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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 幕間 北ヒイロ国の日常

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夫人たちの反省会

「つまり、展示会とは、夫人ごとに新しい服が用意されているのでそれを着て私たち自身が展示されるってことよね」


「さようですね」


 マジョリーの確認に、侍女のメイは無表情にうなずいていた。


 マジョリーは、実際のところはタモンが説明してくれたことが深くは理解できていなかった。今まで、働く必要もなかった立場だった彼女には、あまり興味がない言葉ばかりが並んでいた。


 とはいえ、タモンのやりたいことは今までの経験で、なんとなく理解していた。

 嫁に来る前から北ヒイロ地方で一番の美少女と言われた彼女が、どこかの施設に行くといえば、わざわざビャグンの街の外からも彼女を一目見ようと集まることもあった。そして、『マジョリーお嬢様が身につけていたアクセサリーと同じものを身に着けたい』という少女はたくさんいた。


 タモンとしては、それと同じようなことを夫人たちにして欲しいのだろう。


「これは勝負よね。この戦い。私が勝ったようなものじゃないかしら」


 他の夫人たちとの競争なのだと受け取っては不敵に笑うマジョリーを、侍女であるメイは馬鹿にしたような冷ややかな目つきで眺め、ランはぎこちない笑顔でうなずいていた。


「そうですね。服が売れてくれればいいですね」


「まあ、それ以前に人が集まるかですけれど」


 侍女たちはあくまでも冷静に成り行きを見守っていた。






「なるほど、モントの港町は、普段はこのような町なのですね」


 次の日、このモントの城の夫人たちがそれぞれ馬車に乗って、モントの港町の入り口にまで訪ねてきた。


 三つの馬車から四人の夫人が姿を現すと、待ち構えていた町の人たちからは歓声が起きる。

 ただ、マジョリーが想像していたのとはかなりかけ離れた十数人が何やら旗を持って声をかける程度のものだった。


 マジョリーは、この港町のことをはじめてこの城に来た時の印象でしか知らない。あの時は、北ヒイロ地方で有名な名家二つのお嬢様の嫁入り行列ということで町から人があふれるくらいの熱気が感じることができた。でも、今は一部を除けば、人もまばらな町でしかなかった。


(やはりビャグンはすごい街なのですね)


 都会であるビャグンの街で生まれて育ったマジョリーには、平日のお出かけであってもいつも街の大通りには人が溢れていて、マジョリーの姿を見れば囲まれてしまっていた。護衛のものがいないと歩けないくらいで、それが当たり前だと思っていた。


「いえ、でも頼まれたからにはちゃんとお仕事はしませんと」


 マジョリーは小さく気合いを入れて、侍女たちを連れて町の大通りへと向かって歩いていく。声をかけてくる町の人に笑顔で手を振って答えるのは、やはりマジョリーが一番手慣れていて、優雅な印象を与えて通りがかった観衆にも好評なようだった。


 町の大通りを進んだ先に、それなりににぎやかな商店街へとたどり着く。目的地のお店には、すでにタモンが待っていた。


 あまり格式張った格好ではないタモンは、町の偉い人たちに馴染んでいて町の有力者の一人くらいに見えてしまう。


(いつの間に、こんなに親しくなったのだろう……)


 軽い感じのまま、夫人たちを出迎えるタモンをマジョリーは不思議そうな目で見ていた。多忙すぎて寝る間もなさそうに見えるのに、決められた曜日には夫人たちの部屋へもきっちりと来てくれるのでそんな暇がいつあるのか謎で仕方がなかった。


「来てくれてありがとうね。うん、さすが、すごく似合っているね」


 もちろん、夫人全員に同じような声をかけて労をねぎらっているのは分かっているけれど、マジョリーからすればこだわった着こなしを褒めてもらえて予想以上に舞い上がってしまう。


「今日は、コトヨさんに話しかけてもいいのかな?」


 タモンはマジョリーを労ったあとは、ヨム家の姉妹に話しかけていた。コトヒもコトヨもマジョリーからは数歩先に立っているので、置いていかれたというわけではないのだけれど横目でタモンの後ろ姿を追いつつ、会話が気になり聞き耳を立てていた。


「仕方ありません。今日だけは特別に許しましょう」


 小柄な女の子が、腰に手を当ててのけぞりながらタモンの問いに答えていた。


(あの子が噂のエリシア宰相のお弟子さんね……)


