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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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本物の男王

「クリスティアネ様がタモン様にお嫁入りする。それは……どういったわけですか?」


 ラリーサは、ここにエミリエンヌがいなくてよかったと思いながら抑えた声で質問していた。


(エミリエンヌ様がいたら醜い修羅場が始まっていたかもしれないですね……)


 しみじみとそう思う。ただ、周囲のものから見ればラリーサの眼光は鋭く、とても近寄りがたい雰囲気を発しているのだが、本人は穏やかな笑顔で対応しているつもりなので全く気がついてはいなかった。


「南ヒイロ帝国に無条件で降伏はしたくないというものを多いですから、間にタモンお兄ちゃんに入ってもらおうというのが一つ」


 皇女クリスティアネは、いかつい鎧姿のラリーサの威圧にも全く臆することなく自然な表情でそう説明していた。


「その上で、南ヒイロ帝国民の怒りをおさめるためにも、よくある『男王』の逸話に倣って、私を無理やり脅して『男王』のものにしたということにしたいのです」


「それは、僕に対する風評被害が生まれるのでは……?」


 それまでは何も言わずにただうなずいていただけのタモンも口を挟んだ。


「逸話に倣うだけですよ。タモンお兄ちゃん」


「その逸話は、ほとんど君のご先祖と南ヒイロ帝国のご先祖のせいだから!」


 タモンはちょっと声を荒らげていた。そうは言ってももう慣れてしまったので本気で怒っているという感じにもラリーサにも他の護衛の兵たちにも見えなかった。 


「私が、タモンお兄ちゃんに無理やり手籠にされてモントまで誘拐されて性奴隷にされたというストーリーが、南北ヒイロの国民を納得させるのにはいいでしょ?」


「わ、若い女の子がそんな過激な言葉を使っちゃいけません」


 皇女クリスティアネの言葉に、タモンは内容よりも言葉遣いに対して動揺しつつ叱っていた。図らずも少し周囲の雰囲気は和やかなものになる。


「大丈夫、トキワナ帝国の民は、『男王』なら仕方ないかと納得してくれるから」


「……さすがは暴虐王の子孫のお国。いや、そうじゃなくて……」


 困り果てたかのように、タモンはラリーサの方を助けを求めるかのようにちらりと見た。


「あくまでも、ニビーロを利用して北ヒイロを攻略しようとした件について全面的に降伏するということでいらっしゃいますよね。南ヒイロ帝国に攻め込んだ件に関しては、あまり触れるなと……それは、ちょっと無理があるのではないでしょうか?」


 ラリーサが、冷静な声だが少し強めに抗議するかのようにそう言った。


「もちろん、細かい交渉には応じさせていただきますよ」


 クリスティアは、そんな軽い調子でラリーサにウィンクをした。


「ふむ……」


 その返答に、ラリーサは少し腕を組んで考えこんでいたが、毒気を抜かれてしまったかのように目を細くして笑いながら言った。


「そうですね。いいのではないでしょうか。可愛らしい皇女さまを差し出して、色欲にまみれたタモンさまが許したということで」


「ラ、ラリーサさんまでそんなことを」


「南ヒイロ帝国は、あくまでも同盟国北ヒイロの要請に応じて出兵した……という名目ということにいたしましょう。ええ、そうでした。……国境線のいくつかの問題さえ有利に交渉していただければマリエッタ陛下も納得していただけるでしょう」


 不満そうなタモンの声を受け流し、ラリーサは後半は南ヒイロ帝国が実利を取る念押しをしていた。クリスティアネは、覚悟していた様子ではあるけれど曖昧な笑顔で応じていた。彼女一人で簡単に決められることでもないのだろうとラリーサは理解を示しつつ、タモンへそっと近づいた。


