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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 幕間 北ヒイロ国の日常

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マジョリー夫人の晴れ舞台

 三ヶ月の後、無事に二回目の服飾展示会はもうすぐ行われようとしていた。


「え? 今回、そんなことをする……の?」


 夫人たちの熱意に、立案者であるはずのタモンが若干引き気味だった。


「まだ、服もたくさんは量産できないから、そんなに頑張らなくても……」


「でも、今回不評だったら、次回はかなり先になってしまいますでしょ? 私たちにもプライドがあります。何としてもお仕事をさせていただかないと」


 お試しのつもりでしかなかったタモンに対して、エレナを筆頭に夫人たちは熱意溢れるアピールをしてきた。


「まあ、やる気になっていただけるのは嬉しいですけど」


 タモンとしては、一時的には困ってしまうかもしれないと思いながらも、良いことだしモントの城のお金を勝手に使われたというわけでもないので強く反対もしなかった。


「お任せください」


「有能なお嫁さんたちをもらって、僕は幸せ者ですよ」


 やる気たっぷりな四人の夫人にタモンはそうしみじみと語った。

 タモンからすれば正直なところ予想外だった。何不自由なく部屋で過ごしてもらっても構わないのに、わざわざ積極的に仕事を頑張ってくれるお嫁さんたちに感謝していた。


「それでは始めましょう。音楽をよろしくお願いします」


 エレナの指示の元、町の広場で演奏家たちが音楽を奏で始める。演奏と言っても派手なオーケストラというわけではなく、二人が綺麗な音色の琴を鳴らしているだけだった。町の広場にはすでに数十人もの人が集まっている。エレナやマジョリー、コトヨの招待で来た人が多かったが、それぞれがバイヤーだったり、ただの夫人たちのファンだったりと事情は様々だった。


 その人たちに加えて、綺麗な音色に惹かれて何人もの人が足を止めて何が起きるのかと興味の眼差しを向けていた。


「わあ、かなり人が集まっておりますね」

 

 マジョリーとコトヨは、町のお祭りで演奏や演劇をする舞台が設置されて、その袖から広場の様子を覗き見ていた。


「緊張してまいりました。大丈夫でしょうか。私はマジョリー様のように人気があるというわけでもないですから」


「だ、大丈夫よ。コトヨ様も綺麗ですから」


 せいぜい前回の倍くらいの人数を想像していたマジョリーとコトヨは、それどころではない人数に驚いていた。


 コトヨの不安を解消しようとしていたけれど、マジョリーもこれだけ人が集まるとただ夫人が綺麗な服を着て登場するだけでいいのだろうかと心配になってきた。


(こんなに集まっているのだから、すごい踊りとか歌とか期待している人も多いんじゃないかしら……)


 逆に緊張しているしているのが分かってしまったのか、コトヨの方からマジョリーの手に自分の手をそっと重ねた。


「私、この城に来てからただのお飾りの人形みたいで、何も役に立っていないのではと思っていました。でも、こうやってちょっとでもお役に立てるお仕事があるなら嬉しいです」


「……そうね。私も同じようなもの……頑張りましょう」


「はい。できることを頑張りましょう」


 箱入り娘で、全然働いたこともない自分とはちょっと違うかもしれないと思いながらも、マジョリーはコトヨの手を握って励まし合っていた。


「コトヨ様、ちょっと苦手だったけれど、一番立場も似ているし親近感がでてきました」


「え? 苦手だったんですか?」


 コトヨはショックを受けながらも、それは過去のことで、もう払拭されたのだとお互いに目を見合わせながら少し笑顔を見せる。そのまま、エレナに呼ばれるとステージへと二人は歩いていった。


 大歓声。


 マジョリーは、水色を基調とした、コトヨは黄緑を基調とした綺麗なドレスに身を包んでいた。

 その姿をみた観衆からは、黄色い歓声が飛び交う。

 町のお祭りで着るにはとても繊細で綺麗すぎるドレス。観衆は見たこともないけれど名家同士のパーティではきっとこんな服で参加するのだろうという憧れの目で見ていた。


 マジョリーは、まだこんな光景に慣れていたので余裕の笑みを浮かべて手を振っていた。むしろパーティでもこんな薄い布が重なってひらひらと揺れてちょっと大胆な足元の衣装はないと楽しんでいた。


 一方、コトヨは初めての観衆の多さに笑顔もぎこちない。


 そんな様子を見かねたマジョリーは、コトヨの手を軽く握る。何事かと思いながらも、ちょっと安心した笑顔を見せたコトヨだったけれど、その次の瞬間は握った手を弾き飛ばされた。


