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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第3章 最後のお妃編

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最前線の寵愛争い

「いやあ、恐ろしかったなあ」


「あんなすごい魔法みたことがなかったさ」


 大魔法使いヨハンナの去っていったあとで、エミリエンヌの護衛をしている兵たちは丘まで進んで休息をとっていた。一息つくと、先程の光景を振り返って恐怖の言葉を漏らしていた。


 ただ、誰がどのようにしたのかは分かっていないが、あのような魔法も防げるのだという確認ができたことから、兵隊たちにもそれほど顔にも声にも絶望した様子はない。むしろあのような珍しい魔法を見ることができて、いい土産話になるという雰囲気さえも感じられた。


「ニビーロはあまり魔法の盛んな国ではないですから」


 エミリエンヌも鎧姿のままで地面に腰を下ろして水を飲んでいた。


 未だに興奮冷めやらぬ感じで騒いでいる兵たちの姿を見ながら、エミリエンヌは苦笑しながら隣で座っているタモンに向かってそう言った。自分もそうなので落ち着かないのは許して欲しいという意味合いも感じさせた。


「ですが、これは好機です」


 大きな石に腰掛けていたタモンにすっと寄って来たショウエはそう力強く言った。


「好機とは?」


 エミリエンヌは、怪訝そうな顔をする。先ほどの戦いを見ても大魔法使いは恐怖でしかない。


 警戒こそすれ、好機というのは受け止められなかった。うかつな行動をして徐々にエミリエンヌの元に集まってきてくれた領民たちをあまり無謀な危険にさらしたくはないと思っていた。


「トキワナ帝国の方に備えていると思っていましたが、こんな土地にまで出張ってくれたのはむしろ幸いでしょう。慎重に行っていたトキワナ帝国の関の攻略を一気に攻勢にでていいかと思います」


「なるほど……」


 トキワナ帝国の要地攻略のことまで考える余裕がなかったので、エミリエンヌはショウエに対して素直に感心していた。


 『こんな土地』と言われてしまい少しだけむっとしたエミリエンヌだったが、実際に何もないところだと周囲を見回しながら思うのだった。


「南ヒイロ帝国軍に総攻撃の好機だと伝えましょう! カンナ将軍たちにもそれに足並みを揃えるようにとの指令を」


 ショウエの言葉に、タモンも大きくうなずいた。


 ショウエの眼の前には緊急事態だけに現れる魔法使いが控えていた。すぐに魔法使いたちによるネットワークで連絡が行われるようだった。


(魔法使いを恐れすぎず、頼りすぎず。冷静ですね)


 まだ若いショウエを見ながら、大したものだと思い。見習わなくてはと感心する歴戦の勇士エミリエンヌだった。


「まあ、……あとは私たちがこの土地でニビーロ軍と大魔法使いヨハンナを食い止める必要があるのですが」


「え?」


 先程までのショウエに対する称賛の気持ちはどこかに飛んでいって、エミリエンヌはとても不安そうに疑問の声をあげていた。


「大丈夫でしょう。大魔法使いヨハンナもかなり魔力を使って消耗しているはずです。もう大きな魔法はしばらく使えないでしょう」


「確かに……それは、そうだが……」


 指揮官としては、その考えは良く分かる。危ないことは間違いがないが、最悪、ここは時間稼ぎでもいい。


 今こそが好機なのだとエミリエンヌも腹をくくる。


「おそらく……ですが……」


 ショウエはとても小さな声で露骨に目を逸しながらそうつぶやいていた。


「……」


 エミリエンヌはその小さな声を聞き漏らさなかった。先程よりもさらに鋭い視線でショウエを見ていた。


「今までの魔法使いの動きを見ていれば、大丈夫です。ただ、大魔法使いの底が実際どれくらいかは分かりませんし……」


 ショウエも大魔法使いが実際に力尽きるところを見たことはないので、あくまでも推測だった。それに関してはエミリエンヌも実際のところは分からないのであまり責める気にもなれなかった。


