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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 幕間 北ヒイロ国の日常

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続・キト家の愉快な侍女たちの日常

 夫人たちが暮らす部屋と本館である城を繫ぐ渡り廊下は、後宮が三つの部屋になったことで少し複雑になった。新しくヨム家の部屋から伸びた渡り廊下は今まで通り途中で他の部屋から伸びる渡り廊下と合流するのだが、近くの城の東側出口にも別れて繫がるようになっていた。


 この分岐した渡り廊下から夜に見る眺めが、渡り廊下に並べられた灯りとその先に見える池から山が美しいと密かな評判になって、恋人たちの待ち合わせ場として人気になっていた。


「私は本気です。結婚していただけますか」


 その場所でロランは改めてプロポーズをする。

 ランは、ロランに呼び出されてから、いくつかの可能性を考えてはきていたけれど、両手を握りしめられてまさかのど真ん中を正面突破しようとする告白に頭が真っ白になってしまった。


「あの……その……何で私なのでしょう?」


「一緒に旅をして、隣にいていただくと安心できて、楽しかったのです。そして、危ない時にも慌てず落ち着いた態度に感銘を受けました」


(そんな落ち着いていたかな……)


 ランからすれば、何もできなかっただけなのではと思うのだけれど、すぐに嘆き悲しんで騒ぐような人は、武官の嫁としてはふさわしくないのかもしれない。西方の固い武官の家出身のロランからすれば、それだけでも嫁候補としては合格点に達するのだろうと一人納得していた。


「あと私が弱っている時に力になっていただきました」


 ロランは、先程までとは異なって少し控えめで少し恥ずかしいような話し方でツーキの街でのことでランへ感謝を伝える。


(何となく私、弱っている時につけこんだみたい……)


 これもランからすれば、特に大したことをした気もない。たまたまロランが喜ぶタイミングだったとしか思えない。


 偶然が重なっただけなので、すぐに名家の武官の嫁としては呆れられてしまうだろうと考えて断ろうと一度は決意した。


(とはいえ、断るといつかロラン様は誰かを嫁に迎えるのよね)


 ランは言葉に出す寸前で、ツーキの街で出会った元婚約者のツキヨの顔を思い出してしまいとても嫌な気分になった。


「あの……ランさん?」


 しばらく黙り込んだまま、不機嫌そうな表情まで浮かべるようになってしまったランを見て、ロランはなにか失礼なことをしたのではないかと心配になって顔を覗き込んだ。


(この人には、あんな我が儘ばかりのお嬢様を側においてはいけない)


 そう思った次の瞬間には、背筋を真っ直ぐに伸ばしてプロポーズを受けることにした。


「分かりました。その申し出、お受けいたします」


 まるで決闘でも受けるかのように、きりっとした態度での返事に、ロランは思わずたじろいでしまったけれど、すぐにほっとした笑顔になった。


「よかった」


「返品は受け付けませんから」


 ランがそう言いながら二人は見つめ合うとちょっと笑った。そのまま、ロランはランの腰に手を回して抱き寄せようとした時だった。


「やった!」

 池の方の草むらからがさごそと人が動く音がしたと思ったら、その後には明らかに声がした。

「メイ!」

「いやあ、心配だったから」


 頭をかき、笑いながらそう言って、一歩前に出てきたのはランの同僚のメイだった。ランからすれば、もう少しちゃんと隠れていてとは思うものの、メイが見ているのはある程度は予想内だった。だが、まさかその後ろにもっと重要な人物が隠れていることは想像していなかった。


「へ、陛下……?」


「え?」


 ロランとランは、勢いよく前に出たランに押し出される形で転がった自分の主君であるタモンを見つけてしまう。


「お、お嬢様まで」


 ランは、更に自分の主人と目があって、驚いてしまう。驚きはしたけれど、タモンまで一緒にいるとどうしていいか分からずに困惑してしまっていた。


「陛下!」


 一方、ロランの方は怒りのオーラを隠そうとせずに自分の主君へと近づいていった。


「ご、ごめんね。気になったものだから」


 全く威厳なくランと同じような言い訳をするタモンだった。


「邪魔はしないでくださいと言いましたよね。余計な手助けもいりませんと」


「はい。すいません……」


 今やこの地方に基盤を築いて王とまで呼ばれるようになったはずのタモンが、正座して神妙な顔でロランの説教を受けていた。


「これは、私もマジョリー様を叱った方がいいのでしょうか?」


 ランはそう言いながら、自分の主人に近づくとにやりと笑った。


「私もラ、ランちゃんが心配だったから……ね」


 マジョリーも手を合わせて謝ってきた。ランはみんな慌てていると同じような言い訳しかしないのだなと呆れながら、まだ怒ったような演技をしながらこの際なのでマジョリーを責めて楽しむことにした。






