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田舎の城からの生き残りハーレム増築戦略  作者: 風親
第1章 建国編
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戦略的ハーレムの勧め

「後宮?」


 ずっと城の石造りの窓から外を眺めていたタモンはゆっくりと振りかえった。


 聞こえなかったわけではなく、意味が分からなかったわけでもない。

 それでも、確かめずにはいられなかった。


「はい」


 部下のエリシアは簡潔に肯定しただけだった。

 黒い髪と黒い瞳がこの世界だと印象的な少年であるタモンは、背筋を伸ばして立っている凛とした表情のエリシアをじっと見つめていた。


「後宮ってハーレムってことだよね」


「はい。作りましょう」


 この優秀な女性文官は即答した。

 ただ、さすがにそれだけでは説明不足と思ったのか一応の補足をしようとする。


「陛下は貴重な男性ですから、このままではいずれ陛下を欲しいという勢力が強奪に来る可能性は高いと思います」


「そうなる前にこちらから動こうってことね……」


「周辺の領主の娘たちを迎え入れて、子供をたくさん作って乗っ取ってしまう……もとい、いずれは仲良く一つの国になるのが、この地域の安定のためには一番良い方法だと思います」


「要するに……」


 少しの間があった。タモンの視線が、相変わらず表情を変えることなく背筋を伸ばして立っているエリシアへと移ると、タモンがいる窓からの風に吹かれて、エリシアの肩まで伸びる藍色の髪がちょっと揺れた。


「僕に種馬になれってこと?」


「……そうです」


 エリシアのやや細長い目が一瞬だけさらに細くなったあとの答えだった。石造りの城の中の一室は、ひんやりとした空気が漂っていてエリシアの声も冷たく響いた。ただ、この半年の付き合いで二人の間にはこれだけのやりとりでも不快に思ったりはしない信頼関係があった。


「『もう少し優しい表現にしようとしたけれど、やっぱり現実に向き合ってもらうためにそのまま肯定することにした』という返事だよね」


「さすが陛下。私の心情まで察してくださり、感服いたします」


 エリシアは抑揚のない事務的な声で言った。いつも表情が硬くて、まじめなこの女性の姿勢は出会った時から変わらないままだった。どうやら感服していることは本当らしいとタモンは感じていた。


 でも、今、しっかりとタモンを見つめている目元はちょっと笑っている気がした。


 タモンは、一歩近づいてエリシアと向かい会う。この一年でたくましくなったとはいえ、まだ優しそうな少年という言葉がぴったりくるタモンと、それよりちょっと年上な厳格なお姉さんという感じのエリシアの組み合わせは、傍目には大して威厳のあるようには見えないが、今やこの地方の中枢を担う二人だった。


「それはそれとして、陛下って呼び方はやめて。なんか照れくさい」


「なぜですか、小さくとも私たちは今、この地方を治めています。これからは組織としても規律を重視していかなくてはいけません。そうおっしゃったのは陛下ですよね。陛下?」


「……はい」


 やっぱり最後のその呼びかけに、ちょっと馴染めずにタモンは頬をかきながら身をよじらせる。


「では、ちなみに……なんとお呼びするのでしたら、よろしいのですか?」


 ため息をつきながら、一応聞いてあげますという感じでエリシアは尋ねてくる。タモンは腕を組んでしばらくの時間、真剣に考え込んだあとで提案した。


「じゃあ……百歩譲って、お館さまで」


「オヤカタサマ? 何ですか、その変な名前は?」


 何と言われてもタモンも何となく歴史ものとかで聞いたことのある呼び方を適当に言っただけなので、困ってしまう。


「分かりました。では『お館さま』で。皆にもそう呼ぶように徹底させます」 


 エリシアは、何故かこんな時は笑顔だ。

 一年前までは、日本にいる普通の男子高校生だったタモンからすれば、その呼び方でさえ、どうしても仰々しく思えてしまう。

 タモンがこの女性ばかりの世界に降り立ってからちょうど一年くらいの年月が流れた。


(そう、この世界は女子ばかりなのだ……)


 タモンは声には出さず心の中でつぶやいた。


 今、目の前にいるエリシアの他にも、城の中で庶務をこなしている内政官も、城の外で訓練をしている兵隊もみんな女性だった。さらに外にでても農作業をしているのも、荷物を運搬しているのもみんな女性だった。


 落ち着いた生活になってみると、改めてこの世界は自分がいた世界とは違う変わった世界だということをタモンは再認識する。


(これが自分の妄想が再現された世界とかいうのだったら、かなり恥ずかしいな)


 この世界に降り立った時から、タモンはずっとそう考えていた。

 ただ、結構、ひどい目にもあってきたので、恥ずかしい願望だけの世界でもないだろうとも実感していた。


 今、住んでいる城の前の城主は、貴重な『男』であるタモンを捕まえて自分の所有物にしようとした。地下室に監禁されて、城主をはじめ権力者のおばさんたちにおもちゃにされる日々が何日か続いた。なんとか脱出する際に手伝ってくれたのが今もタモンに付き従ってくれている仲間たちだった。


 そして、黒幕だった悪い魔法使いを力合わせて倒して、前の城主を追い出したのがつい先月のことになる。


 かくしてタモンたちは、城を乗っ取り、悪い魔法使いに味方している勢力を倒していったらいつの間にかこの地方を支配していた。タモンは今や事実上、この周辺の領地を支配していた。


「おかしいな。異世界での大冒険は終わって、あとは、このお城で気楽なスローライフ人生が送れると思っていたのに」


 窓に肘をつき、周囲ののどかな農村風景を眺めながらタモンはため息をついていた。


「お館さまの考えるスローライフがどのようなものかは分かりませんが、奥方をもらいましょうというだけではないですか」


 エリシアはタモンにそう言った。いたずらっぽい微笑を見せながら、こう付け加えた。


「ちょっと夜のお仕事が増えるくらいですよ」

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