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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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降伏の条件は『私』

「あれは!」


「兄者の方! まずいか」


 空中に浮かぶ三人の魔法使いが、詠唱とともに巨大な火球を頭上に出現させていた。


 少し離れたミハトやカンナたちが戦う主戦場からもまるで三つの小さな太陽が力を溜め込んでいるかのようなその光景がはっきりと見えていた。


「防御陣展開!」


 ラリーサは鎧の胸部に仕込んだ切り札の魔法の防御陣を発動させると、タモンを守るために前に立った。


「タモン様。お逃げください」


 南ヒイロ帝国が誇る最新の魔法防御システムを発動させたが、おそらくこれでは目の前の三人の大魔法使いに対しては少し威力を軽減させるくらいにしかならないだろうと感じていた。


「いや、ここは逃げずに受けた方が全体の被害が少なくていい」


 タモンははっきりとそう言いきって、自らも高速で魔法を詠唱しはじめた。


「なっ?」


 ラリーサは驚きながら、振り返ったがタモンの判断は速く意思は変わらないようだった。


 確かにエミリエンヌが率いる主力部隊も先行して今、この場所からは離れている。他への被害は最小限だ。そして、何よりそもそもこの大魔法使いたちはどうやらタモンを狙っている。


 南ヒイロ帝国軍の重鎮であるラリーサにも、全く興味はなさそうだった。


「分かりました。共に受けましょう」


 ラリーサ自身は魔法が使えるわけではない。ラリーサがこれから何かできることがあるわけではないのだが、ただこの場でタモンと一緒にいて敵の魔法の威力を軽減する。ただ、それだけの決意を固めた。


「絶対に生き残れないと決まったわけじゃないよ。やはりヨハンナの魔力は少し弱っているみたいだし」


 詠唱が終わり防御壁を準備した終えたらしいタモンは、そう言った。


 そう言われて、ラリーサがじっくりとよく見ると真ん中にいるヨハンナの火球は左右の二人が作る火球よりも色あせて少し小さく見えた。


(まあ、あれでも一軍隊くらいは軽く吹き飛ぶのでしょうけれど……)


「大丈夫ですか? タモン様がいなくなってあのマイとかいう魔法使いは救えるのですか?」


 ラリーサは、やはりタモンだけは逃したいと思う。実は高速で逃げる魔法があって、逃げる方に心変わりしてくれないだろうかと最後にそう聞いてみた。


「これでこの戦争は勝ちだ。僕が死んでも北ヒイロはエリシアかエレナが何とかしてくれる」


 タモンは優しそうな笑みを浮かべてそう言った。


 その信頼は残された側も困るずるい信頼ですねと深く息を吐くと、ラリーサも覚悟を決めていた。


 確かにもう切り札をここで全部使ってしまう以上は、トキワナ帝国の勝ちはない。もう少し早くエミリエンヌの部隊も近くにいる時に攻撃できていたなら、戦果は大きくなり少しは全体の勝敗にも影響したかもしれないが、もはやそれもない。


(でも……勝ちは最初から諦めていて、まるでタモン殿を殺すためだけに戦力を投入しているのは……何故?)


 ラリーサは、すぐ後ろのタモンには分かっているのだろうかと疑問に思いながらそんなことを考えていたが、さすがに目の前の光景が怖すぎて、思考している余裕はなかった。


 ただ、自分には魔法の防御壁を強くしたりすることはできないのでもう物理的にタモンを守ることしかない。隣にいる護衛のマキも同じ考えのようだった。


 視線を一瞬、マキと絡ませてわずかに笑みを浮かべると、赤子を抱きしめるように二人で前後からタモンの体を抱きしめた。


「うわ。待って、大丈夫。二人は守るから……」


 この男、もしかしたらラリーサとマキを逃して犠牲になるつもりだったなと思いながら、『離すものか』とラリーサはマキと一緒に抱きしめる腕に力を込めた。


 その次の瞬間。すざましい明るさの光が周囲を包んだ。続いて大きな衝撃がやってきたが、防御陣でまだ防いでいるという手応えはあった。


 今にも割れそうな窓で強風を耐えているような時間はしばらく続いた。


「お、終わった?」


 マキが顔をあげて、周囲を見回した。


 マキもラリーサもこの強烈なダメージがあと二発くるのだろうと思って身構えていただけに、静かになった現状を受け止めきれずにいた。


「大丈夫、彼女が助けてくれたらしい……」


 二人に覆いかぶされながら、タモンは冷静にラリーサの脇の隙間から空を見上げていた。


「助けた?」


 ラリーサとマキも空を見上げた。空からは爆発したあとのような小さな火の塊がいくつも空に漂い重いものから落ちてきていた。真昼に見える流星群のようだと思いながら、二人は意味が分からないままにしばらくその光景を眺めていた。


