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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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「つまり……もう一人いる」

(ひっ……)


 さすがのエミリエンヌもベッドで寝ている時に上から覆いかぶされれば、恐怖を感じてしまう。


 しかし、今は単なる身の危険ではなく、数多くの戦場に出向き『軍神』などと呼ばれるエミリエンヌであっても経験したことのないタイプの恐怖を感じていると言ってよかった。


「おはよう。エミリエンヌ。今晩はタモン様に抱かれたら、そのまま私の部屋に来て私を抱いてくださいね」


 新妻カトリーヌは、寝ているエミリエンヌの毛布越しにまたがり両腕をエミリエンヌの胸に押し付けていた。


 そのまますぐに肘を曲げて顔を胸に密着させると甘えた声でエミリエンヌに囁いていた。


「え? あの? カトリーヌ……様。いつの間にこの家に?」


 エミリエンヌは、王宮での残務処理のために王都内で王宮の近くに構えた仮の住まいを借りて住みはじめたところだった。そしていつの間にかその王宮に住んでいるはずのカトリーヌが、早朝に侵入してきていた。


「妻ですから。警備の人たちもにこやかに通してくれたわ」


 ちゃんと仕事をして止めておけとは思いながらも、ニビーロの王女で妻であるカトリーヌを警備の兵が止められるわけもないだろうと思う。それにしても、先に連絡があってもいいだろうと不満そうな顔をしているとカトリーヌは、体を上へとずらしてエミリエンヌの顔の上で微笑んでいた。


「寝顔が見たかったので、警備の人たちには黙っているように言っておいたの」


 ウィンクしながら、種明かしをするカトリーヌ。


「そ、そういうことでしたか」


 少し怯えながら丁寧な言葉になるエミリエンヌを見て、カトリーヌはくすりと笑っていた。


「エミリエンヌも、王宮に住めばいいのに」


「いえ。色々と仕事もありますので」


「王宮とこの家と政治の中心が二つできてしまうのは良くないと思うのよね」


 カトリーヌから意外な、でも王女としてはあまりにも真っ当な意見にエミリエンヌは確かにとうなずくしかなかった。


「だから、今晩からは私の部屋に泊まりなさい」


 いいわねと念押しされつつ、最初の話に戻ってきたことをエミリエンヌは理解した。


「いえ、その……。夜遅くまで忙しいと思いますので……」


 一緒にいるのが嫌なわけではないのだが、少し怖いものを感じて毎日、一緒にいるのは遠慮したいと思ってしまっていた。


「でも、タモン様とはイチャイチャするのよね?」


「え? いえ、そんなことは……ある……かもしれませんが」


「その後、私の部屋に寄ればいいだけでしょ? 夫婦なのですから」


 怒っているわけではなさそうだったが、カトリーヌから妙な圧力を感じてエミリエンヌは動けなくなってしまう。


「それとも、妻にすると言ったのは嘘ですか? ニビーロ国がとりあえず反乱しないために私を抑えておこうという」


「いえ、そんなことは。ニビーロの未来は責任を持ちます。ええ、お部屋にも仕事の後に必ず寄りますから」


 思いがけず鋭い指摘にエミリエンヌは、カトリーヌの言う通りに従うしかなかった。







「早く戦場に行きとうございます」


 エミリエンヌは、まるで功を焦っている若い軍人みたいに物騒なことを言いながらタモンたちのいる王宮内の部屋に入ってきた。


 ショウエと作戦を詰めるべく両手で沢山の書類を抱えていたタモンも、思わず机に書類の束を置いてエミリエンヌに歩み寄っていた。


「何かあったの?」


 この二日ほどで少しやつれてげっそりしているようなエミリエンヌの姿を見てタモンは心配そうに声をかけた。


「いえ、私には王宮での仕事や生活などあわないなと実感したまでのことで……」


 タモンの気遣いに、少し恥じたかのようにエミリエンヌは答えた。

 そう考えると目の前のタモンは王宮であっても、戦場であってもどんなところでも飄々としながら苦しそうな顔を見せたりしない。自分がこうなってみると地味ながらもすごいことなのだと感心するしかなかった。


