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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 建国編

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帰還……したけれど

 残りの帰り道、馬車の中は和やかな雰囲気だった。


「ミハト様は、あんなにお強いのにお舘様の前では素直なんですね」


 ランもマジョリーも、さきほどの光景を思い出しては笑っていた。ミハトは、今も逃げ出すように騎馬に乗って、集団の先頭にいる。


「おにいさんですから」


 タモンも楽しそうにミハトの部隊を見ながら、そう答えた。独特な主従の結びつきに、マジョリーはちょっと嫉妬を感じてしまいながらタモンの横顔をじっと眺めていた。


「そう言えば、行きに描いていらっしゃった絵は、ミハト様への連絡だったのですね」


 ランは、行きでの馬車のことを思い出して、余計なことかもしれないと思いながらも聞いてしまった。


「そうだったのですね。すごいです。旦那様」


 やり込められたのはキト家だというのに、マジョリーは満面の笑みでタモンに感心していた。


(すっかり仲良くなられて……)


 ランからすれば、キト家のお嬢様としてはちょっとくらいはキト家のことを心配して欲しいとは思う。ただ、嫁入り前の不安だらけだったマジョリーお嬢様のこともよく知っているので、今の仲良く過ごしている二人を見ていて安堵していた。


(将来は分かりませんが、伝説の『男王』たちとは違って優しそうでよかったですね)


「まあ、キト家の見張りのいる場所を確認していたくらいです……」


 タモンは特に感慨もなく淡々とした様子でそう答えた。

 キト家の……特にルナの行動などあれだけの騒動だったのにも関わらず、もうまったく気にもとめていないようだった。


(何となく昨晩から、ちょっと思い悩んでいるような気がしますね……)


 昨晩からの知らせに良くない知らせがあったのだろうとランはタモンの和やかな笑顔の奥にある何かを感じ取っていた。


(やはり、ヨム家とエトラ家のことでしょうか……)


 ランは、キト家の領主夫妻のところに連れていかれた時の会話を思い出していた。ヨム家で何かが起こっているのは間違いがなさそうで、タモンを含めて他の領地へも大きな影響があることなのだろう。


(まあ、私なんかが心配しても仕方がありませんね)


 ランは昨日から身分不相応に色々な出来事が自分の周りであったせいで、考えすぎている自分のことを首を振って笑った。


(私はマジョリーお嬢様のただの侍女です。難しいことはお舘様やエリシア様、あとはルナ様にお任せしましょう。城に戻ったら、我がままを言うマジョリーお嬢様をメイと一緒にお世話するいつもの生活が待っているだけです)


 平凡な私に突然やってきた冒険は終わりなのだとランは思う。そう考えれば、この短い旅行はいい思い出になるだろうと嫌な出来事は無理やり忘れて締めくくろうとする。


(でも、この旅のようにロラン様と親しく話す機会は、あまりないかもしれませんね)


 馬車の後方で、馬を巧みに操るロランの姿をちょっと名残惜しそうに見つめていた。







 二日後。


「どうしてこんなことに……」


 キト家の侍女ランは、気がつけばまた馬車に乗るはめになっていた。


 多少のわだかまりはあったけれど、キト家への旅から無事に戻ってくることができた。

 しばらくは港町モントに近い田舎の城で、マジョリーお嬢様の世話をする日常生活がまた始まる……そう思っていた。願っていたのだが……。


「私、こちらの地方にはあまり来たことがないんですよね。山が多いのですね」


 主人であるマジョリーお嬢様は、タモンの右隣に座って見慣れない景色をもの珍しそうに眺めていた。

 ここまでは、前回のキト家への旅とそれほど違いはない。


「フカヒの街は、食べ物がとても美味しいんですよ」


 エレナお嬢様が、タモンの左隣から腕にぴたりと寄り添いながら耳元に囁いていた。

 前回と違うのは、エトラ家のエレナお嬢様が乗っていることだった。


(いえ、違いますね。エトラ家への帰省に何故か私たちがついていくことになった……ですよね)


 タモンは、今度はエトラ家への挨拶に向かうことになった。

 それは、自然な流れだ。

 あまりキト家がとやかくいうことではないとランも思っていた。


 『エトラ家が治めるフカヒの街は遠いので、数日間マジョリーお嬢様は寂しい思いをするのかもしれない』それくらいの認識でちょっとのんびりしながらでも、主人が元気を出せるように何かしようと考えていたところだった。

 しかし、何故かマジョリーお嬢様までフカヒの街に同行することになっていた。そして、何故かランがまた馬車に乗り込むはめになっていた。


 要するに今回は、タモンを挟んでエレナとマジョリーの二人の妻が寄り添っている光景をランは見ることになっていた。


「はい。旦那様。あーん」


(こ、これが、伝説で聞くところの『男王』のハーレムの光景)


