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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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和睦の条件に娘を迎え入れませんか?

 普段のタモンからは想像もできない殺気にも似た空気が流れて、幾多の戦場を駆け巡ってきたエミリエンヌも背筋が寒くなった。


 ただ、それは一瞬だけのことだった。


 すぐにタモンは普段通りの雰囲気に戻っていた。


 魔導協会から来たという使者に自ら歩み寄っていき、丁寧に出迎えていた。


 先程のタモンの鋭い視線や緊迫した空気は気のせいだったのではないかと、エミリエンヌは疑問に思うくらいにいつものタモンのままだった。


「和睦の使者ということでよろしいのでしょうか?」


「はい。その条件をお話しできれば思います」


 迂闊に言質を取られないためなどもあって、あまり国王自らがこのような交渉の場にででていくことはあまりないのだが、今日のタモンはかなり積極的に和睦の条件について交渉をはじめていた。


(そう……この戦いは、あくまでもニビーロ王家に抗議する私が中心なのだ)


 エミリエンヌはあくまでも後ろで構えさせておいて、タモンが仲介役を買って出ている。エリシアもショウエもいないことが一番の理由なのだが、あくまでもニビーロの戦いではタモンはエミリエンヌを支えている形を崩さない。その姿勢をエミリエンヌは嬉しく思いつつも、どこかもうこんな地位は投げ出したい気持ちにもなってしまっていた。


「『ニビーロ王家の存続は認める。ただ、旧ニビーロ王家の各領主たちはそれぞれ独立か従来通りニビーロ王家に帰属するかは選べるようにする』こんなところでしょうか?」


 しばらくのやり取りの後、タモンは割りと穏やかな表情と物言いながらも、実際のところは厳しい条件を突きつけていた。


 各領主に自由に判断させると言いながらも、今のニビーロ王家に付き従う領主は数が限られるだろうということが分かった上での条件だった。


「厳しい顔をされるかもしれませんが、ニビーロ王を説得してみましょう」


 魔導協会から来たヴァレリアという魔道士は、相変わらずフードは深くかぶったままだったが、タモンには丁寧に頭を下げて交渉に応じていた。


 タモンの場所からはヴァレリアの顔も覗き見ることができた。三十代の痩せた研究熱心な魔道士といった容姿に見える。よくいるそこそこの年齢の魔道士に見えはするけれど、瞳からはこれといった感情が読み取れない。


(丁寧に交渉には応じてくれているけれど、どこかロボットみたいだ……)


 タモンはそう感じながら、魔法使いヴァレリアの姿を観察していた。この世界はエミリエンヌやカンナはもちろん、ミハトやランダなども含めて屈強な戦士であっても、どこかやはり女性らしさを感じていたのだが、この人物にはそれがないと思っていた。


「エミリエンヌ様も、それでよろしいでしょうか?」


 タモンは様々な懸念は、一旦忘れてエミリエンヌの方を振り返った。 


「あ、はい。それで問題ありません。進めてください」


 タモンの方がエミリエンヌに仕えてくれている家臣のような態度だったので、エミリエンヌは動揺してしまう。


 ニビーロに戻ってからは、ニビーロ王家は許すまじと思って戦ってきたエミリエンヌだったが、ここ数日はそんな感情も薄れてきてしまった。


 先代から任されたニビーロ王家を滅ぼしたくはないという気持ちと、おそらく何か陰謀があったとしてもニビーロ王家が自ら率先して行ったわけではなくて、保身のために応じていたらこんな事態になってしまっただけなのだろうという推測していたが、徐々に確信に変わりつつある。


 とはいえ、エミリエンヌ領からエミリエンヌの一族を追放ないしは殺害して切り離した。その土地で、領民は何千人と連れ去られて帰ってこない。


 その点は問いたださねばならない。


(この魔導協会が黒幕ということもあるのでは……)


 エミリエンヌは、タモンの先程の鋭い眼光も思い出しながらそう思っていたのだが、そのタモンは意外とフレンドリーな感じで魔導協会から来ている仲介人と接し続けているのでエミリエンヌは困惑していた。


