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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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「私がお守りいたします」

「ショウエさん。ちょっと、別室でお話しいたしましょうか?」


「な、何でしょうか? え? あ、はい」


 声は穏やかだが、ラリーサの言葉には何とも言えない迫力があった。迫力だけではなく実際に肩に手を回されると、足は地面から離れて軽々と運ばれてしまう。


 ショウエはタモンの軍師であってラリーサの部下ではないのだが、タモンもショウエが助けて欲しそうに目で訴えながら、ラリーサに連れられて部屋を出ていくのをただ黙って見送っていた。


「おお、怖い怖い」


 ラリーサのことを一番知っているであろうリュポフが首をすくめて、ショウエの姿を見送っていた。


 エミリエンヌでさえ本気で背筋に寒いものを感じて動けなかった。


「ちょっとラリーサも、『男』殿やマリエッタのことになると過保護になるよな。母親気分なのかな」


「こほん」


 しばらくリュポフがタモンに向かってそう茶化して笑っていると、すぐにラリーサは部屋へと戻ってきた。後ろには説教済みと思われるショウエが、とてもおとなしくなった子犬のように従っている。


 思わずリュポフやタモン、エミリエンヌも椅子に座り直して背筋を伸ばしていた。


「タモン様」


「はい」


 タモンまで怒られているかのように、びくりと怯えながらラリーサに答えていた。タモンにも、今回の作戦について後ろめたいことが少し……いやかなりあるので、どうしてもそんな態度になってしまう。


「主君を安易に前線に立たせるような戦い方は、とても賛同できません。ショウエちゃんは、今後は気をつけるように」


「は、はい」


 いつの間にか子ども扱いになっているショウエは正座してラリーサの話を聞いていた。


「ただ、ショウエちゃんのお話を聞きまして、良き作戦かと思いました。どのみち大魔法使いの攻撃は驚異ですし、全軍での損害をなるべく減らすためにも賭けてみる価値はあるかとおもいました」


 にこりと笑いながらラリーサは言う。ショウエもお母さんに許された子どものように嬉しそうに目を輝かせながらラリーサを見上げていた。


 ラリーサ本人はというと、保護者としてのありたい自分を武人としての楽しみが上回ったように不敵な笑みを浮かべていた。


「ですので、私がタモン様をお守りいたします」


 ラリーサは大きく前へと飛び出した形状の胸を自らの手で叩き、お任せくださいと宣言した。


「え」


「あの……」


 タモンも少し驚き、目を丸くしていたが、それ以上にリュポフとエミリエンヌは腰を浮かせながら抗議しようとしていた。


「ラリーサまで北側の戦線に来るってことか?」


「はい。ですので、リュポフ様は南の戦線の指揮をよろしくお願いいたします」


 リュポフの言葉に、ラリーサは全く動じることもなく答えていた。


「実はもうオリガ様には、その旨をお伝えしております」


「ぐっ、用意万端。最初からそのつもりか。あーあー、こっちの方がオリガ姉さんもいなくて楽しそうだったのにな」


 オリガの名前を出されるとリュポフも仕方がないかと諦めて応じるようだった。ふてくされた態度ながらも大人しく南の戦線に戻る準備に取り掛かろうとしていた。


「ラリーサ様にわざわざ来ていただかなくても、タモン様は、私がお守りいたします」


 大人しくなったリュポフとは違い、エミリエンヌは一歩前に出てラリーサに対峙していた。


 南ヒイロ帝国軍にわざわざ守ってもらうというのは、タモンの軍に人がいないと言われているようで不本意であった。


「エミリエンヌ様には、別のお役目があります」


 少し怒気を含んだエミリエンヌの言葉に全く動じることなく、ラリーサは胸を張って答えた。


 軽く受け流したというように他の人からは見えた。『軍神』の異名を持つエミリエンヌの眼光も彼女には全く届いていないようだった。


「む」


「エミリエンヌ様にしかできないのは、ニビーロ国を安定させること。違いますか?」


 そう言われてしまうとエミリエンヌもその通りだと納得して、やや攻撃的な姿勢は大人しくなってしまう。


「ご安心ください。別に私が、タモン様を四六時中手元において抱きかかえているというようなことではありません」


「いえ、別にそういった心配をしているわけでは……」


 エミリエンヌはそう答えながらも、そういった心配が心の奥にないかと言われるとそうも言い切れない気がしてして黙ってしまう。


「あくまでもタモン様が無理をなさらないように、手綱を握らせていただくというだけのこと」


(人の主人を犬か馬のように……)


 ちょっとその表現には不満もあったけれど、エミリエンヌとしてもタモンが無理をするのを抑えて手助けをしてくれるというのであればありがたかった。

 特に自分が側にいられないことが増えるのであれば、少し無謀なことをするこの主人を誰かが抑えてもらいたいと思う。


 それはショウエでは無理だった。いや、むしろ一緒になってさらに無謀なことに挑戦しかねないという不安しかなかった。


「は、はい。分かりました。我が主人をよろしくお願いします」


 一度、エミリエンヌはちらりと横を向いてタモンの様子を確認した。特に不満そうな様子もなくこちらを見てにこりと笑っていた。


 それならばと、エミリエンヌは頭をさげ、こちらの戦線をそしてタモンのことをお任せするように頼み込んでいた。


「承知いたしました」


 ラリーサは穏やかにただそれだけを言った。


 エミリエンヌとの間には、持ちつ持たれつながらも、それなりの信頼関係ができたようだった。とその時はエミリエンヌも思っていた。


「ふふ、もちろん、タモン様が抱きかかえて欲しいのでしたら、ずっとそうしておりますが」


 ラリーサは、話が終わるとタモンの方に近づきながら、頬に手を当て甘いささやきくような声でそう誘っていた。


「な、何を」


 エミリエンヌは怒っていた。


 どちらかというと冗談を真に受けてまんざらでもなさそうに、嬉しそうに笑っているタモンに対してだった。




 


