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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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決戦の始まり

「あと一回、勝利できれば……」


 そうぼやいたのは、南の戦線に戻ってきたリュポフだった。


 南北ヒイロ連合軍は、トキワナ帝国のかなり奥まで侵入することができた。ここまでは戦いをかなり優勢に進めていると言ってもいい。


 あと一度、帝都マツリナ近くの戦いで勝利をおさめることができれば、この戦争の勝利はほぼ確実だろう。


 タモンやショウエが言っているだけではなく、南ヒイロ帝国の将軍たちもその点に関しては同じ見解だった。


「ただ、それが簡単であれば苦労はしないんだよね」


 リュポフは、目の前に広がるトキワナ帝国軍の陣容を見てため息をついた。


 トキワナの帝都マツリナまでもう一山というこの地方の風景は、ヒイロ地方とよく似ている。遠くに大きな岩山が見えるのが違うくらいで、草原といっていい平らな地形が続き、その地平線を覆い尽くすように、隙間なくトキワナ帝国軍が並んでいた。


「変に戦力を温存したり、集中したりもしてくれないか……」


 ニビーロ国などとは格が違う。戦力も人材も兵站も、隙を見せずにこちらに備えてきていた。


 南ヒイロの東方騎士団を再編した遠征軍。そして、トキワナ帝国の中央軍。この大陸でも屈指の強さを誇る二軍が広い草原で対峙していた。


 真正面からぶつかり合うしかないと、リュポフをはじめ、南北ヒイロの将たちも覚悟を決める。


「お任せください。蹴散らしてみせますよ」


 そう豪語するのは、タモンの配下で有名なミハトだった。ミハトの後ろで義姉妹の契を交わしているというカンナも静かにうなずいていた。豪語こそしないが、こちらも自信たっぷりという様子だった。


「頼もしいな。頼りにしているぞ」


 リュポフはそう答えたが、これだけの規模の戦いになるといかに二人が化け物じみた強さだと聞いてはいても、戦局に与える影響は小さいだろうとも思っていた。


「楽な道はないわ。ここは油断せずにやり合うしかないでしょう」


「オリガ大姉さん……」


 いつの間にか、前線の視察に来ていたのはこの遠征軍の総司令官で、リュポフにとっては年の離れた姉にあたるオリガだった。


 気品がある初老の貴婦人のようにも見えるが、目の前にするとどこか何とも言えない迫力も感じてしまう。南ヒイロ帝国軍で長年要職を勤め上げてきた人間ならでは貫禄が漂っていた。


「真正面から戦いましょう。それが『男王』たちへの援護にもなるでしょう」


 オリガの決して叫んだりはしない淡々とした喋り方だが、どこか迫力ある言葉にリュポフたちも気圧されていた。


「ええ、それは、そうなのですけれどね。この調子で行くと北もしっかり備えていそうです」


 リュポフはトキワナ帝国はなかなか隙を見せないであろうことを実感していた。

 ニビーロ経由で攻め込むことも想定されているだろう。むしろ罠を張って待ち構えているかもしれない。簡単にはいかないどころか、タモンたちの大敗もあるのではないかと思っている。


「まあ、それはそれで、こちらの数が減るということよ。こちらの軍を叩き潰せばいいだけ。ねえ、そう思うでしょう?」


 オリガは、貴婦人っぽい態度ながら、歴戦の武人としてカンナとミハトの方を向いていた。


「はい。お任せください!」


「叩き潰してみせましょう!」


 カンナもミハトも、普段は狼か狂犬みたいな二人なのに、オリガの前だと非常によく飼いならされた忠犬のようだった。


(なんか、私のときと態度が違うな……)


