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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 幕間 北ヒイロ国の日常

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カンナ、夜の戦い(後編)

 カンナの朝は、見知らぬ訪問客の襲来から始まった。


 まだ、頭ははっきりとはしていなかったけれど、朝食も食べ終わりいつもの自主訓練でも始めようかとしたところで、扉をノックする音がした。


「カンナ将軍で、いらっしゃいますね」


「はい」


 おそらくミハトか部下たちが訓練の誘いに来たのだろうと思って扉を開けると、そこには見知らぬ少し恰幅のいい大人の女性が立っていた。


 カンナは兵たちと同じ宿舎の中に部屋をもらっていた。ミハトやロランとともに武官としては最高位なので、それにふさわしい大きな個室を与えられている。この部屋の回りは荒くれ者の兵隊ばかりで、かなり厳重な警護があるので、許可を取らないといけない。つまり、こんな早朝にここまで通してもらえる時点で部外者ではないし、それなりに信頼されている人なのだろうと推測するのだけれど、カンナには見覚えがない人だった。


「はじめまして、私、陛下の身の回りのお世話などをさせていただいております。マルサと申します」


「ああ、お初にお目にかかります」


 にこやかに挨拶をするその中年女性の名前を、カンナも最近はよく聞き及んでいた。この城のメイド長みたいな立場の人ながら、彼女の作る服が若い女性に好評みたいな話だった。ただ、あまり自分には関係のないことだと思っていたのでそれ以上の興味は持ったことがなかった。


「それで……そのマルサさんが何の御用でしょうか?」


「今夜の陛下のご相手に選ばれたと聞きましたので」


 にこやかな笑顔でマルサは、そう答えた。丸いお顔がさらに丸くなったようにカンナには見える。

 そう言えば、昨晩、酒に酔ってそんなことを言ってしまったような記憶がある。


(いや、兄上も……酔いから覚めたら、こんなでかくて硬そうな女はやっぱりいいやと思っているんじゃないだろうか……)


 かなり動揺しながらも、あれは、酒の上での戯れだとカンナは冷静になろうとしていた。


「え? 今夜?」


 マルサにさっき言ったことを、カンナは頭の中で繰り返した。


「はい。先程、陛下から直接、お伺いしました」


「あ、そうなのですか……。まあ、それは、兄上に直接会ってお話しいたします……」


 少なくともタモンは忘れてはいないのだと分かって、カンナとしては恥ずかしい気持ちだった。ただ、それはそれで嬉しい気持ちにもなっていた。


(でも、酔いから覚めても……私で良いということか……)


「そういうわけですので、将軍閣下の服を作りますので、体のサイズを測らせていただきます」


「え? あの、私は、そんなものは……」


 準備万端で盛り上がって行ってみたら、拒否されてしまうということもまだあるのではないかと想像してカンナは尻込みする。


「カンナ将軍……陛下の仰せです」


「は、はい」


「私としても、こんな味気ない服装で陛下の寝室にお招きさせるわけにはまいりません」


 マルサのきっぱりとした物言いに、カンナも直立不動で応じるしかなかった。

『一騎当千』『鬼神』『モントの二枚看板』『化け物二人のでかい方』この一年の戦いでこの北ヒイロ地方にそんな異名が知れ渡った彼女だったが、今はにこやかに笑うマルサにお尻を叩かれつつ従順に言われた通りに採寸されていた。


(この人は、昼間見た得体のしれない生き物の頂点に立つ人だ……)


 すっかり侍女たちに対して、苦手意識ができてしまったカンナだった。



「お。格好良いね」


 夜になり、タモンは城の中にあるマルサの仕事場まで足を運ぶと、着付けの終わったカンナの姿を見て感心していた。


 体のラインにあわせたワンピース姿で、足元には大きくスリットが入っている。タモンの知識だとチャイナドレスに近い感じの衣装だった。


「あ、兄上。あの……」


「うーん。すごい。さらに綺麗」


 タモンは、椅子に座っているカンナの戸惑いなど気にせずに、じろじろと見ながらぐるりと一周する。


 腰や胸のあたりについているひらひらとしたレース部分がタモンから見ると斬新だったけれど、うまく調和してカンナの肉体美とそれに加えた可憐な美しさも引き出していると更に感激していた。


