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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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戦いの終わり

「行きますよ!」


 魔法使いピアの宣言とともに封印された扉は開放された。


「突撃!」


 カンナ、ミハト、エミリエンヌにアランの部下たち三人が先陣を切った。


「う、うおっ、き、気色悪い」


 部屋の中で左右に分かれると、床に張り付いた粘液状の化け物も二手に分かれて襲いかかってきた。


 事前に聞かされていたとはいえ、カンナもミハトも今までに戦ったことのない相手に戸惑っていた。


 触られたくらいであれば、新人類で健康なカンナたちはどうということはない。ただ、疲労で弱ってくれば、徐々に体内に侵入して石化がはじまってしまう。


 そう聞かされていたので、慎重にならざるを得なかった。しかも薙ぎ払って吹っ飛んでいってくれるということもない敵はじわじわと接近してくる。


 これはカンナやミハトといった歴戦の勇士であっても、体に張り付かれるたびに叫びながら剥がして戦っていた。


「ですが、攻撃は確実に効いています」


 魔法使いたちが、予めそれぞれの愛用の武器に魔法による付加をつけておいた。


 スライムに攻撃があたると焼けるような音を発しつつ、縮小していく。


 エミリエンヌはその様子を確認すると、味方を鼓舞した。


「これで……部屋の奥の装置を止めればいい……のだが」


 カンナはエミリエンヌに習って戦いつつ、抜け出す機会を狙っていた。


 しかし、金属で固められた奥の祭壇横にある装置を見て、世界の魔法を維持しているものなのだと聞いてはいたが、何の知識もないカンナにはところどころ光る金属の塊にしか見えずにどこが動いているのかも分からずに困惑してしまう。


 ミハトなどは、最初から理解を諦めているのか『姉者、任せた!』という顔をして、スライムをひたすら殴っていた。


「私が行くしかないか……」


 異形の化け物との戦いは優勢になりつつあった。最悪、壊してもいいと言われているだけにカンナは一人タイミングを見計らうと奥へと走り出した。


「これが……」


 装置の前に立ち、計器を睨みつつ考えこんでいた。簡単に壊せるものでもないと思いながらも、タモンたちに危険が及ぶよりはとにかくここを壊してみることにして剣を振りかぶった。


「カンナ様!」


 後ろから大きな声がして、カンナは視線を上にあげた。目の前で光の矢が放たれた瞬間を見て、慌てて装置の陰へと回避する。


「マイ様が動いています……」


 後方で待機しているタモンに対して、大魔法使いピアとクリスティアの二人が同じように目を見開きながら忠告した。


「魔力を供給している元を断ったはずなんじゃないのか」


「この部屋の中だけで十分蓄えられていたのでしょうか……」


「……マイお姉さまですし、元々これくらいの力は持っていても不思議はないです。仕方ありません……やるしかないですね」


 タモンの言葉に、ピアとクリスティアネは一歩部屋の中へと踏み込んだ。


 二人の大魔法使いであっても、先ほどの戦いで使った魔力が完全に回復したとは言いがたかったが、ここで食い止めないと『人類の敵』と結託して世界中の人類を捕食して魔力を回復し続ける化け物が生まれてしまうかもしれない。


