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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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地下迷宮の奥で

「兄者、しかし、こんな豪華な顔ぶれで向かう必要があるんですかね?」


 ミハトはタモンたちのパーティの先頭に立ち、頭だけ振り返りながら尋ねた。


 先頭に立ちタモンたちの前を愛用の戦斧を肩に抱えたままでカンナと二人並んであまり緊張感のない様子だった。


 タモンとアランという男王二人に、トキワナ帝国の皇位継承順位筆頭である皇女クリスティアネという顔ぶれだけでも各国の重要人物だが、さらにタモンの妻で実質的には現在ニビーロの屋台骨である軍神エミリエンヌ、北ヒイロが誇る二枚看板の武将、カンナとミハト。さらにはアランの部下である大魔法使いピアもいる。


 ミハトはアランの部下のことはあまり知らないが、ついてきている三人もかなり能力も地位も高い部下だということは推測できた。


「地下迷宮ごと崩れて潰れでもしたら、いろいろな国が傾いたりしないですかね」


「すごいな。ミハトとは思えない慎重でまともな意見だ」


 タモンの方を振り返って心配そうに言うミハトをカンナが茶化していた。


「いや、でも大した兵もいないだろう? 俺の部隊と……何かあったとしても魔法使い殿だけで十分じゃないか?」


 真剣にタモンのことを心配してそう言っているのだと伝わってきただけに、タモンは真剣に、そして申し訳なさそうに答える。


「おそらく……今でもいるんだよ護衛兵が……僕の作った……」


 深刻そうなその言葉に、おもわずミハトもカンナも無言になりつつしっかりと前を見た。


「兄者が……作った……のですか?」


 カンナも不安そうな言葉を口にしながら、廊下を進んでいく。いつの間にか、石造りの廊下は角度が付き地下へと向かうものになっていて慎重に足元を見ながら進んでいく。


「まあ、僕だけで作ったわけじゃないけれどね」


 謙遜するように笑いながらタモンは言った。謙遜はしていても、話を否定することはなかった。


(つまり、人間じゃない何かが襲ってくるってことか……)


 ミハトもカンナもそう聞くと、さすがに身を引き締めて地下へと進んでいく。


 道は段々と狭くなっていた。これだと二人並んで戦うのがやっとだと測りながら進んでいき、この少数精鋭で潜っていくのは正解なのだと思っていた。


「なるほど。あれか」


 タモンたちが進む地下道の先に、わかりやすい大きな鉄の扉がみえた。


 そして、その手前には今にも動き出しそうな二体の石像が立っていた。


「ああ、いかにも動きそう……というか、動いた形跡があるな」


 カンナは石像たちの足元の地面をじっと観察する。古びた石畳の床の中に、汚れていない場所や削れている場所がある。


(他にもいるのか……?)


 動いたあとの範囲を見て警戒しつつも、見回しても扉の前にいる二体の石像しか見当たらなかった。


「ま、いいからぶち壊してしまおうぜ。いいですよね? 兄者」


 ミハトは愛用の戦斧をしっかりと握り前へと出る。


「うん。いいよ。思いっきりやっちゃって」


 タモンは大きくうなずいて応じていた。


「製作者の許可もでたことだし、いっちょやりますか」


「では、先制攻撃は任せた」


 カンナの許可とともにミハトが遠くから走っていって、石像が動き出す前に攻撃しようとする。


 もう成熟した二人のコンビネーションだった。大した打ち合わせもせずにミハトは不満など漏らすことなく一人突っ込んで行きカンナはそのバックアップに回る。


「おおおりゃあ」


 飛びかかり戦斧を上段から振り下ろす。


「固っ!」  


 石像は剣らしきものは持っていたが、それ以外は人間よりは少し大きい程度だった。

 ミハトの攻撃も防ぐすべもなく頭に直撃していたが、ミハトのほうが弾かれてしまい手がしびれたようだった。


「それでも少しは削れたか? うん、ヒビも入っているみたいだな」


 カンナはミハトと並んで剣を構え石像の状態を確認していた。


 一撃であっさり粉砕とはいかないようだったが、決して壊れないわけではない。


「私が引きつける。壊しやすそうなところを狙え」


「了解」


 そういうと今度はカンナが先に前にでていった。


 石像の攻撃を正面から受け流している間に、ミハトは横から一歩飛び込んで関節部分に攻撃を加えてはすぐに離れた。


 三度目の攻撃で、石像の足の動きがおかしくなり、その様子を見て次は剣を持っている肘と肩に集中攻撃をした。


「さすがは、ミハト様とカンナ様。お見事です」


 相手が攻撃できなくなったところで、エミリエンヌは背後から近寄ると愛用の曲刀で首をすぱっと斬り落とした。


 石像の首を落としたからと言って、どうというわけでもないのだが、なんとなくカンナとミハトは美味しいところを持っていかれたような気がして少し不機嫌そうな顔をしていた。


