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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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クヴァンスの戦い

「ルナ様の部隊は、背後の都を攻めるような動きで牽制を」


 ショウエは、各地に細かく指示を出していた。


 伝令役の魔法使いがショウエの伝令を受け取るとすぐに姿を消してどこかに消えていく。


 エミリエンヌもこのような光景を初めて見るわけではないが、王都とかではなくこんな田舎町でもそんなことができるタモンの部隊に感心していた。


「エミリエンヌ殿の部隊は、クヴァンスの山まで敵を誘いこんで迎え撃っていただきます」


 ショウエは最後にエミリエンヌの方を向いて、指示を出した。態度は丁寧でどちらかと言えばお願いのようにも聞こえる。


「そんな簡単に誘いに乗ってくれますでしょうか」


 ただ、エミリエンヌは、この年若い軍師の才能は認めているし、狙いは分かるがさすがに甘いのではないかと嫌味な口調になる。


 まだ実戦経験が乏しいのだ。経験豊富なヨライネ様相手では、そうは思い描いたようにはうまくいかないだろうと思っていた。


「前線に出てきているのは、シモーヌ将軍です。エミリエンヌ様に向かってきて、調子に乗って追いかけてきてくれましょう」


「それは……確かにそう……だと思いますが……」


 エミリエンヌはシモーヌの顔を思い出すとともに、名門であることをいつも鼻にかけてエミリエンヌに対して嫌味ばかりであったまで鮮明に記憶から蘇ってきてしまった。


「あと、クヴァンス山も脇から回り込まれれば一気に厳しくなってしまいましょう」


「シモーヌ将軍の後ろに控えているのは、エディット将軍です。シモーヌ将軍の手柄になるような手助けはしないでしょう」


 エミリエンヌは今度はエディットの顔を思い出していた。確かに、シモーヌとも仲が悪かったことも思い出していたが、だからと言って、安全を保証できるほどでもないと思っていた。


「それだけでは……」


 部隊を扱うエミリエンヌの不安をショウエは一蹴する。


「大丈夫です。大丈夫です。お任せください」


 胸を叩く小さなショウエの姿を見てまだ不安は拭えなかったが揉めている時間もないので大人しく従うことにするエミリエンヌだった。


 




 


(要するに各個撃破ということですね……)


 どんな奇想天外な策でも出してくるのかと身構えていたが、ショウエの策は普通のものだった。


(しかし、数と質が……)


 最前線で指揮をしながらエミリエンヌは苦悩する。


 狙いは分かるが、これは押しつぶされてしまうだろう。


 シモーヌ将軍と対峙したエミリエンヌは、見た目にもみすぼらしく負けている自分の部隊を見ながらその考えを深めていた。


「撤収! 一度、山へと退くぞ」


 一度ぶつかったあとで、エミリエンヌはそう命令する。


 当初からの予定どおりではあったが、このままだとさすがにエミリエンヌであっても全滅してしまいそうなだけに演技でもなく撤退を決めた。


「よし、追え! 追え! 道は狭かろうが恐れることはない! 攻め続けろ! エディットには回り込むように伝えろ!」


 相対するシモーヌが威勢よく追撃の命令を伝えた。


(狭い道で迎え撃とうという作戦なのだろうが、これくらいであれば時間の問題だ)


 シモーヌをはじめ、ニビーロ国の将軍たちはエミリエンヌに対して、憧れと合わせて劣等感を皆持っていたが、シモーヌは今、それを払拭できるまたとない機会を得ていた。


 何としても、エミリエンヌを跪かせたいという思いが前のめりにさせていた。エミリエンヌを逃がすための伏兵もいるが、少々の被害はお構いなしで進軍する。


(やはり、もし、このままで回り込まれてしまったりすれば……無理ですね……)


 エミリエンヌは、狭い山道に布陣しながら周囲を見回していた。左右が崖で狭い入り口は戦力差を埋めるのには好都合で、自らの槍を奮って押し返す姿勢を何度も見せていた。


 しかし、やはりこれで別働隊に回り込まれれば、どうしようもない。


(ショウエの作戦が甘いのではないか……いや、もしかして私たちは捨て駒として……)


 どうしてもそんな疑いも脳裏に浮かんできてしまう。


「後続のエディットの部隊は、別のところに向かっているようです」


「何?」


 ケンザからの報告に、エミリエンヌは驚いていた。良い知らせであるのは間違いないが、かなり絶望的な状況を覚悟していただけにすぐには信じられずに状況を整理しようとしていた。


「あ、あれではないですか?」


 ケンザが少し高いところから、エディットの部隊とその先にいる部隊を指差す。


「……なるほど、タモン殿が囮になっているのですね」


 逃げていくタモンの姿を見て、エミリエンヌはなんて作戦なのかと呆れたような顔をしていた。


 (おそらくタモン殿は絶対に捕まえるように指示がでているのでしょうか……)


 自分が北ヒイロに攻め込んだ時のことを思い出すとエディットには思わず同情してしまう。ひょっとして『男王』もいるかもしれないという情報くらいで、ここには来たのだろう。いきなり、目の前に現れて、逃がすわけにもいかず。全部隊を率いて追いかけるはめになってしまったのだ。


「こちらは助かりますけどね……」


 味方となると頼もしいけれど、あの『男王』は無茶をして怖いとも感じてしまう。


 ため息を一つつきながらも、目の前の敵に向かい合う。


「続け!」


 エミリエンヌは気合いを込めて、指揮官としての地位を忘れて騎馬での突撃を開始する。 


 あまり自分も褒められたものではないが、これが一番効果的な戦い方だと確信して馬上から槍を振りかざし道を切り開いていった。


「急に元気になりやがって、悪あがきだ。迎え撃て!」


 敵将シモーヌは、周りの状況が分かってはいなかった。もうエミリエンヌは完全に包囲されて、やけになっているだけだと思い、部下たちには気合いを入れて踏ん張れとしか命令を飛ばさない。 


