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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 幕間 北ヒイロ国の日常

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その制服は

 三つの宮に、四人の妃。


 元々仲の悪い三領主から来た娘たちだったが、現在のところは比較的平穏な関係だった。


 それでも、本能であるかのように夫人たちは少しでも有利に寵愛を得ようとして活動する。

 相手を貶める噂話には耳を立てて、積極的に広めるし、自分たちにとって都合のいい情報は独り占めするべく侍女たちも動くのが日常だった。




「マルサさんが、新しい服を?」


 紅い宮の三階部分の見晴らしのいい部屋で、エレナ夫人は、いつも通りに気になる情報について、側近のフミから報告を受けていた。


「この間、新しい服の町へのお披露目は終わったばかりなのにね。……まあ、でもそんなに気にすることでもないんじゃないかしら」


 ちょっとペースが速いくらいのことで、大したことはない。マルサさんの体調が心配になるくらいの話だとエレナは、この報告はもう気にしなくていいと切り捨てようとした。


「ですが、陛下からのお願いだったようです」


 ずっと片膝をついたままでフミはそう報告する。いつまでも武官の様に堅苦しいこの部下からの報告に、エレナは反応した。


「旦那さまが……こんな服にしたいとお願いを?」


 エレナは顎に手を当てて考え込んでいた。別に大したことではないと思いながらも、何かが引っかかっていた。


「そして、もう大量の作成を依頼しているとのことです」


「市場の反応もみずに……。それだけ、旦那さまが気に入っているということでしょうか」


 エレナはちょっと驚いていた。とは言え、普段は慎重すぎるほど慎重なのに、攻める時は大胆だと夫であるタモンのことを理解していた。


「まあ、私が口を出すようなことでもないのでしょう。……でも、そんなに旦那様がお気に入りなのでしたら、ちょっと手に入れてみたいわね」


「承知いたしました。手に入れてまいります」


 エレナはちょっと無茶ぶりをしたつもりだったけれど、フミはあっさり承諾していた。





「おばばさま。ようこそいらっしゃいました」


 マジョリー夫人は、幼い頃お世話になった魔導師レイラを城門まで出迎えにきていた。


「おうおう。マジョリー様も元気そうでなによりです」


 馬車から、腰を曲げながら老婆がゆっくりと降り立つ。魔導師の杖を、歩くための杖に使ってマジョリーに近づくとマジョリーに抱擁されていた。


「こちらお城で、あちらが、私たちが今住んでいる宮です」


 レイラの手を引き、ゆっくりと歩きながらマジョリーが自分で案内をする。

「ずいぶんとしょぼい城だと思ったけれど、後ろの方は立派だねえ」


 レイラは、感心したように顔を上げて見回していた。


「もっとど田舎で、貧相な暮らしをしているのかと思っていたけれど、そんなことはなかったねえ。……それに、マジョリーお嬢ちゃんも幸せそうだ」


 昔と同じ様に、優しい笑顔で実の孫のように接してくれるレイラに対して、マジョリーも子どもの頃のように甘えていた。


「ええ、楽しいですよ。まあ、ライバルはこのように手強いのですけれど……」


 改めて夫人たちが住む三つの宮をマジョリーが説明すると、その華やかさにレイラも眩しそうに見上げていた。


「ほお。これは綺麗だねえ。でも、手前の城はしょぼいままだし、なんだか不思議な人だね。あの新しい『男王』は……」


「おばば様も、こちらに住みませんか?」


「ほほ。もう歳だし、あの家の荷物を全部持ってきて、ここで研究する気にはなれないねえ」


 レイラはそう答えた。マジョリーは残念そうな顔をしたが、レイラの元気そうではあるけれどかなり細くなった体を見て、仕方がないのかと納得していた。


「まあ、遠くはないし、ちょくちょく来るさ」


 そんなマジョリーの顔を見て、レイラは皺だらけの顔をさらにしわくちゃにして笑っていた。


「たまには、私も講義くらいしてやらないと格好がつかないしね」


「……講義?」


 マジョリーは訝しげな顔をした。周囲を見回してみたけれど、侍女たちも誰も分からないようだった。


「なんだい? 聞いていないのかい? 魔法を教えてやってほしいというから、今日はここまで来たんだよ」


「ここでお弟子をお取りになるのですか?」


「いや、学校を開きたいらしいんだけれど、ついでに魔法も教えられないかって言われたんだよ」


「学校。ついでに……魔法を教える……ですか」


 魔法の話にマジョリーはちょっと引きつった顔をしていた。キト家出身のマジョリーからすれば、魔法使いは貴重で尊敬されるべき存在だった。あくまでも選ばれた弟子だけをとって、厳しく手取り足取り教えていくイメージであり、そんな関係にマジョリーは子どものころ憧れていた。レイラの弟子になりたいと本気で思っていた時もあったけれど、キト家の娘が自分で魔法を習う必要なんてないと親には反対されてしまった過去がある。