 その中心にいるのは、一人の魔法使いだった。


「噂の皇女様……ですか?」 


 よく見れば、残り二人の大魔法使いは倒れていてゆったりと地上へ降りていっている途中だった。


「み、身柄を確保します!」


 マキは状況を整理するよりも前に、素早く二人の大魔法使いのところへ駆けていった。ラリーサは一瞬止めようかと悩んだが、まだ危険があるかもしれないが最大の脅威が取り除かれるのであれば賭けてみる価値はあるとマキに任せることにした。


「皇女様が自分の火球を、マイ先輩の火球にぶつけてくれたんだ」


「なるほど……」


 ラリーサは、それならこの現状も納得できると思いながらも、そんな冷静に見ていたタモンにまず驚いていた。そして、結局のところ何故、助けたかは分からずに不気味なままで身構えていた。


「こんな格好で失礼します。タモン様」


 若い皇女様は、いつの間にかすーっと高度を下げてタモンとラリーサのすぐ目の前で浮いている。


 ローブ姿だが、ヨハンナのようにとんがり帽子をかぶったいかにも魔法使いという格好ではなく、マイと同じようにフードを深くかぶった姿は不気味さをましていた。


 そのフードを外すと中からは綺麗に整った顔だちと背中までの印象的な髪が現れた。


(白……いや、銀の髪か……)


 光に反射した美しい銀色の髪に、美人は見慣れてきたタモンであってもつい髪からはじまり顔から胸までじっくりと眺めて見とれてしまっていた。


 華奢な少女の体を見て、美しい金髪でしっかりとした体格のエミリエンヌとは対になるように並べてみたいなどという妄想をしてしまっていた。


「トキワナ帝国皇帝の第一子クリスティアネと申します」


 細かい説明は不要だと思ったのか、少女は簡単に名前だけを名乗る。


 魔法使いのローブのまま、スカートの裾を持ち上げるかのような所作で挨拶をした。ズボンも穿いておらず、タモンの目の前で少し浮いたままだったので、タモンに対して思いっきり太ももを見せつけるような格好になってしまう。


「あ、はい。よ、よろしくお願いします。その……何で……?」


 タモンは、その眺めに顔を赤くして少し目を逸したままで挙動不審になりながら返事をした。


「ふふ、とりあえずトキワナ帝国は降伏したいと思います」


 見られている側のはずのクリスティアネは、顔色一つ変えずにタモンの反応を楽しむような笑みを浮かべていた。まだ若くて、水も弾け飛びそうな肌をしてまだまだ元気で野原を走りまりそうな少女の外見からは想像できない態度だった。


「え?」


「ええ?」


 さらりと言われた提案に、タモンは驚いた。そして、タモン以上にラリーサは飛び上がらんばかりに驚き身を乗り出していた。


「本当ですか? もう各所に話はついているのですか? 何か条件はあるのですか?」


 ラリーサは、南ヒイロ帝国軍の責任者の一人として矢継ぎ早に質問した。この戦争の優勢はもう揺るがないが、帝都マツリナに籠もられて攻略しなければいけない事態は裂けたいと思っていた。


 どうしてもあの巨大な街で守られれば、ヒイロ連合軍側の被害も大きい、それに伝統ある美しい建物が並ぶマツリナの街を破壊したくはないと思っていただけにこの話には食いついていた。


