【妹、ナトー・エリザベス・ブラッドショーの秘密⑤(Sister, Natow Elizabeth Bradshaw's Secret)】
羽田に着きKQ電車に乗り都心を目指す。
KQエアポート快特はメェナードさんと一緒に乗った、あの時と同じように混雑する通過駅のホームを物凄いスピードで擦り抜けて行く。
おそらくイギリスやアメリカなら毎日事故が起きる。
いや、インドやアフリカだったら毎便大量の死傷者が出てしまうだろう。
しかし、それが出来てしまうこの国の庶民のマナーの良さは群を抜いている。
だがマナーの良さは、時として腐敗した政治に利用される事もある。
数万戸の家屋が倒壊する記録的な大地震が起きても被災地復興を最優先とせず、国内初のカジノを目的とした偽装万国博覧会のために湯水のように資材や人員、そして税金を投入する。
5年間に50億円もの活動費を使いその内訳を明かさない政治家が居ても、パーティー収入を収支報告書に計上もせず公然と脱税する政治団体があっても、司法当局は三権分立で有りながら政治家の圧力に屈して決して捜査のメスを入れない。
国民もその事に不満があっても、SNSで呟くだけで特に表立った行動を起こすことはない。
この国の国民は、くだらない。
自分たちのSNSで「俺たちは政府のATMじゃない!」と呟いているが、正しい政治家を選ぶ選挙にもいかず、行動も起こせない彼らはまさに“政府のATM”そのもの。
他の国であれば、政府が転覆してしまう大事件やクーデターが起こっても不思議ではない。
おとなし過ぎる国民、政治に興味のない国民たちは自らが政治家たちを堕落させていることに気付いていない。
彼らは平和と安定を望むあまり、行動を起こす勇気を失った。
口でボヤくだけではなく的確な行動を起こすことが出来るリーダーが現れない限り、もうこの国に明るい未来はないのかも知れない。
しかもコノ国は、中国と似て知的財産権を守ることが出来ない。
原作者の意向などまるで無視して、面白半分に原作とは全く別物のドラマや映画を作ってしまう。
人気作品にあやかった、まるでタイトル泥棒。
電車に揺られ、平和過ぎる街並みを見ながら、そう思った。
ほどなくして東亜東洋商事の最寄り駅に到着した。
地下鉄の駅から地上に出ると眩しい太陽の光とビル群が私を迎えてくれ、私は東亜東洋商事のビルに向かった。
東亜東洋商事は東証1部上場企業。
世界を股にかける巨大商社。
その会長にPOCとは言え、一介の支部長クラスの人間がアポなしで会えるなんて、普通なら無理な話。
でも私の動向を何者かによって見張らせていたとすれば話は別。
可愛い孫の来訪を知りながら他の用事を優先したり、居留守を使ってコッソリ監視カメラの映像を見たりしながら涙するような爺さんならコッチから願い下げ。
東亜東洋商事であろうがSISCONであろうが、全力でブッ潰してくれる。
ビルの中に入ると、建物に相応しい広いロビーがあり、その向こうに受付があった。
ロビーには守衛と打ち合わせ時間待ちなのだろうか何人かの営業の人が、それぞれのソファーに座り時間を待っていたが、その他にどう見ても営業マンらしからぬ堂々とした体格にスーツを着込んだ男たちが私を見ていた。
なるほど、あの日メェナードさんのスーツが着崩れていたのはコイツ等の仕業だったのね。
でも可哀そうな人たち。
きっとメェナードにコテンパンにヤラレタに違いない。
受付に行き氏名と会社名、それに用件を伝えると、アポが無いと会長には会えないと突き返された。
会社名を正直にPOCの東欧支部第一営業部長だと伝えたにも関わらず、受付嬢はギョッとする様子もなく平然とした態度で、何日かコチラに滞在するのであれば会長室に連絡して面談の可否と、面談可能な日時を調整するがどうするかと気の毒そうな顔で伝えられた。
この受付嬢は何も知らされてはいない。
つまり、私の来訪など知った事かというスタンスなのか。
母を見捨て、イラクに一人で取り残された私にも救いの手を差し伸べなかった祖父とは所詮その程度の人間なのだろう。
折角日本まで来て損をしたとは思わない。
むしろ来てよかったと思う。
コレで祖父の存在を気にしないで済む。
そう思った時、不意に背後から声を掛けられて驚いた。
「なんぞ込み入った御用でも、おありでしたんか?」
私が驚いたのは、このヘンテコな日本語の事ではなく、気配を隠したまま近付いてくるコイツの能力。
“忍者の末裔なのか⁉”
振り向いた私には更に驚くことがあった。
映画やドラマで見る忍者はスッキリとしたクールなイメージの俳優が使われるにもかかわらず、私に声を掛けて来た男性はスッキリでクールとはまるで正反対のコテコテな感じで、しかも日本人にしては非常に長身な上に瘦せぎすで、とても強そうには見えなかった。
「いえ、別に」
見ず知らずの人に詳しい事情を話すことは禁物だから、ココは退散するに限ると思って帰ろうとして、男に背を向けて歩き出そうとした時また男に声を掛けられた。
「ホンマに、ええんですか? せっかくカリーニングラードから来はって。 仕事もこのためにギョウサン片付けて来たんとちゃいますか? 復讐心だけが手土産ちゅうのは、ナンも発展せえしません。それでええんですか?」
ところどころ意味の分からない言葉が入るが、なんとなくニュアンスは伝わる。
私は足を止めて男の顔を睨みつけ、アンタに何が出来るのかと聞き返した。
「私には、何もできしません。しかしアンさんの望みを一つだけかなえてあげる事は出来るかも知れまへん」
「それは?」