「私のいない間にそんな楽しいことが……」


 翌日のキト家のでは、マジョリーの教育係で侍女たちのまとめ役であるルナは、報告を聞いてため息をついた。侍女たちが騒ぎまくって仕事にならないことには叱りながらも、本当に楽しそうなので自分のその現場にいたかったという本音も漏れてしまう。


「それにしてもランが……ねえ」


 ルナの部下の中でも一番、そういったことに疎い子だと思っていただけに意外だと言いながらラン

のことをにやにやと眺めていた。ランの方は、昨晩から他の仲間たちにもずっと言われ続けているので、ちょっと照れながらもまたかという感じでそっぽを向いて逃げるように仕事を続けていた。


「それはともかくルナお姉さま」


「どうしたのメイ?」


 ルナは後ろから小声で話しかけてきたメイを心配そうに振り返った。普段は何も悩みなど無さそうなメイだったが、小さい時から一緒にいたランがもしかしていなくなってしまうかもしれないと思うとさすがに何か不安なのかもしれないと気遣っていた。


「大丈夫よ。ランなら、ロラン様と一緒に暮らしたとしてもここに通ってもらえると思うわよ」


「いえ、そんなことはどうでもよくってですね」


「どうでもいいの?」


 ルナからすれば、仕事にもプライベートにも大きく影響すると思うのでどうでもいいというのは、さすがに強がりなのだろうと思うのだけれど、メイは本当に動じていなさそうな表情でルナに囁いた。


「ルナお姉さまの方こそ、どうなったのですか?」


「私……の方?」


 ルナは、何のことだか分からずに、ちょっと首をかしげながらメイを見ると、不敵な笑みとともにただうなずかれてしまう。


「え? わ、私は特に何もないけれど」


 ルナは、ちょっとだけ思い当たることがあったけれど実際に何もないなと再確認しただけだった。


「エトラ家のフミ様とは特に何もないのですか?」


「ないわよ」


「遠征の時にとてもいい雰囲気だったと噂では聞きましたが」


 何の情報を集めているのかとルナは訝しんだが、ため息まじりに答えた。


「はあ、ないわ。残念ながら何もないわ」


「残念とは思っているんですね」


 にやりと笑われて、ルナは、ちょっと『しまった』という表情を浮かべた。


「フミ様は、騎士がお姫様に忠義をつくすような演技が好きなだけなのよ。天然なのかもしれないけれど……。だから、たまたま軍を率いることになった私に丁寧だったから勘違いしただけ」


「勘違いしたんですね」


「私じゃないわよ! 周囲が、よ!」


「私は、何も言っていませんけど~。まあ、何もなさそうで残念です。ランよりルナお姉さまのパートナーの方が心配でしたので」


「うるさいわね。放っておいてよ」


 マジョリーお嬢様に仕えて、もう十年くらいの月日がたった。お嬢様が立派に成人してみると、ただ年をとった自分だけが残ってしまったかのようで、ルナは寂しい気持ちを感じてはいた。手近なパートナーがいればいいとは、漠然とは考えるようになった時ではあり、フミが気になったのは事実だった。


「まあ、フミ様。元々武官なんでしたっけ、有能そうですし、格好良いですし。あんな人、お世話係にしちゃ駄目ですよね」


 ルナは、駄目という言葉に反応してメイに厳しい視線を向けた。あの人の何が駄目なのかと言いたそうだった。


「あんな格好良い人に身の回りの世話をされたら、うちのお嬢様とかだったら、もう浮気しまくりですよ」


「ああ、そういう……。そうね。確かに……」


 メイが失礼な発言ながら高笑いしていたのにつられて、ルナも笑っていたけれど、メイ背後に現れた怒気に気圧されてしまった。


「誰が浮気しまくりですって!」


 メイは頭を手のひらでがっしりと包み込まれて、初めて後ろを向いた。そこには、かつてない怒った顔の自分の主人であるマジョリーが立っていた。さらにはその隣にはいつの間に入ったのかタモンの姿もあった。


「ひ、ひいええ」


 普段、何があろうと慌てたりすることのないメイが本気で怯えているのを見た。


(これは、まずい)


