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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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エミリエンヌの花嫁

「私は、どちらの愛妾でも構いませんよ」


 カトリーヌ嬢は、可愛らしくわずかに首をかたむけてにこやかに言った。


 本当に言葉の意味が分かっているのだろうかとエミリエンヌは訝しんだが、媚びるわけでも開きなおったわけでもなく悲壮な決意を感じさせるわけでもなくごく自然にエミリエンヌとタモンに向かい合っていた。


「そうですか」


 明らかにタモンの方は、このニビーロ王家の忘れ形見であるカトリーヌに対して興味を失った顔をしていた。


 エミリエンヌもタモンと出会ってからの時間がすごく長いわけではないが、この男の興味を持つ対象が少しずつ分かってはきていた。


 カトリーヌ嬢は、世間一般的に見てもかなり美少女のうちだろう。女性らしく抱きしめたら柔らかそうな体だとエミリエンヌも以前から思っていた。


 マジョリー夫人のように、隣国からも羨望される美人というわけではないが、ニビーロ国を攻める理由の一つくらいには入っていておかしくない王女様だ。


 しかし、タモンは全く冷めた視線でカトリーヌを見ている。いや、もうカトリーヌという個人は見ていないようだった。


 もちろん、すでにマジョリーやコトヨと言った美しい妻がいるからというのはあるだろう。


 でも、タモンはなすがままに流される美人に興味を持てないのだ。


(それよりは、私のように抱いても固そうな女でも、たくましかったり強かったりする方が好みなのでしょうね)


 別に今からカトリーヌに、エミリエンヌやカンナのようにたくましい武人として頭角を現せとかいうわけではない。


 ただ、今のままでも『今はあなたのものになってあげるけれど、いずれ北ヒイロごと私が乗っ取らせていただきます』とでも宣言すれば、逆にタモンは目を輝かせて会話がはずんでいたに違いないとエミリエンヌは思う。


(さて、どうしたものか……)


 エミリエンヌの結論は、もうでているのだけれど、タモンに心変わりして欲しいような複雑な気持ちだった。


(いえ、カトリーヌ様に、タモン様の妻になられてもそれはそれで嫌ですが……)


 想像してしまい。モヤッとした気分になってしまったので目をつぶり、しばらくの間、葛藤していた。


「分かりました。では、カトリーヌ様は我が家でお預かりいたします」


 元主家に対する礼を尽くす形で、エミリエンヌはそう答えた。 


「ありがとう。エミリエンヌ。『男』にも抱かれてみたかったですが、エミリエンヌなら何も申し分ないわ」


 無邪気な一言に、エミリエンヌも『本当に現状が分かっているのだろうか』という疑問がさえ浮かんでいた。投げ出したい気持ちもあったけれど、他の旧ニビーロ家臣に利用されても厄介でしかないので笑顔を作って応じていた。 


「え? 私はエミリエンヌの妻になれるのではないの?」


 あまり乗り気ではなさそうに、話を進めようとするエミリエンヌに対して何も考えていなさそうなカトリーヌも疑問に思った。


「私はもうタモン様のものですので……」


「えっ、そうなの? 初めて聞いたのですけれど。結婚していらっしゃるの?」


「い、いえ。妻と言うわけではありませんが……盟友として」


 さすがにカトリーヌも驚いてショックを受けている様子が少しだけあったけれど、すぐに身近な人の結婚話にあこがれているのか興味津津な様子で食いついてきていた。


 その光景を見ながらタモンは顎に指を当てて色々と思い出だして考え事をしているようだった。


「あー。そういえば、南ヒイロでの交渉に使う予定で隠していたので公にはしていなかったですね」


「そう……ですね」 


 形式上は領主ではあるが、それほどの家柄でもなく本職は武人であるエミリエンヌからすればわざわざ公にすることでもないと思っていた。

 それによく伝わっているような、『男王』に抱かれて『男王』に従順に従うようになった伝説のような状況は、ニビーロの人からすれば反発したくもなるだろう。


(まあ、実際、伝説の将軍や騎士たちと何も変わらないですが……)


 まさに俗な昔話に出てくる騎士そのままの状況になっている自分をエミリエンヌは自嘲気味に笑っていた。


「ニビーロも一段落しましたことですし、ここでお披露目いたしましょうか」


「え、あ、はい」


 タモンの提案にエミリエンヌは何の話をしているのか具体的なイメージができなかったが、全てをお任せしてもいいだろうと言われるがままにただうなずいていた。


「それでは、私の妻になってくださいますね」


「え?」


 エミリエンヌは完全に油断していた。手をとってプロポーズされるとは思わずに、次の瞬間には完全に頭も体も硬直して動きが止まってしまっていた。


(落ち着くのです。エミリエンヌ。もう今さら、戸惑うような間柄ではないでしょう)