「わわっ」


 小さなコトヨの驚く声と一緒に、マジョリーとコトヨはそれぞれ逆方向に回ることになった。

 揃って、二人がドレス姿で回り、ふわりとスカートが舞い上がることで綺麗で白い足が観客の目にしっかり焼き付いた。


「マジョリー様! コトヨ様!」


 コトヨは恥ずかしいと思いながらも、観衆の大歓声がやっと自分の耳に届くようになっていた。

 綺麗な服だけではない、マジョリーだけでもない。

 美しい服を身にまとったコトヨのことを、応援する声がはっきりと聞こえた。

 落ち着きとともにやる気に満ちたコトヨは、マジョリーと一緒に満面の笑顔で観衆の声援に応え続けた。


「マジョリー様」


「普段着も素敵」


 ステージを終えたマジョリーは、急いで新しい服に着替えると、他の夫人と同様に町へと繰り出した。

 マルサさん作の新しい服は、さすがに普段は着ないような服だけれど、お出かけの時に背伸びしてお洒落したい時にあわせた服だった。

 マジョリーが着るととても似合っていて、普段の買い物にも着ていけそうな気がしてきてしまう。


「握手してください」


 他の夫人たちが『なんで私なんかと握手?』と内心で思いながら、ぎこちなく応じているのに対して、マジョリーは慣れたもので、にこやかに笑顔と軽く声をかけながら次から次へと黄色い声を出しながら並んでいる女の子たちに応対して、天性の人気者であることを見せつけていた。






「さすがお嬢様。大人気でした」


 城に帰ったマジョリーは、クタクタになってソファーに腰掛けていた。足や手をランに揉んでもらっているところに、ルナが報告にやってきた。


「かなりの反響で服の売り上げもすごいそうです。今も、たくさんお問い合わせをいただいているとのこと」


 マジョリーは、ルナの報告に上機嫌にうなずいていた。


「でも、コトヨ様もかなりの人気だったとか」


 横からのメイの指摘に、ちょっとだけ動揺しながらも余裕の表情でマジョリーは受け流していた。


「ま、まあ、コトヨも綺麗ですからね」


「あの後、姉妹で馬に乗って見せて、拍手喝采を浴びていたとか」


「え? 馬に」


 そんなこともできるのねと、マジョリーは驚いていた。


「おしとやかな感じですけれど、ヨム家ですものね。馬もお上手ですよね。何もできない仲間だと思っていましたのに……」


「勝手にそんな仲間意識を持たれて、コトヨ様も迷惑でしょうに……」


 メイは、呆れ顔でつっこんでいた。


 マジョリーとしては、今日ですっかり親近感を持っていただけに、自分を脅かすライバルになりそうなのは本気で今後の付き合い方を考えてしまい悶々としてしまう。


「私も、超絶美少女以外の何か特技を持たないと駄目ですわね……」


「いい心がけだと思いますが、この調子に乗っているお嬢様をちょっと引っ叩きたいです」


 相変わらず無礼な発言をするメイのことを、ルナは咎めだてする気にもなれず引きつった笑いを浮かべているだけだった。


「とりあえずお母様に頼んで、私が持っていたアクセサリーを送ってもらいましょうか。売れなくともかなり人目を引くものばかりだと思うわ」


「はい。かしこまりました」


 ルナは、心地よく承諾していた。


 まだ、すぐに帰るかもしれないと家に残してきたものも多かったけれど、すっかりこちらの城での生活にも慣れたのだとルナは少し寂しい気持ちもあるけれど、ほっとしたような気持ちにもなっていた。


「これを機に、展示会用にキト家御用達の宝石商を呼んでもいいかもしれませんね」


 そうねとマジョリーもうなずいていた。



「大成功でしたね」


 エトラ家の部屋でも、キト家と同様に疲れきって椅子に座って伸びをしているエレナの元に、フミが紅茶を用意していた。


 フミに関しては、エレナと一緒に、新しい服を着せられて歩いていたので、どんな様子だったかはよく知っているし、報告する必要もなかった。フミも疲れているのだけれど、それをおくびにも出さずにいつものように主人に仕えていた。


「まあ、話題はマジョリーとコトヨに取られちゃったけれど、実際の売り上げでは他に負けていないわ」


 フミは、いかにも商売人の娘らしい実利を取るエレナの様子を頼もしく見ていた


「やっぱり、お嬢様とそれに仕える有能な執事風の組み合わせは、世の恋人たちの憧れだから訴求性が高いわ。色々な層に売っていける。特にモントの町にはフミが着ているような服を着たいという人は多そうね」