「マルサさん。素晴らしい仕事です」


 タモンは親指を立てて、マルサを称賛した。


「ありがとうございます。陛下」


 マルサはまだ作業を終えたばかりなのか腕まくりをしたままの格好で、タモンに対して深々とお辞儀をした。


「ところで、陛下。今日は、どうしてこちらに? もう少しお化粧したら、陛下のお部屋に送り届けいたしましたのに……」


 カンナも思っていた疑問をマルサがそのまま聞いていた。


 マルサはにこやかな顔だったけれど、仕事を邪魔しないで待っていて欲しいという気持ちも溢れてきていた。


「今日は、僕の部屋に来てもらうんじゃなくって、空いている後宮に行こうかなって」


 タモンは、椅子に座り、カンナを遠くから眺めつつそう答えた。


「空いている後宮? ああ、あの奥にある小さな建物ですか」


 カンナは、じっと見られているのが恥ずかしそうに視線を外に向けていた。


「もうエトラ家やキト家に配慮する必要はないけれど、僕が権力で、嫌がるカンナを呼び寄せたと思われたくはないからね。今夜は、あくまでもツーキ攻略のお手柄に報いた結果ということ」


「……そんな気にすることもないと思いますが……」


 カンナは真剣な声でそう答えた。ただ、昔からタモンについてきたカンナやミハトはそんなことはないと知っているけれど、最近、直属になったヨム家から来た部下などはある日、部屋に呼び出されて無理やりされてしまう恐ろしい主だと思ってしまうこともあるかもしれないとは理解した。


(たかだか部下と夜を共にするのにも、色々、気を使って大変ですね)


 こう考えてしまうから山賊くずれとか言われてしまうのかもしれないと自分で苦笑しながら、カンナはタモンに理解を示して微笑んでいた。


「では、嬉しそうに兄上についていけばよろしいですか?」


「そうだね。よろしく頼むよ」


「まあ、実際、楽しいですから」


 カンナは、今夜のこれからのことを考えて高揚しつつ笑っていた。戦場でも、少々の恐怖や不安はいつだって押しつぶして勝利に導くのが彼女だった。


「はい。もう連れてよろしいですよ」


 マルサは、カンナに軽く化粧をしおわるとタモンににこりと笑いながらそう声をかけた。『どうせすぐにお部屋で灯り消しますしね』とマルサは、カンナの耳元で囁いて背中を押した。


「うん、綺麗だ。じゃあ、行こうか」


「は、はい。兄上」


 慣れないことばかりで、カンナは少し動揺しながらタモンに手を取られて立ち上がる。


「ええと、楽しそうに……でしたよね」


 一瞬、カンナは昔、よくやったようにタモンの肩に手を回して抱き寄せようかと思ったけれど、『それは……何か違うな』と思いとどまって、近い方の二の腕に手を添えるだけにした。


「でも、こんな仲睦まじそうにしたり、化粧したりしても、こんな夜ですし、誰も見ないんではないでしょうか」


 カンナは悪戯っぽい笑顔で、タモンの腕に密着していた。どうせほとんど、誰もみていないだろうという余裕があっての行動だった。


「いや、いっぱい見られると思うよ」


「え?」


 カンナの疑問に答える前に、タモンは扉を開けて渡り廊下へと足を踏み出した。


「おおー」


 その瞬間に、わずかに低く抑えた声で声があがった。


(え? 何? 何故かいっぱい人がいる?)


 渡り廊下の回りに、多くの人の気配があった。草陰や建物の陰に隠れている人が多かったけれど、そこに入り切らなかったのか渡り廊下のすぐ側で小さくなりながら、カンナの方を見ている人もいた。夜の渡り廊下には、ずっと等間隔で灯りが置いてあるのだが、その灯りでまるで夜の猫のようにいくつもの瞳だけが明るくこちらを見ている気がしてさすがのカンナも背筋が寒くなってしまう。


「え、ああ、後宮の侍女さんたちですか……」


 目が慣れてきて改めて見回せば、どうやら昼間に取り囲んでいた人たちと同じ顔ぶれのようだとカンナは思った。


「ごめんね。その服を直してもらったんだけれど、その時にばれてしまったみたい」


「ああ、こんな背の高いサイズは私しかいないということですか……」


 タモンは背の高いカンナを見上げながら謝っていたが、カンナからすれば別に秘密にするようなことでもない。ただ、こんなに多くの人に見られると恥ずかしいことは間違いがないし、何故、こんなに侍女の人たちが集まっているのかはカンナには謎だった。


「もしかして、夫人たちのお邪魔虫だと思われて、敵視されているということでしょうか」


 カンナはそれなら理解できると思って、眼光鋭く厳しい表情になった。直接何かされるというわけではなさそうだけれど、敵だと思えば後ろを見せるわけにはいかないし戦う気持ちにもなっていた。