「ところで……ずいぶん、向こうの手際がいいみたいなのですが」


 珍しいことにカンナは更に不満そうな声でタモンに文句を言っていた。

 アランの部下たちは、動きのにぶくなった石像に対してハンマーで叩いては砕いていくと、魔法使いピアは石像から動力源である魔力が詰まった石を取り出していた。 


「あ……、うん。説明する暇がなくてごめん。でも、さすが三人だね。あれを初めて相手して、あっさり倒せるなんて」


「まったくもう、困りますよ」


 タモンの言葉に、文句をいいながらも三人ともまんざらでもなさそうな表情をしていた。時にミハトは上機嫌になっているのを隠しきれず笑っていた。


「じゃあ、もう楽勝だな。あとはもうそのヴァレリアとかいう二流魔法使いくらいしかいないんだろ」


 豪快に笑いながら、大きな鉄の扉を一人の力だけで簡単に引っ張って動かしていた。

 手伝う暇さえなかったので、あまりのパワーにアランやアランの部下たちは驚き、思わず拍手するものさえいた。


「さて、それじゃあ、先に進ませてもらいますか……」


「なに!」


 扉の中に入ったミハトは慌てて後方へと飛んで退いた。


 中からは同じ様な石像が今度は三体が並んで襲いかかってきた。


「ま、まだいやがった」


「こちらに引き寄せましょう」


 慌てるミハトに対して、エミリエンヌは降りてきた通路の方へと誘導しようとする。


 すざましい怪力の石像に囲まれては厄介なので、狭い通路で一体ずつ迎え撃とうとしていた。


「おう」


 ミハトはすぐに意図を察すると三体を引きつけながら退いていた。


「陛下たちは、そのまま奥へ」


 思いがけず三体とも釣れてしまったエミリエンヌたちは、石像の相手をしつつタモンたちには奥へ進むように提案する。


 一体ずつなら何とでもなるという手応えと、うかつに手伝ってもらった方が危ないという判断でタモンたちも、それはよく理解した。


「分かった。頼んだよ」


 あまり大きい声を出すと石像がこちらに気を取られてしまうかもしれないと思い、小さな声で応じていた。


 アランをタモンが抱えて、クリスティアネ、ピアとともに空中を飛んで迂回しながら奥へと進んだ。


「フカヒにあった塔の地下とよく似ているな……」    


 部屋の中を進みながらタモンはぼそりとつぶやいた。


 左右には金属の柱が何本も立っていて、奥へ進むと壁も金属で覆われていた。

 フカヒの塔と同じで何かスイッチを押したら動き出しそうな箇所がありそうだと思いながら、進んでいった。


「おそらく同じような施設でしょう。まあ、あなたが一番良くわかっていると思いますが」


 床へとおろしてあげたアランは、皮肉というわけではなく淡々とそう言った。


「施設……。世界の魔力維持のか……」


「そう」


 アランは力強くうなずいた次の瞬間に足を止めて身構えた。


「ヴァレリア……」


 部屋の奥には、地味な魔法使いの格好をしたヴァレリアが立っていた。


 さきほどの戦いでかなりダメージを受けているようだった。ローブも薄汚れて、本人にもあまり立ち塞がってやるという気迫を感じない。


 もう手下はいないようだった。タモンはヴァレリア以外はもう立ちふさがるものはないのだと思うとわずかに安心していた。


「ヴァレリア。話を聞いてくれ……いいんだ。もう……」


 ほぼ記憶を取り戻したタモンは、ヴァレリアを力ずくで排除してしまうのはためらわれた。


(そう、この役割を押し付けたのは僕なのだから……)


