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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 建国編

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おしかけ魔法使い

「申し訳ありませんが、もう数日。この別荘に留まっていただけないでしょうか」


 別荘に初めて泊まったその夜遅くに、ルナはタモンたちの部屋を訪れた。

 キト家から派遣されている侍女長とでもいうべきルナは、頭を下げながらタモン夫婦にそう提案する。


 別荘からアウントの町へは、アウント川を超えなくてはいけないのだが、かかっている橋が壊れてしまったとルナは説明を続けた。


「なるほど……橋が壊れてしまったと……」


 タモンは、あまりにも聞いていた通りで、予想していた通りの説明だったので、内心では笑いをこらえながら何とか真面目な表情をしながらうなずいていた。


「困りましたね」


 タモン夫婦は顔を見合わせる。マジョリーの方はタモンになにかあったらどうしようかと心配そうな表情は浮かべながらも、やはり予想通りではあるので驚いたような演技もあまりできずに微妙に困ったような顔を作ることしかできなかった。


「申し訳ありません。現在、修復中ですので、馬車が通れるようになりましたらお知らせいたします。いかがでしょうか、お手紙を書かれたらお城までお届けいたしますが……」


 優雅に頭を下げて謝る仕草は、まるで、旅館の女将さんみたいだなと、タモンは話はほとんど聞かずにそんなことを思っていた。


「分かりました」


 まあ、ゆっくり温泉でも楽しみますと言ってタモンは笑っていた。

 タモンの態度が、腑に落ちないとは思いながらも、ルナはとりあえず伝えることは伝えたので、計画の開始としては問題ないだろうと立ち上がった。


「それで、お城にご連絡などはしなくて大丈夫ですか?」


「心配はいりません」


 念押しして確認するルナに、タモンは悩むことなく即答していた。ルナからすれば、滞在が長くなる連絡をしてもらい時間を稼いで、この別荘の周りを固めたいところだった。


(まあ、そのうち……なんでしたら、偽の連絡をしてもいいでしょう)


 今日のところはとりあえず引き下がることにしたルナだった。


「分かりました。橋が修復されましたら、ご連絡いたします。それまでは、料理はたくさんございますので、ここでゆっくりお過ごしください」


「はい、私たちは、いざとなれば空を飛んで帰れますので」


 意外な言葉にルナは、『え?』と驚いた表情になった。冗談なのか、本気なのか分かりかねるので目を丸くしたままだった。





「ずいぶんとマイルドだなあ」


 翌朝、タモンは別荘の長い廊下を歩きながら、ロランたちにそう言って苦笑した。さすがに少し早歩きになりながら、懐に忍ばせているいざという時に逃げ出すようの道具を確認する。


「そうですね。もう、部屋から出さないくらいに監禁されてしまうことも覚悟していましたが」


 ロランは、並んで早歩きをしながら、こちらも服の中に隠していた物騒な武器を手に持ち直した。


「まあ、思い切りがないのです。キト家は」


 タモンたちに付き従いながらも、キト家の侍女でもあるランは、ため息をついていいのか喜んでいいのか分からない微妙な表情のままついてきていた。

 廊下を抜けると、玄関の先にはすでにマジョリーが乗り込んだ馬車が待っていた。


「あ、あのタモン様。お聞きになっていると思いますが、橋が壊れておりまして……」


「大丈夫。その辺ぐるりと様子を見てくるだけだから」


 慌てて駆け寄ってきた初老のこの別荘の責任者が、馬車を止めようとするのをタモンは明るい笑顔で遮った。


「お、お待ち下さい。ちょ、ちょっとルナ様に聞いてまいりますので……」


「行ってきます。よろしく伝えておいてね」


 慌てる責任者の話も聞かずに、タモンは自ら馬車を走らせた。馬車にはマジョリーとランが乗り込み、ロランは馬に乗り後ろからついてくる。


「……あの、お館様。西の方に向かっているのでしょうか? 西の方の橋は老朽化もあって現在壊されてしまっていると思いますが……」


 ランは不安になって馬車の中から、御者台のタモンに近づいて呼びかける。


「わかっています。ここから更に北に向かいます」


「北? 山の方にですか?」


 ランも予想外の答えに驚いていた。後ろを振り返っても、誰かが追いかけて来る様子もなかった。おそらく来た時の橋に兵隊は集まっていて、山の方に向かっているとは想像をしていなかったのだろう。 


(馬車を捨てて、歩いてなら……いけなくもないのかな。でも、お嬢様は無理なのでは……)


 ランは、自分も山の中を歩いていける気がしなくて不安のまま馬車の行く先を見つめていた。


「え? あれ? こんなところに道が?」


 西を流れる川の上流に沿って回り込むと山の麓に道があるように見えた。


「いや、間違いなく道ですね……。こんなところに道が……」


 周囲は道に覆いかぶさるように草木が生い茂っているし、高低差はかなりある坂道だったけれど、明らかに馬車は通れるように整備されている道があった。


『これは一体……。なぜ、こんなところに道が……』とランは思いながら、マジョリーの方を向いたけれど、この主人は全く何も知らないようで首を振っていた。ただ、全幅の信頼をおいているのかただ笑顔だった。