「面白いことを考えるよね。あの男は」


 ただレイラの方は、不快に思った様子もなく笑っていた。


「というわけで、弟子たちを講師に推薦してあげようと思ってね。たまにはおばばも教えてやるつもりだが」


「まあ、お弟子さまたちを」


「素晴らしい年寄りの有効活用じゃな」


 そう言って、またレイラは豪快に笑っていた。弟子と言っても、レイラの直接の弟子たちとなるともう老人も多く、キト家お付きの魔導師としては引退していた。無理せずにやりがいのある仕事があるのなら弟子たちも大歓迎なのだろう。


(それにしても……学校ですか)


 マジョリーは学校には通わずに、自宅で家庭教師に勉強を教わっていた。それはそれで恵まれた環境だと自分でも思っているけれど、同年代の友達と毎日、学校に通ってみたかったという想いもずっと持っていた。


(ちょっと憧れますね……)




「つまり、これは?」

「どういったものでしょう?」


 ヨム家の開放的な宮の入り口にある大きな部屋で、夫人姉妹は板の間に広げられた服を見て考え込んでいた。


「新しく作られる学校の制服らしいです」


 持ってきたショウエはそう説明する。


「学校で制服……?」


 コトヒは意味は分かるけれど、どういったものがあまり想像できなくて更に考え込んでいた。


「学び舎に、みんな同じ服を着て通うらしいです」


 ショウエはツーキの街に唯一ある教育機関を例にあげて説明する。ツーキの地方では、部族ごとの教育がほとんどで色々なところから人が集まって教育するという施設がツーキの街くらいにしかなかったので、ショウエを含めてあまり馴染みがなかった。


「ふーん。フカヒやビャグンではそんな施設がいくつかあるって聞いた気はするね」


「ショウエちゃん。ちょっと両手を上に上げてくれるかしら?」


 コトヒが納得している間に、コトヨは服を持ってショウエに迫っていた。


「え? あ、はい」


 素直にショウエが応じると、コトヨはそのまま服を被せるようにして着させた。


「あら、可愛い」


「清楚な感じですね」


 姉妹は、制服を着たショウエを見て満足した笑みを浮かべていた。


「我のこと、子どもだと思ってみていませぬか?」


 着させられたショウエは、不満そうに口を尖らせる。


 確かに子どもがこれを着て、毎日、道を歩いて通っていたら可愛らしいだろうなと姉妹はそれぞれ保護者のような目線でショウエのことを眺めていた。


「この襟が特徴的ね」


「髪で背中が汚れないようにかしら」


 姉妹はそれぞれショウエに着せたままで、ペタペタと服に触れながらじっくりと観察していた。


「まあ、ともかく。この服は陛下のお気に入りの服のようなのです」


 ショウエは気を取り直して、本来したかった話に戻そうとする。


「タモン君の?」


「はい。確かな筋からの情報です」


 ショウエは胸を張った。


「……マキちゃんよね」


「あまり盗み聞きは感心しませんね」


「し、師匠からの情報でもあります」


 可愛らしく怒るコトヨに、ショウエは、少し慌てて言い訳をしていた。


「とにかく、陛下がみずからこんな風にして欲しいと絵を描いて、試作品を作らせたというものがこちらなのです」


 ショウエは自分の両手を広げて、制服を見せた。ただ、主人である姉妹夫人はそれを聞いてもあまり大きな反応はなくショウエを可愛らしいと見守っているだけだった。


「師匠いわくおそらくこれは、陛下の故郷での思い出と憧れからくる執念の一品」


 ショウエは自信たっぷりにそう言ったあと、少し目をそらした。


「まあ、我も何のことかよく分かっていないのですが……師匠のいうことですし。つまりこの服で今晩、お相手すれば陛下の寵愛を一身に受けることは間違いないとのことなのです」


「そうかなあ?」


 コトヒは、得意な分野でないにしてもショウエにしてはあまり深く考えていなさそうな提案に、やや懐疑的だった。


「分かったわ」


 しかし、コトヨは積極的にうなずくと、ショウエに近づくと再び両手を上げさせて、先程着せた制服を脱がせて奪い取った。


「ところで、この服は試作品を盗んできたわけじゃないわよね?」


「あ、大丈夫です。マルサさんに聞いたら、ご夫人たちにも差し上げますわと言っていただきました」


「それならいいわ。そして、他のご夫人たちにも差し上げるということなのでしたら、急ぐ必要がありそうですね」


 いつもはおっとりとした感じのコトヨなのに、今日はやる気に満ちあふれているので、コトヒとショウエは少し驚きながら見つめていた。



「陛下。ようこそいらっしゃいました」


 タモンがヨム家の後宮に出向くと、ショウエが侍女の様にいつもより礼儀正しく出迎えてくれた。


「ショウエも、昼のお仕事の後なのに、わざわざありがとうね」


 タモンはそう言って、ショウエをねぎらった。激務というわけではないけれど、昼はエリシア宰相の仕事を手伝い、夜はヨム家でコトヨやコトヒの身の回りの手伝いをしている。見た目が子どもっぽいこともあって、タモンとしては無理をして働かせてしまっているのではないかと心配になった。


