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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 建国編

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約束の後宮

 ピンチの時は、下り坂で更に追い落とそうとする人たちばかりに思えた。


 逆に今は、何かというと恩を売ろうとする人ばかりだ。


 タモンは多忙を極める生活の中で、珍しくそんな愚痴をこぼしていた。


「どうしたんですか? 少し休憩されますか? 十分後には町長がいらっしゃいますが」


 エリシアが、主人の様子がおかしいのを気に留めてくれていた。ただ、スケジュールに関しては容赦ないのはいつものことだった。


 ツーキの街で、ヨム家が使っていたお屋敷の一室。度重なる申請の処理と絶え間ない来客でタモンはずっとこの一室に閉じ込められていた。


「お茶ください。何かお菓子もお願い」


 豪華な机の上にうつ伏せになりながら、タモンはエリシアに甘えて、そんな頼み事をした。


「次の市長との面会で、戦後処理は一段落……するはずですよ……おそらく……」


 エリシアは、お茶を用意しながらそうタモンを励ました。励ましながらも、少し自信なさそうに目が泳いでいた。


「とりあえず、落ち着いたらモントに帰ろうと思う」

 手渡されたお茶に口をつけながら、タモンはそう決意を口にした。


「お戻りになりますか? このツーキの街を拠点にしてもいいと思いましたが」


 ツーキの街は内輪の戦いで傷ついてはいたけれど、元々、人口も多くて活気があり、あらゆる設備が整っている。街といいながら、モントの小城よりも遥かに防衛にも向いている。この街に引っ越してきてしまったほうが、手間が省けて色々と都合がいいだろうとはエリシアでなくても、思ってはいた。


「キト家に近いところ拠点があった方がいいかなと思っている。守ってあげる意味でも、監視する意味でも」


 タモンもそのことは理解した上で、そう語る。


 帝国が攻めてくるとしたらまずキト家の領地からなので、目を光らせておく必要がある。エリシアもそのことは懸念していた。逆にいえば、このツーキの街は一番帝国からは遠い場所にあるので、攻められた時も最後まで抵抗できる場所だと思っていた。


「キト家が落ちてしまったら、戦は終わりだと思う。それにね……あのモントの田舎な港町は気にいっているんだ」


「そうですか。陛下がそこまで考えていらっしゃるのなら、私としては何も言うことはありません」


 自分は安全な街にいようとは思わないタモンのことが、エリシアには危うくも見えてしまう。ただ、この一見頼りなさそうな少年に見える主人の勇気あるバランス感覚で成功してきたのだとも理解していた。


 それ以上に、あの港町が気に入っていたとはエリシアにはそんな話をしたことがなかったので意外に思えた。


「『陛下』とか呼ぶのは止めて」


 最近、過去の『男王』になぞらえて王とか皇帝陛下とか呼ばれるのを、本気で照れて嫌がっている姿は、まだまだあどけなさの残る少年で、エリシアからすれば眩しくて尊い存在だった。ただ、それと同時に悪戯心も刺激される存在でもあった。


「もう、これだけ人に担がれてしまっては、無理じゃないですか? へ・い・か」


 エリシアは、意地悪く笑いながら仕事に戻った。

 今や何かというと恩を売ろうとする人に加えて、タモンを頼りにする人が増えていた。毎日、少しずつ少しずつなのだけれど、それは雪だるまのようにタモンの周りに人を集めて、その人たちがさらに人を集めていった。その結果、今、タモンとエリシアは業務に追われる羽目になっていた。


「みんな適当に担いで、文句をぶつけたい人が欲しいだけなんだよ」


 タモンも仕事に戻って、書類に目を通しながら珍しくそう愚痴っていた。


「本当に誰でもいいわけではないと思いますよ。今の陛下だからこそ、これだけ人が集まってきているのだと思います」


 エリシアの慰めと励ましの言葉は、タモンに届きはしたけれど、何も状況は変わらなかった。

 諦めてタモンは、増えた新たな領主としての業務をこなすために仕事に戻った。


「もう、モントに帰る!」


 声を荒らげたりしないタモンが、そんな悲鳴をあげるのに数刻ももたなかった。








 一月後、モントの城はやっと落ち着きを取り戻していた。


 城自体は、わずかばかり小綺麗になって拡張されたくらいだった。それよりも城の後ろに立ち並ぶ建物が、奥に建っているのにも関わらず城よりも華やかで、見るものの目を奪っていた。


