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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 建国編

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昨夜はお楽しみでしたね

「昨夜はお楽しみでしたね」


 一階に下りると宿屋の主人ではなくて、ミハトが楽しそうに笑いながら出迎えてくれた。何も教えたことはないので、たまたまタモンがよく知っている言葉と一致しただけなのだけれど、タモンはその言葉に思わず吹き出してしまった。


「なっ、何を言ってんの」


 タモンの後ろにいたコトヒは、見事に顔を真っ赤にしながらのけぞってダメージを受けていた。恥ずかしすぎて思わずミハトを叩こうとするけれど、ミハトは楽々とその拳を左手で受け止めては笑っていた。


「うん。楽しかった」


「タ、タモン君まで」


 タモンは、慌てる様子もなく爽やかな笑顔でそう返したので、コトヒはふくれながら文句を言う。


「お転婆に見えても、やっぱりお嬢様だな」


「うるさい。元山賊はやっぱりデリカシーがないよね」


 茶化すミハトに、コトヒは照れ隠しもあって食ってかかっていた。


「それで? 何かあった?」


 こんなやりとりは慣れているタモンは、特に気にせずに尋ねた。どちらというミハトよりも、宿屋の玄関で待っているロランの方に顔を向けていた。


「一度逃げた兵たちは、再集結して再度侵攻する構えをみせています」


「思ったより早いね。減ったとはいえ、まだこちらの数倍の兵がいるってことだよね」


「はい」


 ロランは、後ろの面白そうなやり取りは気になりつつも冷静にタモンに報告していた。


「あんな弱っちい軍なんて楽勝だよ。任せてくれれば、パーッと蹴散らしてくるぜ」


 ミハトは後ろから威勢のいい言葉を宿屋の外にまで響かせる。


「この街に迷惑はかけたくないし……ランダのやつを引っ張り出さないと早期決着は難しい」


「お、おう」


 ミハトは、半分くらいしか意味を理解できていなかったが、『兄者』が言うならきっと正しいのだろうと適当にうなずいていた。


「まあ、そういうわけだから……コトヒ。一緒に逃げよう」


「は、はい」


 コトヒの方も意図を正確には理解できていなかったが、タモンに手を取られて頼まれた時点でうっとりとした表情になっていてどんな頼みでも受けてしまいそうだった。


(お館様に不思議な人望があるのがいいことなのか……コトヒお嬢様が簡単に籠絡されすぎているのか……)


 ロランだけが、ちょっと複雑な心境でこの三人のやり取りを眺めていた。






 ヨム家を乗っ取り、今や実権を握っているランダは、巨大な体に装備した鎧をカチャカチャと揺らしながら、クラムタ近郊の部隊と合流した。


 コトヒとタモンたちが合流して抵抗している中で、キト家が助けるために兵を向かわせたという知

らせはランダを焦らせた。


 ヨム家武官の実力者の決断は早く、すぐに次の日には自ら万の軍勢を率いてクラムタの街へ向かっていた。


(合流されるとやっかいだ。それにしてもキト家が動くとは意外だ……)


 適当な口約束をしておけば、敵にならないと甘くみていただけに予想外だった。

 自分がツーキの街を開けてしまうことによる政治的な不安はあったが、まずは素早く反乱の芽を潰すべきだと判断した。


「ランダ様。援軍に感謝いたします。ランダ様に来ていただければ勝ったも同然です」


 怯えながら出迎える部下たちに、ランダは軽く手であしらって軍評定の席についた。


(せめてモントーヤが生きていればな……)


 あまりにも頼りない部下たちを見て、緒戦でミハトに討たれてしまった片腕といっていい部下のことを思い出す。彼女が健在なら、自分が出なくても援軍だけで任せていいはずだった。


「戦況は?」


「クラムタの街から逃げて、山に籠もっています」


「キト家と合流ができなかったのか、じゃあ、楽勝だろう」


「それがその……山脈そばのクラムタ南の山は、狭い山道しかなくてです……その……ミハトの部隊の前に手も足もでず……」


「ミハトか……」


 普段なら、不甲斐なさに怒鳴り散らすところなので部下たちも怯えていたが、ランダはその強さを実際に手合わせして知っているだけに怒る気にはなれなかった。


「合流されるとやっかいだ。このまま一気に攻め落とすぞ」






 

「おー。怖い怖い」

 タモンは、山から見た景色が明らかに変わったので恐怖の声を上げた。昨日は山への入り口付近にだけ集結していた敵軍が、視界いっぱいに見えるようになっていた。山の麓から一面に人と馬が綺麗な隊列を組みながら並んでいて、各所から武器の反射した日のきらめきが、届いてきていた。