 ただ、タモンもショウエの言葉にはうなずいて、穏やかな笑顔でショウエに理解を示していた。


「色々な想定をしておくことは重要だしね」


「はい」


「大魔法使いが、もう一人いるなんてこともあるかもしれないしね」


 タモンのその言葉には、ショウエもエミリエンヌも『それはあまり考えたくはないですね』と苦笑いをしていた。


 ただ、なぜ、今、そんなことを言うのかという疑問を二人とも思いながらタモンの横顔を見ていた。


 


「エミリエンヌ様!」


 メデッサより北のトランバの町で、予想外の再会をしたのはエミリエンヌのかつての副官ケンザたちだった。


「おお、お前たち」


 エミリエンヌの姿を見て、ケンザたちは一斉に駆け寄ってくる。


 その数は数十人ほどで、エミリエンヌは、ケンザをはじめ北ヒイロで別れたかつての部下たちに囲まれて再会を喜んでいた。


 もしかして、ニビーロに帰国した瞬間に、どこかに連れされてしまうのではないだろうかと本気でそんな想像もしてしまっていただけに、無事で多くの部下が今、この場にいてくれることに目を潤ませながら感謝していた。


「まさか、こんなに早く再会できるなどと思っておりませんでした」


 ケンザが代表してそう言うと、後ろの部下たちも涙を拭いながらうなずいていた。船でニビーロの最北端に送り届けられた結果、ほとんど同時にエミリエンヌ領に戻ってくることになってしまった。


 そう言ったあとで、ケンザたちは横に立っているタモンに視線を向けると複雑な表情になっていた。


 無事にエミリエンヌ様を連れ帰ってきてくれて感謝したい気持ちと、この男王に誑かされてしまっているのではないかという不安を持っていたのだが、未だに可愛らしい格好をしているタモンを見ると今、どういう関係なのが分からずに困惑してしまっていた。


「私たちは、再びエミリエンヌ様の元で戦いたいと思います」


 タモンのことは一旦考えないようにして、ケンザは片膝をつきエミリエンヌ個人に改めて忠誠を誓っていた。


「いいのか? 私は今、ニビーロにとっては反逆者だぞ」


「それが許せません!」


「王家はおかしい!」


 ケンザは即答し、他の部下たちからも不満の声が次々と上がっていた。


 エミリエンヌもこうして各地の有力者たちの誤解を解き、力を貸してもらおうとしているのだから、ケンザたちの申し出は嬉しかった。


 ただ、ケンザなどはそれなりの家の騎士であり、巻き込んでしまった思いが強かったので改めて現状を確認しようとしたが、力強くむしろエミリエンヌを支える声をあげていた。


(やはり、今、この国で何かが起きている……)


 ケンザたちがどの程度知っているのかは分からないが、異変をそして危機を感じているようだった。


「分かった。お前たちの命は私が預かる。ニビーロ王家を問いたださねばなるまい」


 エミリエンヌのその宣言に、ケンザたちは目を見開き歓声をあげる。


「やはり絵になるね。こういう人が英雄なんだな」


 タモンはぼそりとつぶやいていた。


 ショウエはちょっと複雑な表情で、エミリエンヌの姿を見つめるタモンの横顔を見ていた。


「何を言っておりますか、我らが王にも頑張ってもらわないと」


 色々と沸き起こってきた感情は一旦、どこかに投げ捨ててショウエはタモンに発破をかける。


「これからが本当の戦いですよ」




 エミリエンヌはケンザたちと合流。そしてニビーロ王家を問いただす宣言によって、エミリエンヌ領近辺の人々は慌ただしく動き出した。


 明確にこれはニビーロ王家にとっての反乱軍であると認識され、エミリエンヌも一歩も引かない構えをみせる。もはやニビーロ王家が折れない限り本格的な軍事衝突は避けられない事態になっていた。