 マジョリーから見れば不敬極まりない言動だけれど、子どもに見えるからなのかタモンも周囲の人間も笑って許していた。


「よかった」


「ありがとう、ショウエちゃん。私も嬉しい」


 タモンは貴重なものに触れるようにコトヨの手をとって、二人で笑いあう。


「タモン君、疲れていない? ちょっと心配」


「昔、ヨム家に転がり込んだ時より全然、楽ですよ」


 コトヨの問いかけに、タモンは疲れていないとは言わない。噓は言わないタモンにコトヨはちょっとだけ安心したような優しい表情になる。


「私、あまり分かっていないかもしれないけれど、焦っているようにもみえる」


 帝国の魔道士のことなど一番知らないはずのコトヨの言葉が、心に響いてタモンは、もう一度コトヨの手をギュッと握りしめていた。


「無理しないでね」


 もう一度、コトヨは優しい言葉をかけていた。


「『何あれ。腹が立つ』」


 小声ながら隣で侍女のメイが言った過激な言葉に、ぎくりとしながらマジョリーは横を向いた。


「そんな顔をしていらっしゃいますよ。お嬢様、笑顔、笑顔です」


 いつまでも『お嬢様』と呼ぶのをやめてくれないメイは、涼しい顔でマジョリーお嬢様にアドバイスすると、自分もにこやかな笑顔を作って、周囲の町の人に向けていた。


「いえ、別に、腹が立っているわけではないのですよ……。ただ、私も旦那さまと一年早く出会えていたらあんな風に慕われていたのかなと」


 マジョリーは、言われたとおりに笑顔を周囲に振りまきながら、ぼそりと侍女にはそんなことを喋っていた。


「お嬢様には、無理じゃないですか」


 侍女の言葉に、笑顔は保ったままでも内心ではとても傷ついているマジョリーだった。


「コトヨ様はコトヨ様です。マジョリーお嬢様は、代わりにはなれません。できることをいたしましょう」


 普段、あまり真面目に仕事をする様子を見せないメイの真剣なアドバイスにマジョリーは目を丸くしながらもしっかりとうなずいていた。


「メイが何だか頼もしいわ。ルナやランが私にあまりつきっきりになれなくなりそうだから、代わりに頑張ってくれるのね」


「私は、普段から、ちゃんとお仕事しています」


 マジョリーが褒めるとツンとした表情で前を向いて、それきり話してはくれなかった。メイが照れているのは珍しいとマジョリーは勝手に解釈して笑顔になっているのだった。




「マジョリー様が着ていた服は、五着売れたそうです」


「五着」


 翌日、部屋でそう聞かされたマジョリーは、これといった感情もなくうなずくだけだった。


(そんなものですか)


 他の夫人たちと比べて一番売れたし、話題だったと言われれば、嬉しくもあるけれど、こんなものでいいのだろうかという気にもなってくる。


「エレナ様と話してみようかしら……」


 突然、そう言って立ち上がりメイたち侍女を慌てさせた。


 部屋から出ようと思った次の瞬間に、今度は侍女のランが慌てて駆け寄ってきた。


「エレナ様や他のご夫人たちが、ご相談したいと来ておりますがいかがいたしましょう?」


「え?」


 マジョリーは目を丸くする。侍女を連絡によこしたというわけではなく、すでにすぐ外にエレナが話している声が聞こえてしまった。


「す、すぐお通しして」


 今から出かけようとした自分のことを棚にあげて、朝早くからお出迎えする準備をしなければならないことに不満を言いながら他の夫人たちを出迎えた。


「それでは、展示会の反省会をはじめます」


 エレナは机に勢いよく手を置いてそう宣言した。

 机をコの字に並べて、マジョリーの左にエレナ、右にコトヨとコトヒの四人の夫人が椅子に座っていた。夫人たちの後ろには、それぞれお付きのフミとルナ、そしてヨム家の後ろにはショウエが立っていた。


 ヨム家の後ろにショウエが新しく加わったけれど、ほとんど最近の食事会と変わらない顔ぶれだった。


 他の家では、低い机で床に座布団を敷いて座ることが多いけれど、キト家で集まる時だけ、高い机で椅子に座る。メイやランと言ったキト家の侍女たちは、急な来客に対応するために大慌てで、お茶やお菓子を用意してその高い机に並べていた。