 リュポフは少し不満に思いながらも、タモンがいなくともこの二人が大人しく従ってくれることに感謝しつつ総攻撃の準備に取り掛かった。







 一方その頃、東の帝国の情勢は一旦おいておいてニビーロにいるタモンたちの部隊は北方からのトキワナ帝国への攻略を試みていた。


「待ち伏せだ!」


「トキワナ帝国の罠です!」


 タモンの本隊は、奇襲を受けてそう叫びながら国境線沿いに逃げ込んでいた。


「タモン陛下を守れ!」


 慌ただしく、タモンの本隊は陣形を密集させると林の中を通り抜けようとする。


 さらに伏兵がいれば、絶体絶命の状況の中で迂回しながらニビーロ国内の開けた土地へとやっと抜けていた。ただ、背後にはトキワナ帝国軍が迫っている。


 追いつかれないように更に、慌ただしくニビーロ国の街道沿いまで逃げていった。


「深入りはするな!」


 タモンの本隊を蹴散らしたトキワナ帝国の指揮官たちは、そう叫んで静止していた。


 視界の悪い土地に入ったことを理解すると、逆に伏兵がいる可能性を感じてそのまま惜しむことなく退却していった。


「冷静ですね」


 ニビーロ方面からの遠征軍の指揮をしているラリーサは、調子に乗って追い立てたりはせずに引き返していくトキワナ帝国軍をじっと見つめていた。


 剣を地面へと突き刺し杖代わりにしながら微動だにしない姿は、隣に立つエミリエンヌと比べても決して引けを取らない武人としての頼もしさを部下たちに見せていた。


「わざとらしかったでしょうか?」


 そう簡単ではないことは分かっていたのか、ラリーサはそれほど残念そうにも見えない表情でそう言っていた。


「トキワナ帝国からニビーロへは、攻めにくいですから……。それにもうニビーロ国は戦略的には重要ではないと思っているのでしょう」


 エミリエンヌは、ラリーサに仕える騎士のように少し後ろに立ちながら、ニビーロに関しては少し自虐を含んだような口調でそう言っていた。


 トキワナからニビーロに侵入するとどうしてもどこかで湿地帯を通過しなくてはいけない。

 大軍を投入しにくい理由であり、今、その困難を乗り越えてまでニビーロ国に介入して支配下におくほどの価値はなかった。

 放っておいて、国境線沿いだけの守りを固めればいいと考えるのは北方からの守りを任されている部隊なら当然の作戦だろうと思う。


「どうなのでしょう? 向こうはアレをタモン様だと思っていただけているのでしょうか?」


 ラリーサは、頭だけをアレに向けながら聞いた。


 そこには、部隊の中央で『男王』に扮したマキの姿があった。


「トキワナ帝国で、タモン殿の姿を見たことのある人はいないので……大丈夫なのではないでしょうか」


 実際のところはタモンはこの世界でもそれほど大きい体ではない。

 エミリエンヌやマキと比べても背は低く、肩幅はそれほどでもないがやはりタモンの方が狭い。つまり普段は護衛をしているマキとタモンは背格好は似ていないので本来であれば影武者として相応しくはないのだが、世間で抱く『男王』のイメージはマキの方が近いので今回はそうした上で、それらしく守って本隊だということをアピールしていた。


「確かに……それでしたら、徐々にこちらに敵の意識を集めさせて陣形を崩していきましょう。まずはデバイヨの森の東からです」


 少しずつ少しずつとラリーサは敵の場所も全て把握しているかのように国境の向こう側を見回していた。


(さすが、帝国ともなると優秀な人材がいますね……)


 エミリエンヌは、今までは南ヒイロ帝国もトキワナ帝国も兵の数こそ多いが、大した将はいないと思っていた。

 ただ、その考えは最近、改めざるを得なかった。

 この普段はおっとりとしたお姉さんが、戦場となれば自在に兵を操るのを見て驚かされていた。

 そしてトキワナ帝国の指揮官たちも目立つ人こそいないが、皆、堅実で簡単な挑発には乗ってくれない。

 しかし、その堅実さを見通してラリーサは相手も気がつかないようにこちらの得意な形に引きずり込もうとしている。


(自分が敵対する相手だったら、気がつくだろうか……)


 その想像はエミリエンヌを興奮させるのに十分だった。つい、強敵と戦いたくなってしまうのは自分の悪い癖だと反省する。


「あっ」


 そんな想像をしている最中に、エミリエンヌはあることに気がついてしまい思わず声をあげた。


「どうかいたしましたか?」


「いえ、その……タモン殿の姿形を知っている人物がいるなと思いまして……トキワナ帝国にも一人……」


「え? ああ、そうだったわね……」


 ラリーサはその人物を報告でしか知らない。エミリエンヌも一度、出会ったというか襲われただけだ。詳しくは知らないが、タモンのことをよく知っていて執着しているという話を思い出して、明らかに二人は『しまった』という顔になっていた。






「はーい、こんにちは。パパ」


 東進する本物のタモンとショウエの部隊の前に現れたのは、大魔法使いヨハンナだった。


「今日は、可愛らしい女の子の格好じゃないのね? ちゃんと変装しないとすぐに見つかっちゃうわよ。こんな風に」


 空に浮かんでいる彼女は、真下に何百ものトキワナ帝国の兵隊を引き連れている。


 完璧な待ち伏せにも関わらず等のヨハンナは、そんな場面だとは思わせないにこやかな笑顔で手を振っていた。


「ここより更に東から攻め込むつもりだったの? さすがに孤立しすぎじゃないかしら? 一応は、王様なのに不用心すぎでしょ」


 フレンドリーに話しかけてきているが、ヨハンナの目は笑っていない。今回は完全に嵌まったと思ってタモンを活かすも殺すも自分の好きにできると思っていた。


 ヨハンナの中で、殺したりはしたくないと思っているのだが、殺してでも止めろという気持ちも沸き起こっている。それが、自分の意志ではないどこかからヨハンナの心の中に入り込んでくる指示なのだということは分かっていた。


(まあ、どちらでもいいでしょう……大したことではない) 


 彼女はそう思いながら、再度タモンを見下ろして睨みつけていた。それは実際には、他からの意思に負けてしまっているということなのだがヨハンナはあまり深く考えないことにしている。


(どうせ私は普通の人間ではない……)


 どこかでそんな投げやりな気持ちもある気がしていた。


「あまり私が本気を出してしまうと、すぐに終わってしまいますから……。止めは配下の魔法部隊に任せるといたしましょう」


 悪の組織の幹部みたいな言葉を、タモンに投げかけていた。


 しかし、魔法使いは本気を出しまうと、その後しばらく何もできなくなってしまう。


 今、一番の敵はタモンの部隊ではなく、あくまでも南ヒイロ帝国の軍なので全力を出すわけにはいかない。そのことはタモンたちにも残念ながら伝わってしまっているようだった。


(……慌てもしないし、あまり驚きもしてくれませんね)


 タモンたちのことをそう観察しながら、真下にいる配下の部隊にいる何人かの魔法使いに詠唱を開始させる。


 そちらに注意を取られている間に、自身も素早く詠唱できる範囲での魔法での攻撃をしかけるべく準備をしていた。


「さて、どうしますか? パパ」


 あまり動かないタモンに対して、ヨハンナは楽しそうに笑う。


 何か魔法に対する対応策があるのだろう。さあ、見せてみろという気持ちだった。


 最近では滅多にない魔法での戦いに、心躍らせて叩き潰す気満々の意気込みで、彼女の手のひらから火の球は放たれた。

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