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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 建国編

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『助けていただいたお礼です』

 緒戦は、クラムタという南ヒイロ山脈に近い街だった。


 ヨム家の実権を握るランダ一派からすれば、現当主の孫であるコトヒは邪魔な存在でしかなかった。従おうとせずに地方の街を回っては、反対勢力を集めようとするコトヒをこの街で逃げられないように数千の兵を動員して包囲が完了したところだった。


「街の代表からは、コトヒ様は差し出せないとのお返事でした」


 朝から街を取り囲んでいる軍の将軍モントーヤの元に伝令が伝えられたのは、日が傾きはじめた夕暮れになってからだった。


「思ったより、地方の街は現当主たちの味方だな」


 困ったように、モントーヤ将軍はつぶやいた。街なんて、強い方に従っておいた方がいいだろうと彼女からすればそう思うのだが、意外な抵抗を見せられて戸惑ってしまう。


「仕方がない。一回、軽く攻めて脅してやるか」


「軽く攻めれば、逃げ出すかもしれませんしな」


「そうだな。全軍に攻撃の指示を」


 部下たちもすっかり楽勝気分で笑っていた。ちょっとお転婆なお嬢様とその護衛で軍隊と呼べるような相手ではなかった。将軍にしても、なるべく街の人たちからの抵抗を抑えるにはどうすればいいかということが一番頭を悩ませていることだった。手こずるかもしれない、負けるかもしれないなどということは頭の片隅にもなかった。


「……何だ?」


 伝令が皆、慌ただしく走っていったところで、後方に何かが見えて周囲がざわついていた。


「騎兵です。おそらく百騎ほど!」


 後方の部隊からの報告に、将軍モントーヤは戸惑っていた。


(街の中のコトヒを救出に? しかし、そんな兵で包囲を突破できると思っているのか?)


 突破したところで、逃がすわけがない。無謀に見える行動に戸惑っている間にも、ものすごい速度で騎兵部隊が迫ってきていた。将軍は、遠目からでも、先頭の見事な馬と戦斧を見たことがある気がして、誰だったかを思い出そうとした。しかし、悩んでいる間に長い柄の戦斧が振り回されて、見事な血しぶきがあがっていた。


 大げさでもなんでもなく武人として、将軍はその光景に見とれてしまっていた。人形でも相手にしているような容易さでヨム家の部隊を引き裂いていく、先頭の武将だけではなく特にその後ろに従っている三人が槍を使いこなし左右の兵をいなしていき見事な連携だった。


「ミ、ミハトです!」


「なに!」


 その報告にヨム家の兵隊の顔が青ざめた。


 ヨム家の兵は、タモンがヨム家にしばらく滞在していた時にタモン配下の二枚看板としてその強さを目の当たりにしている。そのうちの一人が今、目の前に現れたのだった。あれは尾ひれのついた噂で、実際の戦いでは大したことはないだろうと高をくくっていた兵たちも今、その姿を目の当たりにして大げさでもなんでもないことを知った。


「い、いかがいたしましょう」


 完全に部下たちは動揺している。ここはまずは落ち着かせる必要があると将軍は判断した。


「いったん道を空けろ。受け流してから取り囲め」


 街のコトヒたちと合流されたとしても、大した兵数ではない。包囲して攻め続ければいずれ疲弊して倒せるだろう。兵力では圧倒的に有利なため将軍はそう判断した。


 混乱がわずかにおさまる気配をみせ、その判断は間違いではないと思ったが、ミハトの騎兵隊は急に向きを変える。


「こ、こちらに向かってきます」


 将軍の側にいた兵たちが慌てどよめいた。受け流す指示を受けてしまった他の部隊は、押し止める働きはすでに期待できそうになかった。


「は、早くお逃げを!」


 将軍の側近の部下たちはさすがに戦意も高く、身を挺して盾になろうと立ちふさがった。


「最初から、私が狙いか。……そうか、ロランか」


 こちらの内部の事情に詳しい人間が相手にいることを、忘れていた。


(この軍を率いている私が倒れた時、次に指揮を執るのは誰だ?)