 エレナは、そう言うとまだ着せられた感のある執事風の服に身を包んだままのフミをねぎらっていた。


「でも、フミとしては、ルナ様と並んで歩いた方が嬉しいかしら? 有能な働く人同士のカップルの組み合わせね。それも売れそうよね」


 ちょっとにやにやしながら、エレナはフミにそう言ってカマをかけてみた。


「そうですね。機会があればルナ様と並んで歩いてみたいと思います」


 あまり照れたり動じたりする様子もないフミに、ちょっと面白くなさそうなエレナだった。とはいえ、前向きに希望している返事に満足して、次回以降の構想を練ることにした。


「お肉も好評でしたね」


 フミが話題を変えたいかのようにそうつぶやいた。


「そうね。今日はお試しだったけれど、十分、商品になりそうね」


「ヨム家から仕入れて、マジェルナの丘で管理すれば、モントだけじゃなくてフカヒやビャグンの街にも売っていける」


 またぶつぶつと独り言をつぶやきながら、考え始めてしまったエレナのことを、ちょっと困ったように見守るしかないフミだった。


「旦那さま、なかなかすごいわよね。女性ばかりの世界だから服が売れそうと思っただけとか言っていたけれど、北ヒイロ中のあらゆる交易ルートを把握しているわ」


「はい」


 フミもうなずいていた。発想は嘘ではなく本当なのだろうけれど、準備の周到さと素早さはいつも感心する。


「今はまだ大したことないけれど、うまく私も協力すればエトラ家の交易ルートを上回ることも可能ね。南の方の経済圏も支配できるわ」


(エレナ様。すっかり、こちら側の人間ですね)


 最近では、常日頃からエトラ家の経済圏を乗っ取ってしまうことを考えているようにしか見えないエレナに、フミは苦笑する。エトラ家は、一番、新たな『男王』に出会わせてはいけない人物を送り出してしまった気がしている。


 とはいえ、フミも他の地方との外交問題は分からないなりに、北ヒイロが一つにまとまる必要があるのだとは感じ取っていた。


「そうですね。タモン陛下を支えましょう」

 フミも仕事ができて楽しそうなエレナを後押しする決意を固めていた。



「なんですか、あれは……」


 また季節が変わり、三回目の展示会を行う日になった。

 試験は、終わり。今回からがモントの城に貢献するための仕事であり、他の家との競争なのだと夫人たちは気合いを入れて準備をしていた。

 しかし、当日、モントの城から見える異様な光景に夫人たちは、目を細めて何が起きているのかと観察していた。


「ご、ご夫人方。ご相談がございます」


 モントの港町から、馬を飛ばして返ってきたのは、ロランとミハトだった。今、この城の、いやこの地方で名高い二人の将軍二人が慌てて返ってきたことに、出発しようとしていた夫人たちも何事かと集まった。


「何か事件でも……」


 マジョリーの問いかけに、馬から下りて慌てて駆け寄ってきたロランが息を整えながら答えていた。


「人が多すぎます」


「え?」


 夫人たちは、どういうことかと首をかしげていた。


「人が多すぎて、とてもモントの町の広場には入りきりません」


 冗談でしょうと夫人たちはそれぞれ、異様な熱気がありそうなモントの町の方を見つめ直した。


「もしかして……あれ、町に入れない人なのでしょうか……」


 そんな馬鹿なと笑っていたけれど、ミハトは馬上のまま肯定していた。


「そう。町の人にも迷惑なので、これから、道沿いに並べます。ですから、ご夫人たちはゆっくりとモントの町までの道を来てもらいたい」


 豪快な声でそれだけをいうとミハトは、もう次の瞬間にはモント周辺の人を整理するためになのか、馬を走らせて姿が小さくなっていた。


「よし。わかりました」


 エレナは、夫人たちを代表して深呼吸しながらうなずいた。


「皆さん、私たちは、歩きましょう」


 馬車であれば十数分もあれば着くけれど、歩けばそれなりに距離がある。

 ただ、そんなことで弱音など言っていられる状況ではなかった。


「はい。分かりました。


「が、頑張りましょう」


 しかし、夫人たちはみんな内心では『やりすぎたのかも』という負い目もあったし、当然それだけ頑張った準備を無駄にしたくはないのでみんな、歩きながらアピールする準備をはじめた。




 これ以降、モントの城から町までの道が整備されていく。

 特に春の展示会は毎年、北ヒイロ中で盛り上がる巨大なお祭りとして発展していくことになった。

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