「タモン様は下がっていてください!」


「しかし……」 


 タモンも立ち上がったが、クリスティアネに制止された。


 強大な魔力を持つマイに対して、一人でも多く魔法が使える人間がいた方がいいと思うのだがクリスティアネとピアは前に立ち塞がり止めていた。


「お父様は足手まといです」


「そう、魔力が尽きればまたあの『人類の敵』スライムに侵食されてしまいます」 


 はっきりとそう言われてしまうとタモンとしても渋々ながらも納得するしかなかった。


 『人類の敵』スライムと、それに操られている始まりの魔法使いマイの組み合わせは、最悪だと唇をかんだ。


「いきますよ」


 ピアとクリスティアネが、マイの魔法を止めるために飛んでいくのをタモンはただ見守ることしかできなかった。


「やれやれ、最後の切り札も役に立ちそうがないな。スライムと魔力で維持されている体が相手だとな」


 隣でアランが拳銃を片手に握りしめながら、無念そうに部屋の中での戦いを睨みつけていた。


 アランは魔法が使えないのにも関わらず目の前にいるマイの体がこれも本当の体ではないことを見破っていた。


「この部屋の装置させ止めればいい……はず」


「それは分かっているんだがね……」


「アランさん。マイの攻撃が一度止まったら、あの装置のパネルを撃ち抜いてくれませんか」


 真っ直ぐ指を差し、あとは僕がやりますとタモンは走り出す構えを見せていた。


「あそこを壊せば止まるのか? 分かったが、この距離を拳銃で当てるのは結構難しいんだぜ」


「きっとアランさんならやってくれると信じています」


 タモンは振り返ってにこりと笑った。アランもそう言われてはやるしかないなと苦笑いで応じつつ拳銃を構えた。


 なんにせよ悩んでいる時間はなかった。

 マイの魔法による先ほどよりも凶悪な光の矢を、ピアとクリスティアネが食い止めた瞬間にアランは狙いを定めて発砲した。


 徒競走の合図のように銃声と同時に、タモンは全速力で走り出す。


 目の前で、パネルが割れて飛び散り、装置の金属に当たった弾丸は火花を散らしてどこかへ跳ねていった。


「よし」


 たどり着いたタモンは、装置に全力で電撃の魔法を叩きこんだ。


「どうだ?」


 しばらく周囲の様子を見極めていた。部屋を囲っている金属の壁からでている光が徐々に消えていく。


 暗くなっていく部屋の中でタモンは成功を確信した。


「お父様!」


「お兄ちゃん!」


 ピアとクリスティアネが叫んだ。


 タモンの周囲には人類の敵――スライム――が集まっていた。それは、まるで美味しい餌を横取りされて怒っている獣のようでもあった。


「くっ、このスライムどもにはこの装置が止まったからと言ってすぐに消えてくれるわけじゃないか」


 本当にヴァレリアだった意識が怒って攻撃しようとしているのかもしれないが、魔力を使い果たしたタモンが今、美味しい餌なのだと自分で気がついた。


「この部屋の外に出すわけにはいかない」


 逃してしまえば、魔法がなくなっていく世界で再び人類の脅威になる可能性がある。


「ピア、クリスティアネ! 全力でここに攻撃して!」


 迷いの無い声でタモンは、魔法使い二人に命令した。


「それでは、お父様が!」


「いえ、やりましょう。ピア」


 ためらうピアに対して、クリスティアネが、いやクリスティアネの記憶の中の沙綾が今、ここで絶対に滅ぼさなければいけないと分かっていた。


「うっ」


 ピアも分かってはいる。数秒だけ悩み、悔しそうに唇を噛んだあとで顔をあげると呪文を唱えはじめた。


 すぐに二人による部屋の中でできる限界の大きさの火の玉が浮かびあがっていた。


「他の皆は下がって!」


 言うだけカンナやミハトには逆効果かもしれないと思いながらも忠告し、高速で詠唱した魔法をピアとクリスティアネはすぐに全力でタモンに向けて放った。


 狙い通り部屋の奥で爆ぜた。


 金属の壁で囲まれた部屋の中で、眩しい光が反射したあと、熱風が入り口まで押し寄せた。


「みんな大丈夫?」


 予想以上に激しい熱風に、カンナたちが無事が気になった。火傷くらいですんでくれればいいとクリスティアネは思って確認する。


「あ、ああ」 


 ピアは嘆いていた。うまくいった反面、これは間違いなくタモンが助かることはないことを意味していた。


 クリスティアネも絶望していたけれど、確かめないわけにはいかないと煙を手で払いつつ一歩前に進む。


「マイ姉さま……」


 タモンがいた場所に、マイの姿が見えた。


 その瞬間、血の気が引いた。


 人類の敵への攻撃を防がれてしまったのではないかと身構える。

 もし、そうならもう打つ手はなかった。一時、撤退したらその間に、人類の敵は再び侵略を開始するだろう。そうなれば、止めることができるとはとても思えなかった。


「ご無事で……!」


 ピアとクリスティアネが真っ先に気がつき、カンナたちもタモンの無事な姿を見て思わず目を潤ませていた。


「マイ姉さまがかばってくれたのですね」


 人類の敵は綺麗に焼け焦げて消滅している。


 その中心で、タモンだけをかばってマイが攻撃を受け止めてくれていた。


 正気を取り戻したらしいマイは、声をかけてくれたクリスティアネの方を向いた。


『誰かしら?』という顔を一瞬したけれど、すぐに中にいる沙綾の存在に気がついたのかにこりと笑ってくれた。


 マイは怪我をしているようには見えなかった。ただ、透き通るように存在が薄くなっていくのが誰の目にも分かった。


「マイ先輩。……なぜ?」


 タモンはマイの腕の中で目を開けた。


 目の前で存在が消えようとしているマイの姿を見て、『そんなはずはない』と信じようとはしなかった。


「ふふ、本当の体はもう無いんだ。魔力だけを取り出して使うためにね」


 ずっと練習してきたかのような笑顔だった。それがタモンの心に絶望をもたらしていた。


「ああっ、く、くそお」


 タモンは涙を浮かべ、叫んでいた。


 あまり普段は声を荒らげることをしないタモンのその声に、その場にいるみんなが胸を締め付けられていた。


「なんのために! だったら!」


 タモンがそんな声をあげるのを、マイは優しく頬に手を当てていた。


「そんなことを言わない。タモン君はよくやった。魔法の維持装置はもう意味がなかったもの止める必要があった」


 そのままマイはそっと抱きしめる。


「魔法体だけ生きていても、仕方ないもの。これでよかった。よかったんだよ」


 タモンには抱きしめられた感触はあるけれど、ぬくもりを感じることはできなかった。


「それにしても……」


 マイは顔をあげて周囲を見回した。タモンを守る部下たち、そして部屋の外にいるエレナやマジョリー、コトヒの姿を確かめていた。


「タモン君が、人を信じられるようになって私は嬉しいよ」


 抱きしめていた手を離して、またタモンの目の前でにこりと笑っていた。そのまま、さらに離れていった。空中に浮かんでいく。


「え」


 タモンは伸ばした手が届かなくなっていることに気づいた。


「……まあ、本当は、私もあの後宮に入ってタモン君と新婚生活を送りたいとちょっとだけは思っていたけれどね」


 少しだけ今度の笑顔は無理をしていると思った。


「奥さんたちを大事にするんだよ」


 そう言い終わると、マイの体は光の粒になっていった。


「ま、待って。マイ先輩」


 それは演出だったのかもしれない。


 魔法体を維持するだけならもっと長い間できるはずだった。タモンに変な希望を抱かせないために、マイは体を維持しないことを選択した。


 光の粒も暗くなっていくと、マイの姿はもうどこにも見えなくなった。

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