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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 幕間 北ヒイロ国の日常

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続 ヨム家 夜の天才軍師ちゃん

「今日は、お菓子を持ってきたよ」


 最近では、週末にふらりと何かの手土産を持って、タモンは後宮のヨム家姉妹の元に遊びにやってくる回数が増えていた。


 多忙なので滞在時間は長くない。妹のコトヒと、夜であればショウエが部屋にいて少しお話をして仕事に戻っていくことがほとんどだった。


「お菓子ですか」


 主人より先にショウエが箱を受け取ると目を輝かせていた。


「毒味が必要だと思うからショウエちゃん。食べてみて」


「毒味……は、必要ですね。仕方がありません。一枚いただきます」


「まあ、僕が焼いたから大丈夫だと思うけれど」


 ショウエが焼き菓子を頬張る姿はとても嬉しそうで、見ているタモンの方まで幸せな気分になりながら眺めていた。


「え? これタモン君が作ったの?」


 二人でいつまでも話し込んでいて、部屋の中までやってこないを見かねて、コトヒが慌てて近づいてきた。


「ちょっと新しい施設の実験に……ね。準備はマルサさんたちがしてくれたから本当に焼いただけだよ」


 多忙なタモンに変な負担をさせているのではないかと心配したコトヒだったけれど、そういうことならとちょっとだけ納得していた。魔法の工房なのか、菓子を量産できるようにするのかは知らないけれど仕事の副産物ということなら、コトヒとしてもありがたく頂戴することにした。


「素晴らしいです。美味しいです。私の故郷ではこのような焼き菓子はなかったので、感激です!」


「あー。ショウエちゃん。西方の出身だもんね。小麦粉とか焼いたお菓子には、あまり縁がないか」


 ショウエは本気で目に涙を浮かべながら感激していて、コトヒでさえもちょっと引き気味でその様子を見ていた。


「い、いいよ。もっと食べて」


「ありがとうございます。こ、今度はこちらをいただきます……や、やはり知識で知っているのと体験するのとでは全然違いますね」


 コトヒも一緒に過ごしているうちにショウエの知識量には驚かされることが多いけれど、貧しい村から出てきて苦労して勉学してきた女の子なのだと改めて思い知らされる。リスのように大事に両手にお菓子を抱えて食べるその姿を保護者のような目でコトヒとタモンは見守っていた。


「素晴らしいです。ありがとうございます陛下。今日は五ポイント差し上げます」


「やった。ありがとう」


「買収されているんじゃないわよ」


 コトヒは、勝手なことを言うショウエをしかりながらも目は笑っていた。


「それじゃ」


 二人のやりとりを楽しそうに眺めたあとタモンは、立ち上がって帰り支度をしていた。


「あ、帰っちゃうのね」


「お仕事が溜まっているから、ごめんね」


 特にコトヒは責めるようなつもりはなかったのだけれど、タモンの方は申し訳なさそうに何度も頭を上下しながら謝っていた。


「寂しくさせてごめんね」


「ううん、忙しいのは分かっているから無理しないでね」


 コトヒも、さすがに嫁に来てからは『寂しくなんかないわよ』と素直になれない返事をすることはなくなった。本当に忙しそうなタモンを心配しながら見送ろうとする。


「無理してこなくてもいいのよ。ゆっくり休んでよね」


「また水曜日には必ず可愛がってあげるから」


 片目をつぶりながら、冗談交じりにそう言ったタモンには、さすがにコトヒも昔のように照れ隠しの発言をしそうになってちょっとじたばたしているところを、タモンは腰に手を回して抱き寄せた。


(お子様が見ていますけど)


 そんな感じで、コトヒが視線を横に向けると、ショウエは『何も見えていません』というように両手を広げて顔を覆っていた。


 それを確認するとタモンはコトヒに口づけをする。しっかりと数秒間、舌をからめあうようにキスをしているのを、ショウエは指の隙間からじっくりと観察するのが、ここ最近の習慣だった。



