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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 建国編

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建国

「良いのではないですか」


 宰相エリシアが、冷たい表情のままだったけれど肯定的な返事をしてくれたのでタモンはほっとしていた。


 タモンは久しぶりにエリシアとツーキの街で合流した。その際に、先日のヨム家からの姉妹揃っての嫁入り……と同時にヨム家の領地を譲渡してほぼ家としては一緒になることを打診されたという話になったことを報告した。


 話になったというよりは、いつの間にかほぼ合意したことになっていることを、政治的なことはほとんどお任せしているエリシアに、恐る恐る告げたところだった。


「当初に私たちが計画した通りではあります。三家を競わせて、うまく操るのが一番、楽ではありました……が」


 エリシアは冷たい反応で、少し考え込んでいるようだった。


「その場合、不測の事態には、弱かったですし。ヨム家と一体になるのでしたら、経済でも軍事でも基盤がしっかりしたものになります……良いのではないでしょうか」


 エリシアに相談もなく決めてしまったので何か不満を言われることを覚悟していたけれど、エリシアも考えた結果、問題はないと再確認したようでタモンも改めて胸をなでおろした。


「最後にはお館様が決めることですし……」


 タモンがちょっと遠慮しがちに話す理由を、エリシアは察してくれたようだった。


「たとえ、姉妹のうちどちらかとか選べないから、両方とも自分のものにしておきたいという欲望にまみれた理由だったとしてもこんな好機はないと思います」


 ぎくりと胸を突き刺す言葉に、タモンは打ちのめされていた。


「ですが、エトラ家とキト家にはこれからは力を見せていく必要はあるかと思います」


 軍事でも経済でも、対抗する存在になった以上は、一度弱みを見せればタモンを利用しようとするのではなく敵として倒そうとしてくる。だから、弱みを見せずに圧倒していくようにするという若干の軌道修正がいるのだとエリシアは、語った。


(若干……の軌道修正だろうか)


 そんな簡単に言えることではないけれど、元々綱渡りではあるし、何となくエトラ家やキト家のことも分かってはきたので強いところは利用しつつ、弱いところは突ける気がしていた。


(それに何となくうまくやっていけるような気もする……)


 キト家では、危うく監禁されそうになったし、エトラ家は今も腹黒く金になりそうならあっさり寝返る気を隠そうともしないけれど、タモンは直接会ってみて、今後もそれなりにうまくやっていけそうという思いも持っていた。


「ですが……お館様には言っておかないといけないことがあります」


「うん。何?」


 エリシアはタモンも真っ直ぐに向き合って、深刻そうに伝えようとしているので思わずタモンも身構えた。


「お館様の故郷ではそんなことは無いのかもしれませんが……」


「うん」


「この地方で、姉妹を揃って嫁にするというのは、かなり変態な領域ですので少し評判に影響することもあるかもしれません」


「……うん」


 そうだよねとタモンは、目をそらしながらも受け止めていた。


 タモンからすれば、そもそも世界の常識が一変してしまっていて、自分も希少な存在となっている特殊な状況だったのであまり深くは考えていなかった。でも、改めて昔、暴虐の限りを尽くした『男王』たちの話を思い出しても、そんな例はなかった。


(なんで、そんなところでは常識人なんだ。過去の『男王』たち……)


 思わず変なところに八つ当たりをするタモンだった。


 女性ばかりの世界で、結婚自体をあまりしないし、くっついたり離れたりが激しい気がするというような違いはあるけれど、この世界の人たちも恋愛は真面目にしているのだとタモンは感じ入っていた。


「まあ、大丈夫……僕の故郷でも変態だから」


「そうですか」


 理解はした。

 でも、これは千載一遇の好機だと思うので、多少の悪評は受け入れる。タモンとしてはそんな決意で答えた。答えたつもりだったけれど、エリシアには変態だけど姉妹をどうしても手に入れたいと暴露したように聞こえてしまい、とても冷たい視線がタモンに向けられていた。



「ここは、やはり『男王』によるお仕置きなのでは……」


 期待するような声が、ヨム家の家臣たちからはひそひそと聞こえてきていた。

 この性別が偏った世界では、人々は娯楽に飢えている。加えて自分が傷つかないのであれば、性的にかなり残酷でも刺激的な話は大好きだ。タモンは常々そう感じていた。


「僕にはもう関係のない話だと思っていたのに……」


 何かと言えば、今回の反乱の首謀者であるランダの処遇だった。

 ヨム家に対する反逆であって、降参したあとの処遇はヨム家にお任せするとタモンはヨム家に伝えていた。しかし、先日の会談以降、ヨム家の現在の当主であるヒナモリからは、ヨム家をタモンにお任せしたいと頼まれていた。


 そうなると戦後の処理もタモンに委ねられることになる。そもそも、なぜヒナモリがもうヨム家の領地をタモンに任せたがっているかというと運営を任せられる人が亡くなってしまったということも大きかった。