 それでも、そう言ってもらえることにはどこか嬉しさを感じて笑顔になっていた。


「まあ、エミリエンヌ。とても素敵なことね」


 不平不満を言うのではないかと思っていたカトリーヌは、何故か嬉しそうに両手をあわせてエミリエンヌを祝福してくれていた。


「『男王』の妻のエミリエンヌ。私はその愛妾ね。うん、いいんじゃないかしら」


 カトリーヌは、少し陶酔が入ったいい笑顔を浮かべてそう言った。


 本当にカトリーヌはそれでいいのだろうかとエミリエンヌは思ったが、ここで変に我が儘を言われて混乱させたりしない方がいいだろうという気持ちに傾いた。


 何よりタモンが、あまりにも状況に流されたままで受け入れすぎているカトリーヌのことを逆に興味を持ち始めている。

 これ以上、カトリーヌに興味を持たれると何が起きるのか分からずに恐ろしかったので、エミリエンヌはさっさと話をまとめて進めることにした。




「こ、この格好でないといけませんか?」


 数日後、エミリエンヌはタモンが用意してくれた服装に着替えたあとで改めて自分の姿を確認する。

 ひらひらとした真っ白なウェディングドレスだが、スカート部分は前の部分がかなり開いていてエミリエンヌのとても長くて健康的で綺麗な脚が眩しく見える。長身のエミリエンヌだと太もものかなり上まで見えてしまいそうになるのもあって、かなり恥ずかしそうにしていた。


「それは僕の生まれた……地方でのいわゆるウェディングドレスというものです。僕の趣味で作ってもらいました」


 タモンはちゃんと着てくれたエミリエンヌの姿を見て、少し早口になりながら説明する。


「私に、こんな格好は似合わないのではないでしょうか……」


 エミリエンヌは照れながら困惑する。

 これは王族や貴族のお嬢様が、いやむしろ踊り子が着るような衣装なのではないだろうかと普段から社交場にはほとんど軍服でしかでたことのないエミリエンヌは思っていた。


「いえ、最高です」


 しかし、タモンは満足そうにエミリエンヌの姿を特に脚を見ると親指を立てて肯定した。からかっているわけでもなく、お世辞でもなく本気で感動しているようだった。


「マルサさんを連れてきていれば、もっと調整できたのに」


 それどころか、衣装の細かいところを見て少し残念そうに嘆いていた。


「いえ、こんな遠いところまでマルサさんをお呼びするわけには……」


 あまりにも申し訳ないとエミリエンヌは困り果てる。


「私などにはもったいない素晴らしい衣装だと思います」


 これはエミリエンヌのために、マルサさんが作ってくれたのだなと改めてドレスを広げて確認する。やはり見れば見るほど素晴らしい作りに感銘を受けていた。


「あら。すごい。綺麗!」


 カトリーヌも部屋に入ってくるなりエミリエンヌの姿を見て感動して、スカートの裾をつまみながら駆け寄ってきていた。

 本来はどちらかと言えば喪に服す期間なのだが、カトリーヌもエミリエンヌと同じようなタモンのイメージするウェディングドレスを強く希望してこのような姿になっていた。

 ただ、残念ながらカトリーヌ用にマルサさんが作ってくれていたりということはないので、普通の白いドレスをエミリエンヌのものに近づけるように改造しただけのものだった。


「うん、とても華やかです」


 タモンは二人の花嫁姿を見て笑顔を浮かべていた。

 どう見ても男役のような自分の花嫁と娘役のような花嫁が並ぶその光景に、少し倒錯的なものを感じながらもその気持ちは口には出さずにただ花を愛でるかのように喜んでいる態度だけを周囲には見せていた。


「まあまあ、タモン様もエミリエンヌ様もカトリーヌ様もみんな綺麗ですこと」


 カトリーヌの後ろにいたラリーサとショウエも三人の姿を見て喜んでいた。特にラリーサは、まるで自分の娘たちが嫁にいくかのような謎の貫禄と喜び方だった。


「それではニビーロの家臣の皆様もお待ちですので参りましょうか」


 ラリーサも今日は鎧姿ではなく、藍色のふんわりとしたドレスを着ていた。それでも先導して歩いていく際に、時々金属が擦れ合う音が聞こえる。


 それなりに警戒はして武器は隠し持っているのだなと、エミリエンヌは完全に舞い上がっていた自分を反省していた。


「しかし、もはや家などない私がお披露目をする必要はあるのでしょうか?」


 歩きながら、今更ながらにエミリエンヌは疑問に思う。


 この世界での結婚はあくまでも家同士の結びつきのためにするものだった。タモンに単なる恋人や愛人ではなく、公式な存在として認めてもらうことはエミリエンヌにとっても喜ばしいことではあったが、それも生涯一人だけを愛するというような契約ではない。


 男王がどうというわけではなく、この世界の恋愛が自由すぎるためだった。


「家同士の結びつきという意味では、もう私には家族もいない身ですので」


 エミリエンヌはそう言ってから、はっとした。カトリーヌを責めているように思われてしまうだろうかと横目でカトリーヌを見たが、特に気にしていない様子で歩いていた。


「旧ニビーロ家臣が、新体制への恭順をどれくらいしてくれるかという確認のためです」


 ショウエとラリーサが同じような今回のお披露目会の意味を説明する。


「なるほど」


 エミリエンヌは真剣な面持ちで軽くうなずくと、あとは黙ってラリーサに手を引かれ歩いていた。


「それでは、皆様。二人の花嫁の登場です。拍手でお迎えください」


 ラリーサが、扉を開けるとニビーロの旧家臣が集まっているテーブルに向けてよく通る高い声で知らせた。


 エミリエンヌは、今更ながらにカトリーヌが自分の嫁ということでいいのか、受け入れてもらえるのかと疑問に思いながら固い表情で部屋へと入っていった。


(花嫁? 二人?)