「あと、いかがでしょうか? 和睦の際にはニビーロ国王陛下の娘である王女カトリーヌ様を妻に迎えるというのは」


「……考えておこう」


「分かりました。ニビーロ国王にお話はしておきます」


 去り際に魔法使いヴァレリアは、フードを深くかぶりなおしながら、そう言った。わずかに口元は笑ったように見えたのがエミリエンヌには意外だった。


「ふう……」


 使者との会談は終わり、タモンは疲れ切ったのか椅子に座り、ずり落ちそうなくらいに倒れ込んでいた。


「だ、大丈夫ですか?」


 エミリエンヌは慌てて駆け寄って体を支えていた。


「随分、無理をされていたのですね」


 エミリエンヌはタモンの顔に手を添えて、病気にされたわけではないことを確認する。


 健康なだけに先程までの余裕で親しげに交渉を続けていた姿からすれば意外だった。


「こんな交渉事は得意じゃないしね」


 そっとエミリエンヌはタモンの頭を抱きかかえて床に座り直していた。


 タモンの言葉にそれは謙遜だろうとも思うのだけれど、できることと得意かどうかはまた違うのかもしれないと思い直していた。


「さっきのヴァレリアが何者なのかも全然、分かなかったんだよね……」


 タモンがぼそりとつぶやいた言葉にエミリエンヌは、意味がわからないといった感じで首を傾げている。


「……単なる下っ端のロボットかもしれないし、四天王の中での一番の小物かもしれないし、あるいはラスボスなのかもしれない」


 エミリエンヌは膝枕でタモンを休ませながらうなずいていた。


 単語の意味が分からない部分があったけれど、結局のところ魔導協会という組織が謎に包まれているという話だ。


 組織として大きいわけではないとエミリエンヌは思っている。


 ただ、諸外国との交渉の中でも変なところで影響力を発揮する組織だった。


(何をしようとしている人たちなのかが分からない……。ただ、タモン殿は最後には戦うと思っていることですね)


「ところで……」


 エミリエンヌも考え込んでいたところで、膝枕されたままのタモンはもう魔導協会のことは一旦忘れたかのような明るい顔でエミリエンヌの顔を見上げていた。


「はい」


「カトリーヌ様とはどんな人ですか?」


 その質問が先程の使者が帰り際に言ったことの確認なのだと、エミリエンヌは気がついた。


(ええと、和睦の証しとして嫁にもらうのはどうかということを質問されているということですね……)


 エミリエンヌはそう考えた瞬間に、もやっとした思いが胸の中に生まれてしまうことに気がついてしまう。


 実質的に降伏させた国や領主から、娘をもらって嫁にするのは過去の『男王』の常套手段だった。今までであれば、その後の遺恨も含めて割りとうまく収まっているケースが多い。


 だから、おそらく今回も和睦の条件として意味があるし、キト家やエトラ家ともうまく付き合っているタモンなら特に今後とも有意義な和睦の条件になるだろうとエミリエンヌは理解していた。


(ですが……あの娘と……ですか……)


 エミリエンヌは自分でも分かりやすい嫉妬心が芽生えているのに気がついている。


「実は、私もあまりカトリーヌ様とお話したことはありません」


「え? エミリエンヌでも?」


「はい。箱入り娘中の箱入り娘ですので、私のような軍人の家系の出るような席にはあまり出席されることはありませんでした」


 エミリエンヌは言葉に棘があることを自覚していた。『お高く止まったお嬢様で、普段は引き籠もっていらっしゃいます』というニュアンスがどうしても入ってしまう。


「まあ、そういうものですか……政略結婚のために変な恋人ができないように城の奥深くで大事に育てたりということがあるんでしょうね」


 タモンは、夫人であるマジョリーもそんな育てられ方に近いと聞いていたので王家の子どもというのはそういうものなのかとうなずく。ただ、女性の中でも幼いうちに跡取りか政略結婚のお相手とするかを決められてしまうのは、なかなか難しそうだと思っていた。


(そんなに他人事でもないんだよね)


 この戦いが終わって、自分が国王や領主の地位からおりたとして平穏に暮らせるだろうかとタモンは考える。可能性はでてきたと思っているけれど、まだ、今ではないと計算していた。


(もうしばらくは北ヒイロを治めないと、自由な生活はできないだろうなあ) 


 命を取られることはないかもしれないが、監禁されないために、そして北ヒイロの安定のためにもまだ国王の真似事は続けないといけないと少し気が遠くなっていた。


「戦いに敗れた『男王』さまとの和睦の交渉材料になるのですから、そのように育てた意味があったのでしょう。彼女も本望なのではないでしょうか」


 エミリエンヌは、カトリーヌ本人はまず望んではないだろうとは思いながらも皮肉めいた口調でそう言った。


「エミリエンヌ……何か怒ってる?」


 タモンは怖くて横を向けずに視線だけをずらしてエミリエンヌを見た。


「別に、私は怒ってなどおりません。カトリーヌ様はまあまあ可愛らしいお嬢様ですので、タモン様にとってもいいお話なのではないですか」


「……怒っているじゃない」


 明らかに不機嫌そうに、そう言ってこの場を去ってしまったエミリエンヌをタモンは困ったように見送るだけだった。 




 数日後、タモンたちはニビーロの王城へと入る許可を得た。


 一番大きな城門が開けられると、エミリエンヌと南ヒイロ帝国軍の前線での指揮をしているリュポフを伴って歩いていく。


「私たちが暗殺されてしまったら……結構、大変なことになるんじゃないかい?」


 リュポフは、タモンとエミリエンヌを交互に見ながらそう言った。戦争の前線での重要人物が少数の護衛だけで王城に入っていくことに、軽率なのではないかと言いたいようだった。そうは言いながらもリュポフは全く怯えることもなく余裕のステップで大きな城門を抜けると城までの道を歩いていく。


