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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 建国編

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二枚看板と大魔法使い

「矢を放ち続けろ! 守りを固めたら突撃を繰り返せ! 休む暇を与えるな!」


 山を完全に包囲し終わると、ランダはミハトが守る道の入り口に対して絶え間なく攻撃を続けさせた。


「うおりゃー」


 狙いを見透かしたように時々、ミハトの部隊は突撃を繰り返して弓兵たちを蹴散らしては戻っていく。その度にランダは苦々しい表情になったが、挑発にも応じることなく数で包囲しては冷静に戦局を見通していた。


(くそ強いが、あいつも人間だ。いずれ疲弊する)


 そうすれば、ロランが助けに入るだろうと見ていた。その頃を見計らって他の方面からも一斉に山へと総攻撃すれば、この険しい山であっても攻め入るのは可能だろうとランダは読んで、しばらくは疲弊させるための攻撃を続けさせていた。


 時間の問題だ。大した兵力もいない、他に頼りになる将もロランしかいない。これだけ粘ったのは敵ながら健闘したと称えたくなるが、時間を稼いだところで何になるというのかとも思う。


 自分も含めて手間だけがかかって面白くない戦だなとまだ終わっていないのに、ランダは余裕の表情で振り返った。


(しかし、何か……見落としてないか)


 急に、ランダは不安に襲われる。


 引き篭もって怯えているだけの『男』に、魔法使いが討てるとも思えなかった。これは明らかに自分を誘った上で時間稼ぎをしているのだという思いはむしろ強く感じていた。





「ランダ様!」


 大きな叫び声とともに、慌てて伝令の使者が走り込んできた。山を取り囲んでいるこの周囲の部隊の誰かかと思ったが、そうではなく首都ツーキを守っている部隊からの伝令だった。


 良くない知らせの予感に、ランダを含めて周囲の部下たちも一瞬静まり返る。


「ツーキの街が陥落しました!」


 ボロボロになって、ランダの前に倒れ込むように平伏した使者は、そう告げた。


「何だと!」


 ランダは叫んでいた。主力を引き連れてきたが、もちろん首都を全く空にしたわけではない。旧勢力を封じ込める必要があり、外からの攻撃には堅牢な街の作りになっていた。そう簡単に落ちるとは思えなかった。


「誰かが裏切ったのか?」


 ランダにはそうとしか考えられなかった。しかし、使者は首を振って否定した。


「それが……五百程度の兵に急襲されるとあっという間に制圧されて、大殿やコトヨ様を奪われました」


「ぐ、ぐぬ」

 ランダは、うめいた。あるとすれば、少数精鋭で紛れ込んで一気に落とすのがツーキの街にとっては一番有り得る話だろうと思った。ただ、それを成し遂げるのには、かなり危険なところに飛び込む勇気とそれに見合うだけのかなり力が必要になる。

 ただ、ランダはそれができそうな人物に思い当たった。


「カンナか!」


「はっ。鬼神のごとき強さで制圧されました……」


 タモンにつき従っている妹分。それは二人いたことを今更ながらにランダは思い出していた。半年前に出会った時も二枚看板と言われながら、ミハトと違いカンナの方は無駄に強さを誇示するために戦ったりすることはなく『ミハトと同じくらい強いらしい』という話に想像は膨らみながらも、印象としてはどうしても薄いものだった。


「これが狙いか……」


 ランダが出てくると読んで、山に籠もっておびき寄せた。ずっと前から、カンナの部隊はツーキの街を狙うために移動して備えていたのだろう。


 タモンの策に見事に嵌まってしまったことをランダは自覚していた。何かあるかもしれないとは思っていたが、少々のことで優勢は変わらないと油断してしまっていたと悔やんだ。


「ヨム家の大殿が、ツーキで復権されるとやっかいです」


 部下たちは、緊迫した様子でそう指摘する。地方で、ヨム家の忠誠が高いことを考えれば、復権されて地方の豪族を従えると一気に情勢は傾いてしまう。

 だから、一刻も早く折り返してツーキとの街を奪還すべきだ。

 部下たちはそう主張する。ランダも一度はその意見に傾きかけた。


「駄目だ。まずはタモンを倒す」


 しばらく目を閉じて、考え込んだ後にランダはそう宣言した。

 怖いのはミハトでもカンナでもない。ましてや『男王』の言い伝えでもなく、タモンという人間だ。

 逃してはいけない、自由にしてしまえば最大の脅威になる。

 ランダは、この状況になったのは偶然でも何でもなくタモンの力なのだと最終的にはそう確信する。

 幸い、タモンのやつは、今は体を張って、自らを囮にしたのだ。この機会を逃す手はないと部下たちに檄を飛ばす。


「この包囲のまま。総攻撃を加える。死にものぐるいで、何としても山を制圧しろ!」


「ははっ」


 部下たちは、一瞬だけ怪訝そうな顔をしたが、気合いをいれて承諾した。

 このまま包囲を解いて退却した際に、ミハトに後方から襲われることに怯えながら移動することを想像すると恐怖でしかない。

 つまり部下たちにとってもどう転んでもリスクがあるのであれば、今ここで、ミハトたちが少数のうちに叩いてしまう賭けにでるのはありだという思いでランダの兵たちは鬨の声をあげた。


