表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

124/129

その国には後宮七つ

「やっと落ち着きましたね」


 まだ夜も明けきっていない朝、帝都マツリナの城壁に登り外の景色を眺めているのは、タモンとアラン。今、この世界に二人しかいない男の姿があった。


 帝都を囲む壁は巨大で十人が並んで歩いてもまだ余裕がある幅があり、海からの風が強くても二人は落ちる心配など全く気にすることもなく立っていられた。


 大筋はすでに合意していたのにもかかわらず、和睦の交渉は二週間ほどもかかってしまった。実現に向けては更に細部を詰めなくてはいけない。


 二つの帝国が絡んだ交渉ともなれば、和睦の条件だけというわけにもいかず、二週間も大軍がいれば色々な箇所で問題が起きていた。


 問題が起きるたびに仲裁をするために帝都の内外と飛び回っていた二人だったが、明日には軍勢も引き上げるのでやっとこの面倒な仕事からも解放されるのだとほっとしていた。


「俺も明日には東に帰るよ」


 アランは、帝都の外で野営している自軍を見ながらそう言った。ピアを失った彼の背中は少し寂しそうに見えたが、やはり自信のある男の姿だとタモンの目には映った。


「はい。僕も明日にはヒイロに向けて出発します」


 南ヒイロの軍と多少の調整やマリエッタ陛下に報告しなければいけないということなど連合軍ならでは面倒なことがあり、アランのように身軽には動けないがそれでも戦争には大勝利と言っていい戦果だったので気分は軽かった。


「俺は……あなたとは戦いたくない」


 アランは珍しくも遠慮がちにそう言った。


 タモンから見れば、頼もしく理想の男性像だと思っているアランから、そう言われると少し意外な感じがした。


「もちろん、僕もです」


 タモンも大きくうなずいていた。アランが、今回連れてきた軍は多くはないけれど統率がとれていて、一人ひとりも優秀だった。アランの人柄も含めて戦いたくはないという点ではタモンも同じ気持ちだった。


「よし。じゃあ、大陸のあそこから東は俺の領地な」


 アランはいつものにこやかな笑顔になり、帝都の東側を流れる川のあたりを指して右から左へと線を引くようにずらした。


「……そこから東には、干渉しないという約束ですね。分かりました」


 子どものような提案に一度は面食らったタモンだったが、すぐに軽い口調で応じた。


「よし、秘密の協定は結ばれた! これで俺は大陸の東側制圧に全力を注げるってものだ。ははは」


 アランは、冗談めかしたやり取りではあったが拒否されなかったことにほっとした様子で大きく胸を張り笑っていた。


「ですが……。大陸の東と西に二大帝国ができてしまうと、僕たちの子孫が酷い戦争を繰り広げそうですね」


「確かに……そうなりそうな気はするが、仕方がないさ。まずは新しい人類が生き残れるようにするのが俺たちの任務だ。そうだろう?」


 『戦争だけで人類が滅ぶことはない』『俺たちの子や孫のころには、男性も普通に産まれるようになっている』少し楽観的かもしれないが、その認識は二人の希望としてあったので二人は穏やかにうなずきあっていた。


「しかし、あれだな。タモン殿もさすがだな」


 アランは自軍に帰ろうと城壁を降り始めたところでタモンの首に腕を回して引き寄せて、秘密の話のように囁いた。


「な、なにがです?」


「やはり南ヒイロ帝国もなんとか攻略しようと思っているということだな」


 先ほど、東西に二大帝国がとか言ってしまったのがアランの興味を引いてしまったようで、迂闊なことを言ってしまったと後悔した。


「北と南ヒイロは兄弟のようなものです。今回の連合軍を見ても分かるように親密で良好な関係ですから、こちらから何かすることはありませんよ」


「……なるほど。それは失礼いたしました」


 アランはそう言いながら、タモンから離れて階段を使って降りていく。どこか、『そういうことにしておきましょう』という含みのある笑みだった。


「嘘ではないですよ。マリエッタ陛下が健在なうちはだけど……」


 タモンの言葉の最後は、声も小さくアランの耳には届かなかったが、アランも聞き返すことはなかった。




 世界で二人だけの男が直接話をしたのはこれが最後になった。

 ただ、この日の秘密の協定は二人の死後もしばらくは守られることになった。





 