「お姉さま。タモン君からお菓子をいただきました」


 タモンが帰ると、コトヒとショウエはコトヨがいる奥の部屋へと向かった。


 明るい手前の部屋よりも、少し薄暗く、落ち着いた格調高い調度品が並ぶ部屋の中にこの建物の女主人であるコトヨは座っていた。一時期の軟禁生活とその後の心労で不健康に痩せていた体は、ここ一月でかなり健康になったように見えた。


 外にはでないので、地味な部屋着の上に一枚羽織っているだけだったけれど、わずかに残る不健康さと元気になってきた眩しい美貌が見事に調和していて、妹のコトヒでさえ見るだけで胸の高鳴りを感じてしまう。


「ありがとう。……ショウエちゃんも一緒に食べる?」


 何も言わないけれど、興味津々な目でお菓子の入った箱をじっと眺めているショウエの姿を見て、コトヨはその場に布を敷いてお菓子を広げた。


「あ、ありがとうございます」


 感激しながら大事そうにお菓子を手に取るショウエを、コトヨは優しい表情で眺めていた。


「美味しいですね」


 コトヨは自分もお菓子を一枚手にとって、味見をした。あまりにも良くできているので、これで商売をするつもりなのだろうかとか余計なことを考えはしたけれど、口には出さずにただ美味しくいただいて満足した笑みを浮かべるだけにしておいた。


「ショウエちゃんのおかげで、何だかにぎやかになったわ」


 コトヨはショウエを眺めながら、感謝の言葉を口にした。今、お菓子を食べている姿などが騒がしいという意味ではなく、ショウエの言ったとおりにした結果、今、この部屋にはお客が絶えず様々な贈り物が部屋の中にあふれていることへの感謝だった。


「そうでしょう。そうでしょう。なんせ我は天才軍師ですから」


 口にお菓子を含んだままで勝ち誇るショウエの姿は本当に子どものようにしか見えなくて、コトヒとコトヨの姉妹は微笑ましい気持ちで眺めていた。


 実際には、タモンとしても遊びに付き合ってあげているという気持ちだった。それでも先程のような少しだけの訪問だったとしても、周囲は『陛下が足繁く通っている』とか『陛下のラブコールにも関わらず、余裕で追い返している』いう噂話があふれていた。ショウエは、ヨム家としては積極的にそんなことはないと否定するようにと指示していたけれど、井戸端会議が好きで事情通と思われたい女官たちはよりいっそう根拠のない噂話に花を咲かせていた。


 わずかな噂であっても、陛下の寵愛をヨム家が受けているらしいと聞けば、城の人も城に出入りする商人も蔑ろにはしない。むしろ、ちょっと親しくなっておいた方がいいことがあるかもしれないと訪問してくる人が増えてきていた。


 コトヨがあまり元気ではなくてあまり活動できない時期だったけれど、それを逆手に取ったような策でここ一月でヨム家の地位は明らかに上がっていた。


「本当にショウエちゃんのおかげね。ありがとう。……でも、それはいいのだけれど……」


 段々と元気がなくなっていく声に、お菓子に夢中だったショウエとコトヒも何事かと顔を上げてコトヨを見つめた。


「私はいつになったらタモン君と会えるのかしら?」


 吐息まじりにそう聞いた


「えっ、そうですね。あと三ヶ月といったところでしょうか」


 ショウエが雰囲気を察したりはせずに素直に予定を答えると、コトヨは悲しそうに表情を崩した。


「さん……かげつ。そんなに?」


「お、お姉さま。そんなに悲しむことは……」


「はい。それくらいの期間が効果的かと思います」


 悲しそうな姉の姿を見てオロオロとしているコトヒに対して、ショウエは小さな体の背筋をピンと伸ばしてはっきりと答えた。


「そう……。それがヨム家の……いえ、私のためなのね。ショウエちゃんが言うのならその方針に従います……」


 コトヨは少しだけ考えたのちに、うなだれながら素直に応じていた。コトヒからすれば、ちょっと姉がこの子どもみたいな女の子の言うことを信用しすぎていてちょっと心配になってしまう。


「そうです。そうすれば三ヶ月後にはもう陛下はコトヨ姉様を溺愛しまくりですよ」


「そ、そう。わかったわ」


 明らかに夜の生活のことを想像したのだろうコトヨは顔を紅潮させて、熱くなりすぎたのか両頬に手を当てていた。


(そうかなぁ……)