「続々と人が集まっていますね」


 ショウエは、トランバの町を数日留守にしていた間にエミリエンヌの元へと集まってきている人が予想以上に多いことに良い意味で驚いていた。


 エミリエンヌの人徳なのか、それとも今のニビーロ王家への不満なのかは分からないが、少し殺気立った人々の間をすり抜けてエミリエンヌの本陣へと向かっていった。


 トランバの町の外れに、天幕を張りそこを本陣としていた。


 町は小さく、少しでも町の中心から離れれば開けた土地の周囲は田んぼしかみえないのどかな風景だった。


「順調ですね」


 天幕の中に入るとタモンと並んでいるエミリエンヌの姿を見て、ショウエはそう声をかける。


 今はエミリエンヌの部下たちはそれぞれの任務についているのでエミリエンヌの他には、タモンとケンザの数名がいるだけの空間だった。


 タモンももう女装ではなく出発した時と同じ軽い鎧姿に着替えている。特に秘密にもしていないが、あまり外に出ることもしていないため領民には騒がれたりということもないようだった。


「そうは言っても、やはり実際に戦える兵となるとケンザたち昔の兵が集まっても未だに千程度」


 エミリエンヌ様のために力を貸したいと言ってくれる人々はかなりいるし集まってはきているいるが、軍としてまとめる時間はなかった。


「一両日中に王都から討伐軍が送られてきます」


 ショウエはそう報告すると、エミリエンヌは分かっていたこととは言え表情が険しくなる。 


「司令官はヨライネ様で、他の将軍たちも合わせて三万兵ほど」


「さすがに重い腰を上げましたか……」


 南ヒイロ帝国の軍に備えていたであろう軍もまわして、今のニビーロに出せる本気の軍勢であることは間違いがない。


 エミリエンヌが出兵する時には絶対に動かそうともしなかった本軍を自分に対して動かしたのは皮肉すぎて、嘲笑したくもなる。


 今、エミリエンヌの元に集まっている軍は、数千兵程度だった。そして、ケンザたちを除けばとても精鋭とは言い難い。


 タモンの軍と合わせても、一万いくかいかないかだろう。


(とはいえ、ヨライネ様も大変そうですが……)


 エミリエンヌは不利な状況ながら、敵将に同情もしていた。 


 他に大軍をまとめられる人はいないのだ。命からがら北ヒイロから逃げることができたと思ったら、今度はこのような反乱軍討伐の司令官を任される。他の老将軍たちは文句を言うだけで、自ら動こうとはしない。


(あの、将軍たちや大臣たちに一泡吹かせられるのだったらいいかもしれませんね)


 ニビーロの大黒柱だった身からすれば、どうしても気乗りがしないこの戦いだったが、嫌味ったらしく役に立たなかった将軍や大臣の顔を思い出すと憎しみを込めてこの戦いで一泡吹かせたい俗人な気持ちも湧き上がってきていた。


「準備の時間がない。不利な状況であることは間違いがありませんね」


 余計な気持ちをいったん忘れ、エミリエンヌは気を引き締めた。


「ええ、厳しい戦いになりますが、我らが力を合わせればなんとでもなります」


 ショウエは手に胸を当て、自信たっぷりにそう言い切った。


 エミリエンヌから少し離れたところに控えていたケンザは、その言葉にムッとした表情を見せる。


『こんなお子様が、エミリエンヌ様とまるで同格のよう振る舞うなんて身の程を知らないな』とショウエの今までの働きをあまり知らないケンザは、ただの『男王』のお付きのものとしか思っていないので睨みつけていた。


 エミリエンヌは、ここ数ヶ月一緒に過ごしているだけにショウエの才能を分かっている。その言葉には、素直に嬉しい笑みを浮かべていた。


「ふふ、陛下、お忘れではないですよね」


「え、何のこと?」


 ショウエが奇妙な笑みを浮かべてタモンを横目で見ていた。


「もっとも戦功を立てた者を、夜の天幕に呼んでいただけるというお話です」


 ショウエは、タモンに向かって恥ずかしがることもなく楽しみでしかないという真っ直ぐな目を向けながらそう言った。


 一瞬、ちらりと横目でエミリエンヌの方を見ていた。


(これは……私に宣戦布告しているということですね……)


 さすがにこの態度には、エミリエンヌも負けず嫌いな一面を隠しきれなかった。


 ショウエに対して鋭い視線を向けて闘志を燃やしていた。

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