 二日間の攻防戦は、山中での戦いに慣れているタモン側の優勢に終わった。

 ヨム家の得意の騎馬による機動力の高い戦いは活かすことができず、山の中にいるタモンたちは自在に場所を変えては、ランダの軍を翻弄した。

 二日目からの悪天候は、更に攻める側に不利な状況になり総攻撃の掛け声は疲労とともにトーンダウンしていった。


「どこだ。どこにいる」


 ランダは焦っていた。タモンたちは、入り口を固めるだけではなくて山の中に誘い込んでは神出鬼没の戦いを続けていた。山に侵入できたところでタモンを倒せなければ意味がないのだと爪を嚙んでいた。


 たかが二日ではあったが、ここで時間がかかってしまうことはランダにとっては大きな危機を招くことになりかねない。


 攻め込んできているキト家の軍勢。そして奪還されたツーキで、ヨム家が政権を取り戻す。さらにはヨム家に賛同する兵を率いてカンナが攻めてくることを想像すると悪夢でしかない。何としても早くタモンやコトヒを倒す必要があった。


「ランダ様。帝国から魔導師ヨハンナ様が到着されました」


「おおっ、来たか」


 そんな状況の中で待望の援軍が来たので、ランダは飛び跳ねそうな勢いで喜んで大魔法使いを迎え入れた。


「どうもー。はじめまして。ヨハンナです」


 ふらりと一人、その魔法使いは歩いてランダに握手を求めてきた。身につけているローブやとんがり帽子、杖は高級そうで年季が入った威厳がありそうな魔法使いの格好ではあったが、顔を見れば若々しくて、温和そうにいつも目を細めて笑顔を絶やさない可愛らしい少女の姿だった。腰が低く軽いノリも相まって、全くそのへんにいる陽気な町娘のようだった。


(いや、高名な魔法使いの外見は当てにならないからな)


 侮ってしまいそうな自分の心を引き締めて、力を貸して欲しいと腰を低くし大魔法使いにお願いをする。


「ヨハンナ様のような高名な魔法使いに来ていただいて、感謝いたします。ぜひお力添えを……」


「んー。あの山にタモン様がいらっしゃるのですね」


 ランダのかしこまった挨拶を聞き流して、ヨハンナはタモンたちがいる山を見つめていた。


「なるほどなるほど……正面の道には門番がいて突破できない。他は険しい崖で大軍は入りにくいと……」


 さすがに帝国に仕えて戦場にもついていっているだけのことはあって、現在の陣形もすぐに理解していた。


「こういう時は、山頂から毒でもばらまくのが一番手っ取り早いのですが」


 ランダの方を振り返って、楽しそうな笑顔でそう言った。細くなった目に覗き込まれると屈強なランダも得体のしれない怖さを感じてしまっていた。


「タモン様に毒のついでなどで死んでいただきたくないので……」


(タモン様?)


 ランダはどこか引っかかるものを感じたが、『男』を殺さずに捕らえたいというくらいの意味だと受け取った。

「崖を吹き飛ばして、道を増やすことにしますか」


「おお。ぜひお願いしたい」


「火の玉一発で、金貨五千いただきます。それでよろしいですか?」


「し、承知」


「あと、『男』はなるべく殺さないでくださいね」


 目を細めながらもどことなく冷たい表情でそれだけを言い残して、魔法使いヨハンナは前線へと向かっていった。それどころではないと思いながらも、ランダは渋々了承していた。ただ、『男』は今回の料金には入っていないということなのだから、帝国や他とも取り引きができるということだとほくそ笑んでいた。






「お、お館さま。すごい……魔力です!」


 ロランは、契約している魔法使いからの報告を受けてタモンの元に大慌てで転がるように駆け込んできた。


「見れば分かるよ」


 タモンは、山から麓をじっと見下ろして微動だにしなかった。魔力がどうのではなく、タモンやロランの目にもはっきりと見える火の玉が出現していた。


「ミハトに逃げ出していいと伝えて」


 タモンはロランの魔法使いに伝令を頼んだ。まずは放っておくとミハトは突っ込んでいってしまいそうなのを静止する。魔法使いたちによる連絡は、今回の山でのゲリラ戦で効果的に働いていた。自前で魔法使いたちを雇えたらどれほど便利だろうと思うけれど、今はそれどころではないと眼下に見える火球に目を凝らした。


「あれが大魔法使いさまか……」


 いかにもな魔法使いが、ランダ軍に厳重に守られて呪文を唱えている。ただ、空中に浮かび上がらせた火球は派手に大きくなり、もう護衛の必要がなくなった……というよりは恐怖のあまり魔法使いを守っていた兵士たちも転がるように逃げ出していた。


 小さな太陽のように熱く激しく燃える火球と山との間に遮る人もものも何もなくなっていた。魔法使いはニヤリと笑ったような気がして、そのまま火球をぶん投げるかのように勢いをつけて発射した。


「やべー。逃げろー」


 すでに現場を放棄して逃げ出していたミハトの部隊だったが、それでも想像を超えてくる火球の巨大さに慌てふためいてさらに奥へと逃げ出していた。

 山の入り口そのものを吹き飛ばしてしまいそうな火球は、今、まさに衝突しようとしたところだった。


「うお。お?」


 ミハトは、自分自身も無傷では済まないだろうと覚悟して衝撃に備えて頭を抱えていた。ただ、しばらくしても衝撃も熱風もやってこなかった。


 顔を上げたミハトが見たのは、巨大な火球を防いだ巨大な氷の壁だった。


「なんだこれは」


 氷の壁を通して、砕けた火球がそのまま凍りついては落ちていくところが見える。

 伝説の大魔法使い同士の戦いでもあまり聞いたことがない光景に、頭が追いつかなかった。


「大丈夫かい? 君?」


「お、温泉の時の魔法使い?」


 転がっているミハトの横で、余裕の表情を浮かべながら魔法使いが立っていた。

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