「良い筋書きだと思います」


「僕の評判が落ちること以外はね」


 タモンは理解しつつも不服そうな態度だった。ただ、それに関してはラリーサは少し意地悪な笑みを浮かべていた。


「すでに、各地の名家や隣国の『若い』お嬢様たちを、人質同然にお妃にしているではないですか。これ以上、下がる評判もないのではないですか?」


 『若い』という言葉を強調しているのが、棘がある気がした。


「いや、別に人質ではないし、ちゃんと愛情を持っております。……ああ、いや、そんな話ではなくて……あっ、あと若い妃が多いのはたまたまでですから……」


「ふふ、冗談です。とにかくまだ講和の席についたわけでもありません。まずは、トキワナ帝国皇帝陛下を確保いたしましょう」


 かなり本気で慌てているタモンは、周囲の兵たちにも楽しそうに観察されていた。タモンのその様子を見て満足したのかラリーサは笑顔を浮かべて、今なすべき仕事に戻ることにした。


「う、うん。では、ショウエに連絡を。ええとあとは、一緒に帝都マツリナに乗り込めばいい?」


 タモンはからかう周囲の部下たちからの声に顔を赤らめながら、皇女クリスティアネに向き合った。


「はい。それで大丈夫です。それでは……てタモンお兄ちゃんは、空は飛べますか?」


「空は……飛んだことはないなあ。教えてもらえばできそうな気がするけれど」


「うーん。そうですね。でも、いきなり戦場で試すのも危険ですので、私が抱えてまいりましょう」


 それでいいですねとラリーサや護衛の兵たちにも確認する。ただラリーサたちは、そんなすごい魔法のことは分からないので、少し心配そうな表情ながらもうなずくしかなかった。


「ところで、その『お兄ちゃん』って何なの?」


 後ろに回り込まれたタモンは、何をされるのだろうかと怯えながら聞いてみた。

 ラリーサたちもその呼び方は疑問には思っていたが、聞いていいものなのかも良く分からなかった。ただ気になっていたことなので、あまり興味がなさそうな素振りをしながらみんな二人の会話に聞き耳を立てていた。


「親を同じくする年上の男性、もしくは親しい若い男性に対してくだけていう時の呼び方です」


「それは分かっている。でも、僕たちは出会ってばかりで親しくもないでしょ」


 この世界では、日常生活では失われた言葉なのかもしれないけれど、タモンはその呼び方はよく知っている。


 からかわれているのだろうかと思いながら、タモンは昔、どこかでこの皇女さまに出会っているような気がしていているので何か話があるのではないかと期待していた。


「いえ、私はあなたの実の妹です」


「え? クリスティアネは、トキワナの皇女さまでしょ?」


 何を言っているんだという顔でタモンは振り返った。


『それなら僕はトキワナの皇子になってしまう』と混乱していた。過去の記憶は色々と断片的だが、それはないことをタモンは知っている。


(おそらく、僕はトキワナ帝国ができるよりも前に生まれた人間……)


 断片的に思い出すことをつなぎ合わせるとそうなると思っていた。


「ああ、魂がですね。私の中に入っているのです」


「え?」


 驚くタモンの背中にクリスティアネは抱きついた。その瞬間に伝令の兵が駆け込んできた。


「タモン陛下! ラリーサさま! 東の方で戦闘です」


「もうショウエとシュウの部隊が始めたのか?」


 今、大々的に初めてしまうのは失敗なのではないかと思い、タモンとラリーサは焦りの色を見せた。


「タモンお兄ちゃん。行きましょう。細かい話は後で!」


 クリスティアネは、そう言うと両手をタモンのお腹まで回してしっかりと抱きかかえて高速で呪文を唱えた。


「おー」


 クリスティアネに抱きかかえられたタモンが、あっという間に大空の中に吸い込まれていくのをラリーサとマキは心配そうに見送ることしかできなかった。


  


