【女の正体⑦(true identity of woman)】
「バカ! なんで私が銀行強盗をしなくちゃいけないのよ‼」
「でも輸送車を襲うって言っただろう?」
「輸送車を襲うとは言ったけど、お金に困っているわけないでしょう!?」
「じゃあ、何の輸送車を襲うんだ? 石油??」
「違うわ。クリーニングの輸送車よ!」
「クリーニング? 服を盗むのか??……なんで?」
「人の着た服なんて盗むわけないでしょう! 行くわよ」
サラの言うことが理解できなかったが、カールは輸送車襲撃を手伝うことに……。ですです
外人部隊の基地の前に車を止め、正門から出てくるクリーニング店の車を待つ。
ほどなくして、クリーニング店のバンが出て来た。
「行くわよ」
「OK」
車の後を着け、クリーニング店のバンが大通りに出たところで横に並ぶと、サラは窓を開けて偽の身分証明書を見せながら運転手にコンタクトを取る。
「CGARM(フランス軍事省総合兵器評議会)のニーナ・シュバリエです。速やかに車を路肩に止めて下さい」
スーツを着たサラが運転手にもよく見えるように身分証明書を持った手を伸ばすが、運転手の視線は身分証明書を通り越した先にあるサラの美貌に釘付け。
「どうした!?」
助手席の男が運転手にきく。
「何かあったらしい。車を路肩に止める」
「なんてこった……コレだから軍関係の集荷は嫌なんだよ」
車が路肩に泊まり、サラとカールも車を降りる。
サラはもう一度身分証明書を見せる。
「CGARMの主任研究員ニーナ・シュバリエです。隣は同僚のジャン・ベルモンド」
紹介されたカールが身分証明書をかざすが、車から降りて来た運転手も助手席の男もサラの方に顔を向けたままジャンと紹介されたカールを見もしない。
「何かあったんですか?」
「スミマセンこちらの手違いで、回収して戴いた衣服の中に、研究員が着用していた衣服が混入している可能性があります」
「ひょっとして細菌!??」
研究室の衣服と聞いて驚いた2人。
「詳しくはお答えできませんが、非常に危険なものですので、一旦車ごとコチラで回収させてもらって調べます」
「し、調べるって。明日もまたこの車使いますが」
「それまでには、お返しします」
「我々には、その……影響はないんでしょうね」
研究員が着用していた衣服が混じっているから、全品回収なんて聞かされれば、それを直に触ったかもしれない2人が心配するのも無理はない。
「影響が無いとは言えません」
サラに……いや兵器評議会主任研究員のニーナ氏からそう言われて2人はギョッとした目をしてお互いを見た。
「ですから、お2人には特別な健康診断を受けていただきます」
サラの言葉にホッとする2人だが、サラはココで、ある条件を付けた。
それは絶対に誰にも公言しないこと。
「そ、そりゃあ分かっていますとも」
「なにせ国家の重要機密なんでしょう?」
「ありがとうございます。本当に誰にも言ってはいけません」
「もし言ってしまったら?」
「さあ、そこまでは何とも。なにせソレを処理するのは別の機関なので……」
「べ、別の機関とは?」
「……ソレについては、お答えできません。なにせ国民にもお知らせできない闇の……わかってもらえますよね」
「闇の……」
2人の顔が青ざめた。
「とにかく、お2人には健康診断も兼ねて、今から私が手配する所で健康診断を受けてもらいます。あとココで秘密を守ることが出来るか簡単なチェックもさせてもらいますが、いいですか?」
「はい」
「もちろんです」
サラはメモを2人に渡しタクシーを呼び、クリーニングバンの運転席に乗り車を出した。
「いいんですか、あんな所に2人を行かせて」
助手席のカールが、さっきサラが2人に渡したメモの電話番号を覚えていて聞いた。
「アラ、アンタ知っているの?」
「知っていますとも。これでもマフィアと通じていた元殺し屋ですから、あの番号はアイツらが使う会員制の個室SMクラブのママのものでしょう?」
「先方には、チャンと健康診断もお願いしておいたから大丈夫よ」
「いつの間に!?」
「アンタがボケボケしている間に」
そう言ってサラは少し笑った。
偽の軍事省総合兵器評議会の偽研究員が手配した偽の健康診断を受けたあと、SMクラブの拷問ごっこを本当の拷問と信じて耐える2人を想像したカールが愉快そうに「見事なカージャック。ボスは、立派な悪党になれる素質がある」と笑った。
「余計なお世話よ」
「ところで、まんまと洗濯物を盗むことに成功しましたが、これからどうするんです? まさかクリーニング屋に替わって洗濯するために盗んだわけじゃないでしょう?」
「その、まさかよ」
「えっ!なんで??」
「荷物が洗濯前のモノなんだから、当たり前でしょう? それ以外に何か利用方法があるのなら教えて欲しいわ」
「その他の利用方法って……」
サラが本気で聞いているのか分からないが、利用方法なら幾つかは思いあたるところはあったものの、それに関しては敢えて言わなかった。
性別による趣味趣向の違い。
もちろんカール自身に、そう言った趣味はなかったが、サラにはそんなゲスな答えを返したくはなかったから。
サラが言ったとおり車は、今は使われていない別のクリーニング店に入って止められた。
「本物のクリーニング店ですね」
「だから、そう言ったはずよ」
「じゃあここで洗濯を?」
「当たり前でしょう」
「もしかして、アイロンがけも?」
「当然!」
「ボスと俺の2人でですか?」
「他に誰が居るの?」
もしかしてクラウディとか、元フランス支部に居た人たちがアルバイトに来ていないかキョロキョロと周囲を見回すが、営業停止中のクリーニング店に他に頼れる人影は見当たらなかった。
クリーニング前の衣服を盗んで、代わりにクリーニングして盗んだ相手にまた返す。
“ボスは、いったい何のために、クリーニング品を盗んだんだ!??”