 部下たちを制止して、ヴァレリアを説得しようと一歩前へと進んだ。その次の瞬間だった。


 ヴァレリアの後ろの祭壇のようなものが光り、そこから魔法の矢が飛んできた。


「ぐっ」


「お父様!」


 すんでのところで壁を作って防いだが、強力な攻撃だったのでいくらかのダメージを受けた。


 続く攻撃をピアが割って入り、身をもって防いでくれた。


「タモン様。勘違いをされませんように、私はそこにいるピアたち大魔法使いとは違い。私はタモン様が作った魔法生物ではない。あくまでもマイさまの分身です」


 ヴァレリアはそう言って、タモンたちに向けて殺意をこめた指先を向けると、後ろの祭壇が再び眩しい光を放ちはじめた。


「えっ、マイ先輩?」


 タモンは、光の中に見慣れた女性の姿を見た。


 無数の魔法の矢を錬成しているからだが、後光が差したように空中に浮いている姿はタモンが思い描く女神さまのようだった。


「あいつ、お母様を動力源にしてますね」


 助けに来てくれたピアが、あまり見せない悔しそうな顔で睨みつけていた。


「さっき、捕まえたはずでは……」


「先ほどのは魔法で作った体ですね。お母様の本体は地下深くで眠っていると聞いていたので油断しました」


 絶望的な顔になりながらピアはマイの魔法を受け止める覚悟をする。


「私も手伝います」


 かなりの魔力の差を感じていたところで、後ろからクリスティアネが魔法障壁の作成を手伝うためにピアの横へとすっとでてきた。


「三人なら……」


 いけるだろうか。


 この地下の部屋の中だと逃げる場所もない。


 マイの本体から桁違いの魔力を感じつつ、タモンたち三人はマイの魔法を受け止める覚悟を決めた。


 無数の光の矢が放たれた。


 タモン、ピア、クリスティアネの三人で三重に重ねた防御壁にぶち当たると弾けて消えていった。


「げっ」


 最後に大きな光の矢が飛んできて、防御壁は一枚、二枚と突き破られた。


「……防御壁……残った?」


「ぎりぎりですね」


 クリスティアネの嬉しそうな声で、タモンたちも色々弾け飛んで眩しくて逸した視線を前に向ける。


 もうこちらに防ぐ力はないが、マイ先輩の攻撃も一旦は止まったことをタモンは確認する。


(今のうちになんとかマイ先輩をとめなくては……)


「おっと、余計なことはしないでもらおう」


 タモンが走り出す前にアランはすでに一歩前にでていた。

 切り札をヴァレリアに向けて威嚇していた。


「それは、そんな旧時代のものを大事に……」


 拳銃だった。

 おそらくもう弾の補充はできない。

 アランは、今、撃てる弾を撃ったらもう終わりの切り札をここで切ってみせた。


「タモン殿。その装置の電源を切るんだ」


 おそらくそれで世界から魔法が消えていくとアランは言った。


「ああ、分かった」


 タモンは走り出す向きを変えて、マイがいる方。祭壇のようになっている機械へと走っていった。


「やめろ! それを止めれば魔力で生かしているマイ様も消えてしまうぞ」


「えっ」


 タモンは記憶を思い出しながら機械を止めようとしたが、ヴァレリアの言葉で固まった。


 確かにタモンは顔を上げてマイが浮いている方をみると、マイから魔力は発せられているのだが、マイにも後ろの装置から別の魔力が送られていた。


(なんだこれは……確かにこれはマイ先輩を生かしているのかもしれない……)


「そうだ。止めるな! 止めてはならん!」


 ヴァレリアは叫んで固まっているタモンの方に走り出そうとしたが、その動きはアランによって止められた。


 金属の壁で覆われた部屋に銃声が響いた。


「ああ、殺さなくても……」


「仕方ない。何をする気だったが分からないが、もう一度、魔法で攻撃されたら防ぎようがない」


 アランは足元で撃たれて血を流して倒れているヴァレリアを見ながらそう答えた。

 アランとしても不本意だったが、引き金を引くことにそれほどためらいもなかった。


「これで終わりかな……」


 もう立ちふさがる敵もいない。

 あとはこの部屋の装置を全て止めるだけだ。


 そのはずだった。


 アランはやっと長い任務から解放されるのだとほっとしていたが、まだ固まったままのタモンを見て、再度、拳銃を持つ手に力を込めた。


「まさか、マイ先輩が邪魔したりはしない……ですよね」


 タモンが悲しい声で呟いたのが聞こえてしまった。


 操っているヴァレリアが死ねば、解放される。

 ……おそらくは動かなくなるのだろうと思っていたのだが、何故かまだ始まりの魔法使いマイは立っていた。


 アランから見れば、この状態のマイを活かし続けることに意味はないだろうと思う。


 だが、自分がタモンの立場だったらとは考える。

 あそこにいるのが始まりの魔法使いマイではなくて、もし自分の妻だったなら、娘だったならと想像すると冷静でいられる自信はなかった。

 とにかく生かすために、この部屋の装置を止めるのを邪魔することもありそうだった。


 二人の間に、沈黙とともに緊張した空気が流れているのがピアにもクリスティアネにも伝わった。


 タモンとアラン……。もし、この『男王』二人が戦いになったら、どちらにつくか。

 どうするかを考えざるを得なかった。


 この部屋にいる全員がそれぞれ相手の出方を窺っていたので異変に気がつくのに遅れた。


「何?」


 アランの足元から液体のようなものが這い上がってきていた。そして、タモンの元へも迫っていた。


「ふふ、油断ですね。魔力がなければ、お二人の『男』は旧人類なのです」


 床に倒れてもう事切れたと思っていたヴァレリアから、そんな言葉が発せられた。そして、その謎の液体はヴァレリアの体から伸びていっていた。


「人類の敵!」


 タモンはやっと今思い出していた。ニビーロ国での国王が殺された時のスライムのような不気味な攻撃を。


(あれは『人類の敵』を操って……)


「ヴァレリア……君は、自ら『敵』を……自分の体に……」


 その言葉を最後まで言い切ることなく、タモンとアランの体は石になった。

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