 木造の高い建物は、エトラ家出身のエレナ夫人が住む場所だった。タモンが留守にしている間に、いつの間にか三階部分の一部屋が増築されていて、他を見下ろすかなり高い建物と赤を貴重としたかなり派手目な外見は目立ち、周囲を威圧しているようにも見えた。


 その隣には、キト家出身のマジョリー夫人が住む建物がある。まだ建ってから半年も経っていないのに、まるで歴史がある石造りのお屋敷であるかのように洗練されていて、最近では周囲の花壇に花が綺麗に咲き誇っていた。


 そして、その隣には新たにヨム家の二人の姉妹が住む建物が建てられている途中だった。他の二家とは違い平屋で、切り開かれた山の空き地を活用して横に拡張していっていた。中心はしっかりとした建物ながら、周囲は木の板を敷き詰めると上に布だけを張って、一時的に天幕のような住居が取り囲んでいた。まだ工事中の風景だったけれど、大きな布がはためいている光景は見るものを圧倒している。


 それぞれ、バラバラな作りの建物なのだけれど、城の方から見ると妙に調和がとれていて周囲の住人たちにも親しまれていた。


「でも、あの建物は何なのでしょう?」

 四人の夫人が住む三つの建物とは別に一つ、更に奥の山に黒っぽいこぢんまりとした小屋が建っていた。

 コトヨは、キト家の建物の中から、外の綺麗な花を眺めている際に目に入った建物が気になってしまい尋ねた。


「あれね。マイさんに言われて作った建物じゃなかったかしら」


「マイさんとは……どなたでしたでしょうか?」


 エレナの答えに、コトヨはまた首をかしげていた。


「そうでしたね。コトヨさんは、マイさんとお会いになったことはなかったですよね」


 エレナとマジョリーは、お互いに目を見合わせてどう説明したらいいのかいう顔をしていた。


 夫人たちの建物は、それぞれが渡り廊下で主人であるタモンのいる城と繋がっていた。最後の最後以外は、合流することはない廊下だった。

 ただ、ここ一月で、ちょっとした変化が訪れた。

 ライバル関係だったエトラ家とキト家の建物の間に、道ができるようになっていた。

 平らな石を並べただけの簡単な道だったけれど、そこを通って両家の交流は盛んになり、主人であるエレナとマジョリーもたまにお茶を一緒にするようになっていた。そして、今日は綺麗な花を愛でる会として、新入りのヨム家の夫人も招こうということになった。


 勢いで招いてしまった結果、当初はぎこちなさもあった三家で四人の花見の会だったけれど、時間が経つにつれて打ち解けていき一応は成功と言える会になった。


(四人ともお美しい……)


 それぞれの家の侍女たちが、四人の美少女が他愛のない話をしている姿を観察しては、見とれていた。当の四人の夫人よりも、家臣たちの方が、同じ思いを共有しては仲良くなっていた。もちろん、自分たちの主人が一番、綺麗とそれぞれが思ってはいるという違いはあるのだけれど、そこはそれぞれに喧嘩になるのは分かっているので、口には出さないでいた。


「お姉さま。マイさんとは以前にお話した、タモン君が好きだったという魔法使いのお名前です」


 コトヒが、姉であるコトヨの横で教えてあげていた。


 姉妹は同じように綺麗な北方の民族衣装風の晴れ着に身を包んでいる。特に普段は、動きやすい素朴な格好を好んでいる妹のコトヒが見違えるように綺麗な美少女に見えるので、ヨム家の家臣たちは内心では喝采を送っていた。


「あー、なるほど。その方ですね」


 コトヨは分かって嬉しそうな顔をしたけれど、それはほんの少しの間だけだった。他の夫人たちも、タモンの想い人という存在をあまり語りたくなさそうに黙ってしまう。


(いえ、私は別に昔の女なんてどうでもいいですけれど……)


