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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第2章 幼女と軍神編

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幼女皇帝のお願い

「今はまだ叔母上たちと直接、敵対しているわけではないからね」


 小さな応接間で皇帝マリエッタは優雅に紅茶を片手に持ちながらそう言った。


 モントの城では、一番綺麗な部屋で重要な会談が行われる時用の部屋なのだが、帝国の人たちからすれば、物置のように見えてしまうのか、マリエッタもその家臣たちも部屋に入った瞬間には顔を引きつらせながら哀れんだような目をしていた。


 モント城で働く人すべてが、ヒイロの皇帝陛下を迎え入れるために緊張が走っていたが、マルサを始めとした侍女たちの入れた紅茶を満足そうに飲んでくれていて少しだけ和んだ空気が流れたところだった。


 タモンから見れば、小柄で線も細く、ランドセルを背負っていそうな年齢なのにこういった時の仕草には気品のようなものを感じてしまい。生まれた時から皇帝となるべく育てられた人は違うと感心するしかなかった。


「そういう訳で、今はタモン殿たちと同盟を組んで発表するわけにはいかぬ。結構、重臣たちの中には穏健派も多い。挑発したとなれば、敵対するもののいるだろうからな。……まあ、それくらいは余の帝国のことは調べていような」


 マリエッタは、タモンに向けてニヤリと笑いながら、そう言った。


「だから、今回の訪問はあくまでも、余が個人的に『男』を見に来たという旅だ」


 そう言ったあとで、マリエッタは少しだけ声をひそめてタモンに言う。


「その上で、余がタモン殿を気に入ったということにしたい。そして、タモン殿も余に一目惚れして深い仲になったという噂を広めたい」


(深い仲……?)


 タモンにはその一点だけは、ちょっと理解できなかった。マリエッタの完全に真っ平らな子どものままの体つきを見ながら、やはり何度も考え込んでしまったけれど、そこにはあまり触れないようにして答えた。


「正直、驚きました。家臣に言われてここに来ただけで、物珍しい『男』を見て連れて帰りたくなったのかと本気で思っておりました」


「ふふ。いい演技であったであろう」


 ちょっと失礼な言い方に、背後にいる同じ軍服に身を包んだ三人の家臣がちょっと気色ばんで抗議をしたそうだったが、マリエッタは背後に視線だけを送り制止させていた。


「演技だったのですね」


 タモンは普通に感心していた。先刻の態度はとてもそうは思えなかったからだった。


「そ、そうであろう」


 マリエッタは威厳をなんとか保ちつつも目がわずかに泳いでいた。タモンとエリシアはその様子を眺めて、これはちょっと付け入る隙があるかもしれないと思っていた。


「それで、表向きはまだ個人的に親しくということですが、実質的には同盟を結びたいということでよろしいのですか」


「うむ。そういうことだ」


 タモンの質問にマリエッタは即答した。


「同盟の条件としては、どのようなものになりますか」


「北ヒイロの統治を認めよう」


 タモンの質問に、またこの小さな女の子は、即答した。


 もちろん、今、勝手に決めたわけではなく、元から家臣と話をしていたことなのだろう。そう推測しながらもタモンとしては、この小学生にしか見えない皇帝陛下に惹かれていた。威風堂々としていて、頭脳明晰だ。いい家臣に支えられている感じもしている。


「あとは、北が攻められた時は、南としては全軍を持って協力しよう」


 マリエッタの言葉に、タモンとエリシアはなるべく顔に出さないようにしながらも驚いていた。


(悪くない……)


(こちらの望み通りではあります……)


 タモンとエリシアは、目で会話しながらも、あっさりカードを切ってくるマリエッタたちに話がうますぎると少し疑いながら話を聞いていた。


「まあ、もちろん、余がヒイロ帝国を全て支配下にできていたらという話ではあるが」


 駆け引きとかではなく、本当に困った表情でマリエッタはそう言った。


 『だから皇帝反対派を倒すのに協力しろ』ということだとタモンたちは受け取った。力になれるかどうかは分からないが、元々、タモンたちとしてもそのつもりではある。 


「まだるっこしい駆け引きは好かぬ。余はタモン殿を信用できると思った。手を組んではもらえぬか」


 タモンとしても、前向きな返事をしようとしていたところだったが、マリエッタは更に真っ直ぐな瞳でお願いを続けてきた。


「はい。マリエッタ陛下。よろしくお願いします」


 (これは幼女だけに許される交渉術だな)


 可愛らしい見た目に惑わされているとタモンは自覚しながらも、手を差し出して握手を求めた。


 元々、同盟を組むにあたって不安だったのは、マリエッタ皇帝の立場だった。我がまま放題で、家臣の忠告も何も聞かない皇帝でも困るし、逆に本当にただの飾りの人形で家臣の誰かが皇帝派を牛耳っているのであれば、それはそれでこの交渉の意味はなくなってしまう。