 あまり想定できていなかっただけに心もとないと思いながら逃げようとした。

 しかし、目の前にミハトが盾となった兵たちを軽々と飛び越えて立ちふさがった。


「すまんね。さすがに生け捕りにする余裕はなくて」


 ミハトはそう言いながらも、余裕がありそうな笑顔を浮かべていた。軽々と戦斧を振りかざした姿が、モントーヤ将軍が見た最期の景色になった。




 奇襲で指揮系統を倒すことに成功すると、包囲していたヨム家の兵は散り散りになってそれぞれ退去した。

 悠々とタモンたちがクラムタの街に入ると、街の人たちも歓喜してタモン軍を出迎える。


「ミハト。タモン君」


 街の有力者が一歩前に出て、タモンたちに丁寧に感謝を伝えようとしている横を、コトヒは走り抜けるとタモンに飛びつくように抱きついた。


「ありがとう」


 タモンは危うく勢いそのままで、倒れそうになってしまうのを何とかこらえてコトヒを受け止めた。


「もう駄目かと思った。ピンチに颯爽と駆けつけてくれて、本当に救世主って感じだよ」


 両手は背中にがっちりと回って、胸は胸に押し付けられいた。顔をあげて、至近距離で熱く感謝を伝えられたので、タモンは少しうろたえるように戸惑っていた。


 完全に包囲が終わって敵の戦線が伸び切るのをしばらく待ってから奇襲したので、ちょっとそんなに格好良く運命的な救出劇だと思われるとちょっと後ろめたい気持ちにもなってしまう。


「兄者。ご安心ください。エレナ夫人たちは、フカヒの街です」


 ミハトは口をパクパクさせながら、身振り手振りでそんなことを伝えようとしている。


(うるさい。そんなことを心配しているわけじゃない)


 タモンは目で威圧していた。 


「あはは。ごめんね。と、とにかくありがとう」


 コトヒはちょっとタモンとミハトのやり取りを見て、冷静になると恥ずかしくなったのか抱きついていた手をほどいて、少しずつ名残惜しそうにタモンから離れた。  


「コトヒから、そんな素直な感謝が聞ける日が来るなんて……」


 心底感慨深そうに、タモンはつぶやいた。ちょっと離れていく体を名残惜しそうに手を広げたままだった。


「さすがに今回くらい。ボクだって素直に感謝するよ」 


 いつになく照れてはいるけれど、普段と同じ調子になってタモンもコトヒ本人たちも安心したようにちょっと喧嘩するような会話を続けていた。


(これは……妹分としては一肌脱いであげなくては……)


 脇でみていたミハトは、いたずらっぽい笑顔を浮かべると、すっかり挨拶するタイミングを失ってしまい後ろで待機している街の有力者やコトヒの部下たちに近づいて声をかけた。


「ちょっと今夜のお宿で相談が……」








 夜になりタモンが案内されたのは、街の中心から少し離れた高級そうな宿だった。

 ミハトたちから護衛の都合でと聞かされたけれど、わざわざ一人で泊まるのは変な場所だなと察してはいた。


(ここなら、兵たちと一緒に郊外で休んでもいいよね。まあ、悪い企みをしているわけではないのだろうけれど……)


 大きな木造の宿の二階は、歴史を感じさせるけれど綺麗な作りだった。


「こちらです」


 宿屋の人が部屋に通してくれる。

 大きさは城にあるタモンの部屋と変わらない。ただ、どうしても実用的なものや物騒なものもおいてしまう自分の部屋に比べると、シンプルで雰囲気のいいものだった。


「おお、いいお部屋」


 タモンは、温泉があれば最高だったと思うけれど、バルコニーからの街の眺めもいいものだった。夜でなければ山もきっと美しく見えるに違いないと久々に一人きりになれたこともあり、テンションは高くなっていた。