「タモンお兄ちゃんの中にコソヴァレさまの魂と魔力が引き継がれているように、私の中には妹の紗綾さまの魂と魔力が引き継がれているのです」


「えっ? 何?」


 タモンは抱きかかえられながら、空中を高速で移動していた。激しい風の音でクリスティアネの話は途切れ途切れでしか聞こえなかった。 


「あれか……ショウエの軍……ではない……?」


 タモンは上を向き、東の方を指差した。ちょっと様子を見ておこうという点で二人の思惑は一致したのでクリスティアネもうなずいて大きく旋回した。


 下を見れば、見慣れない軍勢が帝都マツリナに迫っていた。


 数千程度で、それほど大軍ではないが精鋭部隊という雰囲気を感じさせ、実際に手薄な東側のトキワナ軍の防衛部隊は蹴散らされていた。


「東国風の鎧や武器ですね」 


「東国……?」


 クリスティアネは空中でタモンを抱きかかえたまま停止する。


 大陸の真ん中に位置するトキワナ帝国の皇女としての知識を話すがタモンには首を傾げられていた。


「今まで全く無関心だった東の帝国のどちらかが、介入してくるだろうか。火事場泥棒を狙っているにしては、数が少なすぎる」


「それは確かに……ですが帝国ではない可能性もあるかと思います」


「帝国ではない?」


 トキワナ帝国に喧嘩を売るような真似をする地方の豪族がいるだろうかと首を捻る。


「実は、魔導協会の人が話していたのを聞いたことがあります」


「……何を?」


「今、東には『本物の男王』がいると……」


「……なるほど」


 クリスティアネはもっと驚かれるかと思いながら話したが、タモンは冷静だった。


 むしろずっと推測していたことに、証言が得られてタモンの中では色々と欠けていたピースが埋まりすっきりしたかのような表情だった。


「あの白馬にまたがっている人かな」


 東国の軍の中心にいる派手な人物のことをじっと見る。体格が良く男らしい気がするのだが、鎧姿だとさすがにはっきりとは分からなかった。カンナやエミリエンヌに似たような体つきの武官だと言われればそのようにも見えてしまう。


「え、ショウエたちだ」 


 その軍の後ろを見れば、ショウエたちの部隊がくっついてきていた。


 一緒に街内に侵入して工作しようとしているのだろうということは伺えた。


「もう、手を組んだということでいいのでしょうか……」


 二人は目を見合わせて考えこんでいた。上空から見た限りでは、協力しあって進軍しているように見える。


「そうみたいだね。さすがショウエ。判断が速い」


「う、うん。連携していると見てよさそうですね。わかりました。もう東口の部隊には撤収するように連絡をいたします」


「あ、うん。僕もショウエにちょっと状況を念話で聞いておく」


 慣れた感じのクリスティアに対して、まだ不慣れな念話をタモンも使ってショウエの部隊の魔法使いへ連絡を取ろうとする。


 ただ、その最中に影がかかった。


 不意に、タモンたちの目の前に誰かが現れたのだった。


「確認するまでもありません。ショウエさまは私たちと協力しております」


 はっきりと上から声が聞こえた。


「え? 誰?」


「ここ空中……だよね」


 クリスティアとタモンは上下で同じように目を丸くして、いきなり目の前に現れた女性に向かい合っていた。


 姿形はヨハンナに良く似ている。

 ローブにとんがり帽子をかぶり片手には杖を持ったいかにも魔法使いという格好だった。

 顔立ちもヨハンナによく似ていて素朴な町の若い女の子という印象だった。ただ立ち振舞いは、機嫌の良いときは陽気で悪い時は粗暴な感じのするヨハンナよりは、大人しく少しクールな少女というように見えた。 


「ピアと申します。はじめまして、お父様」


 その『お父様』という呼び方が何なのかタモンには、まだはっきりとは分かっていなかったが、大魔法使いと同じ言動にクリスティアネと共に緊迫した空気が流れていた。


(そもそも、苦もなく空を飛んでいる時点で『大魔法使いさま』だよね……)


 ここに来て、全くのノーマークで想定しなかった強敵が現れるのは、勘弁して欲しいと思いながら身構えていた。もっとも、タモン自身はクリスティアネに抱きかかえられてぶら下がったままの格好で威厳も何もないままだったが。


「わが主人から、伝令を承っております」


 ピアと名乗った魔法使いは、特に興奮した様子もなく冷静にそう言った。


「は、はい」


 タモンとクリスティアネは警戒はしつつも、問答無用で敵というわけではなさそうなことにとりあえずはほっとしていた。ピアと名乗った女性が、懐からなにやら手紙らしいものを広げるところをじっと見ていた。


「『東の男王から西の男王にご挨拶申し上げます。共に魔導協会を滅ぼし、世界をはんぶんこいたしましょう』とのことです」


 冷静に、真顔で煽るわけでもなく笑ったりもせずにピアはそう伝えた。

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