 和睦は成立し、南北ヒイロ連合軍は撤収を始めている。


 元々、争っていた西側の領地や権利は失うことになったが、皇帝陛下も大臣や貴族も処刑されるようなことはなくそのままトキワナ帝国は存続することになった。


 帝都マツリナまで侵入を許した惨敗と言っていい結果ながら、自分たちが被害を受けるようなことのない寛大な条件にマツリナの住民もほっとしていた。


 ただ、一番の悲しみは皇女クリスティアネが北ヒイロの男王のところに嫁ぐことになったことだった。


「私たちの敬愛するクリスティアネ様が……」


「毎晩、『男』とかいう嫌らしい生き物の慰み者になってしまう。なんて哀れな」


「すでに北ヒイロの男王には六人も妻がいるとか……」


 帝都の中央、皇家の館から自ら歩いて姿を現したクリスティアネを見てトキワナの住民たちは涙していた。


 魔法使いとしてのローブ姿でもなく、いかにも婚礼儀式用のドレスでもなかった。

 ただ、逆に布一枚で手枷をはめられて連行されているというような可哀想な姿でもない。


 まだ少女の体にあわせた白いスーツ姿で、警備の兵に守られつつタモンに出迎えられていた。


「意外と……大事にされているのだろうか……」


 道沿いに集まった住民たちも、その光景を意外そうに見ていた。


 もっと、いかにも戦利品として可愛い花嫁を人質として強奪するという雰囲気を想像していただけに住民たちの方が戸惑っていた。


「いやでも、『男』だから性欲の権化であることは間違いがない。ああ、おいたわしやクリスティアネ様……」


 そう思い南北ヒイロへの恨みを忘れまいとする人々も多かったが、どうにも優男なタモンの姿を見ているとそんな気持ちも削がれてしまう。


「まるで、ご兄妹のようにも見える」


「むしろ、クリスティアネ様が引っ張っていっているような……」


 警備の兵ごしに二人が歩く姿を見て、住民たちは大声で祝福はできないものの『どうやらクリスティアネ様はお幸せそうだ』と安堵したような気持ちになっていた。


「クリスティアネ様、お元気で」


 帝都の外が近づくにつれて、そんな声が飛び交うようになっていった。


「皆も元気でね。喧嘩しないで仲良くね」


 最初は厳重にクリスティアネとタモンを囲い護衛していた兵たちも、そんな雰囲気を察して警備を緩やかにしていくとクリスティアネは住民たちに近寄り、特に子どもたちに声をかけていた。クリスティアネも、住民たちの側も満面の笑みというわけにはいかないが優しい笑みで見送られていた。


「それでは、参りましょう。北ヒイロへ」


 帝都の巨大な門を出てすぐのところで待っていた馬車に乗り込むと、クリスティアネはタモンに向かって前向きに明るい声でそう言った。


「地下道を試してみてもよかったかもしれませんね」


 帝都郊外でも戦いがあったため、道がかなりでこぼこしていてかなり馬車が揺れる。そういえばエレナやマジョリーたちが通ってきたという地下道を使ってもよかったのかもしれないとタモンはぼそりとつぶやいた。


「しっ」


 クリスティアネは顔を近づけると人差し指を立ててタモンの唇を抑えた。美少女が少し下から密着して胸と唇にそっと手を当てて顔がアップになる。美人な妻たちを見慣れているはずのタモンであっても思わずドキッとしてしまう。


「あれは切り札なので、誰にも秘密です」 


「切り札?」


 御者にも聞こえないように小さな声で二人は内緒の話しをしていた。


「もちろん、再びトキワナ帝国を攻めるようなことになった時のためのです」


 ウィンクをしながら、クリスティアネは言った。


(そういえば、あの地下でのことをトキワナ帝国の誰にも話さずに、秘密にしていたな)


 すごい先のことまで考えて、すぐに手を打っていたのだと気がついた。


「どうやら、すごく面白い娘を嫁にもらってしまったようだ」


 タモンは頼もしくもちょっと怖いなと思いながらも諦めたかのように上を見ながらつぶやいた。クリスティアネはその言葉に何も応えなかったが満足そうに笑っていた。


 


 


 モントの城はかつての港付近の丘に立つ小城ではなくなっていた。


 戦争中に、港町モントとも一つになり巨大な城壁で取り囲み安全を確保する形になった。

 南ヒイロ帝国のカーレットや、トキワナ帝国のマツリナといった街と比べればまだまだ小さく住民も少ないが人々は徐々にこの街と城のことをあわせて『帝都』と呼ぶようになっていた。


 ただ、中央にあるタモンの居城は小綺麗にはなったが、ずっとこぢんまりとしたかつての小城とあまり変わりがなく、城の奥にある後宮の方が立派で華やかだった。


 モントの街とも一つになったことで、前よりも気軽に住民たちも近くで眺めてその景観を見ては楽しめるようになっていた。


 この地方のシンボルとも言っていいこの場所に、更にお妃たちが住む後宮が増えようとしていた。


 最奥にはまるで山からの攻撃に備えるかのように、見張り台を兼ねた後宮ができあがりつつあった。ニビーロ領の支援を受けて作られたエミリエンヌの後宮だった。


 エミリエンヌやニビーロ国に恨みや怖さを持つ住民も少なくはなかったが、他国の英雄が今はうちらのタモン陛下に完全に屈服しているというストーリーにどこか爽快さも感じて徐々に許される雰囲気ができていた。