「いや、そういうわけじゃないみたいなんだよね……」


 歩きながらタモンは何とも説明しにくそうにしていた。


「はああ。眼福ですわー」


「二人が並ぶの最高です。妄想が捗ります」


 建物の陰に隠れている侍女たちから、絞られたような変な声が聞こえてきた。


「ええと、僕にもよく分からないんだけど……侍女たちは、格好良いお姉さまが綺麗な服を着ているのがたまらないみたい」


「格好良い……私のことですか……たまらない……?」


 堂々と背筋を伸ばして二人は歩きながら、奇妙な視線の数々の意味を語り合いながら小声で、時々間抜けな声を時々出していた。


「『王子さま』が綺麗な格好で男と並んで歩く姿がいいんですと、マルサさんやエリシアも力説していました」


「私は、全然、王子様などではありませんが……」


「血筋とかの話ではないらしいよ」


 タモンは笑いながらそう言っていた。どうやら、自分よりはタモンの方が周囲の乙女たちの気持ちが理解できているらしいと話しながら後宮の部屋についた。他の夫人たちが住む後宮に比べれば、遥かに小さく小屋みたいではあった。


「魔法使いの研究用の部屋なんだよ」


 タモンは珍しく遠い目をしながら、そう言ったようにカンナには見えた。ちょっとその魔法使いの噂は聞いた気がするけれど、あまりそれ以上は詮索するつもりもないので何も言わなかった。ただ、カンナはこのこぢんまりとした後宮が妙に落ち着いて気に入ったことだけは間違いがなかった。


「それじゃ、観客の皆さんに挨拶しようか」


 タモンは扉を開けたあとで、そう言ってタモンの方が女の子であるかのようにカンナの腕に抱きつきながら、渡り廊下の方に向き直って周囲に潜んでいる女の子たちに小さく手を振った。


「え。え、はい。」


 カンナもとにかく同じように小さく手を振ると、草陰から悲鳴が沸き起こった。失神して倒れた子もいるようだった。


「ここを引っ張ると、すぐに脱げるらしいです」


「さすがは、マルサさん」


 そう教えられて、実践した結果にタモンは感心していた。


 部屋の中には最低限の灯りしかなく、ベッドの上に裸になったカンナが横たわっている。

 わずかな部屋の灯りと窓から差し込む月の光に照らされたその引き締まった体を、タモンはまじまじと観察していた。


「そんなに見ないでください」


 隅々まで観察されてしまい、カンナは何も隠すものもないままただ少しだけ身をよじらせるだけだった。『さっきの侍女さんたち、覗いていたりはしないよね』と少し心配と興奮をしながら、タモンが触れてくるのをただ待っていた。


「素晴らしく引き締まった体」


 タモンも服を脱ぐと、抱きしめながらカンナの体に触れていった。


「か、硬いですよね」


 あんな美人でかつ肌も綺麗で触れれば柔らかそうな夫人たちと、比較されてしまうと思うと恥ずかしくなってしまい、少し上に逃げるように体をずらした。


「でも、胸は柔らかいよね」


「あ」


 すぐに胸までタモンの手が伸びて、優しく包み込まれてしまう。


「ん。ああ」


 包み込まれたまま左右に動かされて、上のところをそっと撫でられると気持ちよくなってつい、声があふれてしまった。


(こんなものが、気持ち良いものなんだな)


 今まで、戦う時には邪魔としか思わなかった胸の膨らみが気持ちよく胸の奥から温かくなってくる気がして、とろけたような表情でタモンにされるがままになっていた。


「筋肉も綺麗だと思うけれど、傷が多いね」


 胸を揉みながらタモンはカンナの反応をじっと見ていた後で、そうつぶやいた。


「まあ、それは……」


 今度こそ失望させてしまっただろうかと、カンナは心配する。


「やっぱり、深い傷だと魔法でも治らないんだね」


「う。あ、傷口を撫でないでください」


「痛かったりする?」


「痛くはありませんが、くすぐったくて……」


 カンナのお願いに、タモンは楽しそうに笑うとまた傷口に指をそっと這わせた。


「無敵のカンナの弱点を見つけちゃった」


「うっ、兄上が意地悪を」


 出会ってからこんなにカンナが可愛い反応をするなんて、想像していなかったと言ってタモンは嬉しそうだった。反応を楽しみながらしばらく上から見下ろすと、次は頭を下げていった。


「傷を舐めるはもっと駄目です」


 頭を抑えられながら、タモンは胸から下腹部へと舐める箇所を移動させていく。


「太ももの傷はいけません、あっ、ああー」


 こぢんまりとした黒い後宮の中で、カンナの声は徐々に甘い吐息になっていった。

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