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アン・ファミーユ(家族とともに)第2部  作者: 湖灯


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【妹、ナトー・エリザベス・ブラッドショーの秘密④(Sister, Natow Elizabeth Bradshaw's Secret)】

 1週間後、私は日本に向かう旅客機の中にいた。

 4年前には大好きなメェナードさんと一緒に行った。

 でも今、私の隣にそのメェナードさんは居ない。

 私は少しでもメェナードさんの傍に居たくて、モスクワからインドのニューデリー経由で日本の羽田に向かうルートを取った。

 このルートなら、おそらくメェナードさんが潜伏しているはずのアフガニスタン北部の空を通るから。

 合理主義の私にしては、やけにおセンチだと思う。

 だけど仕方がない。

 アフガニスタン上空に差し掛かると、窓に張り付くように下を眺めていた。

 高度1万メートルを時速800kmで飛ぶ飛行機から、メェナードさんを見つける事なんて不可能なのに。

 それでも、もしメエナードさんが空を悠々と飛ぶこの飛行機を見上げていたとすれば、私たちはお互いを見つめ合うことになる。

 そう思うと胸が熱くなり、幾つもの涙が零れた。


「よう黒覆面」

 外で作業をしている時、不意にヤザに声を掛けられた。

「なんだ?」

「何故、東側の平地には手を付けない。あのままでは敵の輸送機が着陸出来てしまう可能性があるのではないのか?」

 決して平たんではないから既存の軍用輸送機では、無事に着陸することは出来ない。

 しかし、万が一と言うこともある。

 その万が一を考えるヤザは、やはり用心深い。

「大丈夫だ。たとえ最初の1機が着陸できたとしても、2機目の着陸は不可能だから」

「それは、どういうことだ?」

「先ず1機目が着陸することで、地表には大きな溝が出来てしまう。その様な状況では2機目は着陸出来やしないし、おそらくその1機目も幾ら運が良くても主脚は壊れてしまうから相当な被害が出てしまうだろう」

「しかし何人かが生き残ると言う事は、我々にとって脅威になるのではないか?」

「それは逆だ」

「逆?」

「我々はココでアメリカ軍をはじめとする多国籍軍に決戦を挑む」

「決戦……」

「決戦をするにあたって先ず有利になるのは、強固な基地を持っている事」

「だから、ここに基地を……しかしそれでも敵の輸送機に降りられたのでは、優位には立てないのではないか?」

「逆だよ」

「逆?」

「過去の戦いに於いて分かっている奴らの弱点と言えば、決して生存者を見捨てない事と、戦いに於いても人命を尊重すると言う事だ」

「それは?」

「つまりあの平原に1機着陸させることにより、敵に孤立した部隊を作らせる。この着陸地点は我々の支配下にあるので、この場所に直接ヘリで応援に駆け付ける事は非常に危険を伴うから別の場所に兵員を運び込んで、あの平原に向かうだろう」

「しかし、それではこの基地が挟み撃ちに合うのではないか?」

「第2次世界大戦のミッドウェイ海戦を知っているか?」

「ああ。太平洋の孤島を巡ってアメリカと日本の空母部隊が戦ったヤツだろう?」

「日本海軍は空母4隻からなる機動部隊を北方から、また攻略部隊として戦艦と巡洋艦多数となる部隊を後方に置き、攻略支援部隊として重巡洋艦4隻を中心とした部隊を南方からミッドウェイ島に向かわせた」

「大部隊だったんだな。なのに何故日本は負けた?」

「戦力の分散と、2つの作戦計画だ」

「2つの?」

「日本海軍は、ミッドウェイ島攻略と、それで誘き出されるはずのアメリカ軍の空母機動部隊を叩くことが目的だった。そして現場では、どちらの作戦に重きを置けばいいのか、人によって解釈が異なり現場は混乱し、結局ミッドウェイ島もアメリカ海軍空母機動部隊の殲滅も叶わないばかりか、自らの空母機動部隊と攻略支援隊の重巡洋艦1隻を失う大敗北を喫してしまう」

「つまり“二兎を追う者は一兎をも得ず”と言うことか」

「それでヤザ。君の部隊にはこの戦いでのアメリカ海軍機動部隊の役割を担ってもらう」

「いいぜ。黒覆面にしちゃあナカナカ面白え作戦じゃねえか」

 戦い。

 いや復讐に胸を躍られるヤザが帰ろうとする、その背中を呼び止めて聞いた。

「グリムリーパーは、まだ手元に残しているのか」と。

 ヤザはいかにも不機嫌な顔をして、どうしてそれを聞くのかと睨みつけた。

 下手な理由を言えば今にも飛び掛かって来そうな恐ろしい形相だったが、私は怯むことなく答えた。

「たった一つ気になることは、グリムリーパーが今も生きていて、その人物がどちら側に付いているのかと言うことだ」

「たった1人で何ができる?」

「イラクでは、そのたった1人のために、兵士たちは臆病になり戦意を削がれたのは良く知っているだろう? この戦いでもヤツが、どちらに居るのかで戦局は変わるはずだ」

 ヤザは安堵したように顔を穏やかにして言った。

「安心しな、グリムリーパーはチャンと手元に置いてある」と。

 “‼”

 ナトーはフランス外人部隊に居る。

 と、言う事は、ナトーはグリムリーパーではなかったのか⁉

 ヤザの口から直接ナトーがグリムリーパーでは無いことは聞き出せなかったが、ヤザは確かにグリムリーパーを手元に置いてあると言った。

 “嗚呼、サラ!”

 喜びに零れそうになる涙を隠すため空を見上げると、そこには1機の旅客機が悠々と飛んでいた。

 “嗚呼、サラ‼”

 僕は心の中でもう一度叫び、サラが乗っているはずもない空を飛ぶ飛行機が山々の向こうに見えなくなるまで見送っていた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  大事な人との想いがリンクした、ロマンティックなシーンですね❗  むかーし、郷ひろみだったかなあ、歌っていた曲に♪逢えない時間が愛育てるのさ~と云う歌詞があって、正にサラちゃんとメェナードさ…
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