「各所に話はつけてあります。ただ……皇帝陛下は、話を聞いてくれない状態にあります」


「はい」


 クリスティアネの返事に、ラリーサは少し冷静になっていた。ただ、肝心のところが駄目なのではないかと思い落胆もしていた。


「トキワナの皇帝陛下は……操られている? 魔導協会に……?」


 タモンのぼそりと言った言葉に、ラリーサははっとして振り返った。


「さすが、ご明察です。タモンお兄ちゃん」


 クリスティアネもやっと年相応の可愛らしい笑顔でタモンに応じていた。


「ですので、我が皇帝陛下を何とか拘束するのにお力を貸してもらえないでしょうか」


 ストンと完全に地上に降り立ち、クリスティアネはタモンとラリーサの真ん前に立って軽くお辞儀をした。


「それでしたら、ちょうどショウエたちが……」


 二人の大魔法使いを捕まえて両腕に抱えて戻ってきたマキがつい極秘の作戦をばらしそうになってしまい慌てて口を塞いでいた。


「む? さすがはタモンお兄ちゃんですね……もう、お城を抑える作戦は遂行中ということですね」


 クリスティアネは、マキが漏らした言葉だけで全体を理解したようだった。


「その『お兄ちゃん』って何なのですか?」


 タモンだけでなくラリーサを筆頭に周囲の人間は疑問に思ったけれど、クリスティアネの耳には届いていないようだった。

 更に細かいところを推測しつつぶつぶつと独り言を言いながら左右に歩いていた。


「地下……いえ、ニビーロの辺境から船を出してもらって運河経由で侵入でしょうか。水門をどうするかは分かりませんが……なるほどなるほど……」


「あの……? クリスティアネ様?」


 タモンは自分の世界に入ってしまったクリスティアネを、戦場でもあるのであまり長くは放ってもおけずに思わず声がけた。


「分かりました!」


 急に元気な声でクリスティアネはタモンに向かって力強い声でタモンに迫ってきた。

 聡明で物静かな魔法使いによくいる雰囲気を持った少女なのかと思っていたら、意外に素顔は年相応に活発で元気な皇女様だったので、タモンは元気さに押されながら応じていた。


「お互いにこのまま作戦を進めましょう!」


 まだ若い皇女は、元気にそう言いきった。


「別働隊の侵入経路については私の方で手を回します、おそらく問題なく帝都マツリナに侵入できるはずです。そして、私は、タモンお兄ちゃんに手を貸してもらい皇帝陛下の回りの胡散臭い魔法使いを排除していくつもりでしたが……これなら魔法使いの目を引きつけるだけでいいですね! タイミングを合わせましょう」


 元気なクリスティアネの提案は続いた。ラリーサとマキは、まだこの敵国の皇女様を信じていいものだろうかという疑いの目で見ているし、タモンもそれはまだ同じだった。


「……分かった。共闘しよう」


 悩んでいる時間はなかった。これだけ作戦を推測されていては、断ったときにはショウエの別働隊が一気に危機に陥りそうだった。


(それに、なんだか信用してよさそうな……雰囲気がある)


 匂いというわけではないのだが、クリスティアネの回りの空気にどこか懐かしいものを感じてタモンは応じることにした。


「それで、こちらは何をすればいい?」


「別働隊に、こちらと協力するという連絡をお願いします。水門の警備兵は殺さなくていいとか、警備の魔法使いが離れたうちに皇帝陛下を拘束して欲しいとか伝えてください」


 クリスティアネは、タモンが受けることは分かっていたのか特に驚きも喜びもせずに淡々と応じていた。


「後は警備の魔法使いをおびき出す時に、タモンお兄ちゃんもいてくれると助かる……んだけどな。あはは」


 クリスティアネは、話している途中でやや苦笑いに変わっていった。


 タモンが、後ろのラリーサとマキがすごい形相で睨んでいるからと気がつくのは少し時間がかかった。


「いいよ。ついていく。もうこの戦場よりも、そちらの方が大事だろう。ラリーサさん、後は頼むね」


 快諾したタモンのお願いにラリーサは珍しくとても不愉快そうな顔で渋々応じていた。


「承知しましたが、くれぐれも無理はなさらないでくださいね。タモン様に何かあったら、マリエッタ陛下も嘆き悲しんでしまいますので」


 ラリーサはなんとなくこの皇女様の前では自分が心配しているとは言いたくなくて、自らの主君の名前をあげてタモンを戒めていた。


「分かっている。大丈夫」


 タモンは、慎重な行動をしてくれるとは思えない笑顔で応じていた。


(エリシア様がお腹が痛くなるの分かりますね……)


 ラリーサは、信頼はしつつもいつも心配そうだったタモンの右腕であるエリシアの表情を思い出しては同情をしていた。自分がタモンの直臣で二人三脚で頑張る立場だったら心労で倒れてしまうかもしれないと改めて思う。


「あ、そうそう、降伏の条件なんだけど、一つだけ譲れないものがあります!」


 クリスティアネはもう帝都マツリナに向かいそうな勢いだったが、明るくタモンたちの方を振り返った。


 ラリーサがもう魔法使いの戦いに力を貸せることはないので、危険があろうと二人を見送って祈るしかないと思っていたところだけに意外な提案だった。


「な、なんでございましょう」


 講和の条件となれば、ラリーサの方が話の中心になる。

 ……はずだった。


 ラリーサが取りまとめて、オリガ様やマリエッタ陛下に提案する。細かい領土や権利、金銭の話は後々詰めていくにしても、先に大筋で合意しておくことは大事ではあると思いラリーサは、クリスティアネの話を聞き漏らすまいと身構えた。


 でも、この皇女からは意外な提案をされてしまう。


「私を、タモンお兄ちゃんのお嫁さんにすることが降伏の条件です!」


 クリスティアネは、とても明るい笑顔でタモンを指さしながらそう言った。

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