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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 幕間 北ヒイロ国の日常

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ヨム家 夜の天才軍師ちゃん

 ヨム家は、領地もタモンの直轄地となることとして、跡継ぎ候補だった姉妹が二人とも嫁にくることになった。


 その結果、『タモン様を独占できる日をどうするか』という問題が起きる。


 水曜日をヨム家が独占できる日にするか、水曜日をコトヒ、木曜日をコトヨが独占できる日と言うような形にするかということで、些細な問題ではあるけれど、当事者たちにはかなり重要なことなので議論は紛糾するかと思われた。


 ただ、結果としては、あっさりとヨム家として一つの日を作るということで決着した。


「私だけでそんな通ってもらえるとも思えませんし……」


 エトラ家やキト家からの猛烈な抵抗があったからというわけではなく、コトヨの方から自信なさそうにそれでいいと申し出があった結果だった。


「そんなことありません! お姉さまは世界一お美しいです」


 コトヒは、本気で慕っている姉のことを励ましはしたが、その姉からは厳しい言葉が返ってきてしまう。


「じゃあ、コトヒは他の綺麗な夫人たちと競って、これからもずっと毎週通ってもらえる自信があるの?」


「えっ」


 コトヨが独立するということは、妹であるコトヒ自身も独立するということであることに今更ながらに気がついた。


「こ、来なければ、タモン君を呼び寄せます! あーいや、……別にボクは通ってもらえなくてもいいですし……」


 改めてそう言われると、コトヒも自信がなくなり、小声になっていった。もうヨム家で居候していた時のタモンとは立場が違うのだと、この城に来てからは感じないわけにはいかなかった。


「だったら、結果は同じですし、姉妹二人で頑張りましょう!」


 明るく前向きにそう言った後で、コトヨはちょっと現実的にぼそりとつぶやいた。


「タモン君も、二人いれば……ちょっと哀れに思って通ってくれると思うわ……」


「だ、大丈夫ですよ……お姉さま……タモン君、優しいですから……」


 コトヒの励ましも、どこか自信がなくなっていた。

 城に引っ越してきて、他の夫人たちともそれなりに仲良くさせてもらっているけれど、近くで暮らせば暮らすほど、自信を失うことばかりだった。


 やはりマジョリーの美しさは別格だった。あまり興味がないコトヒでも、近くでお茶をするだけでその仕草に見とれてしまう。エトラ家のエレナも、負けず劣らず綺麗で、素晴らしい体をしているし、加えてコトヒたちとの会話もいつも明るく楽しいものだった。


「そして、料理が美味しいのよね……」


 一度、エトラ家の食事に姉妹そろって呼ばれたが、あまりの料理の美味しさに姉妹は感激してしまった。コトヒなどは、エトラ家に侮られないという態度で向かったけれど、完全に陥落してお土産までもらって帰ることになった。


