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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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「僕に一晩抱かれたいとかご所望だったりしますか?」

「ルナ様は、僕に一晩抱かれたいとかご所望だったりしますか?」


 ルドワイヤンの街で待機していたルナたちの部隊にタモンの本隊は合流した。そして再会したタモンの第一声がそれだった。


 元々は陪臣のような立場だったからなのか、ルナに対してタモンはいつまでも『様』づけのままで謙ったような態度なのだが、今日は特にいつもより緊張した面持ちで変な言葉遣いだった。


「え?」


 ルナはその言葉の意味が一度ゆっくり考えても理解できなかったので、主君にも関わらず思わず眉間にシワを寄せて聞き返してしまった。


 街の中心にある建物の中とはいえ、特に区切られた部屋でもない。回りは慌ただしそうに兵士や商人も行き来している。将兵が日陰で休める場所でしかない広間にも関わらず何故に堂々と夜のお誘いをされているのだろうかと戸惑っていた。


「い、いえ、あの、なんかこの戦いで一番の手柄を上げた人には僕のそんなサービス付きみたいな話が広まっていまして……ですね」


 何故か、そんなことを聞いたタモンの方が恥ずかしそうに困り果てていた。


「あ、ああ、その話ですね」


 ルナもその話自体は聞いていたので、何の話をされているのかはやっと理解できた。


「ええと、まず勝手に少し遠征してこの街まできてしまったのですが、それについてはお咎めはなしでしょうか?」


 先程の話はまだ自分に関係あるとは思えずにルナは、タモンと合流するにあたって昨晩からその点だけを気にしていた。


「ニビーロの王都を牽制するという任務からは外れていませんし、むしろ最大の牽制で最大の戦果であると言ってもいいです」


 タモンは力強くそう言ってくれた。


(そうでしょうか……まあ、そう言ってくれるならいいですか)


 ルナは疑問を持ったままわずかに首を捻る。ただ、それでいいと言ってくれているのなら、特にそれ以上異議を唱えるのも変な話だと思って、笑顔で褒められたままにしていることとした。


 ただタモンと一晩過ごせる権利に関しては、大人なルナは、さすがにちょっと考えた。若ければ、ただ気恥ずかしく権力者へ反発したい気持ちもあってすぐに突っぱねていただろう。ただ、今はやはりタモンの誘いを即座に断るのも失礼だと思ってはいた。


「ありがたいお話ですが……私は、遠慮しておきます。陛下も私のような色気のない女など興味はないでしょう?」


 考えた上で、やはり身分不相応で魅力もないので遠慮して断るという体にした。


「え? ルナ様はとてもお綺麗だと思いますが」


 タモンは素直にそう答える。


 こういう時のタモンは、別に社交辞令などではなく、心からそう思って言っている。この一年ほどの付き合いでルナはそのことをよく知っていた。ぼーっとしていそうで、実際にはかなり先を読んで策略を巡らせるのが好きな人なのだが、人に好意を向ける時は何も飾らない。ひたすら真っすぐに向かい合って、好意の言葉を伝えるのだ。


「……前から思っておりましたが、陛下はパートナーへの好みが少し変わっておりますよね」


 ルナは自分への好意の言葉をそう結論づけて、諦めたような息を吐き出しならタモンにそう言った。


 本当なら周辺諸国も含めて一番の美女であるマジョリーお嬢様にひたすら夢中になっていて良さそうなものなのに、その狙いは外れてしまい。巡り巡って、苦労をした結果、何故かルナはこうして兵隊とともに隣国まで行くはめになっている。