「エミリエンヌ。ドゥミの旧領から苦情がきているのだけれど、お任せしてもいいかしら」


 エミリエンヌは、ここ数日、ニビーロ国の戦後処理に追われていた。


「はい。カトリーヌお嬢様。お任せください」


「何か手伝えることはあるかしら」 


「いえ、大丈夫です。お嬢様は、ゆっくりお休みください」


「そう。ありがとうね。あまり具合もよくないので休ませてもらうわね」


 本当に申し訳なさそうに、カトリーヌは頭をさげるとエミリエンヌのいる部屋から退出していった。


「なかなか、大変そうだな」


 その様子を見ていたのは、南ヒイロ帝国のリュポフとタモンの軍師のショウエだった。


 絡みやすいのか、リュポフが一方的にショウエにまとわりついてはショウエも無下にはできないが嫌そうな顔は隠しきれないようだった。


「まあ、ご両親をいきなり失って気落ちしていらっしゃるのでしょう。無理はさせられません」


「そうだけど、それはエミリエンヌも同じだろう?」


 リュポフはぶっきらぼうにそう言う。


「まあ、私とは年齢も違いますし……」


「お優しいことだな。ニビーロ王家に対しては、複雑な気持ちだろうに」


 リュポフの意見は特に鋭い指摘とかそういうわけではなく、タモンの部下たちもニビーロの家臣たちも思っていることなのだが、エミリエンヌとしてもあまり考えないようにしていることだった。


「確かに……ここに来るまでは私の両親を処刑したというニビーロ王家に怒り、いっそ復讐してやるという気持ちだったのですが……」


「気が抜けてしまったと」


 エミリエンヌは、なぜ自分はリュポフにこんな話をしているのだろうと思いながら語っていた。


「ですが、本心ではニビーロ国を滅ぼしたくはないと思っていたのでしょう。結果的によかったのではないですか」


 ショウエが少しフォローしてくれるように二人の会話に入ってきていた。


 ショウエとはこの遠征中にずっと行動を共にしたので、エミリエンヌともよく話をする機会があった。気持ちの変化も何となく察しているだろうとエミリエンヌも感じている。


「ま、頼られているようだしこのままニビーロを乗っ取ってしまえば良いんじゃないか」


「そうですね。他の家臣たちもエミリエンヌ様に頭を下げてお願いしたいみたいですし、結果的には一番いい形になっておりましょう」


 リュポフとショウエにとっては他人事なのか気楽にそう言っていた。


「あの娘を傷心の今のうちに心の隙間につけこんで、愛妾にしちゃえば今後も安泰だろう」


「さすが、略奪王様の子孫は言うことが違いますね」


 軽いノリで適当な提案をするリュポフに対して、ちょっと苛立ったように突っかかるエミリエンヌだった。


(悩んで塞いでいるようだったエミリエンヌ様が、元気になっているように見えますね。さすがはリュポフ様なのでしょうか)


 険悪なムードでいがみ合っているようにも見えるが、横にいるショウエはエミリエンヌが軽口を言える相手を得て、少し元気を取り戻してくれたように感じられて安心していた。


(我ではこうはいきませんよね)


 ショウエはそう思う。どうしてもエミリエンヌは、部下や年下の人には弱い自分を見せないように振る舞ってしまうところがある。


 カンナでもいれば話し相手にはなってくれるとは思っていたのだが、カンナもあまり人の悩みを引き出して聞いてくれて、励ましてくれたりするイメージには程遠い。


(カンナ様だと延々と武器とか戦い方の話をしてそうですね……)


「別にいいだろう。伝説のマチルダ将軍にも可愛い子猫ちゃんが何人かいたっていうし」


「え、そうなのですか」  


 エミリエンヌを俗っぽい話に巻き込んでくれるリュポフは意外と言っていいのか分からないがショウエにとっては助かる存在だった。


「私も可愛い子猫ちゃんを何人か可愛がっているとも、エミリエンヌ殿も堅く考えずにそうするといいさ。君なら喜ぶお嬢様たちはいっぱいいることだろう」


 爽やかにクズな提案をするリュポフを蔑んだ目で見ていた。ただ、少し大げさな演技がはいっている態度だった。


「そんなものは不要です。私は、タモン様一筋ですので!」


 少し大げさな演技のままエミリエンヌは、そう宣言した。


「え」


「あ、タモン陛下」


 ふと見ると部屋にタモンが入ってきていた。そして、タモンに隠れるようにしてカトリーヌ嬢が戻ってきていた。


「嬉しいよ。ありがとう」


 タモン本人はからかっているつもりなどはないのかもしれない。

 本当に嬉しそうな笑みでエミリエンヌの先程の言葉に応えていた。

 ただ、その後ろではカトリーヌがちょっと悲しそうな目をしたあと下を向いて元気がなさそうにしている姿も目に入ってしまった。


「え。あの、いえ。違います。いえ、違いませんが」


 エミリエンヌは自分でも何故、困っているのかはよく分からないままに慌てて二人に向かい合っていた。


「さてと、それじゃ私は南の戦線に向かうとするかオリガ大姉さまがうるさいからな」


「わ、我も遠征の準備をしなくてはいけませんので、失礼します」


 リュポフは狙い通りになって楽しそうに立ち上がった。ショウエの方は、ちょっとこの手の相談には天才軍師の我の得意な分野ではありませんのでと言い訳でもするように、こそこそと部屋からでていった。


 行かないで欲しい。三人にされると何か気まずいと思いながらもエミリエンヌは二人を見送るしかなかった。

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