【携帯電話(mobile phone)】
結局、俺の不正行為は全てサラに暴かれた。
だがフォーマットして、書き換えたマイクロSDカードは撮影時に使用していたものではないので、さすがにサラでもそこからナトーの写真を引き出すことは不可能だ。
つまり元々そこには、ナトーの写真なんて一度も書き込まれたことが無いのだから。
そしてナトーの写真が書き込まれていたマイクロSDカードはフォーマットした後に、焼却処分しているので完全に証拠は消滅している。
サラからどうしてこのような事をしたのかと問い詰められた俺は、エロ写真を撮影してしまったからだと嘘をつくと、意外にアッサリ信用されて正直面食らった。
それ以降も俺は普通にサラのボディーガードとして働いていて、サラも写真のことはスッカリ忘れたように二度とそのことを俺に聞いて来ることは無く“めでたしめでたし”でコノ事件は解決した。
無事解決したことをメェナードに伝えようと思い、ポケットから携帯を取り出して止めた。
そう言えばメェナードから“くれぐれもカリーニングラードから僕当てに発信するな!”とキツク言われていた。
それにしても、あのナトーと言う女、可愛かったなぁ~♪
カールはあの日ゴーマ空港で仲間の乗る飛行機に手を振るナトーの姿を思い浮かべながら、料理店の階段を駆け降りて行った。
*****
一旦カールの携帯を預かった時、彼の携帯には過去の通信記録が一切なく、電話帳も空のままだった。
もちろんSIMカードもマイクロSDも新品の物に変えられていて、私が知りたい情報の殆どは知ることが出来ないように細工されていた。
さすがカール! と、言いたいところだけれど、これほど用意周到な作業がカールに出来るはずもない。
つまりカールは誰かの指示によって、何かを消した。
予想は出来る。
だけど確証がなかったので、カールの携帯電話を本人には気付かれないように乗取っり、そしてコンゴでカールが泊ったホテル周辺の基地局をハッキングして遂にこの番号に辿り着いた。
*****
カールからサラにコンゴに派遣されたフランス外人部隊の写真を撮る様に言われたことを聞かされたときは正直肝を冷やした。
親友のルーシーを亡くしたばかりの今、ナトー正体を知ってしまうと言うのは最悪のタイミング。
しかも頭の良いサラは、ルーシーが死ぬ切っ掛けを作った張本人。
つまりDGSEの腕利きエージェントに反乱を知らせたのが、ナトーだということに直ぐに気が付いてしまうだろうから恨みも半端な物ではないだろう。
何しろ両親を亡くして、幼い頃から探し求めていた妹が、唯一無二の親友を殺すように仕向けた張本人なのだから。
カールが僕の指示通りにデーターの消去と改ざんを行ったのであれば、サラを騙せたかもしれない。
だがカールは。僕に連絡をするなと言った指示を無視して、1通の添付ファイルを僕に送った。
たしかに文章も付いていないから“連絡”と言う意味では、連絡とは言えないのかも知れないが、足跡を残してしまったことに間違いはない。
一応、コンゴからアフガニスタンと言うルートで、文字情報は一切入っていないので手がかりは残らないはず。
例えCIAやインターポールでも、幾多の情報の中からたった1枚の写真が送られた通信を特定することはほぼ不可能だろう。
だが相手がサラとなれば、話は違う。
僕は、自分の不吉な予想が当たらないことを祈りつつ、隠しアジトの最後の作業に取り組んでいた。
最後の作業とは、万が一の場合の脱出ルートの構築。
空らからの監視を逃れ、尚且つ追っ手の足を止めさせる2つの条件を満たすルートに道を引く作業だ。
険しい崖沿いに道を作り、深い谷に粗末な吊り橋を作って最終の作業も完了した。
あとは注文していた武器と、戦闘員の数が揃うまで少しの間だけ自由に出来る。
洞窟内にある自分の部屋に入り、ベッドで寛いでいる時に携帯が鳴った。
この電話番号を知るものはカールしか居ないはず。
しかも、そのカールにも緊急の時以外は連絡しないように言い聞かせている。
もしかしたらサラに何かあったのか!?
「もしもし」
「……」
通話ボタンを押すが、何故か向こうは何も言ってこない。
「どうした、なにかあったのか?」
「……」
電話は相手の顔を確認できないし盗聴されている恐れもあるので、向こうもこっちも名前は言わないことにしている。
もっとも携帯にはテレビ通話機能が付いているので確認しようと思えば確認できなくもないが……。
「通信状態が悪いのかも知れないから一旦切るが、用があれば時間を空けて駆け直してくれ。それでは」
「……」
通話終了ボタンを押す寸前に、何かの気配を感じた。
その気配は、非常に用心深く懐かしいもの。
たとえるなら、どこかの影に隠れてコッチを見ている子供の気配。
「サラ! サラなのか‼?」