「あんな贅沢な料理。私なら、どんな容姿の夫人だったとしても通います」


 ずるいと思っているのか、それとも料理を思い出して興奮しているのか、コトヒは地団駄を踏んでいた。


「断ってしまったのですか。まあ、それもいいと思います」

 ふとコトヒが横を見ると、小柄な女の子が顎に手を当てながら何やら考えこむ態度でうなずいていた。

「まあ、まだまだこれからです。夜の戦略。我にお任せください」


「お姉さま。誰ですか、この子どもは……」


 子どもが部屋に入ってきても、姉が全く動じていない様子を見て、どうやら迷子というわけではなさそうとコトヒは判断した。


「子どもではありません。背は低いですが、先日十五歳になりました。はじめまして妹君。我はショウエと申します」


 少し膨れながら、自己紹介をするショウエと名乗った女の子は変な言動だけれど可愛らしいとコトヒは思った。


「え? 一つ下? へ、へえ。そうなんだよろしくね。ショウエちゃん」


 コトヒもそれほど高い身長というわけでもないし、スタイルがいいわけでもなかったけれど、ショウエに比べればかなり大人の女性という感じがしてしまう。


「お祖母様が紹介してくださったの。すごい優秀な子らしいわ。お祖母様が、ランダに監禁されていたところから脱出したときにもすごく力になってくれたとか」


「天才軍師と呼んでいただいて、いいんですよ」


「へー」


 コトヨの説明も、あまり信じていなさそうにコトヒは適当に相槌をうっていた。


「昼はエリシア宰相様の元で働いてもらいながら、色々教えてもらったらどうかとお祖母様はおっしゃっていたし、そうしようと思うの」


「まあ、ボクがとやかく言うことではないし、いいんじゃない?」


 何となく昼間にずっと部屋にいられるとうっとうしいそうな気がしたので、コトヒとしても反対はしなかった。


「ご安心ください。昼は、『男王』様のためですが、夜はヨム家のためにこの智謀をいかしてみせます」


 そんなことを言うショウエを、コトヒは冷ややかな目で見ているだけだったし、コトヨはよく分かっていなさそうだけれどとりあえず手を合わせて笑顔で応じていた。


「別にしてもらうことなんてないと思うけど……」


「言わせていただきますが、お二人は甘いです」


 コトヒが適当に話を終わらせようとしたところをショウエは遮った。


「コトヨ様も、陛下を二人で挟み込んで胸でも押し当てていれば満足してくれる……そんな風に思っていませんか?」


「え、そんな恥ずかしいこと……考えて……いなくも……」


 コトヨは、妄想をずばりと言い当てられてしまったみたいに熱くなった頬を両手で抑えていた。


「甘いです。そんなこと、すでにエレナ様とマジョリー様が行っております」


「え」


 姉妹ともどもショックを受けたように驚いていた。ライバルであるはずのエレナとマジョリーが、時々妙に手を取り合って一緒に行動することも多いとは感じていたがそこまで協力することがあるとは思っていなかった。そうなると、コトヨとコトヒが入る隙間があるのだろうかという気になってしまう。


「調査によれば、一緒のベッドに三人で寝たことも経験済みです」


「タモン君。そんないやらしいことを……他の人と……」


 珍しくコトヨは、ちょっと怒ったような表情を隠さずにぶつぶつ言っていた。姉妹で同じようなことをしようと妄想していたのは、コトヒにもショウエにも伝わってしまったので、コトヒは引きつったような笑いで姉を眺めているだけだった。


「まあ、向こうは普段は敵対している間柄です。こちらはなんと言っても、いつも一緒にいる姉妹。夜のベッドで、二人がかりで気持ちよくさせるテクニックは、研究していきましょう」


 ショウエは特に照れた様子も見せなかったが、それを聞いた姉妹の方が顔を赤くして狼狽していた。


「夜のベッドで……」


「ふ、二人がかり」


 興奮している姉妹をショウエは気にせず話を続ける。


「ヨム家で一つの日と決められたのでしたら、我にいい策があります」


「……いい策?」


 姉妹は同じタイミングで顔を上げると、ショウエの言葉を待った。


「コトヨ様を高嶺の花とする作戦です」


 その言葉に、姉妹はそれぞれあまりピンときていないようで首を傾けていた。








「というわけで、当部屋はポイント制になりました」


 扉の前で立ちふさがるショウエの言葉に、水曜日の夜にヨム家の姉妹を訪ねてきたタモンは意味が分からずにしばらく腕を組んで考え込んでいた。


「わ、へ、陛下。いや、タ、タモン君。失礼しました。とりあえず中に入って」


 大慌てで、部屋の中から、コトヒが飛び出してきた。今日も北方の民族衣装なのだけれど、いつもより少し落ち着いていてタモンにとっては懐かしい振り袖姿に似ていると思いながら見とれていた。