 もう一つ、南ヒイロ帝国を象徴する巨大なイリーナの後宮の隣に、同じように巨大なクリスティアネの後宮が建設中だった。


「いよいよ、どっちが城だかわからんよな」


 ミハトたち武官は、警備をしながら並び立つ二つの巨大な後宮を見るとそう苦笑していた。


 戦争に負けたとはいえ、それでもトキワナ帝国からの物資や技術は十分に注ぎ込まれていた。


 せめてここでは、南ヒイロ帝国には負けたくないという古くからのライバル意識がクリスティアネを慕う部下たちの熱意により見た目はイリーナの住み処よりも大きな建物になっていた。巨大な建造物を作るのは得意なトキワナ帝国らしい建物だったが、それ故に少し無骨な石造りの建物になり知らない人が見ればこちらが本城のように見えてしまう。


「可愛らしくはないですけどいいと思います。いずれはこちらが本城になってもかまいませんし。ねっ、お兄様」


 純白のドレス姿に見を包んだクリスティアナは、こだわりすぎて思ったよりも工事が長引いている自分の後宮を見上げて軽くため息をついたあと、隣のタモンにそっと近寄り囁いた。


 他の夫人たちも、できるなら自分の後宮にずっと住んでもらいたいと思っているだけに無邪気なこの少女に対して嫉妬の目を向けていた。


「おまたせいたしました」


 黒い燕尾服に身を包んだエミリエンヌが愛馬にまたがりタモンたちの元へと駆けてきた。


「そのまま馬上でいいんじゃない?」


 遅れてきたので慌てて降りようとするエミリエンヌを、タモンが制止した。


「え? いえ、陛下が歩いているのに私が馬というわけにも……」


「うん、そのままでいいんじゃない? かっこいいし」


 エレナが眩しそうな視線でそう言うと、マジョリー、コトヒをはじめ、クリスティアナネまでも大きくうなずいていた。


「そ、そうでしょうか」


「いいと思うわ。今日はあなたたちのお披露目の場でもあるのだし」


 マジョリーは優しくエミリエンヌに微笑んだあと、クリスティアネにも少しぎこちない笑顔を向けていた。


「分かりました。タモン陛下もそうおっしゃるのでしたら」


 エミリエンヌは軽く一礼するとそのままタモンたちを先導するかのように駒を進めた。


 数ヶ月に一回、お妃たちが揃って着飾ってモントの町へ遊びに行く。


 すっかりこの恒例行事は定着し、国民的なお祭りになっていた。周辺諸国からも観光客が集まり、最新のファッションに身を包んだ美しいお妃たちを観察しに来る。


 特に今日は、タモンも一緒に並び、新しい二人のお妃、エミリエンヌとクリスティアネが始めて参加していた。


 戦勝のパレードを兼ねたかのような今日の町へのお出かけは、観衆たちの盛り上がりも特別だった。


「北ヒイロ万歳!」


「カンナさま! ミハトさま!」


 タモンやお妃たちだけでなく、今日は警備に駆り出されている武官たちへの声援がいつになく大きかった。

 カンナはどう答えていいか分からず軽くうなずくだけでそのまま真っ直ぐお妃たちを守っていたが、ミハトは大きな手振りで煽るように観衆を盛り上げて警備を自分で大変なものにしていた。


「新しいお妃さまも綺麗」


「エミリエンヌさま。凛々しいわ」


「クリスティアネ皇女さまも、すごい美少女。可愛い」


 新しい二人に対しても好意的な歓声が多く、特にエミリエンヌは石を投げつけられても仕方がないと覚悟していただけに、ほっと胸を撫で下ろすとぎこちない動きで馬上から手を振って観衆の声に応えていた。


 クリスティアネは堂々とした様子で、観衆に自ら手を振りながら近寄っては、警備のカンナやロランたちの仕事をより一層難しいものにするほどの盛り上がりを見せていた。




 港からの帰り道もまた大観衆へのサービスを忘れなかったので、タモンたちが城に戻ったのはもう日も暮れてからのことだった。


 タモンは一人、全ての後宮へと続く渡り廊下に立って自分で作らせた池のそばで後宮を見つめる。


 七人のお妃に七つの後宮。


 ただ、コトヨとコトヒの姉妹は同じ後宮に住んでいるので一つは誰も住んでいない建物だった。


 マイ先輩に来てもらうはずだったその小さな黒い後宮をタモンは見上げた。


 無人のまま魔法というものがあった証拠をマイの遺品とともに、この後宮には詰め込んだところだった。


「マイ先輩。家族と一緒に未来までこの帝都を……この建物を守るよ」


 建物に向かって一人誓う。 

 今回は誰も答えてはくれなかった。

 それでもタモンは、満足そうに微笑んでいた。




 この先も、タモンと七人のお妃の元、北ヒイロ帝国および帝都モントは長く繁栄を続けていくことになるのだった。

3章完。というかメインのお話は最後になります。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


あとエピローグが何話かありますので、多分すぐアップしますので楽しんでいただければと思います。




ブックマークや評価、感想を頂けると嬉しくて新作や続編の励みになります。


よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