【削除された写真③(deleted photo)】
サラが用意したプライベートジェットで帰路につく。
特にクラウディと話をするわけでもなく、睡眠不足を補うために旅客機のファーストクラス並みに豪華なソファーを倒してズット寝ていた。
やがて微妙な気圧の変化を感じて目が覚めた。
「もうカーリングラードに到着か?」
「なに寝ぼけたこと言っている、給油のためにトリポリ空港に降りるんだよ」
トリポリと言えばリビアじゃないか、イギリスやパリに行くのなら分からないでもないが、バルト方面に向かうのだから給油地は普通エジプトのカイロじゃないのか?
そのことをクラウディに言うと、紅海を挟んだアラビア半島のルブアルハリ砂漠からリビア砂漠東部にかけて大規模な砂嵐が発生しているため、急遽トリポリ国際空港で給油することになったそうだ。
空から見る地中海はとても碧く澄んでいた。
“海の色は空を映す。蒼空が広がる平和な空だからこそ、海もまた碧く見える”
急にこんな言葉が耳に届く。
俺が考えた訳ではなく、誰かが言った。
クラウディ―?
だがクラウディ―は空や海の青さも見ることもなく、腹筋運動をしていた。
“誰だ?”
自らの心に問いかけると、何故かあのナトーと言う女が目に浮かび、そして消えていった。
「ただいま戻りました」
「帰還しましたぜ」
クラウディ―に続いて、サラのオフィスに入る。
「クラウディ―もカールも、ご苦労様。ソファーに掛けていて。直ぐに終わるから」
サラはそう言うとクラウディ―から受け取った俺の携帯とカメラをポーチに仕舞っていた。
「お待たせ。じゃあ呑みに行こうか!」
仕事一筋のサラが、その仕事を早く切り上げて酒に誘うのは珍しい。
今日は余程機嫌が良いに違いない。
頑張った甲斐が、あったというもんだ。
俺は浮かれて付いて行った。
一軒目は洒落たレストランで食事をしながらワインを呑み、クラウディ―はそこで退席して俺とサラは2軒目のバーに行った。
俺はポーランドが世界に誇る酒“ズブロッカ バイソングラス”を、サラは“イエロー・パロット“と言う聞きなれない黄色いカクテルを注文した。
「カール、コンゴでは本当にありがとう。アナタのおかげで親友に花を手向けることが出来たわ」
「いやぁ、あれしきのこと……」
サラのような超絶美人に褒めてもらえると格別。
ズブロッカをグイっと呑み込みながら、視線は自然に下に落ちる。
これでもう少し……いやもっとチャンと胸が大きかったら言うことないのに……。
「写真もありがとう」
「良いのが撮れていましたか?」
「ええ、勿論よ。アナタのおかげでDGSEのエージェントの正体が分かりました」
サラが余り素直に喜んでくれるので、ひょっとしてメェナードから消すように言われた、あのナトーと言う女の写真がチャンと削除出来ていなかったのかと不安になった。
「2人居たのね」
「ふ、2人……ああ、言われてみれば2人居たかも」
「もう1人の写真は、どうしたの?」
「あ、あれは、ジャ、ジャーナリストの女だったから関係ないと思って撮影しなかった」
「そう……もう1人も女性だったのね。たしか無線の声紋鑑定結果は女性だと伝えてあったよね。なのに何故、その子の写真を撮らなかったの?」
「ま、まだ未成年っぽかったし、今回の騒動とは関係なさそうだろ? それに彼女は屹度CNNかどこかの局のスタッフだぜ」
「アラ、不思議ね。CNNかどこかの局のスタッフが未成年なんて、たしか大卒以外は採用しないはずよ」
「あー……未成年だと思ったけど、そうではなかったのかも知れねえな」
「ならなんで写真を撮らなかったの?」
「あ、あれ、取れていなかったか? あんまり不細工な女だったから、キョーミがなくて忘れたのかなー……」
「しかも、貧乳だったのね」
「そうそう、不細工で貧乳って俺の眼には入らないようになっているみたいだな」
「失礼な人ね!」
「そーソー俺は元ゲスな殺し屋だから、失礼な人間なんだ、スマナイなサラ。巨乳ならいくらでも覚えられるんだけど」
「じゃあ、こっちの胸のある人は誰なのかしら、かなりアナタ好みの巨乳みたいよ」
サラに見せられた写真は車に乗っている彼らを追いかけている時に撮影したもの。
当然後ろ向きなので誰の顔も確認できない。
ただ車番とナンバーを控えるだけの目的で撮影した写真だ。
“ハッタリか!?”
「一見何も映っていないように見えるよね、ところが、こうすると……」
サラが携帯を持って来たノートパソコンに繋ぎ、写真を拡大していく。
拡大したって何も出て来やしない。
出てきたとしても画面が荒くなるだけで、何も分かりはしない。はずだった。
ところが拡大してドットが大きくなりモザイク模様になるたびに、しばらくすると鮮明な画像に作り替えられてしまう。
“これは、いったいどう言うことなんだ!?”
「これはネ、NASAや軍事用スパイ衛星で使われるシステムを応用したものなの」
「応用と言っても、そんなの一般には……」
言いかけて止めた。
そう。
彼女はサラ。
20代前半で東欧支部第1部長になった天才だ。
限りなく拡大されたのはルームミラーに映る軍服を持ち上げている胸のアップ。
さすがに巨乳好きの俺も、コレには気が付かなかった。
「メェナードに連絡を取ったわね……」
サラが下から俺を睨む。
その目は木の上に逃げ込んだ子ザルを狙う女ヒョウそのものだった。




