【女の正体⑥(true identity of woman)】
妹が生まれた時の事は、鮮明に覚えている。
何故なら、その瞳が余りにも綺麗だったから。
特に特徴的だったのは、その瞳の特徴。
大きな綺麗な瞳は、右がエメラルドで、左はブルーサファイヤで出来たように輝いていた。
オッドアイ。
左右の瞳の違うオッドアイが生まれる確率は、もっとも確率の高いとされる白人でも約0.06%。
つまり10,000人に6人しか居ない。
しかし、これほどハッキリとわかるくらい鮮明な瞳を持っている者は、そうそう居ない。
だが、髪の色は違う。
ナトーは、私と同じ金髪だったはずなのに、この女は銀髪。
白子症による銀髪だとしたら、少なからず視力障碍もあるはずだから、これほど機敏且つ正確に射撃を遂行することは難しいはず。
もしかして素性を隠すために染めているのか?
それとも後天的な突然変異なのか?
パパとママが死んだあの爆発現場に居たのなら、突然変異の可能性も十分ある。
なにしろ彼女はマダ歩くことも出来なかったのだから。
しかし決めつける訳にはいかない。
幼い頃の事とはいえ、私の記憶に間違いはないが、決め手となる証拠を手に入れなければならない。
事件の捜査ではないが、こういうことは初動で間違った考えに固着してしまうと、後で取り返しのつかないことになってしまう。
N・E・Bと言う人物に関しては、隠されていることが多すぎる。
と、言うよりも、表立ったデーターが殆ど見当たらない。
CIAのスペシャル・エージェント級のセキュリティ。
だが映像で見る限りN・E・Bは女性であり、まだハイティーンと呼べるほど若い。
そして着ている軍服から分かる最も顕著な特徴は、彼女の階級が既に下士官である軍曹だということ。
フランス外人部隊に入隊するためには18歳以上である必要があるから、最短でも軍曹になるのは20歳を過ぎた頃に3等軍曹にはなれるがこの女の階級章は1等軍曹のもの。
仮に20歳で3等軍曹になったとしても、1等軍曹になど早々なれるものではない。
特にこの平和な時代に短期間で1等軍曹に値する経験と実績を身に着け、更に上官に認めさせることは困難な事。
ただ試験をパスすれば、なれるものでもない。
見た目が若いだけなのか?
……いや、違う。
彼女がもしも私の読み通りの女だとすれば、リビアでザリバンの敵将バラクを殺害し、パリで我が社のジュジェイ、そしてコンゴで親友のルーシーを死に追いやった張本人だとすれば、その実績はCIAのスペシャル・エージェントも凌ぐほど。
私が軍の上層部に居たなら、今すぐにでも佐官に抜擢するだろう。
巧みな話術を駆使して、うまくメエキを引っかけてN・E・Bの名前を聞き出すことは容易だろうが、それをしてしまえばメエキは後でメェナードさんに報告してしまうだろう。
そうなれば今まで隠し続けてていたメェナードさんの苦労は報われない。
おそらくメェナードさんは、私のために彼女の正体を隠し続けているはずだから。
自力で彼女の正体を暴くしかない。
「終わりました。全て順調で、何も問題はありません」
「ああ、ご苦労様です」
私はデーター画面を閉じて、セキュリティルームを後にした。
「せっかく来たのですから、少し見学させていただいても構いませんか?」
「いいですよ。ご案内します」
メエキさんに案内してもらい隊内を見学させてもらったが、思った通りリマット特殊部隊と遭遇することはなかった。
偶然にでも特殊部隊と出会ったなら、この眼で実際に彼女を確認してみたいと思っていたが、このメエキと言う男、見た目は冴えないがナカナカ用心深くて迂闊なことはしない。
私の野望は潰えたが、それを何故か誇りに思った。
やはりメェナードさんの眼力は素晴らしい。
このメエキと言い、私のボディーガードとして差し向けてくれたカールと言い、見た目とは違い信頼のおける人物。
私もいつの日には、そのメェナードさんに見初められる女性になりたいと、心から思った。
外人部隊の基地を出た私は直ぐにカールを呼び寄せ、彼と遅い昼食をとることにした。
パリ12区、サン=タントワーヌ病院手前のシトー通りにあるフレンチレストラン『レボシュワール』
「どう?もう女の正体は分かったんでしょうね!?」
「いや、それが中々手強くて」
「あら、そうなの? アンタのことだから、もうとっくに知っているのにその報告を先延ばしにして、パリを堪能しているのだと思っていたわ」
「そ、そんな……」
カールは正直者だから一瞬ギクリとした目をしたが、それには気が付かない振りをして食事に手を伸ばす。
「もう手掛かりが見つからないのなら、今夜で撤収するわよ」
「すみません」
メェナードさんとの約束で、私に話すことのできないカールが本当に申し訳ない表情で言った。
「でも、その前に一仕事手伝ってもらうわよ」
「どんな仕事ですか?」
「輸送車を襲う」
「ぎ、銀行強盗‼」
驚いたカールが大声を上げそうになったので、サラは慌ててその大きな口に蓋をした。