「前線にエミリエンヌ様が来てくださるのは助かるのですが、ニビーロ国内は大丈夫でしょうか?」


「ケンザは残しますし、我が領地からサラたちを招きました」


 タモンとショウエは、微妙な顔で視線を交わしていた。


(ケンザもエミリエンヌに着いていきたいだろうに……)


 ケンザもそれなりに名門の出身で政治的影響力も大きいらしいが、ずっと副官としてエミリエンヌに従って戦ってきたからには今回の遠征でもついていきたいだろうとタモンは同情していた。


「話がついているのであれば、もちろんエミリエンヌにはついてきて欲しい」


 ニビーロが問題ないとは言わないが、やはりタモンやショウエにとっては、トキワナ帝国相手に前線で指揮をする人材の方が大問題だった。


「我々の方もちょうど懸念が解消されたので、明日には帝国に向かって出陣の予定でした」


「懸念?」


 ショウエの言葉に、エミリエンヌは何の話だっただろうかと聴き直す。


「ヨライネ様の件です。反抗する気はないとのことだったのですが、やはり遠征軍とニビーロ王都への不安がありますので内々に交渉しておりました」


「ほほう」


 その言葉にエミリエンヌは、すぐに考えを巡らせていた。


(放っておいても大した脅威にはならないと思いますが……なるほど、つまりヨライネ領の方からトキワナ帝国に攻め入るつもりなのですね……)


