのせてこちらを見上げているマリエッタに向けてそう言った。


「エフゲーニャ叔母上の後ろにいるのは、トキワナ帝国だ。魔法使いの細かい事情は知らないが、君たちは敵同士なのだろう?」


 それくらいはこちらも調査済みだよとでもいうように、タモンの胸からはわずかに顔を浮かせて幼女はニヤリと笑っていた。


「敵の敵が味方とも限りませんでしょう」


「だが、今はお互いに手を組むしかないだろう? 長期戦でいいなら話は別だが」


 二人は、しばらくの間、お互いの真意を探るように見つめ合っていた。状況としては睨み合うのに近いかもしれないけれど、もうすでに二人の間には敵意は全くなかった。


「参りました。参りました。陛下。それで、僕はどのようにすればよろしいですか?」


「そうか。それだったら、今晩、余にメロメロになったということにして、愛人として帝国までついてきてもらう」


 降参したタモンに、マリエッタは嬉しそうな笑顔になって答えた。タモンからすればマリエッタの考えていることも分かるし、帝国に行くことも考えてはいたけれど、若干の疑問は残っていた。


「マリエッタ陛下に……メロメロになったという話をみんなが信じてくれるでしょうか?」


「え? なぜ、そう思うんだ?」


「まだマリエッタ陛下は、子どもですし……」


 そのタモンの返事には、マリエッタは見事なまでに不機嫌なふくれっ面になっていた。


「そう思うなら、今晩、本当に色々試してみようじゃないか」


「ご勘弁を、ご勘弁を」


 幼女に完全に腹の上に乗っかられてしまい抵抗するという、タモンは思っても見なかった体験をすることになった。


「ふん。まあ、小さい方が好きな人もいるというし、それは大丈夫だろう」


 タモンの腹の上でまだ不機嫌そうにマリエッタはそう言った。


(それは、僕が幼女好きだと世界中に思われてしまうということだよね)


 タモンとしては、複雑な気持ちだったけれど、作戦としては有効なのは間違いがないので大人しく悪評も受け入れる覚悟をした。


「分かりました。マリエッタ陛下を溺愛している愛人ということでついていきましょう」


「そうか! それはよかった。ありがとう」


 先程までの凛々しく交渉をしてくる皇帝陛下の顔は消えてなくなり、タモンから見ればちょっとボーイッシュな女の子が遊ぶ時の表情になっていた。


「ほんと。よかった」


 ベッドの上で、自分の上に女の子が上に乗り抱きついてきていた。タモンの常識がこれは他の人に見られたら駄目な光景だと思いながらも、ちょっと震えていた手と、完全に安心しきった顔とその言葉にタモンははねのけることもできずにただ軽くマリエッタの両肩を支えるくらいで固まってしまっていた。


「まあ、じゃあ、真面目な話は終わりにしよう」


 そういうと、マリエッタはタモンの上から転がり落ちてベッドの横で並んで寝る体勢になると、そのままタモンの方を向くと手を伸ばしてきた。


「ふふん。やっぱり胸の感触とかはお祖父様に似ているね」


 手で擦り、また横から顔を近づけてマリエッタは、そう言った。


(おじいちゃんと変わらないってことか)


 その感想には、ちょっと傷つくものを感じながらもそれなりに鍛えていれば、歳をとっても男の胸なんてものは同じ様に感じるのかもしれないと思いなおした。


「お互いに大変だよね。トップの座から転げ落ちれば、殺されるか悲惨な人生が待っているわけだし」


「でも、僕は殺されることはあまりなさそうなので、良いかなと思っています」


 タモンのその答えは、横からまた胸に顔をのせたマリエッタをしばらく困惑させていた。


「ああ、なるほど……。新しい支配者の愛人になるのだね。確かに、余が十年生まれるのが早ければそうしていたかも」


 怖いことを胸の上で言われた気がしたけれど、マリエッタはあくまでもからかい半分で笑いながら言っただけのようだった。


「マリエッタ陛下を見ていると……妹がいたら、こんな感じかもと思いますね」


「ふふ。そう。そういえば、余にはとても可愛らしい妹がいるのだ。帝国に来てもらった際にはぜひ紹介させてくれ」


 タモンがぼそりとつぶやいた言葉に、一気に反応して唇が触れそうなくらいの距離にまで接近してくるマリエッタだった。


「そういえば、タモン殿は家族は?」


「家族……。ん、あれ……」


(妹……がいたような気がする)


 もちろん、この世界で出会ったカンナやミハトのことではなく、タモンは、一瞬だれかの顔が浮かんだけれど、それ以上を思い出すのを阻止するかのように頭が痛くなった。


「ああ、うん。すまない。ご先祖もそういえば、一人でヒイロの土地にいつの間にか立っていたと伝え聞いているしな」


 聞いてはいけないことを聞いてしまったと慌てるマリエッタだった。タモンは、家族のこともあまり思い出せなくなっている自分にショックを受けながら、マリエッタのご先祖はどうだったのだろうなどと考え込んでしまっていたりした。


「元気を出してくれたまえ」


 ちょっと考え事をしているのを落ち込んでいると思ったのか、マリエッタは唇を重ねてきた。


「え?」


 キスをされて、慈愛の表情で見つめられてしまいタモンの頭は混乱する。


(これはイケメン女子小学生とキスをした男子大学生のようなものだよな……セーフ? いや、どう考えても駄目だよな)


「じゃ、じゃあ、一緒に寝るとしようか」


 マリエッタの方もさすがに恥ずかしかったのか、ベッドに正しい角度で横になりつつ毛布に潜り込んでいた。


(一緒に寝るのか……大丈夫、僕は正常な男性。子どもになんて手を出さない)


 一度、深呼吸をしてからタモンもマリエッタの横で、毛布に潜り込んだ。

 すぐにまたピタリと横にくっついて抱きつく姿勢で添い寝をしようとするマリエッタだった。


(独特の距離の詰め方だよな。それが魅力でもあり、敵も生んでいるんだろうけれど……)


 自分でもちょっと兄のようだなと思うそんな心配をしながら眠りに入ろうとしていたが、微妙な気配を察した。


「マリエッタ陛下。そこを触るのは駄目です」


 マリエッタの手首を掴んで何とか下半身に触れさせるのはやめさせた。


「えー。だめかい?」


「陛下には、まだ、早いです」


「『まだ』ね。はーい」


 おませな皇帝陛下にちょっと苦労しそうだと思いながらも、それ以降は大人しく抱きつくだけのマリエッタと一緒に穏やかで、どこかタモンとしても懐かしいような眠りにつくことができた夜だった。

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