 自分の主人を馬鹿にするのは、普段のこの部屋の中ならまだ許される行為であるけれど、陛下に対して不貞を働くかのような内容を聞かれてしまった以上、マジョリーとしても本気で怒らざるを得ないのは理解できた。


「申し訳ありません。私の教育が足りませんでした。罰は私めが受けますので、どうかお許しを」


 ルナは、メイに頭を下げさせて、自らも膝を屈して深々と主人夫妻に謝罪していた。


「そっか。この世界では大奥にいても浮気されちゃう心配があるのか」


 しばらく、どのような反応かを怯えながらルナとメイは頭を床にこすりつけながら待っていたけれど、返ってきたのはあまり緊迫感のないタモンの返事だった。


「そ、そうでございますね」


 ルナは、ちょっと言葉の意味が分からないところはあったけれど、とりあえず顔をあげて同意する。見た感じ、顎に手を当てて普段と変わらずにちょっと考えているだけのようだったので、内心ではちょっと胸をなでおろしていた。


「旦那さま。私、浮気などいたしませんから!」


 隣で必死で抗議するマジョリーをタモンは優しく頭を撫でて受け止めていた。


「信じてます。……それに、僕も妻が何人もいるわけですし」


 優しい声にほっとしながらも、まるで別に浮気してもいいですよとでも聞こえる言葉に、マジョリーは少し悲しそうに見えた。


(王様らしくない人よね)


 今更ながらに、話に聞く過去の男王とは違うなとルナは思う。ただ優しいだけではなく、あまり自分の血に興味がないのだろうかという気がした。


「だからルナさんも、そんなに気にしないで」


 ルナは、まだ膝をついて平伏したままだった自分の姿に気がつく。タモンにそう言われると、さっきのことも大したことではないような気がしてきてしまう。


(でも、他の偉い人の前では気をつけさせないと……)


「東方方面司令官殿にそんな平伏してもらうわけにはいかないですし」


「……」


 ルナは、目の前の国王陛下に何か言われた気がしたけれど、理解できていなかった。いや、頭が理解したくないと拒んでいた。


「何でしょうか? その肩書きは……初めて聞きましたが、誰のことでしょうか」


 タモンはじっと、ルナの方を見つめたままだったので、何かを聞かざるを得なかった。


「さっきできた役職ですから。今日、僕はその辞令を伝えに来たのです」


 そう言えば、何故今日、キト家の部屋に来たのだろうと思ったけれど、まさかルナは自分に用があるなどとは思っていなかった。


「大丈夫です。この間の戦いと同じことをしてくれればそれでいいです」


(全然、大丈夫ではないです!)


 危うくそう叫びたくなってしまったけれど、さっきからの無礼の数々もあるので反省してぐっとこらえて、落ち着いた声で説明する。


「あの……陛下。勘違いをしていらっしゃるのかもしれませんが、私はフミ様などとは違って、軍も政治の経験もなく本当にただのマジョリーお嬢様の教育係でしかございません」 


「さっき、罰を受けて何でもするって言ったじゃないですか」


 タモンはわざとらしく口を尖らせて文句を言った。目は笑っているし、からかっているのはルナにも伝わりはしたが、何ともいえない圧力も感じていた。


「この前の遠征での戦いも見事でしたが、温泉に僕たちを閉じ込めようとした手際も中々のものだと思ったのです」


「い、いえ」


 本気なのか嫌味なのかは分からなかったが、その話を出されると、ルナは何も言い返せなかった。キト家の領主に言われて立てた計画とはいえ、調子に乗って率先して進めようとしただけに、本来であれば主犯として大きな罰を受けていても何らおかしくはなかった。


「キト家へと取り次ぎと、マジェルナの丘にいる軍を動かす権限を与えるというだけです。軍の指揮は、フミさんやキト家の武官に任せておけばいいですよ」

 簡単でしょとタモンは微笑んでいた。いや、全然、無理無理と思いながらも、もう逆らうことはできないと覚悟を決めた。


「そう、またフミさんにかしずいてもらえますよ」


「わ、分かりました。謹んでその役職をお受けいたします」


 タモンは、にこやかに冗談としてそんな役得があると言ったのだが、ルナは、まるでフミにかしずいてもらえるならと即答したかのようなタイミングになってしまいバツの悪い思いになった。

 隣にいるメイは密かに笑った目をしていたし、遠くにいるランも楽しそうに微笑んでいた。


「ルナ、頑張ってね」


 挙げ句の果てに、マジョリーはルナの手をとって励ましていた。どう見ても、役職のことを応援しているわけではなさそうで、ルナは逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。

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