 コトヒは、ショウエがとても賢いことは納得していたけれど、タモンの寵愛なんて分かるのだろうかと懐疑的だった。ただ、とりあえず姉が少し元気を取り戻してくれたので、安心しながらもう話は終わったものと思ってまたお菓子でも食べようとする。


「じゃあ、その日のために、どうすればタモン君が喜ぶか教えてくれないかしら?」


「え? ボク?」


「他に誰がいるのよ。毎週、いちゃいちゃして気持ちよさそうな声だけ聞こえてくて悶々とする私の身にもなって欲しいわ」


 普段、文句など言わない姉が少し頬を膨らませて迫る姿は可愛らしいと思いながらも、とても強い圧力を感じてコトヨはたじろいでしまう。


「わ、我も興味があります。男女の営みとはどんなものか、文献で肝心なところがぼかされていることも多く、あと私には貸していただけない文献も多かったりして……あ、あくまでも学術的な知識としてです」


「どんなことされると気持ちいいの? タモン君もだけどコトヒも」


 二人がかりでよつん這いでにじり寄ってきて、圧力を強めていた。コトヒは、完全に逃げ道を失っ

て真っ赤になりながら仕方なく話に応じた。


「ボ、ボクは裸で抱き合いながら、背中を撫でられるのが気持ちよくって好きかな」


 その報告に、コトヨは自分のことのように顔を赤らめて口で手を押さえていたが、ショウエの方は不満そうにじっとりとした目で見ているだけだった。


「そんな小綺麗な報告はいいんですよ。それなら我とだってできるではないですか」


「いや、ショウエちゃんとじゃ気持ちよくないでしょ」


「なんですと。い、いえ、そんなことはどうでもいいのです。男性器について教えてください。男性器について」


 ちょっと血走った目で、そういうショウエにどうしたものかとコトヒは姉の方をちらりと見て助けを求めた。


「わ、私も知っておきたいかな……」


 全く助けてもらえずコトヒは、諦めて紙をとりだした。


「こ、こんな感じ……だったかな」


 紙に墨で男性器を描写しはじめた。


「ほおお」


 照れながらもじっくりと舐めるように、コトヨとショウエは見ていた。


「それで、ど、どこにどのような機能が……」


 ショウエは、紙に触りながら確認しようとするが、コトヒもそんなことを聞かれても困ってしまう。


「ボ、ボクだってしらないよ。……あー、うん、この辺舐めると気持ちいいらしい……よ」


 コトヒも分からないけれど、姉が期待に満ちた瞳で見つめてくるので、何か言わなくてはと頑張ってひねり出した。


「舐める……」


「舐めるの?」


 思いがけず聞いていた二人には衝撃を受けたようで、しばらく固まっていた。


「それは、タモン君から舐めるように命令されちゃうの?」


 コトヨは自分の時にどうするかを考えているようで、その後も質問攻めにしていた。

 その後ろでショウエは一生懸命メモをとっていた。


「欠けていたピースが埋まりました。もう我に分からないことはありません」


 数分間の濃い会話のあとで、ショウエは満足したようにメモをした紙を懐にいれると立ち上がった。


「いや、ショウエちゃん、恋愛の経験も禄にないでしょ」


 コトヒは冷静に突っ込んでいた。


「経験は確かに足りませんが、十分な知識を得ました。三ヶ月後、コトヨ様が陛下に溺愛されるプランに死角はありません」


「ありがとう、ショウエちゃん。それは良いのだけれど……鼻血が垂れているわよ」


 コトヨが本気で期待しているのかどうかは分からないが、とりあえず満足したような笑顔でショウエの顔を拭いてあげていた。


「……ところで、そのプランだと三ヶ月後にボクはどうなるの?」


 コトヒは、気になっていたことを恐る恐る聞いてみた。


「……まあ、お相手されることは……なくなるのではないでしょうか」


 コトヒの問いかけに、思いっきり目をそらしながらショウエは答えた。


「ダメじゃん。ボクも何とかしてよー!」


 コトヒの叫び声が部屋中に響いていた。

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