 しかし、今のマリエッタの態度や後ろで控えている三人の家臣の様子を見ると、そんな懸念もなさそうだとタモンは安心して手を取り合うことにした。


「うむ。よろしく頼むぞ」


 マリエッタはタモンの手を両手で握りしめた。威厳ある態度は崩さないように頑張ってはいるけれど、タモンと握手を交わした瞬間には小さな女の子らしい笑みを浮かべていた。


(毅然としているけれど、内心では不安だったんだろうな……)


 マリエッタは、帝国の中枢は掌握していて武力も強大だけれど、周囲の領主たちは反抗的か様子見を決め込んでいると聞いていた。もちろん、タモンのことも綿密に調査した上で、ここまでやってきたのだろう。ただ、それでもどんな人物か会ってみないと分からないと、マリエッタの方も不安はあってここまできたのだろう。


 そして、マリエッタの側からすれば、合格どころかかなりタモンのことが気にいったようだった。


「余は、祖父に可愛がってもらった記憶があるのでな。勝手に親近感を持ってしまっているのかもしれぬ」


 手を離すのですら名残惜しそうにしながら、マリエッタはそんな思い出話を口にする。


「祖父……ですか?」


「そう、ヒイロ帝国の第四代皇帝陛下は……『男』であった」


「なるほど、『男王』の子どもや孫には『男』が生まれやすいんでしたね』


 タモンは数年前までは男の皇帝が生きていたのだと思うと、ちょっと不思議な気持ちになってしまう。会ったりしても何かが変わるものでもないけれど、できれば直接、お話をしてみたかったと考えてしまう。


「……なので、できればタモン殿と……ふ、二人っきりで過ごしてみたいのだが……」


「え?」


 マリエッタが頬を染めながら言ったことに、タモンは思わず失礼な声を返してしまった。


「先程も言ったが、個人的に深い仲になったということにしておきたいのでな。あ、うん。それで、もちろん、本当に深い仲になっても余は構わぬと思っている」


 明らかに期待に満ちた瞳でタモンを見ながら、そう言った。構わないといいながら、実際には雌の顔でおねだりをしているようだった。


(どういうこと?)


 タモンは、マリエッタの背後でずっと立っている三人の家臣に視線を向けていた。


(そちらの教育はできていなくて、申し訳ありません)


(陛下の憧れなのです。申し訳ないのですが聞いてあげてくださいませんか)


 他の従者の態度からして、この三人はかなり偉い家臣なのだと思うのだけれど、幼女の我がままに本当に申し訳なさそうにしつつ、タモンに目配せをしていた。


(はあ)


 タモンはなんだそれはと思いながらも、ここまで順調にきていた会談を陛下のご機嫌を損ねることで失敗したくはない。


「今夜、一緒に過ごすのは構いませんが……」


「うん。うん」


 マリエッタは明らかに承諾してもらえたと思い期待に満ちた表情で、今にもタモンに抱きつきそうな勢いだった。


「まだ、陛下と深い仲になるのは早いかなと思います」


 にこやかに拒絶するタモンの言葉に、マリエッタは『なんで?』と絶望したような顔になっていた。


「あ、ああ、タモン殿は余がまだ子どもだと思っておられるのだな。安心するがよい」


 マリエッタは絶望から若干回復すると、タモンに再びアピールを始める。


「余は先月、大人になったのだ。子どもを産める体になっておる」


 胸を張って自慢気にそう言うマリエッタに、タモンとしては困り果てた。再度、背後に立っている三人の家臣に目配せをする。いや、もう睨みつけていると言ってもよい視線だった。


(申し訳ありません。申し訳ありせん。なんとかやんわりと陛下を説得してください)


 もうひたすら、陛下の機嫌を損ねないようにお願いをしてくる家臣三人組だった。


「陛下。陛下の小柄な体では、体に大きな負担が掛かってしまいます」


「うむ。まあ、子どもを産むのは早いかとは思っている。だが、案ずることはない。こんなことをあろうかと避妊の魔法薬も持ってきている」


「……」


 にこやかな笑顔でそんなことをいうマリエッタに、タモンは自分の常識が通じなさすぎて絶句する。踏み入った国家間の交渉もあるかと思っていたので、マルサさん以外の侍女は下がらせていたのは、マリエッタのためにも良い判断だったと思う。


 ただ、タモンは、再度、三人の家臣の方をちらりと見たが、三人も主君の発言を恥ずかしいと思っているのか身悶えていたので、さすがにそれ以上責める気にもなれなかった。


「陛下。僕は、『男』ですので陛下のまだ小柄な体には受け止めきれないかと思います」


「ふ、ふむ。それはどういった……」


「男性のものは大きいので、陛下には死ぬほど痛い思いをさせてしまうかと思います」


 これはさすがに、ちょっと話を盛りすぎたかもしれないとタモンは思いながらも、そのことを想像したのかマリエッタは顔を真っ赤にしながらもちょっと怯えて、テンションが下がっていくのが目に見えて分かった。


「そ、そうか。まあ、ご先祖の逸話でもそんなことが書かれているものがあったな……」


「はい。ですので、今回は……」


「そうだな。今回は同衾していちゃいちゃするだけにしておこうか!」


 またしても満面の笑みでマリエッタはそう宣言していた。

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