 あまり詳細を聞かされていない人たちは戸惑った顔をしていたが、ラリーサの迫力に押されたかのように、旧ニビーロ家臣たちは一斉に立ち上がり盛大に拍手を送り向かい入れる。


 頼もしいエミリエンヌの武人としての姿しかしらない家臣たちは、花嫁ドレス姿を見て戸惑いや意外そうな顔をする人は見受けられたが、表だって嘲笑するものはいなかった。

 戦場で肩を並べたわけではない家臣たちからは、精悍さと美しさに感嘆するものも多かった。


 ラリーサが司会をして、タモンとエミリエンヌ。そしてエミリエンヌとカトリーヌの個人的な説明があった。

 あくまでも個人の関係ながらもそれを南ヒイロ帝国の重鎮が紹介することに保証としての意味があった。とりあえず王女であるカトリーヌが、エミリエンヌの庇護の元で生きながらえることができそうということが分かり、旧家臣団を安堵させていた。


「表立って反対するものは居ませんね」


 主だった顔ぶれの挨拶も終わり、このお披露目も一段落するとショウエは、飲み物をタモンたちに運びながら無事に終わりそうなことを喜んでいた。


 ニビーロ国王が無くなった直後の集まりでもあるので、派手なものにするつもりもなかった。あくまでも新しいニビーロの体制を確認することが目的でそれは問題なさそうなことが確認できた。


「それでも、この場に出席していない有力家臣としては……」


「ヨライネ将軍ですね。軍事では一番頼れる方なのですが……」


 さすがに完全に全員が従ってくれるというわけではないとは思っていたが、エミリエンヌから見れば派手さこそないものの任せられる、そして敵には回したくない人がいないことは残念だった。


「私の元に、もう隠居したいというお手紙が届いておりました。敵対する意思はないとも添えてありました」


 そう横から会話に割り込んできたのはカトリーヌ嬢だった。

 それまでは、このお披露目会の中心ではありながらも人形のように何も語ることもなかった彼女だったのに、意外なところで会話に参加してきたとタモンも少し驚いたような表情を浮かべていた。


「そうですか、ヨライネ様がそうおっしゃるのでしたら、おそらく本当に戦うようなことはないのでしょうが……」


「そうは言っても、味方につけておきたいところですね」


 エミリエンヌの言葉に、タモンも『何とかならないものか』と腕組んで唸っていた。今回の戦いでもやはり後方の不安は少なくしたい。それに南北ヒイロの軍が引いたあとのことも考えれば何か対処しておきたいところではあった。


「ヨライネ様以外だと、王族の何人かですね。北ヒイロにも来ていたドミクルとか……」


 ショウエの報告に、タモンもエミリエンヌが揃ってとてもとても嫌そうな顔をした。あまりにも同じようなしかめっ面が揃いすぎていてショウエも気持ちは分かるがそこまで嫌わなくてもと苦笑いで応じていた。


「大丈夫ですわ。もう他の王族は、領地もありませんし、何もする力はありません」


 またしてもカトリーヌ嬢が、あまり興味なさそうながらも意見を述べていた。


「そうなの?」


 タモンは、ショウエに確認する。


「はい。そうですね。王族の領地と兵はこの戦争の直前に本家に集約されています。領地での実権は分かりませんが、少なくとも兵はいないことは間違いありませんね」


 ショウエの報告に、タモンはそれなら少し安心だろうと穏やかな笑顔になっていた。


「カ、カトリーヌ。それでは、各領主たちに挨拶に回りましょうか」


「ん? 分かったわ。エミリエンヌ」


 カトリーヌの手を取り、エミリエンヌは集まってくれた各家臣に根回しを兼ねて個別に挨拶に向かう。


 カトリーヌは嬉しそうに一度小さく跳ねると、エミリエンヌの腕に手を回して寄り添って歩いていた。


 真っ白なウェディングドレスが美しいこともあって、並んで歩く様が絵になっていると周囲の家臣や侍女たちも嬉しそうに見惚れていた。


(タモン様は、今、絶対に『あれ? 意外にこの娘面白いかも』と思ってた)


 エミリエンヌは、個別に回っても良かったのだけれどもカトリーヌを連れていったのは仲睦まじいところのアピールよりはタモンの先程の視線が気になったからだった。


 タモンと二人っきりにするのは危険だと思い、カトリーヌを連れ回していた。


 それはもちろんカトリーヌからも周囲の旧家臣からも、エミリエンヌはカトリーヌのことをおそらくずっと前から愛していたのだと勘違いさせることにもなっていた。

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