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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 建国編
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『正式にお嫁さん二人がきまりました』

 一ヶ月もすると城および城壁の拡張工事と二つの後宮の基礎工事はかなり進んでいた。山を切り崩して、木々をなぎ倒していった場所には広大な更地が出来上がっていた。


 『昔の僕が住んでいた家なら百個くらい建てられそうだなあ』とタモンは城の窓から眺めながら、複雑な感情だった。


 今まで暗い森しか見えずに殺風景だった裏からの窓の眺めが、一転して緑あふれる華やかな広場と城から渡り廊下ができてつながっている二つの後宮は、まだ木や石を組み上げただけだったけれど、城壁とも調和がとれて見ていて飽きないものだった。


「素晴らしいね。さすがはエリシア……とミハトもかな」


「いえ、私などは大したことはしていません。魔法による山の切り崩しながらの木材確保と建物基礎工事の指示がよかったのです。あ、あとミハトの隊も頑張ったと思いますよ」


 エリシアは、今日は城の中でいかにも文官という服装で、露出の少ない格好でタモンの後ろに待機していた。

 無表情を装いながらも、褒められてちょっと嬉しそうな口元が可愛いなと振り返ったタモンは思っていた。


「あとは池があればいいな」


「池ですか? はい、手配いたします」


 月が映ると綺麗かもしれないと、タモンは軽い気持ちでつぶやいた言葉を拾われてしまい焦った。訂正しようかと思ったけれど、これくらいは僕の楽しみとしてあってもいいのかもとそのままお願いをすることにした。


「後宮の内装はこれからですが、そこはお妃さまたちにお任せしてもいいのではないでしょうか」


「お妃? たち?」


 エリシアがわざと引っかかるような言葉を選んでいるのは分かっていたけれど、タモンとしては聞き返さないわけにはいかなかった。


「先程、エトラ家とキト家から、正式な婚姻の承諾の連絡がございました」


 普段はあまり表情が変わらないエリシアだけれど、今は勝ち誇ったように笑顔を見せていた。


「フカヒ領エトラ家からは、エレナ様が来てくださるとのことです。お館さまはお会いになられたことがあるんですよね?」


「うん。まあ、ちょっと言葉を交わしたくらいだけど……」


 パーティでの赤いドレス姿が印象的な人だった。お嬢さま中のお嬢さまなのだろうけど、にこやかな笑顔で話を聞いてくれて愛嬌のある親しみやすいという印象がタモンにはあった。


(あんなお嬢さまが来てくれるのか……)


 あの人ならいいと笑顔にはなったけれど、タモンにとっては、この城に遊びに来てくれるくらいのイメージしかまだ持てずにいた。


「そして、ビャグン領の名門キト家からは、あのマジョリー様が来てくれることになりました!」


「え?」


「この北ヒイロ地方で、一番の美少女と評判のマジョリー様ですよ。良かったですねお館さま」


 タモンでも、その人の評判を聞いたことはあった。ただ、タモンからすれば冴えない男子高校生がファッションモデルとの恋愛を想像できないのと同じで遠い世界の話でしかないと思っていた。


(そんな美人が来る……。来るっていうか……こんな小さな城に住んでお嫁さんになってくれる……?)


 まだ、実感がわかずに戸惑うタモンだった。


「まあ、どちらの家も現領主の愛娘を差し出してくれるということです。お互いに『男王』と他の家だけが親密にはさせないぞということですね」


 エリシアはさっきまでの脳天気に喜ぶ報告と違って、声のトーンを落としてそう言った。これはエリシアの様々な工作がうまくいった結果なのだろうという気がした。タモンには、この時にわずかに見せるエリシアの笑顔が本当にエリシアが嬉しい時の表情なのだと分かる。


「二人とも三ヶ月後には、この城に来ていただきます。お館さまがお気に召さないとかいうことがなければ、あらためて嫁入りをすすめていただく予定です」


「ああ、うん。分かった」


 『名家のお嬢さまって、本当に女の人だよな。うまくつきあえるのかな』と今、タモンのまわりにいる女性たちには失礼なことを思いながら後宮を眺めていた。


「ただ、ヨム家からは未だにお返事がありません」


 エリシアは、そのことは誰かに聞かれたくはなさそうに少し窓際のタモンに近づいて、耳に入れた。

 この北ヒイロ地方で大きな力を持つ領主は、経済力のあるエトラ家、伝統のあるキト家、そして多くの領地を持つヨム家だった。


「なぜだろう。意外だな」


 タモンは、ヨム家は一番親しい間柄だと思っていただけに首を捻った。

 この屋敷から逃げ出したあとミハトたちのアジトも襲われて壊滅したその後、ヨム家には一ヶ月くらいお世話になっていたことがある。珍しさはあっただろうけれど、親身になって匿ってくれて、手助けをしてくれた。タモンからすれば、恩人といっていい存在だった。


「ちなみにヨム家のご息女ですと、姉妹どちらがお好みですか?」


「姉妹?」


「匿っていただいた際に、親しくなったと伺いましたが」


「ああ、そうか……うん。そうだった。娘さんが二人いたね……でも、どっちがお姉さんだったかな、おとなしい方が姉だったかな……」


 本当はよく覚えているのだけれど、何となくこの気持ちは秘密にしておきたくてエリシアには誤魔化していた。


「肖像画が欲しいのでしたら、すぐに取り寄せますけれど」


「うーん。でも、顔はよく似ていたような気が……。第一、それも何か失礼な気もするし……」


「分かりました。まあ、お返事が来てから適当に探りをいれておきます。」


 話はそこで終わった。最後、エリシアは怒ってしまったのだろうかとタモンは不安になって顔をちらりと覗き込んだけれど、機嫌が悪そうではなかった。むしろ、口元は笑っている。ただ、その笑みは、何か良からぬことを企んでいる時の表情だなとタモンは感じていた。

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