【削除された写真②(deleted photo)】
「カール、携帯とカメラを寄越しな」
「カメラだけなら分かるが、なんでお前に俺の携帯を渡さなきゃならないんだ!?冗談じゃない」
「サラの命令でも?」
クラウディはカバンから、サラのサインが記入された指示書を俺に投げて寄越した。
紙には提出物として“現地で撮影に使用した機器の全て”と書かれてあった。
「拒否したら、どうするつもりだ。まさか殺すつもりじゃねえだろうな?」
「まさか。野蛮な強硬派の連中を組織(POC)から追い出して、チャンとした企業に戻そうと努力しているサラが、そんなことをするわけないだろう。オマエの使っているクレジットカードを凍結するだけだ」
クレジットカードの凍結は現地の言葉も風習も何も知らない俺にとって、かなりヤバい。
ここまで何とかやって来れたのは、金が自由に使えたから。
同じ人種なら人の情けにも頼ることは出来るだろうが、彼らの暗黒の歴史を作った元支配者の立場にあった白人が一文無しと来た日には、そうそう情けも長くは通用しそうにない。
クラウディを倒してヤツのカードを盗んだところで、サラは気付くはず。
しかも寝込みを襲わず、俺がシャワー室に入ったところで中に侵入したということは、おそらくクラウディはこのタイミングを狙っていた。
つまり武器は既に押収されているだろうから銃は使えねえ。
格闘戦となっても体格は俺の方が少しだけ勝るが、この大女は本格的にレスリング習得した格闘技オタクだ。
腕には自信があるが、街のギャングに勝てる程度の腕じゃプロには勝てねえ。
諦めて素直に携帯とカメラを渡した。
「なんなら、三脚と望遠レンズも渡そうか?」
嫌味を込めてクラウディに言ったのだが、ヤツはサラから直ぐに調べるように言われているのだろう、俺の嫌味には全く反応せずに携帯とカメラの中に入っている画像を確かめだした。
注意が携帯に向いている今なら、なんとか勝てるかもしれないと隙を窺ったが、クラウディは画像を確かめるためにベッドの向こう側に居るから襲おうとする間に直ぐに気付かれてしまうから無理だ。
クラウディに構わず俺はルームサービスに電話を入れて飯を頼んだが、その間もクラウディは持って来たアタッシュケースから色々な機材を取り出して、それを携帯やカメラに繋げては何かを調べていた。
まあメェナードに言われた通りの手順でデーターは既に完全削除済み、それぞれのファイル名も連番になる様に変更済みだから誰がどう見ても分かる訳がねえ。
まだクラウディが調べている間に、ルームサービスが来た。
朝食のメニューは、ウィンナーソーセージとレタスとオニオンのホットドックとベーコン入りスクランブルエッグ、鶏肉とひよこ豆のトマトスープにポテトサラダとコーヒー。
外国人向けのホテルだけあって、食材も調理もシッカリしている。
「どうだ、何か不審なところは見つかったか?」
「……」
クラウディは「ウマくいったと安心するのはカーリングラードに帰ってからすることね」と俺を睨みつけるような鋭い目を向けて言った。
サラだって、一度消えてしまったデーターを蘇らせることは出来やしない。
完璧だと思いながらも、一抹の不安から額に汗が滲んだ。
飯を済ませて帰る準備を済ませて空港に向かう。
その間にクラウディは一切俺に言葉を掛けない。
空港に着くと俺は展望デッキに上がった。
その時だけクラウディが俺に「どこに行くつもりだ」と声を掛けた。
俺はクラウディのような小さな人間では無いので、チャンと返事をしてやった「秘密だ」と。
展望デッキに上がると、やはりそこにはあのナトーと言う女は居なかった。
当たり前。
2日前に仲間の帰国を見送りに来た少女が、2日後の今日、いったい何のためにココに来る必要があるのか。
メェナードはサラに送る写真の中から、このナトーが写っているモノだけを削除しろと言った。
外人部隊に女性隊員は居ないはずだから、あのナトーと言う女は国軍の報道官なのかもせれない。
そんな平凡な女の写真を、何故削除しなくてはならなかったのだろう?
サラが、俺にヤクモチを妬く?
たしかに、それはあり得る。
エマと言う女の方は、巨乳だけど顔はまあ良いほう止まり。
ところがこのナトーと言う女ときたら、サラに負けず劣らずの、まるでハリウッド女優やモデルも逃げ出すくらいの上玉。
しかもサラと違って巨乳の持ち主で、しかも純心で顔の雰囲気もどことなく甘い超俺好み。
“いやぁ~、まあ、こりゃあサラが妬くのも無理はねえか……”
勝手にそう思い込んで、勝手にサラとナトーを天秤にかけて迷いながらのぼせて居ると、出発する旅客機がエンジンの回転数を上げながら滑走路に向かうためにタキシングを始めた。
キーンと言うジェットエンジン特有の音と共に、空港から僅か17キロ北にあるニーラゴンゴ山の方から強い風が吹いた。
火山特有の硫黄の匂いに混じって、2日前に見たナトーの記憶が鮮明に蘇る。
“いや、コレは記憶じゃない!”
「ナトー!?」
俺は展望デッキの手すりから乗り出すような姿勢で、仲間の名前を叫んでいたナトーに、慌てて声を掛けた。
しかし一瞬間にナトーの姿は消え、手すりから離れた小さな黄色い蝶がひらひらと北に向かって飛んで行った。