「もう和睦の条件の合意もされています。ほぼ、全面的に受け入れです。少なくとも帝国同士の戦争でトキワナが大反撃して勝利しない限りは問題ないでしょう」


「残念ながら、策を持って不意打ちするような計画を立てられる将がニビーロにいれば、こんな事態にはなっていないでしょう」


 タモンと辛辣なエミリエンヌの返事に、リュポフは笑っていた。


「あはは。確かに。だが、ニビーロはともかく魔導協会はどうなんだい?」


 リュポフの言葉に、タモンはさすがにリュポフ様は鋭いなと内心では驚いていた。


「包囲も長かったので、十分に魔法の防御陣を準備する時間はありました。今日、王城で魔法はほぼ役に立たないでしょう」


「さすがは『男王』殿たちだ」


 リュポフは、頼もしそうに笑っていた。北ヒイロの人たちは戦にも慣れていて助かると


「だが、魔導協会が魔法だけ使うとは限らないようなんだよね」


「え?」


 さすがにそんな名前詐欺のようなことがあるのだろうかと、タモンは変な声で聞き返してしまったが、リュポフは余裕の笑みで『そういう噂もあるというだけだよ』と返していた。


 冗談っぽく言うが、南ヒイロ帝国の情報網なのだから全く何の根拠もないというわけではないのだろうとタモンは訝しんでいた。


「ようこそいらっしゃいました」


 城の入り口では、明らかに他とは格好の違う数人が待っていて、こちらの姿を見るなりにこやかな笑顔を作ると両手を広げて出迎えてくれていた。


 おそらくこの人がニビーロの国王なのだろうと中心の人物を見る。


 線の細い中年は、この世界では珍しく口ひげがうっすらと生え揃っている人物だった。たくましさのアピールなのかもしれないが、タモンから見ればちょっと懐かしい感じがするというくらいの感想でしかなかった。


 隣に立っているのが夫人格の人だろう。こちらも少し神経質そうな線の細い体と顔に、少しだけ衣装はきらびやかだった。


「はじめまして、『男王』様。どうぞ、こちらへ、ご案内いたします」


 そしてニビーロ国王の後ろから可憐なドレス姿でタモンの横へとやってきた若い娘がおそらくこの娘が前に話のあったカトリーヌ嬢なのだろうとタモンも気がついていた。


(なるほど、可愛らしいですね)


 カトリーヌ嬢に応接間へと案内されながら、その容姿を観察していた。


 可愛らしくまとまった顔立ち、タモンよりも頭半分くらいは小さい背丈も含めて愛らしい。学校の後輩だったらきっとかなり意識しているだろうとタモンはそんな印象を受けていた。


 自分でも可愛らしい容姿だとは自覚しているのだろうけれど、これといったアピールできるところもなく、自らをもっとうまく魅せる方法も知らない。そこがマジョリーたちと比べると劣っているところだった。


 正直なところ案内なども全く慣れていなさそうだったが、対応を誤ると王族はみんな処刑されてもおかしくないと聞かされて頑張っているのだろう。緊張して手足も声も強張ってしまっているのをタモンも気がついていた。


「『男王』様は思ったよりも可愛らしい……お綺麗な方ですのね」


 カトリーヌ嬢は、廊下を歩きながら笑顔を作って振り返るとタモンにそう言った。


 おそらく頑張って仲良くなって好意を持ってもらいなさいと言われているのだろう。


(しかし、今、そんな話題ではないだろう……)


 タモンだけではなく、ニビーロ国王含めてこの場にいる全員がそう思っていた。


「いえ、物語ですと『男王』様はいつも大きくて怖いことが多いですから、今日も実際にお会いするまで怯えていましたの」


「ミド王みたいなお話もありますでしょう?」


 ミド王はかなり昔の『男王』で、東の帝国の祖先だと言われている人物だった。部下のミランダ将軍、プリシラ将軍の力を寵愛しつつ本人はかなり温厚な人物だったと伝わっている。


 ただ、あまりこの地方では有名ではない。どうしても近年で隣国の乱暴な『男王』のイメージが強いのは仕方がないことだった。


「まあ、確かに! そうですね。忘れておりました」


 カトリーヌ嬢は、失敗したという顔を一度した。学も無く、余計なことを男王本人に言ってしまったという表情だった。


 タモンもうかつに余計なことをいう娘だなとは思っていたが、実際のタモンの姿を見て本当に安心したのだなということは伝わってきて、それほど悪い気はしなかった。


「怖くはありませんのでどうぞよろしくお願いします」


 タモンはにこやかな表情でそう声をかけるとカトリーヌ嬢も、ぱあっと嬉しそうな表情になって応じていた。


「ええ、どうぞ、何なりとお申し付けください。どうぞよろしくお願いし……」


 タモンのことは怖くないと思って、安心して親しくなろうと頑張るカトリーヌだったが、タモンの背後にはとても長身で怖い表情のお姉さんが立っていることに気がついてしまった。


「お久しぶりです。カトリーヌ様」


「エ、エミリエンヌ……。お、お久しぶりね。げ、元気だったかしら……」


 タモンも怖くて後ろを振り返らなかったが、失禁しそうなほど怯えつつも後には引けないカトリーヌ嬢を見て流石に少し同情したい気持ちにもなっていた。

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