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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 幕間 北ヒイロ国の日常

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タモンのお忍び視察 前編

「マルサさん。ちょっと相談に乗って欲しいんだけど」


 とある日の午後、タモンは、部屋からドアを半分だけ開けて顔だけを出すと廊下を歩いていたマルサに声をかけた。


「はい。陛下、なんでございましょう」


 マルサは、すぐにタモンの部屋へと多少ふくよかな体を揺らしながら小走りで向かう。


 タモンの身の回りの世話を一手に引き受けているマルサではあるけれど、最近は他の侍女たちに実際の作業はかなり任せるようになっていた。なので午後は、少し余った時間を利用して趣味の服作りをしていたのだが、今やマルサの作る服は、個人の趣味どころではなく、この地方中で人気の商品となっていた。


 きっと、今度売り出す服の相談でもしたいのだろうと思ってマルサは部屋に入ったけれど、どうやらそういうわけでもなさそうで軍服に身を包んだタモンが立っているのが目に入ってきた。


「モントの町にお忍びで行こうと思うのだけれどどうだろう?」


 両手を広げながら、タモンは聞いた。その後ろの部屋の奥にはエリシア宰相が座りながらじっと自分の主君の様子を眺めていた。


「どう……とは? 『男』だとばれないかということですか?」


「そう。私から見れば、あまり、普段と違いがないと申し上げているのですが」


 困惑しているマルサに、横からエリシアが答えていた。


「さようですね。この様な背格好の武官は確かにいっぱいいらっしゃいますが……。やはりよく見ると体型が違うので、少しでも疑った人がみればすぐにばれてしまうと思いますよ」


「そうか。駄目か……」


「もっと、体のラインが隠れるような服の方がいいかと思います。少々お待ち下さいませ」


 マルサはそう言うと小走りで、自分の作業場からいくつかの服やアクセサリーをとってきた。


「陛下には、こういう服の方が正体を隠せていいと思うのですよ」


「え? いや、こんなのはちょっと……」


 タモンは、目の前で広げられた服を見て尻込みしてしまう。可愛らしくふんわりと広がるスカートを含めたその服はいかにもお嬢様が着る服で、タモンは着ることに大きな抵抗があった。


「最近、ちょっと裕福な家のお嬢さんの間でこういった服が流行っているのですよ」


 マルサは特に面白がる様子もなく普通にこの服を勧めてくる。


(『男』が着ると変かもしれないと思うこと自体が、元の世界の常識にとらわれているのかもしれない。確かにこんな服の方が男だとはばれにくいかもしれないし……)


「分かった」


 タモンは熟考の後にそう言うと、マルサの勧めのままに服に袖を通した。


 タモンは恥ずかしがることはないと思っていたけれど、ふと横を向くとエリシアが明らかに楽しそうな視線をこちらに向けていることに気がついてしまった。性的倒錯な何かすら感じさせる明らかに変な視線も含みながら、じっとりと着替えを見られているのが普段であれば気にならないのに今日はすごく恥ずかしくて嫌な気分になってしまう。


「はい。終わりました。いかがでしょう?」


 長い髪のウィッグをつけて、化粧もし終わったタモンの肩をマルサは軽く叩いて手鏡を取り出した。


「うーん。まあ、いいのかな」


 結局、手鏡ではよく分からないので部屋の奥にある大きな鏡の前に立ってみる。


「なるほど、不思議の国に落っこちそうな女の子だ」


 水色がベースなのだけれど少し落ち着いた色合いは、確かに町の中にいそうなちょっと裕福な家の娘ではあるとタモンも納得していた。


「どうかな? これならばれないし、違和感ないかな?」


 タモンはスカートを少しつまんでくるりと振り返って、エリシアに意見を求めてみる。長い髪のウィッグがくるりと回った際に、自分の頬に当たったのは初めての経験だった。


「か、可愛いです」


 タモンが視界の邪魔だった髪をよけると、エリシアはうるんだ瞳でこちらを見ながらちょっと裏返った声で答えていた。今にも拝みそうな格好で、舐め回すように見られてしまい困惑する。


(エリシアは明らかに、変態的な視線でこの女装を見ている……)