(キト家の……わけがない。こんな抜け道があるのなら、ここにお館様たちを足留めしようとはしない……)


 そう思いながら、前を向くとタモンは軽くウィンクをして答えてくれた。


「こんな準備をしていたんですね……」


 称賛しているようでもあり、呆れたようでもある言葉は、風と蹄の音でタモンの耳には届かなかったようだけれど、空気は察してくれたのかご機嫌な様子だった。


(このまま海沿いの道にでて、そのまま城までかな……)


 道の先がどうなっているかは、ランには見えなかったけれど、方向からするとそういうことなのだろうと推測していた。

 昨晩からもずいぶんと余裕の態度でどうするのだろうかと思っていたけれど、予想以上に簡単で豪快な手にランは感心するしかなかった。


(これは、ちょっとキト家ではかなわないのでは……)


 こんなことがすぐにできるわけはない。普段から準備を進めておいて、今回別荘に行くことが決まったところで一気に、ここまでの道を作ったのだ。

 キト家にはない思い切りの良さを、ランは改めて感じていた。今、強大なキト家から逃れるべく脱出をしている身ではあるのだけれど、将来のキト家の方が心配になってしまうくらいだった。


「!」


 このまま鼻歌交じりで、楽々帰宅の途になるかもしれないと思っていたところで、突然馬車が止まった。


 当然、タモンが止めたのだ。

 ランとマジョリーが何事か前方をじっと見ると、この新しい道の先で、真ん中に立ちふさがるように魔法使いが立っている。


「え? 誰?」


 おばば様ではないし、おばば様のような家に仕えている魔法使いでもなさそうだった。深くフードをかぶり顔は分からないが、立ち方や、見える肌からはかなり若そうなのではないかと推測できた。ただ、木の杖を地面に突き刺し、飾ることのない黒緑のローブは裾が風にたなびいている様は只者ではなさそうな雰囲気を醸し出している。


「ロラン! 右から回り込んで!」


 気がつくとタモンは、御者台を降りて短剣を持って走り出していた。ロランは指示通りに愛馬を操って魔法使いの右側に距離をとって回り込む。その間に左側に回り込んで魔法使いを挟み込むような位置をとっていた。


 どちらから仕掛けるのかとランたちが固唾を飲んで見守っていると、突然、魔法使いの足元で何かが破裂すると煙が立ちあがった。

 それを合図に、タモンとロランは一斉に魔法使いを目掛けて突進する。

 馬と徒歩の主従は、煙の中で何の手応えもなく鉢合わせた。


(幻影……!)


 タモンは珍しく悔しそうな表情を隠しもせず再びロランとの距離をとって、周囲を見渡した。

「すごいすごい。左右に分かれて、その間に『静寂の玉』を転がしておく……それを迷うことなくできるなんてさすがは『魔法使い殺し』」


 道から少し外れた巨大な岩の上に、さっきの魔法使いが立ち、手を叩きながら称賛していた。


「まだ、奥の手がありそうだからね。近づいてはあげないよ」


 見透かされたような言葉に、タモンの動きが止まる。


「この先の狭くなっている道に、岩でも落として通れなくするのが一番困りそうだね」


 フードは顔を隠して、はっきりとは見えないがさっきよりは、見上げる形になっているの口元がニヤリと笑っているのは分かった。


 タモンは、痛いところを突かれてしまったのを悟られないようにとしようとすればするほど、苦しい表情になっていった。


「ふふふ」


 緊迫した空気を取り払うように、楽しそうに可愛らしく魔法使いは笑っていた。


「冗談だよ。安心してくれたまえ、私は敵じゃない」


「信じられるとでも……」


 はじめてタモンの方からも話かけると、魔法使いは嬉しそうに口元を緩ませた。


「魔法使い不信なのは、分かるけれど……。そうだね。証拠として、キト家の追っ手の中に魔導師が二人ほどいるから眠らせておいてあげるよ」


 振り返れば、馬車の後ろから砂煙が見える。後ろから音を立てて迫っているのは、キト家の兵隊だろうけれど、それ以外にも周囲から慌ただしく人が動いて近づいてきているのは感じられた。


「何が目的だ」


 助かる提案ではあった。狭い道を通るなかで普通の追っ手は脅威ではないと思っていた。問題は魔導師に先回りされた時で、その対策をどうしようかと色々考えを巡らせていた。

 先回りされないのが一番、確実ではあった。

 それだけにこの魔法使いが、なぜ自分たちの前に現れたあとで、手を貸してくれるというのかその狙いが見えなかった。


「実は疑り深いタモン君だからね。私が味方だという証明と、これは貸しにしておこうという魂胆だよ」


 何から何まで、こちらの考えがお見通しのようで、そこは怖さを感じながらも納得はしてうなずいていた。


「何が望みだ……」


 魔法使いに、この質問は危険だとは思いながらもここで足留めをされ続けているわけにはいかない。タモンは、手に汗を握りながら緊張した空気の中で魔法使いに問いかけた。


「そのうち、君のお城に行くから。私の部屋を作っておいてくれないかな」


「え?」


 軽いノリの返事に戸惑うタモンたちを見ながら、魔法使いは岩の上から高らかに宣言した。


「君の後宮入りを希望する!」

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