【女の正体③(true identity of woman)】
世の中には自分とそっくりな人間が3人居ると言われるが、まさかこんな偶然ってあるのだろうか。
ナトーの義父でありグリムリーパーが誰であるのかという最大の秘密を知るヤザの元にまんまと入り込み、ナトーで無いことを祈りつつ調査を続けていて、そこに急に舞い込んだサラの親友の死。
その死を導いたとされるコンゴからフランスにあるDGSEに発信された通信記録を不審に思ったサラ。
発信者がナトーであることに、いち早く気が付いた僕は調査を行うカール―に細工をさせた。
しかしサラはその細工に気付いてしまい、更なる調査をなんと秘密を知って細工を施したカールに命じた。
綻び掛けた嘘の紐が更に綻ぶのを待つ作戦だ。
カールがパリへと向かうのと入れ替わりに、ナトーがパリを離れてコンゴで戦死した隊員の家族に会いにベラルーシに向かった。
そして同じタイミングで僕の元にヤザが来て、最新兵器の買い付けを急ぐように催促に来て、僕は西側の兵器を隠し持っているウクライナに居る知人を訪ねるついでに大人になったナトーの顔が見たくてベラルーシに寄った。
そして戦死した隊員の墓に行くと、そこには僕とそっくりな青年の写真。
偶然にしては色々なことが重なり過ぎている。
しかもコノ偶然は、何かを暗示しているような不気味ささえ感じる。
偶然を演出しているモノは、何者なのだろう。
神か!?
いや神は僕たちを見守るだけで、決して手は下さないはず。
では誰だ!?
悪魔?
堕天使?
いや……これを演出したものはグリムリーパー(死神)に間違いない。
そしてこの偶然こそ、グリムリーパーが僕に向けた挑戦状に他ならない。
何故なら、そこに死んだ僕の遺影があるから……。
その日の夜ナトーは死んだ隊員の家に泊まり、僕は乗って来た車の中で一夜を過ごすことになった。
なにしろヴェルフネドヴィンスク駅周辺には、ホテルらしきものは一つもなかったから。
夜、寝ている時に誰かが僕を起こそうとして揺らす。
“サラ!?……まさか”
揺らされて目を開けると暗い窓の向こうに、誰かが居る気配がした。
窓に近付いてよく見ると、そこに居たのは!
急に強い風が襲い、車が横倒しになるのではないかと思えるほど激しく揺れ、僕はその揺れに吹き飛ばされるように窓の傍からシートへと仰向けに倒された。
車の屋根の上をまるであざ笑うかのようにヒューっと不気味な声を上げてアイツが越えて行く。
“グリムリーパー!”
激しく打つ心臓の鼓動が耳に鳴り響き、喉はカラカラに乾ききり、体中から冷たい汗がどっと出て体を凍えさせる。
しまった!
深追いし過ぎた……。
とうとう僕もアイツに目を付けられてしまった。
カリーニングラードからリモートでカールの行動を見ている。
毎日あちこちの新聞社や雑誌社、それに広告関連やらテレビや映画関連の制作会社をはじめ民間軍事会社や町のカメラ店にいたるまで、ほとんど休むこともなく歩き回っている。
素晴らしい行動力と体力には感心するが、その行動力と体力を証明することで、短い時間にメエナードさんからの指示をチャンと実行できたと言う証にもなる。
それに、あえてDGSEに接近しないのも嘘を言っている証拠。
私なら、真っ先に謎の女から指示を受けてコンゴに赴いたDGSEのエージェントを探す。
でもカールは、ああ見えても可愛い。
メエナードさんとの約束を必死に守りつつも、私に対して常に誠実であろうと心掛けていて、嘘に嘘を重ねて墓穴を掘ってしまうようなことをしない。
その点について言えばチョッと私の目論見が外れた点だけど、それよりも彼を見直したことによる得の方が遥かに大きい。
好い収穫になった。
カールをパリに派遣したことで女の正体が分かるとは思っても居ない。
彼を派遣したのは、彼の人間性を見るためと、私に着いた嘘への罰。
既に私は独自の手を打って、女の正体を調べている。
ターゲットは外人部隊。
外人部隊には、正規の隊員ではない事務職員を除けば1940年から1948年まで在籍したスーザン・トラバース以外には居ない。
もっとも彼女の場合は直接戦闘を行う歩兵ではなく、主に兵士を運ぶトラックの運転手や看護兵として活躍したが、それでも最前線には何度も出た勇敢な女性だ。
調べているうちに、ちょっと面白い噂を耳にした。
それはスーザン・トラバース以来、約1世紀ぶりに外人部隊に女性隊員が入ったと言う噂。
外人部隊の事務局に問い合わせたところ、その様な事実はなく募集も行っていないと言う返事が帰って来た。
だが火のない所に噂は立たない。
フランス外人部隊と言っても、今はフランス陸軍の傘下に入っているから全てのことを独自に行うことは出来ない。
隊員も名簿上では将官クラス以外では特定できないようになっているが、特殊部隊の隊員以外なら誰がどの部隊に居るのか特定することは出来る。
それが特定できれば、入隊や除隊の名簿と照らし合わすことで特殊部隊の隊員も特定できない訳じゃない。
そして漸く新設された特殊部隊リマットのメンバーを特定することが出来た。
ここで初めて気が付いた事は、定員に対して名簿上の人数が1人足りないと言うこと。
おそらく、この1人が今回の鍵を握る人物と言って先ず間違いないだろう。