 すぐにその考えに行き着いて、エミリエンヌは熱い視線を送りショウエも同じように意味ありげな視線を返してニヤリと笑い合っていた。


「ヨライネ様はちょっと意外な提案でしたが、決着しましたので心配はいりません」


「ちょっと意外?」


 ショウエのもう準備万端ですという説明に、その話はまだ聞いていなかったらしいタモンが細かいことを尋ねていた。


「ええ、ちょっとだけ意外でした。そんな大した話ではないのですが、あとのお楽しみに……」


 いたずらっぽくショウエは、笑っていた。まだ答えは教えてあげませんよという割とどうでもいい強い意志を感じたのでタモンもエミリエンヌもそれ以上聞くことはなかった。


「それで、タモン陛下が抱えていらっしゃったそちらは何なのですか?」


 ショウエはもうちょっと構って欲しそうだったが、タモンもエミリエンヌもそれ以上、知りたいと頼みこむこともなかった。

 エミリエンヌにいたってはもうこの王宮から早く脱出したくて、出陣の支度のために今にも部屋から飛び出していってしまいそうだった。


 タモンも自分の仕事に戻ったのか、部屋に持ってきた書類の束に目を通している。


 ショウエは上から覗き込んでみたが、連絡用の暗号のようでぱっと見だと内容が分からなかった。


「主に魔道士たちに、ここ最近のヒイロやニビーロの諜報活動について調べさせた報告だよ」


「はあ。我々を調べているのがどこかという話ですか? そんな簡単にばれる諜報活動もないでしょう」


 そんなことは、いつもやっていることだとショウエは不思議そうな声をあげていた。


「もちろん、そんな簡単に捕まって白状するようなやつは滅多にいない。でも、魔法での通信、個人商人扱いでの人の行き来などどこが活発に動いているかは分かる」


「まあ、それは……そうですね」


「わかりやすく見せてあげる」


 あまりピンときていなさそうなショウエに対して、タモンは報告書を片手に机においてある地図に向かって何か呪文を唱えていた。    


 地図の上に何か光の矢印が多数現れると、地図の上を行き来していた。


「おお?」


 ショウエとエミリエンヌは、楽しげな地図に変貌した様子を食い入るように眺めていた。


「これは、なかなか見たこともない地図ですね」


「ふふ、まあ、よくある魔法の鏡に映しているものの応用だけれどね」


 エミリエンヌが目を輝かせて賞賛してくれるのをタモンな表情を浮かべていた。

 謙遜した言葉を言ってはいるが、プレゼン用魔法として研究してきた甲斐があったと内心では勝ち誇り、満足そうであった。


「黄色いのが魔法による通信。赤いのは実際に諜報活動があった地点。青いのは何らかの手紙や荷物の配達。あと、白いのは個人商人名義での人の流れ」


「むむ」


 ショウエは、タモンの説明で地図の上に浮かんでいる記号の意味は理解したが、特にこの図に意味を見いだせずに腕を組んで考えこんだままだった。


「これが、半年前。次は三ヶ月前。これは、先月だね」      


 タモンが魔法で浮かぶ記号を器用に切り替えて説明してくれていたが、ショウエはそれを見て益々考えこんでいた。


(わざわざ、陛下がこんな風に情報をまとめて持ってきたからには、何か意味が……というか深刻な問題があると思うのですが……)


 先程の自分でいった『ちょっと意外』どころではない何かがあるはずなのだが、ありきたりな意見しかでてこない。


「開戦が近づきトキワナ帝国から、そして開戦後はニビーロ国に向けての諜報活動が活発になっていますが……それ以外はあまり動きはないようです」


 当たり前すぎる意見だが、とりあえず言ってみないことには始まらない。ショウエの後ろから覗き込んでいるエミリエンヌも同じ意見であるようでただうなずいていた。


「そう。あまりにも他の動きがないと思わないか?」


「え?」


 そう言われてショウエは改めて地図全体を見直すと徐々に右側に視線を移動させていく。


「東の帝国たち……?」


 東側の情報がないわけではない。ただ東側だけで活発に人が動いていて、こちら側への関心が少ないというかあまり変化がないことに気がつく。


「もし、トキワナ帝国が落ちるようなことがあれば、東の二つの帝国とも隣接することになる。それにしては、僕たちに興味がなさすぎると思わないか?」


 タモンの言葉に素直にショウエはうなずいていた。


「……確かに」 


「それどころではないのかもしれません。東の帝国同士で、この一年ほど辺境の土地で小競り合いをしているという話がありましたので」


 エミリエンヌは、少し前にニビーロの将軍として調べて聞いた話を教えてくれていた。


「そう。おそらく……それは……そう。陛下、もう一度、半年前からの人の動きを見せていただけますか?」


 エミリエンヌの話を聞きながら、じっと地図を見つめるショウエに、従ってタモンはもう一度、昔からの状況を映し出して切り替えた。


「戦争ではない。そう……何かを取り合うような、小競り合いをしている。こんな辺境で……なぜ? そして、おそらく三ヶ月前に何らかの形で決着している……。南ヒイロ帝国もタモン陛下も後回しにする何かが……。何だ?」


 髪を自分の指でかき乱しながら、ショウエはぶつぶつと言いながら考えていた。


「タモン陛下も、まだ『何故か』は確証が持てないということですよね」


「うん。両帝国とも機密事項で厳重に隠しているね。でも、三ヶ月前から少しずつ緩んできている気がするけれど……。それで、ショウエの意見を聞きたいと思ってね」


 ショウエが頭を上げた先には、タモンの不安げな顔があった。

 ただ、タモンの中ではある程度の答えがでているのだろう。今ここにいるのが、エリシア師匠なら鋭く的確な意見を返せるのかもしれないと思ってショウエは焦っていた。


「我の読みでは……」


 ショウエは一度、後ろのエミリエンヌを振り返った。

 視線を合わせて、ただうなずいたエミリエンヌもおそらく同じ答えに達しているのだと確信するとはっきりとした声でタモンに自分の考えを述べた。


「我の読みでは、東にもう一人『男王』がおります」

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