【削除された写真④(deleted photo)】
サラにメェナードと連絡を取ったのかと言われて困ったが、ココはメェナードからの指示通り連絡先を知らないと嘘を言った。
ボディーガードとして、いつも近くに居るから分かるのだが、サラはおそらくメェナードのことが好きだ。
こんな美人に好かれているのに、なぜ奴は姿を隠しているのだろう?
たしかに性格に難ありと言うことは認めるし、男にしろ女にしろ他人を屁とも思っていねえような超強気の性格が2人の関係に災いをもたらしているのかと最初は思っていた。
親友の死に過密なスケジュールを切り詰めてまでコンゴに向かったが、サラはいつも通り平穏を装い、いつも通り移動中にも仕事をこなしていたが、瞬きの深さからそうとう眠いのを我慢していた事だけは分かった。
仕事の鬼みてえな女だけど、本当は誰よりも情が深い女なんだ。
「そう……惚けるつもりなのね」
「いや、俺は惚けるわけでは……」
「そうね。嘘を言っているのだから、惚けているわけではないわね」
「べ、別に、嘘なんて……」
「あらそう? だったら私が、その嘘を暴いてあげますわ」
そう言うとサラは2杯目のイエロー・パロットを一気に飲み干した。
サラに勘づかれないように、チャンとメェナードの指示通りカメラも携帯も日付を変更してから予備のカードに一旦取り出していた写真データーを取り込んだ。
取り込む際も予めメモしていた本来の撮影日に合わせ、その都度日付を変更してファイル名もナトーの写っていた写真を削除した隙間を埋めるように並べ直した。
そうとう時間が掛かったが、まさに完璧。
いくらサラでも、このトリックを見破れるはずかねえ。
「いい、カール。 アナタはメェナードさんの指示通り、一旦撮影したデーターを外部メモリーに取り出し、それからメモリーをフォーマットした。それも入国の際にコンゴ政府の検閲に引っ掛からないようにとの理由付けから、フォーマット時刻はコンゴ到着の30分前に行ったことになる様に時間の設定をずらした」
さすがサラ、全て合っている。
「大変な作業を、そつなくこなしたのは立派だわ。でもアナタはメェナードさんに伝えておかなければいけなかった事を忘れていた」
「伝えておかなければいけなかったことを忘れていた?」
「そうよ。おそらくその際にメェナードさんは、“機内にカメラも携帯も直ぐにフォーマットできるように持ち込んでいたのか?”とい聞いた事でしょう。そこで面倒くさがり屋のカールおじさんはテキトウに“そうだ”と答えた」
たしかにサラの言う通り。
まるで俺たちの通話を聞いていたような推理だが、ひとつだけ間違っている。
俺は機内にカメラも携帯もチャンと持ち込んでいた。
少しホッとしてズブロッカに手を伸ばすと、俺が手に取る前にサッとサラがそのコップをさらいゴクリと一気に飲み干した。
「私は機内でパソコンをずっと使っているから分かるのよ。アナタがその時間に何をしていたかって言うこと」
何故パソコンを使っていたら時間が分かるんだ?
もしかして、ただのハッタリか?
しかしフォーマットした時間が記録に残っているから分かるだろうけど、実際その時間に他人が何をしていたかなんて余程記憶に残るような派手なことをしていない限り分かる訳ねえだろう。
そもそも、その時刻に何をしていたかなんて、当の本人だって覚えて居ねえのに……。
「覚えている? その時刻に自分が何をしていたのか」
「のんびりしていた。だからカメラと携帯のメモリを外してフォーマットをした」
「嘘」
「嘘じゃねえ!」
サラの言葉に一瞬ドキッとしたが、ハッタリにはハッタリだと思い啖呵を切って返した。
「2台ともなんて無理よ」
「無理じゃないから、出来たんだ」
「どうやって?」
「どうやってとは?」
「ジェスチャーでいいから、やって見せて」
俺はサラに言われる通り、ジェスチャーを演じてみせる。
携帯をシャツのポケットから取り出し、次にカメラをズボンのポケットから取り出す。
「はいストップ!」
「なんだよ」
「どうしてレンズ交換のできる一眼レフカメラが、ズボンのポケットから取り出せるの?」
「ああ、間違えた。機内に持って入ったバッグの中から取り出したんだ」
「ブッブーッ」
「今度は何だ?」
「カール、アナタのバッグは天井にあるオーバーヘッド・ビン(overhead bin)に入っていたはずよ」
「サラがトイレに行っている時に、取り出した」
「残念でした。私はフライト中トイレには行っていません」
「だったら俺がトイレに行くついでに、バッグから取り出した」
「それも無理ね。アナタはフライト中ずっと寝ていて、席を立ったのはキンシャサ国際空港に到着する7分前。そしてフォーマットされた時刻はそれよりも23分前の時間になっている」
「そ、そりゃあ、カメラの時刻設定が間違っていたからで、それは後で直した」
「いつ直したの?」
記憶力のいいサラのことだから、一緒に居る時間帯に直したと嘘を言っても直ぐにバレてしまうから、一旦ホテルに入って部屋荷物を置きに行ったときだと答えた。
「あら、そうだったの?」
サラが珍しくキョトンとした顔をした。
“上手く騙せた!”
と、思ったのも束の間、サラが俺の携帯を取り出して1枚の画像を見せた。
“し、しまった‼”
その画像は空港で見かけたエア・フランスの美人CAに声を掛けてツーショットで撮らせてもらった写真。
背景にはフライトスケジュールボードに付いている時計が写り込んでいた。
つまりこの写真の時刻と、撮影時刻が合っていた場合、嘘のアリバイは崩壊する。
もちろん、この時点でカメラの時刻設定なんか変更していないから、全くのアウトだ。




