【栗林の言葉②(Clibayashi's words)】
その夜、私は21時55分発エールフランス279便に乗り、羽田国際線第3ターミナルから日本を離れた。
帰りは直行便でパリのシャルルドゴール空港に向かった。
目的は勿論カリーニングラードに戻るため。
ロシアの飛び地であるカリーニングラードにあるフラブロヴォ空港と日本を直接結ぶ直行便はないので、ヨーロッパへの直行便がある空港の中から私はシャルルドゴールを選んだ。
選んだ理由は、一番出発時間のタイミングが良かったから。
用が済んだのに、長居をする必要はない。
飛び立った飛行機の窓から見える無数の光。
空から見ると、そのひとつひとつが分からないほどの小さな光だけれど、そのひとつひとつの中に人が居て家族が居る。
そしてその小さな灯りは、目に見える以上に大きくて暖かい。
家族……。
やはり、日本に来てよかった。
栗林会長は最初から私と会うつもりで居てくれた。
ただ私がPOCの上級幹部にまでなっていたので、お互いの立場を考慮して部下にも気付かれない手を使ってまで会ってくれた。
長い道のりだったけれど、なんとかナトーを見つけ出すことが出来た。
しかし、これからも長く厳しい道は続くだろう。
眼を閉じるとメェナードさんの顔が瞼に浮かぶ。
小学校を卒業して、スクラップを集めて作った改造オートバイでイラクから出てヨルダンの国境の小さな町にあった大きなホテルでジャーナリストだと名乗ったメェナードさん。
別れた後、私の後見人となる人と会うためにヨルダンの王立自動車博物館へ行くと、そこでまたメェナードさんに会った。
ラフな格好をしてオートバイでの長旅で埃まみれだった私が、後見人に会うためにキチンと正装した姿に驚いて褒めてくれた。
ヨルダンからイスラエルに入る前に、チョッと寄り道をしてモーゼ終焉の地として有名なネボ山に連れて行ってくれて、遥かに見えるイスラエルを指さしてあの有名な“見よ、あれが約束の地である”と言った。
イスラエルで無事にPOCの研修生になることが出来たのもメェナードさんのおかげだし、そのあとも幾度もイラクから私の様子を見に来てくれた。
毎年夏休みには妹のナトーを探すため、イラクのメェナードさんのアパートで過ごした。
イスラエル南部のリゾート地にも連れて行ってもらったし、私の作った新兵器の採用試験でライバル企業の妨害工作も阻止してくれた。
イラクでの仕事の傍ら、ズット私のために妹のナトーの消息を探し回っていてくれた。
そして最後は一緒に日本へも行った。
閉じていた瞼から、スーッと涙が一筋流れ出る。
「アナタさえ良ければ、ここで少しお話をしませんか?」
あの時、ずっと黙ったまま私の前を歩いていた栗林が、振り向いて言った。
もちろん私は、そのために日本に来たのだから相手がどのような人物であろうとも断る理由はないので「OK」と英語で返した。
ベンチに座ろうとしたときに、栗林がハンカチを敷いてくれた。
まるでメェナードさんみたいな仕草に驚いた。
“男尊女卑”の国日本では、この様な風習はないはず。
もしかして、そうやって祖母のハートを射止めたのかしら?
内心驚いている私に気付いているのか、それとも気付いていないのかは栗林のシワ枯れた顔の表情から読み取ることは出来なかった。
栗林は私に良く日本に来てくれたと言ったあと、お互いに時間は少ないから直ぐに本題に入りましょうと、遠くのビルを眺めたまま私に言った。
私は早速、栗林が私の祖父にあたるのか聞くと、彼は“そうだ”と答えた。
次に妹ナトーの事を知っているのかと聞くと、彼は“知っている”と答えたので、何故引き取って助けてやらなかったのかと聞くと、彼は“スマナイ”と言ったあとポツリと“手遅れだった”と呟いた。
「どうして、手遅れなのですか?」
「彼女は、グリムリーパーに間違いない」
「たとえナトーがグリムリーパーだったとしても、日本に居るアナタなら受け入れる事はできるでしょう!?」
「だが彼女は幾ら幼かったにしても、沢山の人を殺し過ぎた」
「でも、それはもう過去の事でしょう?」
「違う。彼女の殺人は、今も続いている」
「続いている? ナトーはリビアでは1人の犠牲者しか出さずに事件を解決したのよ」
「その1人とは、いったい誰だったか覚えているだろう?」
「ザリバンのリビア方面軍指揮官バラク」
「そう、義理とは言えバラクはナトーの叔父にあたり、彼女がグリムリーパーであった事実を知る人物かも知れない」
「つまり、目的はバラクの命。口封じと言う事? 考えすぎですわ」
否定したものの、もしも捕縛したバラクの口からナトーがグリムリーパーと言う懸賞金付きのスナイパーだと言うことがバレてしまえば、そのまま刑務所送りは免れない。
突飛な発想だが、その可能性を否定する要素は見当たらない。
「そしてコンゴでは、たった数日で何百と言う多くの人を殺した」
「それは紛争地帯だから仕方がないでしょう?」
「彼女が殺した死体の中には、百数十人と言う数の少年少女も含まれていたそうだ」
「子供たちまで……」
コンゴの紛争に関しては、妹が居るかもしれないという情報に目が奪われてしまい、犠牲者の数などには無頓着だった。
SISCONの栗林会長が言うのだから嘘ではない。
「しかし、それは、軍と言う組織の行動で、それをナトーのせいだと言うのは」
「私が持っている調書に寄れば、子供たちの殆どはナトー、またはナトーの指示によって殺害されたそうだ」
「栗林会長は一体何が言いたいのですか!?」
ナトーに対して否定的な意見ばかり言う栗林に苛立った私が言うと、彼は“ナトーがそのために外人部隊に入ったのではないか”と、悲しそうな声で言った。
「そのため?」
「つまり、殺人を合法的に行うため」
「快楽目的‼??」
連続殺人犯と同じ原理。
つまり、人を殺すことに一種のエクスタシーを感じてしまったのか?
次回、第100部にてアンファミーユ第2部の終了となります。
これまで読んで下さり有難うございます。
あと約1時間後に投了する予定となりますが、最後までお付き合いいただければ幸いです。
(最終回は短いです(;^_^A)