「変わってはいないよ」


 タモンは少し不満そうに口を尖らせていた。


「少し、守備範囲は広いかなと思う時はあるけれどね。ねえ、フミもそう思うよね」


 タモンはルナの肩越しにこちらに向かってくるフミに声をかけた。


「タモン陛下。何のお話ですか?」


「え? フ、フミ。あ、あの……」


 いまや恋人でもあるフミがいつの間にか近くにいて、ルナは慌てていた。どこから話を聞いていただろうかと慌ててしまう。


「ルナ様は、お綺麗で、こうやって慌てている時はさらに可愛いよねって話」


「ええ。もちろんです」


 フミはきりっとした表情を崩さずに真面目にそう答えていた。


「からかうのはおやめください!」


 タモンとフミが真面目な顔でルナの態度を可愛らしいと言い合う会話に、ルナは顔を真っ赤にして耐えきれなくなったのか大きな声で文句を言った。




「ああ、例の恩賞の件ですね」


 ルナを何とか落ち着かせようと宥めながら、フミはタモンに向かい合っていた。


 二人の間に、ルナを取り合っているかのような、やや緊張した空気が流れているようにも見えてしまいルナは首を振った。


「そもそも、私、そんなに大したことはしていないんですけれど、ショウエやカンナ様の方がよっぽど活躍しておりませんか?」


「いえ、この街を占領したのは、この戦争で一番の戦果です。この後、もし帝都攻略でどれだけショウエ様やカンナ様が活躍したとしても及ばないでしょう」


 ルナ本人が、この街の占領の重要性があまり分かっていなさそうなのを、フミがフォローしていた。


 この二人の組み合わせだから、今回の活躍なのだとタモンは目を細めて嬉しそうに観察していた。


「まあ、ルナ様にはフミがいるものね。そんな変な恩賞はいらないよね」


「え? あ、私たちは、別にそんな……」


 タモンの言葉に、ルナは今までと同じように照れながら否定しようとしたが、そんな言い訳はよくないと思ったのか言い直していた。


「ええ、そうですね。私のパートナーはフミだけですので、お断りさせていただきます」


 はっきりと分かってもらった方がいいとルナは、タモンに向かってそう言って断った。タモンはもっと照れるだろうと思っていたので、そう言われたことは意外だったが、二人が付き合っていることはもう分かりきっていることだったので、感慨深そうにうなずいていた。


「……ですが、ルナ様。ルナ家のことを考えれば、陛下のお誘いをただ断ってしまうのも良くないのではないでしょうか?」


「え? ルナ家? なに?」


 フミのアドバイスらしい言葉に、ルナの理解が追いつかなかった。


「え、フ、フミは私が陛下に抱かれた方がいいと思っているの?」


 恋仲だと思っていたのは自分だけだったのだろうかと、わずかに目に涙を浮かべながらフミに抗議するルナだった。


「もちろん、ルナ様が他の人のお相手をするのは、胸が張り裂けそうですが……。ですが、私もいつ発情期がくるかは分かりませんし……」


 フミも本当に苦しそうだった。


「子種だけでももらっておこうという話?」


 なぜそんな苦しそうな提案をするのか分からずにタモンは首をかしげながら聞いていた。


「はい。そうです」


「あ、いえ、陛下に対して、し、失礼なことを……」


 きっぱりと答えたフミに対して、ルナは慌てて取り繕うとしていた。


「いや、全然失礼じゃないよ。なるほど、そういうものか……」


 女性ばかりで子どもの生まれにくいこの世界だとそういう行為もあり得るのだなと、腕を組みながら考え込んで何度もうなずいていた。


(略奪王のやったことも僕らの常識だと酷い話だけれど、全くない話でもないのか……)


 家臣のパートナーに手を出して、反乱を起こされたという南ヒイロの略奪王の話を、自業自得で当然の結果だとタモンは思っていたけれど、この世界だとあり得ない話でもないのだと考えなおしていた。


 将来、自分にもあり得る話なのかもしれないと思う。


(ただ、調子に乗ると部下に恨まれてしまったりするわけか……)


 色恋沙汰は難しいとタモンは考えるのを放棄したくなってしまう。


「それは、王族とか名家ならという話でしょう? 私なんかは無理に子孫を残さなくてもいいわ」


 ルナは、主にフミに対してまだ抗議を続けていた。


「ですが、もうルナ様は今回の働きで領主になられることは間違いありませんし」


「り、領主?」


 ルナは、何をフミは馬鹿なことを言っているのかしらという顔をしたあと、同意を求めるようにタモンの方を向いた。


「そうですね。正式にマジェルナ地方は治めていただこうかと思います」


「え?」


 ルナは目を丸くしながら驚いていた。


「今回の功績を考えれば、当然のことかと思います」


 フミはルナが驚いていることに呆れたような顔だった


「え、いえ、でも、マジェルナはキト家の領地ですし……」 


「キト家とエトラ家で長年争ってきた土地ですから、独立させて誰かに引き継いでもらった方が平和になるとエリシアとも話していたところなのです」


 キト家とエトラ家の勢力を削いで、抑え込むためとも宰相エリシアは言っていたが、もちろん、タモンはそのことは黙っている。


「え。いえ、そんな、私なんかが……」


 混乱しているルナに対して、タモンとフミは左右から挟み込んで囁いていた。


「これは、キト家のためでもあるのです」


「そうです。タモン陛下のお墨付きでフミ様の領地としておいた方が、キト家のためでもあります」


 ルナはそう言われてしまうと、陰謀こそ駆け巡らせるものの特に成果を出せないキト家のことを思い心配する。


(確かにエトラ家や中央にこのままだと飲み込まれてしまいそうですしね……)


