【女の正体②(true identity of woman)】
カールをフランスに派遣して調査をさせている。
メディアに登場履歴があるものに限られるが、声紋照合で世界各国の特派員やレポーターを調べたが、コンゴの最前線から発信された女の声と合致する者は居なかった。
戦場カメラマンなどの声も、できるだけ集めたが、それでも駄目。
可能性として残るのは2つ。
まだメディアに登場していない女か、軍内部の女。
メディア志向であれば、必ず各メディアに売り込む必要があるから制作会社やプロダクション側で面接時のデモテープを保管しているはず。
特にプロダクションのオーディションテープには、研修期間中の者も収められているから好都合だ。
問題なのは、軍の関係者。
フランス正規軍の広報部の隊員であれば左程苦労もなく該当者を特定できるはずだが、今回のコンゴの任務はかなり危険の伴う任務であり、しかも外人部隊。
外人部隊には、かなり閉ざされた環境だから調べる事自体が難しい。
しかも今回は外人部隊からは新設された特殊部隊“リマット”も派遣されている。
リマットの隊員自体がトップシークレットだから、関係者を探すことも難しいし、もともと外人部隊には女性は存在しないはず。
あとはDGSEだが、こちらも秘密情報部なので部外者の侵入は難しい。
カールは何かを隠しているはずだから、音を上げて白状することを期待したいが、元プロの殺し屋だから依頼主からの口止めされていることは白状しないだろう。
だがカールからの嘘の報告だけが何かの手がかりに結びつく。
面倒くさがりのカールなら、必ず音を上げて嘘の報告を寄越すはず。
サラからの命令でフランス中のメディア関係会社や軍を回っている。
コンゴの前線基地からDGSEのエージェントに無線連絡をした女の正体を探し出せ。と言うのが今回の使命。
無線連絡をしたのは、ナトー。
ナトーと言う女の正体は分からないが、おそらくサラにその名前を知らせれば、こんな面倒で非生産的な任務からは直ぐにでも解放される。
だがメェナードから固く口留めされている女だからサラに教える訳にはいかねえ。
知っていながら、無駄に走り回るのも辛いが、ここで手を抜けば必ずサラに気付かれてしまう。
サラは俺の嘘がバレたとしても拷問に掛けたりはしないだろう。
グビになるのが関の山。
そうなるとメェナードから託された、サラを守る任務からも“強制終了”となる。
つまり俺は晴れて自由になるって訳だ。
だが俺はクビにはなりたくねえ。
最初はまだ子供に毛が生えたくらいの歳のくせに、高慢ちきな女だと思っていたが、今ではたとえメェナードからサラの元を離れろと言われも俺は断るだろう。
10歳も差があるから、恋愛感情と言う物はねえし、サラは俺の大好物の巨乳でもねえ。
マフィアのボスたちが囲い込む美女たちと比べても、比べ物にならねえくらい稀に見る美人だというのは確かだが、そんなものに惑わされる俺じゃねえ。
サラは孤独だ。
普通なら居るはずの家族もいなければ、恋人もいねえ。
たった1人の親友も、コンゴで死んだ。
メェナードがサラを守りたい気持ちが何処にあるのか分からねえが、できるなら俺はずっとサラの傍に居て彼女を守ってやりたい。
まあもっとも、サラの方は俺が思うような弱い女じゃねえから、面と向かってそんなことを言っても笑われるのがオチだがな……。
武器を買うと言う口実をつけて僕は一路ベラルーシに向かった。
目的は武器の購入ではなく、ある人物をつけるため。
その人物は、戦場で死んだ部下の遺品を家族に届けるために遥々この地にやって来る。
世界各国から隊員の集まる外人部隊では通常はこのような事はせず、死亡通知を出したあとはお悔やみと一緒に郵送で遺品を届けるだけ。
しかも一介の分隊長自らが遺品を届けに来ることなど、正規の軍隊でも先ず聞いたことが無い。
正規軍でも小隊長以上の将校が書いた手紙を添えて、出身地近くにある主に退役軍人で賄われている地方局の人が家族のもとに赴くだけ。
その人物の名はナトー。
情報は外人部隊事務局に居る人物からの情報だから先ず間違いはない。
ナトーは僕より1日早く来て、明日戦死した家族の居るレオンポリに向かう。
僕は車で一足早く最寄り駅であるヴェルフネドヴィンスクでナトーを待っていた。
電車が着くと、直ぐに数名の人が降りて来た。
その中でも一際目を引く女性が居た。
身長は180㎝近い長身。
地味な黒のスーツスカート姿だが、その容姿の良さから何か映画の撮影でも行われているのかと、他の人たちが周りをキョロキョロと見ていた。
髪は銀髪。
僕の知っている赤十字難民キャンプに居た頃の、痩せぎすの男の子のような姿とは似てもいない女性らしいスタイルに驚いた。
身長はサラより10㎝近く高いし、胸だって10㎝以上は大きいだろう。
顔立ちはサラほど派手ではないけれど、やはりナトーも女優も顔負けの美人。
美人で巨乳好きのカールが惚れ込むのも分かる。
いや、コノ姉妹は、誰だって惚れ込んでしまう。
駅には戦死した隊員の父親である、グレゴリー・ミヤンが車で迎えに来ていた。
呼ばれて車の方に駆け寄る姿は、とてもフランス最高の特殊部隊の軍曹を務める者だとは思えず、どう見ても普通のお嬢さんそのものの柔らかい女性らしい身のこなしに驚いた。
ナトーを乗せた車が走り去った後、僕はその戦死した隊員の眠る墓地へと向かった。
死んだ彼が何かを教えてくれるわけではないが、ナトーの隊に居たと言うだけで僕にも責任があるような気がしてならなかったから。
墓地に着きミンスクの花屋で買った花を添えようと思い、腰を屈めたときソコに置かれていた写真を見て驚いた。
なんと、その死んだ隊員の顔写真は、僕と瓜二つだった。