「いえ、ヨム家の手伝いは我が楽しんでしていることですし」


 タモンが何を考えているかを読み取って、ショウエはお辞儀をしたあとで微笑む。そして、次の瞬間には両手を広げて満面の笑顔で続けた。


「陛下。おめでとうございます。今日から、コトヨ様のお部屋にお通しいたします」


「おお、やった」


 タモンも少し大げさに喜んでいたけれど、ショウエは釘を刺す。


「でも、まだ同衾は駄目ですよ」


「そんなあ……」


 また、大げさに落ち込んで見せながら、ショウエに続いて中へと入っていった。


「どうぞ。こちらです」


 ヨム家の宮で一番、奥の部屋。まだタモンも一度も足を踏み入れたことのない場所だった。


 少し薄暗い廊下を抜けると、丸いテントの様な部屋に足を踏み入れる。夜は、周囲の明かりで幻想的に照らされて、丸い部屋に合わせた綺麗な調度品が並べられていた。


 その部屋の真ん中に彼女はいた。タモンが一年前に出会ってから、親しみやすさと憧れをあわせもった姉のような存在。離れなくてはいけないことになって、お互いに悲しい思いはあったけれど、どちらも何かを口に出して約束することはなかった。再会後、これがはじめてゆっくりと二人っきりで過ごす機会になる。そのことにタモンの胸は高鳴り、緊張で喉が渇いていた。


 そのコトヨが、部屋の真ん中で床に座ってにこりと微笑んでいた。


 セーラー服を着て。


「え? 何その格好?」


 ちょっとロマンティックな雰囲気を期待していたタモンなのに、思わず間抜けな声を出していた。


「い、いらっしゃい。タモン君が大好きな格好って聞いたんだけど……変?」


 コトヨは、セーラー服のスカートをつまみながら自分の姿を改めて確認する。


「変なわけじゃない……けれど」


「けれど?」


 可愛らしく首をかしげてコトヨは聞いた。


「なんていうか。コスプレっぽい」


「コ、コスプレ?」


 謎の言葉をコトヨは理解できずに戸惑っていた。。


「あー、いや、その、僕の時代だとその服は学生さんが着る服で……しかも、あまりもう見かけなくなっていた古風な感じの制服で……」


「つまり、私のようなおばさんが着ると年齢を偽った商売のように感じてしまうということかしら」

 察しのよすぎるコトヨは、そう理解しながら顔をひきつらせていた。


「おばさんなんかじゃない。すごい。綺麗。可愛い!」


 必死過ぎるタモンの言い訳に、コトヨは目を丸くしたけれど次第に笑顔になっていった。


「わかりました。わかりました。せっかくの二人っきりでゆっくりできる時間ですし、楽しくお話しましょう」


「そう。積もる話もあるしね」


 タモンは最初にあった緊張は無くなっているのを感じていた。


(こんな服を着てもらった意味はあるのかな……)


 タモンは、そう思うと自然に笑みが浮かんで、部屋の真ん中へと近づく。コトヨも目を合わせながら、二人は寄り添って話をする。






「それじゃあ。そろそろ戻らないと……」


 楽しい一時を過ごしたあとで、タモンは立ち上がった。


「あ。はい」


 一度は、素直に応じたコトヨだったが、すぐにタモンのズボンの裾を引っ張り名残惜しそうに止めた。


「と、泊まってしまってもよろしいのではないですか?」


 完全に自分から誘う形になり、コトヨは顔を赤らめるがまっすぐにタモンの顔を見上げていた。


「う……ん。でも、約束だからね」


「真面目ですね。タモン君の城ですし、私たちももうタモン君の配下なのに」


 しばらく悩んでくれたことが、嬉しくてコトヨはわずかばかりの笑みを浮かべて見送ることにした。


「今夜は楽しかったよ。また来週ね」


 口づけをすると、タモンは手を振って小走りで去っていった。


(危なかった。自分で注文しておいて、何だけれど……セーラー服は威力がすごいな)


顔を赤らめ、にやついた顔をおさえることができないままヨム家の後宮を後にするタモンだった。




 この後、エレナ夫人もマジョリー夫人も同じ格好で待っているとはまだ想像もしていないタモンだった。

幕間はこれにて終了です。

次から第2章になります。

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