「……分かりました」


 ルナはしばらく悩んだのちにそう答えた。キト家に変な逆恨みをされてしまいそうな気もするが、これが自分ができる生まれ育ったキト家への恩返しだと決意した。


「ですが、私のパートナーは生涯フミさんだけです」


 ルナは格好良く胸に手を当てながら、そう続けて宣言した。


「はい。私もルナ様だけです」


 フミはその言葉を聞いて、ちょっと意外そうだったけれど感激したように手をとっていた。


「おおー」


 タモンも思わず拍手を贈る。


「まあ、私たちの間に子供ができなかったら、陛下とマジョリーお嬢様の子どもを一人養子にいただくといたしましょう」


 ルナは、フミの手をとりながらタモンに方を向くと不敵な笑みを浮かべながらそう言った。


 ルナとしては冗談なのだが、『だから、タモン陛下はマジョリーお嬢様を可愛がってくださいね』という意味も込めていて、マジョリーとキト家を応援しているつもりだった。


「分かりました。まずはこの戦争が終わりましたら、二人の結婚式をしませんとね」


 タモンは『ちょっと死亡フラグっぽい』という気がしてしまったけれど、二人を祝福したいと心の底から思っていた。


「け、結婚式? は、はい。分かりました」


 ルナは、自分なんかが結婚式なんてやる身分ではないと思っているのだけれど、さきほどの領主の話と、後輩であるランの時にはあんなに面白そうに『結婚式もぜひやるべき』と言っていた自分を思い出してさすがに諦めていた。


「フミは、こ、これからもよろしくね」

「はい。ルナさま、何としても勝って生きて帰りましょう」


 照れながらもはっきりと言うルナと、全く動じずに仕えていこうというフミの組み合わせをタモンは楽しそうに観察していた。



「面白いでありましょう? うちの主人たち」


 タモンの横にいつの間にか立っていたのはルナとフミの配下で部隊を最前線で指揮しているカメリアだった。


 いつも以上に、いちゃついている二人の主人に呆れながらもどこか微笑ましく見守っているようだった。






 ニビーロの王家は、トキワナ帝国の関が突破された知らせを聞き、兵を王都に集結させて固く守っていた。


 意外な展開に恐怖し、まずは最重要地である王都に一気に攻めてくることを想定して守ろうとしたのだが、結果的には逆効果だった。


「もうニビーロ王都の戦略的な価値は無いに等しいのですが……」


 エミリエンヌは、王都を見張るように陣を引きながらそうぼやいていた。


 今は敵対してはいるが、ニビーロの騎士団に対して『何をしているのか』と叱りつけたくもなってしまう。


 数週間で援軍が減り、孤立していった各地の領主たちは、降伏ないしは占領されていく。


 さらにはトキワナの方から余裕がでてきた北と南ヒイロの軍が続々と集結してきていた。


「どう? ニビーロ王都の様子は?」


 タモンも数週間ぶりに戻ってきていた。エミリエンヌからすればまるで『もうあまりニビーロに用はないけれど、ちょっと寄り道がてらに立ち寄ってみたよ』というくらいの軽い調子に見えてしまう。


「ひたすら引き籠もって、無駄に兵糧と士気を失っています」


 エミリエンヌは辛辣というか敵ながら呆れてしまったかのようにそう報告する。 


 エミリエンヌの名前に怯えてろくに打って出ることもしなかったため、数週間たって完全に包囲は完成して徐々に包囲網は厚みを増していた。


「南ヒイロ帝国の軍も合流いたしましたし、攻略いたしますか?」


「そうだね。数日、何も返事がなければ王都を攻めることにしようか」


 タモンとエミリエンヌはもう長年一緒に連れ添った相棒であるかのように、説明する言葉も最小限で理解しあっていた。


「まあ、でも、もうじき動きがあると思うよ」


 もう何かしらの情報をつかんでいるようで、タモンはリラックスして待ち構えていた。


 タモンの言った通りで、すぐにニビーロ王家からの使者を名乗る人物が面会を求めてきていると報告を受けた。


 許しを得たその人物は、護衛の兵の間を抜けて一人現れた。


 魔道士の格好だった。タモンもエミリエンヌも周囲の兵たちも少し意外な表情で見ていた。


 いかにも昔からの魔法使いという格好なのだが、身につけたローブは決して古臭くは感じられずに綺麗で艶がある服装に見えた。全体的には今風な魔法使いだという印象を与える。北ヒイロの魔法学校にいた生徒が大きくなったらこんな感じになるかもしれないとタモンたちはじっと見つめていた。 


「和睦の仲介をさせていただきたいと思います。魔導協会からの使者、ヴァレリアです」


 ヴァレリアと名乗った魔道士は深々と頭を下げてから、タモンの方に向かって歩いてきていた。フードを深くかぶり、年齢や容姿は良くわからないが三十代くらいの印象を受ける。


「魔導協会……ついにでてきたか……」


 横のタモンがぼそりとつぶやいたのをエミリエンヌは聞き逃さなかった。


 自分と戦っている時にも向けなかったであろう怖く鋭い視線は、エミリエンヌの周囲にも緊迫した空気が張り詰めさせるのに十分だった。

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