「エレナ様。最初に申し上げておきますが、陛下も今回は実験だとおっしゃっておられました。今後の対策は考えておられるとのことです」


 一番初めに口を開いたのは、そのエレナの後ろに立っているエトラ家のフミだった。


「それは、何度も聞いたわ。分かっているけれど、タモン様の夫人、四人が揃ってあの程度の集まりだなんて、良いわけがないでしょう。ひいてはこの城の威厳にも関わってきます」


 家の中での主従の口喧嘩を見ているようなので、それは予め話し合って来てほしいとマジョリーや他の夫人たちはちょっと呆れていたけれど、仲間だと認めてくれているような発言にちょっと嬉しい気持ちにもなっていた。


「というわけで、私たちは私たちでもっと人を呼び込む対策をいたしましょう」


 エレナは力強く言っては、意見を募った。

 夫人としてではなく商売人の娘として、いきいきしているように他の夫人たちには見えた。


「モントの周辺に人が少ないわけではないのですよね。私たちが初めて来た時は、あんなに人が集まっていたのですから」


 ルナがそういうと目の前に座っているマジョリーはうなずいていた。


「やはり宣伝と、もっと特別感でしょうか? 珍しくて、さらに派手で綺麗な衣装を見たいと思って集まるような気がいたします」


 マジョリーが続けた言葉に、エレナは目をつぶってちょっと慎重だった。


「そう……なんだけれど、売りたいのはちょっとだけ裕福な家でちょっとお出かけしたい時に着る服なのよね。婚礼衣装のような服を着ていくわけにはいかない……」


「売る服とは別に、見せる服があってもいいのではないですか?」


 コトヨがそう言うと、エレナは大きく目を開けた。マジョリーとコトヨに賛同して、さすがと褒め称えた。


「なるほど。それじゃ、マジョリーとコトヨには、特別綺麗な服を着てもらって、舞台に立ってもらおうかしら」


「え? あ、はい」


 マジョリーとコトヨは、どんな服か舞台とはどんなものを作るつもりなのか分からなかったけれど、エレナの強引さに押されて承諾しながら、お互いに引きつった笑顔で目をあわせていた。


「ビャグンの街は、難しいかもしれませんが、アウントの町はここから一番近いですから、招待してしまってもよろしいかもしれませんね」


 ルナは冷静にそうアドバイスすると嬉しそうにエレナは、さっそく細かく指示を出していた。


「ショウエちゃんは、何かいいアイデアある?」


 コトヨとコトヒは後ろを振り返って意見を求めた。


「いえ、我はお洒落な服とか分かりませんので……」


 知恵者として、後宮でも話題になっているショウエの発言に注目が集まったけれど、当のショウエはこんな綺麗な夫人ばかりが集まる場所にいるのは場違いだと感じているのか遠慮がちにそう答えただけだった。


「服の話でなくても、いいのよ」


「モントの町はお魚ばかりなので、お肉がもっと食べたいと思いました」


 コトヒの助け舟に、素直な返事が返ってきた。幼く見える外見も手伝って、夫人たちは笑いながらも優しい目線を向けていた。


「確かに、モントへのルートを増やすのでしたら、肉用のウリルなども増やしていいのかもしれませんね」


 フミは冷静に、そして前向きに検討していた。


「そうだね。ボクの方から肉用のウリルを調達できないか聞いてみるよ」


 フミの提案にコトヒが嬉しそうに答えた。


「マジェルナの丘で放牧するウリルを増やして、問題ないでしょうか? ルナ様」


「え? わ、私?」


「今、マジェルナはルナ様が責任者と伺っておりますので、許可をいただければと思います」


「そ、そうだったわね。いいんじゃないでしょうか」


 仕事ができる文官ルナと、彼女に仕える執事のようなフミという関係になっている二人だった。


 そんな二人からは、大人の恋の予感がすると、最近、四夫人たちもそれぞれ密かに話題の中心として盛り上がっていた。ただ、今は邪魔してはいけないと四人とも何も気が付かない素振りをして話を続けていた。


「よし、では、次回は三ヶ月後と聞いています。お互い頑張りましょう」


 その後も色々な提案をまとめて、エレナは満足したようだった。


「次は、売り上げでも負けませんからね」


 商売人の変な対抗意識が入ってしまったらしいエレナに対して、他の夫人たちはちょっと困りながらも笑っていた。


 この時は、まだ誰も想像していなかった。この反省会の影響を受けて、展示会が後にすごいことになってしまうことを。

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