 そんな風に浮かれていたので、部屋の奥のベッドで一人座っているコトヒの存在に気がついたのはバルコニーで外の景色を眺め終わって部屋に戻ってからだった。


「え? コ、コトヒ?」


「こ、こんばんわ」


 心臓が張り裂けそうな思いで待っていたら、すぐには気がついてもらえずにもしかして無視されたのかとまで考えて涙目になっているコトヒが答えた。白無垢の和装のような服装に身を包んでベッドの上で座っているコトヒの姿は、タモンから見れば、懐かしく馴染みのある姿に見えて笑顔になってしまう。普段よりも肌の露出などは全然少ないのだけれど、普段は活発な少女が格式が高そうな衣装を着て、大人しくしている姿にどきりとしてしまう。


「ど、どうしたの?」


 タモンとしても女の子が夜這いにくるのだろうとか、色々な想像はしていたけれど、こうも真っ直ぐな企みだとは予想していなかった。この地方の風習はよくわからないけれど、きっとこの衣装はそういう意味なのだろう。


「……部下たちに着させられた」


 横を向きながら、コトヒはそうぼそりと言った。ただ、その後でそうじゃないと自分で言い聞かせてタモンを見上げるように真っ直ぐ前を向いた。


「今日、助けていただいたお礼です!」


 きっぱりと言った後で、やっぱり、ちょっとむずかゆいような表情になっていた。


「そ、その。タモン君はお姉さまのこと好きなのは知っているけど……。そんな深刻に考えなくていいから……お礼したいなと思って、他にないから……」


 拒否されてしまうのが怖くて、コトヒはいつになく弱気な言葉を続けていた。


(そんなことない。お前のほうが好きだ)


 ずっと勘違いされているけれど、タモンからすればそう言いたい気持ちでいっぱいだった。


(でも、このあとヨム家とどうなるか分からないからな……)


 そう思うとうっかり口にはできなかった。

 エリシアが提案してくれたようにこの地方の有力な領主三家から嫁をもらいバランスをとりながら、勢力を広げていく。それがタモンたちの生き残る基本戦略だった。


 今、この地方そのものの危機ではあるけれど、タモンたちからすればチャンスでもあった。ヨム家を助け出して、三家の結束を図れば帝国と言えども安易に手出しはできなくなる。ただ、その場合、ヨム家と関係を結ぶのであればまず一番の候補は姉のコトヨの方だった。


 姉妹の仲はとても良いことを知ってはいるけれど、今後どうなるかは分からない。


「タモン君?」


 コトヒは、何やら考え込んで明確な反応を返してくれないタモンの顔を不安そうに覗き込んだ。


「まあ、でもお礼だと言うなら受け取らないとね」


 コトヒのその上目遣いの表情が、タモンの心に火をつけた。まだコトヨと何か約束したわけでもないので、問題ないと判断して欲情のままにベッドに倒れ込んだ。


(まあ、二人の嫁さんはいるけれど……)


 タモンの常識からすれば、いけないことをしている感覚はあるけれどこの世界ではおそらく大丈夫なのだと言い聞かせて、コトヒの体を抱き寄せる。


「うわ、わ、わ。タ、タモン君」


 もっと激しく照れ隠しもしながら抵抗されるのかと思っていたけれど、照れながらもタモンの頭に手を回して受け入れていた。タモンからみれば、衣装の効果もあって、とても大人っぽいコトヒの姿は新鮮だった。


「この服は脱がしやすくていいね」


「う」


 上着を脱がされて首のあたりに唇が触れると、もうコトヒは余裕がなさそうに小さな声をあげるだけになっていた。


「あっ、ふうん」


 唇を重ねて、激しく舌を吸ってあげるとコトヒはもう蕩けたような目でタモンを求めていた。


「タモン君。ボクはずっと……」


 タモンは、しばらくその言葉の続きを待っていたけれど、続けてはくれなかった。姉のコトヨのことを思って言うをやめてしまったのだろうと少し残念に思いながらちょっと意地悪をしたくなる。

 焦らしながら、少しずつ体を舐める場所を下へとずらしていく。興奮しきったところで止めを刺すように下腹部へ顔をうずめた。


「えっ、あの。そ、そんなところ。あ、タモン君」


 大きな声が部屋の中に響いた。

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