 エレナとマジョリーはそう思いながらも、不機嫌なのが自分でもよくわかってしまった。すっかり個人としてのタモンに、割と執着していることに自分でも驚いてしまう。


「自分で、後宮に入るから増築しておいてくれと言ったとか」


 エトラ家には、タモンからこういう建物にしたという要望があったのだとエレナは語る。


「実際には、魔法使いの工房を兼ねた建物という意味合いが強いのでしょうか」


 マジョリーは黒い建物を見ながら、そうつぶやいた。どことなく魔法使いであるおばば様のお屋敷の雰囲気に似ていると感じとっていた。


「さあ、どちらにしても……もう不要なのではないでしょうか」 


 エレナはちょっと冷たく肘をつきながらそうぼやいていた。







「……取り壊してしまおうか」


 タモンはまさに今、夫人たちが噂をしている黒い建物の中にいた。

 他の夫人たちの住居に比べれば、全然小さな建物だけれど、魔法使いならそもそも他に侍女がついてくるわけでもない。


 元の世界での暮らしを考えればこれでも十分な広さなのだと思いながら、部屋を見回していた。

 暮らすための施設に加えて、研究のためにと思って本棚や机を用意したけれど、何も中身が埋まらないままだった。


「残念」


 昔の記憶はまだ曖昧だった。ここに舞先輩を迎えて、ゆっくりと語らう時間が取れればと期待していただけに思わず空虚な気持ちが漏れてしまう。誰もいない冷たい空気の部屋で、タモンは決意したように立ち上がった。


「待って。待って」


 タモンには小さい声が聞こえた気がした。誰もいないはずの部屋の中をもう一度ゆっくりと見回した。


「もったいない」


 目の前に、舞先輩がいた。ただ、以前よりもさらに薄く、よく目を凝らして見ないと分からないほどの希薄さだった。


「この部屋は、壊さないでくれたまえ」


 その言葉に、これは本物の先輩だと確信してタモンは恐る恐る手を伸ばした。


「先輩。……生きてたんですね」


 嬉しく潤んだ瞳だったけれど、手はそのまま舞先輩の姿をすり抜けて、タモンは我に返ったように悲しい顔になった。 


「本体は、あいつが塔の地下ごと運んだだろう。だから、当然、生きているよ」


「僕をかばって消えたのだと思っていました」


 おそらく魔法使いマイは笑ってくれているのだろうけれど、タモンにはそれを確かめる余裕はなかった。


「帝国の魔法使いに管理されちゃっているから、前のように魔力を集めて自由に動ける体を作るとかは難しいけれどね。これくらいが精一杯だ」


「……」


「泣かないでくれ。何も悲しいことはない。君が生きていて、仲間がいて、家族を持つような人間になっていてくれて、私は嬉しいんだ」


 タモンは少し意味が分かってはいなかった。そんなに昔の自分はひどい人間だっただろうか。思い出せない記憶の中に何かが眠っている気はしたけれど、それは大したことではないあとでゆっくり話せばいいと、真っ直ぐ顔を上げて舞先輩の幻影を見つめた。


「たくましく生きてくれたまえ。私も徐々に力を集めていつか魔法を使えるくらいの体を……」


「先輩、必ず迎えにいきます」


 タモンは力強く言った。


「簡単に言うね。今、私の体を管理しているのはトキワナ帝国だよ」


 驚きながらも笑顔なのだと思うけれど、舞先輩の姿は更に薄くなってほとんど見えなくなってしまっていた。


「帝国だろうが奪って、先輩をこの僕のハーレムに入れてあげます」


「いいね。楽しみだ。もう……今更、何十年くらい……」


 最後の方は、もう声さえかすれて聞こえなくなってきていた。


「待ってる」


 何も見えなくなった部屋の中で、かすかにそう聞こえた気がした。


 タモンが、自ら北ヒイロに帝国を作ることを決意した瞬間だった。

第1部完です。


しばらく1部外伝の予定です。

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