「む、無理です。強すぎます!」


 数分もしないうちに部下たちからは悲鳴が飛び交っていた。


「化け物か」


 完全に一人の武勇で、シモーヌの部隊は混乱に陥っていた。


 エミリエンヌの強さは分かっていたはずだが、こうして目の前で敵として戦ってみると恐ろしい存在すぎてニビーロの兵たちはもはや立ち向かう気力さえおきなかった。


「将軍! 横からも敵が!」


 一度、下がってエミリエンヌだけを囲もうと思っていたシモーヌは、その報告を受けて驚愕しつつ自分のおかれた状況について改めて確認しようとする。


 いつの間にか一緒にいたエディットの部隊は姿が見えない。そして、横からは見たことがない北ヒイロの兵が迫っていた。


「どういうことだ。周りの兵は全滅したのか?」


 思わず最悪の可能性を口に出して、部下たちをも怯えさせた。


 大多数がトキワナ帝国と戦っているはずの、北ヒイロの軍がこちらに実は来ているのだという想像がニビーロ兵たちの間で浮かんでしまうのは時間の問題だった。


「ショウエ殿か? どこにあんな部隊が」


 エミリエンヌも、最前線で戦いながら援軍の存在を確認する。 


 タモンを守っている部隊とは、別にショウエたちは部隊を引き連れて見事にシモーヌの軍の脇腹をついていた。


「まあ、いい。今だ! かかれ!」


 疑問はありながらも、助かったのは間違いない。もう浮き足立った敵軍は自分が最前線で戦うまでもなく崩壊していった。


 


「いや、さすがはエミリエンヌ様。お見事です」


 完勝に終わった戦いの後で、馬上のままショウエはエミリエンヌに近寄ると称賛の言葉をかけた。


「いえ、ショウエ殿のお力があってこそ」


 ニビーロ兵が多数横たわっているのを見下ろすのは、エミリエンヌにとっては複雑な気持ちだったが、ショウエの言葉に笑みを浮かべて返していた。


 エミリエンヌからすれば、うまく自分を利用された感はある。ただ、ニビーロ軍の内情をよく理解した上での戦いなのだと今回の戦いで改めて気が付かされた。


(恐ろしい子だ……)


 今、ショウエの才能を世界で一番理解してそして恐れているのは自分なのだろうなとエミリエンヌは思う。


 エミリエンヌからすれば少なくとも今現在は味方であることに感謝するしかなかった。


「ニビーロはエミリエンヌ様が前線に立つことで、何とかなっていた問題点が表にでてきてしまったのですよ」


 ショウエもエミリエンヌのことを今回の戦いで改めて見直しているようだった。称賛とライバルとしての視線で二人はしばらく視線を絡ませていた。


「ところで、そちらの部隊というか……将はどなたなのですか?」


 気がつけば、ショウエの後ろに見慣れない顔が並んでいた。


 近くにいるのは数騎だけだが、見事に馬を操りショウエの側へとぴたりと駆け寄って馬を止めていた。


「こちらは、ケンザ殿たちを送る際に紛れ込ませていた元キト家の兵たちです」


「おお、名高いエミリエンヌか。よろしくな」


 後ろのひときわ大きな体の将が、エミリエンヌを見て軽いノリで挨拶をしてきた。


「ランダと言います。キト家に反乱を起こして、タモン様に成敗されたのですが、今回許されて前線で働いてもらうことになりました」


「ああ、あの……ランダ」


 ショウエの説明にエミリエンヌも驚いていた。

 エミリエンヌも北ヒイロの情勢は調べてある。先程の戦いでも見事な戦いぶりだと目を引いたが、まさか、あの人なのかと納得していた。


「別に俺は反乱起こしたわけじゃないし、今もショウエの部下ってわけじゃないんだけどな」


 不満そうにランダは口を尖らせながら言う。ただ、どこか戦いが好きそうで久しぶりの戦いに満足しているようにも見えた。


「うるさい。我の言うことを聞かないとまたカラムラ地方に帰ってもらうぞ」


「へいへい。分かりましたよ。軍師様」


 かつては敵だったらしいショウエとランダのやり取りに対してどう見たらいいのか分からずに少し苦手そうに見守るエミリエンヌだった。


「今日の戦いで危機は脱しましたが、これからも地道に各個撃破していかなくてはいけません」


 ショウエは、ランダとエミリエンヌを交互に見ながらそう言った。


 そう、まだまだ一度負けたら終わりな戦いが続くのだとエミリエンヌも身を引き締める。


「まあ、ニビーロなんて楽勝だって。俺に任せておきな」


 ランダは大笑いしながらそんな大言壮語をした。ニビーロなんてという言葉には、エミリエンヌは少しムッとした表情を見せたが、ランダの方は気がついてもいないようだった。 


「それでよ。例の話って本当なのかよ」


 ランダは、昼間から酔っ払っているかのように馬上で体を傾けてショウエに顔を近づけていた。


「何ですか。例の話って……」


「戦功一番の活躍をしたら、タモンにお相手をしてもらえるって話だよ」


「ま、まあ、本当におっしゃっていました」


「そうかあ。それは楽しみだな。タモンを手籠にできるなんて」


 豪快に笑うランダに対して、ショウエもエミリエンヌもこいつには負けたくないと決意を新たにしていた。

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