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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
エピローグ 新たな日常

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木曜日のイリーナと金曜日のクリスティアネ

「いらっしゃいませ。お兄ちゃん」


「え?」


 二人の可愛い声が出迎えてくれたので、タモンは驚いた。


 イリーナの後宮には、他のお妃たちとは違いまだ夜ではなく日の沈み切らないうちに訪ねるようにしていた。


 楽しく食事をして、その後は時には外を散歩したり、部屋でイリーナの他愛も無い話を聞いたりする。


 まだ小さく、可愛らしいイリーナとの一時は、気を遣うようなことも肉体的に疲れるようなこともない癒やしの時間になっていた。


 だから今日も気楽な気持ちで、イリーナの後宮を訪れた。


 南ヒイロ帝国の援助を受けて造られたイリーナの後宮は巨大だったが、いつもは、威圧的に感じることもなかった。


 タモンの感覚でいうとむしろ駅ビルに入るような気楽さがあった。エレナたちの後宮のようにいかにも立派な家を訪問しますという緊張感もなく、大きな扉を一人でふらりと訪れて開けてもらう。


 しかし今日はイリーナとクリスティアネ――二人の元皇女――が扉を開けるとすぐに出迎えてくれて、そのまま飛びつくように抱きついてきた。


「ぐっ、ふ、二人はきついです」


 ここ一、二年でかなりたくましくはなってきたタモンだったが、まだまだ線は細い。小さいとはいえ二人の少女を抱きかかえるほどの力はなく後退ると両手に二人を抱きかかえて膝をついていた。


「クリスティアネは……どうして?」


 ライバルである南ヒイロ帝国のイリーナの後宮にいるのが意外だった。


「私たち最近仲良くなりまして……同盟を結ぶことにしました」


 タモンの胸に密着しながら、明るく元気な声でクリスティアネはそう言った。


「同盟……ってなに?」


 どうしてもその言葉には、不穏な空気を感じてタモンも引きつった顔になる。


「私の日にはイリーナさまがご一緒に、イリーナさまの日には私がご一緒するというだけのことです。エレナさまとマジョリーさまのところと同じです」


 いたずらっぽい笑顔でそう答えられた。タモンは理解はしたけれど、思わずどこか遠くを見てしまう。


「イリーナもそれでいいの?」


「は、はい。一週間に一回しかゆっくり話せないのは寂しいですから……」


 イリーナははにかみながら、『二回になれば嬉しい』と答えた。


(くっ、か、可愛らしい)


 以前に南のマリエッタ陛下が、自分の妹を指して『私の天使』と言っていたことを思い出していた。その時は自分の妹相手に、なんて大げさなと思ったものだったが、今、タモンは同じことを思っていた、『僕の幼妻は天使にしかみえない』と。


「でも、二人きりの時間はなくなってしまうけれどいいの?」


 マリエッタと一緒に過ごした時間はまだ多くはないので分からなかったけれど、イリーナとの時間はタモンにとっては癒やしの時間だったのでちょっと残念そうにイリーナに確認する。


「楽しいですから、大丈夫です」


 クリスティアネの方が満面の笑みでそう答えていた。


(大丈夫かな。この面白いお姉ちゃんに騙されてないかな)


 つい、イリーナのことを保護者のような視点で心配してしまう。


「はい。クリスティアネお姉ちゃんと一緒は楽しいのです」


 イリーナもしっかりと自分の意思ですとアピールするかのような目を向けながらそう答えていた。


(まあ、年齢も近いし、お友達ができて嬉しいのかな……) 


 やはり小学生くらいのイリーナには、高校生や大学生くらいのマジョリーやエレナはすごく大人に見えて近寄りがたい雰囲気があるのだろうとタモンは察していた。


「分かったけど……でも、エレナとマジョリーの家は、ライバルに対抗して早く跡取りが欲しいと思って結束しているだけだと思うんだよね」


 タモンは、そう言いながら幼い妻二人の背後にいる人たちに目を向ける。 


 ほとんどがクリスティアネの侍女たちで、一人だけ護衛なのかイリーナの部下がいるだけだった。


 何代もの間、隣の宿敵として争いが絶えず、この前も含めて大きな戦争も何度かしている。そんな両国から来ている部下たちの反応が気になったが、特に険悪な雰囲気はなさそうだった。


 むしろクリスティアネの侍女たちも、イリーナのことを微笑ましく思いながら見守っているようなので、『これはイリーナの人柄なのだな』と納得していた。


「もちろん、私も子どもを作るためのそういう機会を増やしたいと思っています」


 クリスティアネは明るく元気に、周りの侍女たちがちょっと赤面するようなことを宣言していた。こういうところを気にしないのは、さすがに生まれた時から皇女な人ならではだなと思う。


「早く子どもを作って、トキワナ帝国に何かあった時は送り込めるようにしておきませんと」


 力強く、すごいことを続けて言う。かなり危険な発言だとタモンは思うのだけれど、周囲の侍女たちもその言葉を漏れ聞いて特に動揺している様子はない。少なくともクリスティアネにここまで着いてきている部下たちは自らの主人を信頼しきっているようで大きくうなずいているものも多かった。


「十年以内に間違いなくトキワナ帝国の妹たちの間で、醜い権力争いがおきます。つまり……『好機』ですよ」


 さすがのクリスティアネも、その予言はタモンの耳元で小さく囁いた。


「う、うーん。でも、まだクリスティアネはそういうことは早いかな」


 周囲の人たちに対してごまかすようにタモンは立ち上がり、クリスティアネも真っ直ぐ立たせて肩に手を置いた。この世界では、結婚はよくある年頃だし、出産も少し早いけれどおかしいわけではないが、やはりタモンにとっての常識が中学生くらいの年齢の娘を抱いてしまうのは駄目だとストップをかけていた。


「でも、ショウエさまは陛下に抱いていただけるとか」


「いえ、あの……ショウエも、まだ……別に……」


 ショウエとクリスティアネは、あまり年齢は変わらない。しかし、タモンにとってはその一歳差が大きく感じられてしまうのだった。


「……分かりました。あと一年くらいは我慢いたします」


(我慢なのか……)


 説明しづらいタモンの中の線引きを察してくれたようだったが、まるでタモンの側が捕食される側のようだった。


「わ、私も一年くらいはお待ちいたします」


 イリーナも横からそう言った。


「……いや、イリーナは一年でもまだ早いかな」


 やはりまだまだ幼い体型のイリーナを見て、タモンは冷静にそう告げていた。


「え、そんな。クリスティアネお姉ちゃんばかり、ず、ずるいです」


 涙声になりながら、そう言うイリーナを軽く抱きしめて頭を撫でて慰めていた。


 周囲の侍女たちも、そんなイリーナのことを微笑ましく見守っているようで両帝国がこの遠い田舎では仲良くなっているのだと感じていた。


(しかし、機嫌を損ねるわけはいかないんだよね)


 なんとか二人を満足させなくてはいけないとタモンは考える。


 二人の皇女の機嫌を損ねることは、下手をすればこの大陸の半分を敵に回すことになるのだった。

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