 ある意味、自分の感性と近いと思うことは度々あったけれど、ちょっとこの鼻血を出して倒れそうなこんな視線は予想外で顔が引きつってしまう。


「大丈夫そうってことだね。じゃあ、護衛にミハトでも連れて、ちょっとモントの町まで行ってくるか」


「ミハトは駄目です」


 いつまでもこの格好をしているのは嫌なので、さっさと用事を済ませてしまおうと思ったタモンだったけれど、エリシアに止められてしまう。


 またいつものミハト好きのこじらせたようなものかもしれないとタモンは思ったけれど、そういうわけでもなさそうだった。


「ミハト将軍は、モントの港町では陛下以上に有名人ですから。連れて行ったりしたら逆にもっと人を集めてしまいます」


「ああ、そうか」


 生物として希少な自分より有名で人気というのはちょっと嫉妬すらしてしまうけれど、軽い気持ちで外にも出歩けないので仕方がないとタモンはうなずいた。


「それに、休暇の時は港町に遊びに行って、可愛い女の子をとっかえひっかえらしいですから、逆にトラブルを招いてしまうかもしれません」


「へー。あいつ、そんなことしているんだ」


 今度あったら、注意しておこうとタモンはエリシアの機嫌を伺いながらそう言った。エリシアは特に怒っているというわけでもなさそうなので、タモンは胸をなでおろしていた。


「ロランたちも、仕事もいっぱいあるし部下もいるだろうから連れていくのもよくないよね。誰か良い護衛の人はいないかな」


 さすがに一人で大丈夫という楽観的な考えにはならないのが、タモンだった。決して弱いわけではないのだけれど、自分の限界が分かっているのはエリシアとしても安心して送り出せる。


「そうですね。ショウエと一緒にこちらに来た娘がいるのですが、いかがでしょう。信用できて、中々強そうでした」


「なるほど、まあ大殿のお墨付きってことだよね。いいんじゃない?」


「ショウエ!」


 エリシアはうなずくと、手を叩いて部屋の外で待機しているショウエに声をかけた。


「マキに護衛を頼みたいの、呼んできてくれる?」


 ショウエは部屋の中を覗き込んで、困惑したようだった。『あれ? 陛下がいるはずでは? このお嬢様は誰?』という顔でしばらくタモンの顔に視線を行ったり来たりしたあとで理解したようだった。


「は、はい。呼んでまいります」


 しばらく固まっていた時間を取り戻すように、大慌てで走り出していった。


「ロラン隊所属。マキです。入ります」


 しばらくするとドアの前に、長身の武官が敬礼をしながら立っていた。カンナほどではないけれど背が高く、肩幅もしっかりした体型ながら、顔は小さめで短髪で整った顔立ちだった。


(女子バスケ部のセンターで、女の子にも大人気そう)


 タモンは元の世界だったら、きっとそんな感じだっただろうと勝手に妄想していた。


「な、何かしてしまいましたでしょうか?」


 エリシアの姿を見ながら緊張した面持ちで、マキと名乗った新人武官はそう訪ねた。エリシア宰相と面識はあるけれど、ショウエと一緒についてきたくらいで親しく会話したことなどない。あくまでも、田舎からでてきた新人武官である自分にわざわざ宰相が声をかけるなんて、何か不祥事を起こしてしまったのではと考えることしかできなかった。


「あー。うん、大丈夫、君を見込んで護衛をお願いしたいのです」


 エリシアはそう言いながら、右手を軽くタモンの方に向ける。


「はい、護衛ですか?」


 マキはそう聞いてちょっと安心しながら、タモンの方に視線を向けた。その瞬間、マキの視線はタモンの姿に釘付けになっていた。


(お?)


(お?)


(これは?)


 エリシア、マルサ、ショウエは面白いことになっているのではと、タモンに見とれているマキの姿を興味津々な様子で眺めていた。


 エリシアは、視線だけをショウエに向けると、ショウエは首を大きく横に振る。


(陛下のことを話した?)


(いいえ。話していません)


 そんなやり取りだったので、二人の策士は目を合わせてにやりと笑っていた。


(人が恋に落ちて、見惚れる瞬間を見てしまった。しかも自分に)


 タモンはタモンで、このやり取りを理解しつつ、ちょっと背中に薄ら寒いものも感じていた。


(でも、童貞男子が綺麗な先輩女子に向ける視線ってこんな感じだったんだろうなあ)


 自分が先輩に出会った時のことを思い出して、恥ずかしくなる。そう思うとあまり怯えるのも良くないかなと思う。


「こちらは、陛下の知り合いで他の国から来た貴族のお嬢様なの」


(え?)


 エリシアが変な説明を始めたので、タモンは困惑したけれどエリシアが変な圧をかけた目配せをしてくる。


「は、はい。マキと申します。私がお守りいたします。お任せください」


 マキは、精一杯背を伸ばして敬礼する。頼れる雰囲気を出しながらも、ちょっと頬が赤らんでいるような気がするのも可愛らしいとタモンは思った。


(あんまりからかってもよくないよなあ……)


 タモンとしては、そうは思いながらも周囲の三人の熱い期待に目をそらし続けるわけにもいかなかった。


(全然、気がついていないのなら、一日だけの夢を見せてあげるか?)


 昔の自分なら、特にその後何にもならなくても先輩と一日デートできるだけで嬉しかっただろうと思う。


(さっさと視察にはいかないといけないし……)


 しばらく考えた上でタモンは、結論を出した。


「マキさん、一日、よろしくお願いします」


 タモンはにっこりと笑って、手を差し出した。


「は、はい。光栄です」


 マキに手を引いてもらって可愛らしいお嬢様に扮したタモンは立ち上がる。その全身を見てさらにマキは照れた表情で見惚れていた。


(ちょっと、楽しいかも……)


 マキの反応を見て、悪い感情が芽生えてしまったタモンだった。

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