「これが万の軍勢か……」


 ランダの誘い出しには成功したけれど、実際にこんな多くの軍勢と対峙するのはタモンとしても初めての経験だった。頭の中で想像しただけとは明らかに違う熱気と震える空気が伝わってきて少し体が震えてきてしまう。


「我こそは、『男王』タモンの妹分ミハトなり、我こそと思う勇者はかかってくるがいい」


 高い崖がそびえ立つ山の入り口にミハトは、立ちふさがった。唯一と言っていい上へと通じる川の流れで作られた道の真ん中で、大げさな芝居がかった声と動きで、ヨム家の兵たちを挑発する。


「後ろで隠れているゴリラ女。どうだ? 我にこっぴどく負けた雪辱を果たしたいとは思わないのか?」


 数千人の壁の先にいる敵の総大将のランダに呼びかける。まだ両者の間にはかなりの距離があるが、その大きな声はランダにも届いてランダは険しい表情になる。前に出ていくランダに周囲の部下たちは冷や汗を流しながら止めようとしたが、さすがに総大将の立場で一騎打ちをしようとしたわけではなさそうだったのでほっと胸をなでおろしていた。


「お前のような山賊は、俺が相手するまでもないわ」


 ミハトから視認できるギリギリの距離まで、ランダは近づき誘っていた。しかし、誘いに応じて狭い道から出てくるようなことはなく、ランダの強弓を弾いて普通に戦いは始まった。


「猪武者に見えるけれど、意外に冷静よな」


 激しい剣戟の音が響く中で、ランダはミハトを見ながら部下にそう評していた。部下たちはランダととても似ていると思ったので、微妙な表情をしながらうなずくしかなかった。


「しかし、憎たらしい」


 一時間ほど戦ったあとでも、ミハトの部隊は全くの無傷のようにすら見えた。

 目立つのはミハトだが、ミハトの部下を含めた連携も見事でまさに鉄壁といえる防御だった。


「そこそこの魔法使いとも契約しているな」


「はい。そのようで」


 数の力でぶつかるだけではなく、ヨム家と契約している魔法使いによる混乱を試みようとしていたが、さきほどからその試みも失敗に終わっていた。


「あの者たちは、エトラ家に近い魔法使いだろう!」


 ランダは、悔しそうに地面を蹴っていた。表面上はこちらと仲良くしつつも、裏ではエトラ家がタモンたちに力を貸しているのだろうと疑っていた。今、敵陣にいる魔法使いがどうなのかは分からないがうまくいかない苛立ちをエトラ家にぶつけていた。


「別働隊はどうなった!」


「も、申し訳ありません。ロラン様の……あ、いえ、敵の罠にはまって壊滅的な被害を受けたと報告がございました」


 震え声で部下が報告すると、ランダは頭を抱えて空を見上げて黙り込んだ。


「何だと!……まあ、ロランにコトヒ嬢ちゃんがいる以上……こちらの手の内はばれておるか」


 いつものように怒鳴り散らすかと思っていた周囲の部下たちは、意外と冷静に腕を組み苦笑している大将軍の姿を見て少しほっとしつつも、もっと怖いことが起きるのではないかと危惧していた。


「仕方がない。山全体を取り囲め!」


 当然、街を取り囲むのとは桁が違う手間がかかるのだが、兵力の差で攻撃を続けていって疲弊させていくのが確実ではあった。ランダは後方の部隊にも展開するように命令すると少し時間がかかってしまうのを覚悟したのか、腰をおろして一息ついた。


(しかし……こんなところに籠もってどうしたいのだ)


 ランダは不機嫌そうに顎に手を載せながら考える。


(何としてでも、キト家の軍と合流すべきだろう……当然、それを俺は妨害するのだが)


 戦略の基礎が分かっていないタモンを叱りつけたい気分になっていた。


(やはり、エトラ家が動く約束になっているのか? しかし、エトラ家はこちらがよほど不利にならないと動くとは思えん)


 当然、エトラ家の動きは警戒していて、備えている。完全に信用できないが故に、そこに兵力を割かないといけないのは痛手ではあるがそれでも現状の優位は揺るがなかった。


(何かが起きたら、エトラ家が動くというのはあるかもしれん)


 一気に勝負を決めたいという決意が、ランダを立ち上がらせた。


「そうだ。帝国に大魔法使いを貸してもらおう」


「帝国にですか? 正直、四大魔法使いをこの地方に招き寄せるような契約は後々危険かと思います」


 部下たちは将来の危険の方が大きいと口々に反対する。

「まあ、最悪なにか代価を支払えということになったら、『男』を渡しておけばいいだろう」


 ランダは心配ばかりしている部下たちを一笑に付して、命令する。


「よし、帝国に使者を送れ! もうあの山ごと吹き飛ばしてもらおう」


 ランダは豪快に笑っていた。

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