 なので事務処理に苦労しながら、やっとランダの処遇を決めることになった。


「でも、僕にも選ぶ権利はあると思う」


 タモンは、自分の部下やヨム家の武官たちが並ぶ席でそう言った。ヨム家の武官たちは、周囲の声に対する返答なのだと分かると苦笑いしていた。


「おう、タモン殿。この度はうまくヨム家に取り入ったものですな」


 後ろ手を縛られたランダが、部屋へと入ってくると開口一番そんなことを言った。ヒナモリのままだったならともかく、この街にいる時にも散々嫌がらせをしたタモンが当主の座に座っているのでランダとしてはもう命はないだろうと思い開き直ってしまったようだった。


「そう。家の乗っ取りとはこうやるんだよ」


 全く事情を知らない人が聞いたら、完全に誤解しそうなことをタモンは穏やかな笑顔で返していた。ランダは毒気を抜かれた後で、笑顔で近づいてくるタモンが逆に不気味で仕方がなかった。

 剣を抜いた時には、処刑してくれるのかと安心したような気分にもなって目をつぶった。ただ、予想に反してランダを縛っていた縄を器用に切るとそのまま離れていった。


「いいのか? 俺を自由にしてしまって」


 ランダは自由になった両手を確認しつつ、脅すように凄んだつもりだった。ただ、タモンの後ろにはカンナとミハトの二人の化け物が並んでいるのが目に入ってしまい言動も尻窄みになっていってしまう。


「ランダにはカラムラ地方を治めてもらう」


 タモンは振り返ると、ランダにそう告げた。


「随分と甘いですな」


 当のランダが思わずそう声に出してしまった。

 田舎ではあるけれど、遊牧民との交易でも重要な土地であって降格する中では考えられる限り最も寛大な処置だった。ヨム家の武官からも驚きに似た声が上がる。


「将来、力をつけた我々がまたツーキに押し寄せるかもしれませんぞ」


(なぜ、自分からこんな忠告をしないといけないのだ)


 ランダはそう思いながらも、思わず口に出していた。


「カラムラの地方を強くするために、遊牧民との小競り合いを落ち着かせてくれるなら、こちらとしてもいいことだからね」


 ランダの力を分かっているからこその待遇だと、タモンは余裕の表情を浮かべていた。


「ランダが強くなる以上に、僕たちは強くなるよ」


 タモンからすれば、そんなに強い宣言のつもりはない言葉だった。いくつかのプランがあって、ツーキの街もそんなに簡単に落とされないようにするし、タモンの軍自体もヨム家の兵を加えて強くなる。それくらいのことを考えての牽制のつもりだった。

 しかし、周囲のヨム家の武官たちには明らかに緊張が走った。


(不甲斐なかった我々をまとめ上げて、エトラやキトをも圧倒する力を示すということか)


 そう勝手に解釈するとヨム家の武官たちは、一斉にタモンの方に向き直って、平伏して忠誠を誓った。


「陛下! この度は、無様な戦いを見せた我々を助けていただき、感謝しかございません。これからは陛下の覇道に、命を賭けて戦います。どうか我々をお導きください」


 武官たち十数人が平伏したまま剣を頭の上に捧げた。


「へ、陛下とか……覇道とか……」


 タモンがちょっと大げさな態度に戸惑っている間に、ミハトは大きな笑い声で受け入れていた。


「よく言った! これからは鍛えに鍛えて立派な戦士に育ててやる。しっかりとついてこい!」


 ミハトは、指揮官としての熱い心を揺さぶられたのか、ヨム家の武官たちに更に大げさに受け止めていた。ただ、ミハトの副官たちは、本当に大丈夫かという思いで首を振りながら何も言わずにただ控えていた。


「私は、まあヨム家のこういう雰囲気が嫌いではありません」


 カンナは控えめにタモンの耳元で囁いた。でも、カンナはこのノリが大好きなのだろうなということが普段はあまり表情を変えない彼女の目と口元を見れば、伝わってきた。


「分かった。どのみち、みんなの剣は受け取る」


 そう言ってタモンは略式ながら、みんなの剣を受け取った仕草で答えていた。


「ありがとうございます」


「北ヒイロに新しく誕生する王に!」


「え、いや、僕は、王とか陛下とかじゃなくて……」


 大げさな方向に行こうとするヨム家の武官たちを、タモンは落ち着かせようと試みるが全く効果がなかった。

「祝福を!」


「万歳!」


 大げさに忠誠を誓うヨム家の部下に、悪ノリするようにミハトたちがすっかり盛り上がっているのを、タモンはもう諦めたような顔で見ているしかなかった。


「新しい国王陛下に乾杯!」


 いつの間にか、どこからか杯を奪ってきてランダは高々と掲げた。ランダは、本気で言っているのではなく、タモンが困っているのを見ての嫌がらせとしてやっている。

 嫌がらせとしてやっているのだけれど、どこか心は高揚して心の底からの笑顔でタモンを称えていた。

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