 タモンは左右から美少女の妻二人に、果物を差し出されていた。甘えるような声を出しながら、密着しているエレナ。そのエレナに張り合っているマジョリーの姿にも、ランは『こんなこともできるようになったのですね』とちょっと感動しながらも、露骨に甘い言葉ばかりの頭悪そうな会話の数々には頭が痛くなってしまう。


(昨晩、二人で何か話しあって、意気投合したからこうやって一緒に旅をしているのじゃないのかしら……)


 主人からは、そんな言葉を聞いた気がする。ただ、目の前で繰り広げられている光景は、もう二人ともいちゃついているとかそんな言葉では言い表せないくらいに過激に艶めかしく性的にアピールしていた。タモンの腕は、左右とも柔らかそうな双丘に挟まれていた。それどころか、上下にこすりつけるように動いて胸が大きくつぶれては、また離れたりを繰り返していた。

 お互いの手は、タモンの胸や下腹部を撫でるようにさすっている。ランが向かいから見ていると、左右で綺麗に触れる箇所を交代させていて、とても息が合っている二人のように見えてしまっていた。

 でも、甘い雰囲気をだしながらも、左右で同じようなことをして張り合っている二人は時々にらみつけるような視線を交わして、激しい火花を散らしている。


(なんなの……この状況は……)


 伝説でしか聞いたことのない珍しいものを見られているという思いはありながらも、反対側の席で見ているこちらが恥ずかしくなってしまう。


 ただ、真ん中にいるタモンはそれぞれ腰や肩に手を回して、照れた仕草をしているが、目は笑っていないとランには映ってしまった。


(きっと……ただのご挨拶の旅行というわけではないのですよね)


 馬車の外を眺めてみると、前回より護衛の兵は多い。それにたまに遠くに動いている人たちの影らしいものが見えていた。


(しかも、ミハト様、ロラン様も直属の部隊を連れている……)


 ランには政治的なことは聞かされていないし、難しいことは分からないし、分かりたくもないと思う。ただ、今の行列が護衛と儀礼のための兵隊を装っているけれど、顔ぶれをみれば、精鋭中の精鋭部隊なのだということが分かるようになってしまった。


(何が起きるのでしょうか……)


 ランは自分の平凡な人生の中で、前回のキト家からの帰り道以上にスリルに満ちた冒険はもう二度とないだろうと思っていた。でも、騎馬に乗って並走しているロランの張り詰めた空気や真剣な眼差しを見ると何かが始まるのだと感じてしまう。


「何? またロラン様を見ているの?」


「え。そ、そ、そんなことは……」 


 いきなり主人であるマジョリーからにやにやと笑った顔で話しかけられて、ランは慌てふためいて狼狽してしまった。『もう私の存在なんて忘れたものとして、三人の世界を作っている』そう思っていたところだったうえに、たまたま、本当にロランのことをじっと見つめていたタイミングだったのでより一層、まともな返事もできずに真っ赤になってしまう。


「あら? ロランさんと何かありましたの?」


 エレナにまで、はっきりと興味を持たれた視線を向けられてしまい。ランは、益々答えに窮してしまう。


「先日、キト家に戻った時にかなりいい感じになっていたんですよ。この娘」


 マジョリーは楽しそうに、エレナに解説をしてあげていた。


「な、何、こんな時だけ仲良くなっているんですか!」


 ランは、思わずいつもの家でのノリでマジョリーに文句を言ってしまい。エレナには、ちょっと驚いた丸くなった目で見られてしまった。


「あー。なるほど。それはいいですねー。格好良いですよね。ロランさん」


 エレナは楽しそうに、両手を軽く合わせながらにこやかな表情でランのことを応援してくれているようだった。


「あれ? でも、ロランさんは婚約者がいらっしゃるのですよね」


「え?」


 ふと、思い出したようにタモンに確認するエレナの言葉に、ランは自分でも思った以上にショックを受けていた。


「あー。ええと、婚約破棄……されたから、僕に付いてきてくれた……みたいな……」


 タモンは、ランに気をつかってあまりこの話題には触れないでいてくれたし、今もあまり触れないでいたいようだった。


(妻の侍女ごときにお優しいですよね……)


 ショックを受けながらもランは、気遣いに感謝していた。


「こ、婚約破棄しているのなら、問題ありませんね。が、頑張りましょう。ランさん」


 エレナも余計なことを言ってしまったと悔やんだのか、精一杯ランのことを励ましてくれていた。親身になってくれる態度に、『エレナ様が自分の主人だったらよかったのに』と真剣に思うランだった。


「お舘様!」


 その話題になっていたロランが、馬車の外から大きな声で呼びかけた。ランたちがびくりと驚く中で、タモンもはっきりと目を覚ましたかのように馬車の中で身をかがめながら立ち上がるとロランが指差す方向をじっと観察していた。


「西から、騎兵数百騎が近づいてきています!」

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