「この子は誰?」


「我が名はショウエ。いずれあなたの知能として覇道のお役に立ちましょう」


 平らな胸を張りながらアピールするショウエに、横からコトヒが引っ叩きそうな勢いで押さえつけていた。


「ショウエ。陛下に向かってなんて言葉遣いですか」


「コトヒ様だって、同じような話し方ではないですか」


「ボクは、タモン君とは前から友だちだし、今は、つ、つ、妻だから、公の場以外では固くしないでと言われているからいいの」


 一応、小声で喋っているつもりの二人だけれど、目の前にいるタモンにははっきりと聞こえてしまっている。


(それにしても、コトヒが礼儀を正すだなんて……)


 まるでヨム家にさらに下の妹ができたみたいで、タモンは口には出さないけれど、その光景をしばらく楽しんでいた。


「ああ、大殿の紹介でエリシアの弟子になった子だよね。いいよ、ショウエちゃんも公の場じゃなければ気軽に話しかけてくれて」


 元々、そんな仰々しくされるのが嫌なので、そう言ったけれどコトヒの方は妻として特権を他の人にも分け与えたように思えて悔しそうな目でショウエを見ていた。


「陛下、ありがとうございます。寛大なお言葉感謝いたします」


 コトヒの威圧する視線に絶えられなくなったのか、ショウエの方は一見大人しくなると平伏して挨拶をした。


「それで? ポイント制って何?」


「ヨム家の部屋に対して、通っていただき、喜ぶようなことをしていただくとポイントが貯まり、サービスが向上する仕組みです」


 ショウエは、礼儀正しく座ったまま静かに顔をあげて答えた。


「き、気にしないで、タモン君。な、何でもないの」


 コトヒはショウエの言葉を打ち消そうと、慌てて両手を大きく振って二人の間に入ろうとした。


「ポイントが貯まると、どんなサービスが?」


 妨害にも関わらずタモンの方は興味をそそられたようで、ショウエをしっかりと見ながら聞いていた。


「コトヨ様の部屋にお通しして、お話しすることができるようになります」


「先週、普通にコトヨとお話したけれど……」


「あれは、引っ越しの挨拶ですので特別です」


 ショウエが失礼なことを言っているのではないかと横で心配しているコトヒだったけれど、そんな心配は無用でタモンの方はその話に楽しそうに食いついていた。


「更にポイントを稼ぐと?」


「コトヨ様と遊べるようになります」


「そのあと、更にポイントを稼ぐと?」


「コトヨ様と一緒のベッドで寝られるようになります」


「おお。すごい」


 タモンは、ちょっと大げさに感動したように声をあげた。


(本当は、ヨム家にはそんなことを言う権限なんてないのに……)


 コトヒからすれば、ヨム家はもうタモンと一体になったのだ。エトラ家やキト家を代表しつつ、夫人となっている他の二人とはちょっと違う。ルールをタモンが決めていいのだし、それに従うしかないと思うのだけれど、タモンは、ヨム家を尊重してくれているようだった。


「なるほど、それでポイントを稼ぐのには?」


「コトヒ様を喜ばせてください」


(えっ)


 コトヒは優しいタモンに感謝しつつ、何となく楽しそうに会話が弾んでいたので、一安心していたところに、いきなり話を振られて目を丸くしていた。


「よし。じゃあ、可愛がってあげるね」


 タモンは、コトヒの手をとると引き寄せて抱きしめた。


「ちょ、ちょっとタモン君。い、嫌じゃないけれど」


 今にも唇を重ねそうなくらいに顔を近づけたタモンとコトヒは、同時に横を向いた。


「はっ、うわ、わわ」


 ショウエは、二人を見て茹で上がったかのように真っ赤になりながらもじもじしていた。


「知識はたくさんあるけれど、経験は全然みたいだねえ」


 コトヒは、自分が恥ずかしいとかいうよりも、今までの余裕の態度とは違うショウエの反応を楽しそうな目で見ていた。


「そうみたいだね」


 タモンも同意すると、気にしないようにコトヒの頭を抱えて唇を重ねた。

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