【コンゴの動乱①(Congo uprising)】
ルーシーが中央アフリカ支部に移動してしばらく経った頃、オフィスで各支部の売り上げ実績の詳細を確認していた。
メェナードさんが潜伏していると思われるアフガニスタンでは、相変わらずスコップやコンクリートなどの土木作業に使用される部材が多く販売されていた。
“秘密基地でも作っているの?”
でも、そこにメェナードさんが関与する意味が分からない。
ルーシーの居る中央アフリカ支部に目を移すと、支部のあるコンゴ周辺で不穏な動きがあることに気が付いた。
それは隣国であるルワンダの武装勢力への大量の武器弾薬の販売。
販売担当者は、ルーシー。
コンゴの歴史をチョットでもかじっている者なら、この状況が次に起こす物が何であるか直ぐに予想できるはず。
ルワンダの武装勢力は幾度も越境しては、ゴーマ周辺にあるタンタルの鉱山を漁っていた。
最近はコロナ禍もあり、経済力が衰えて影を潜めていたが、ルーシーはそこに暴発の危険性もある超粗悪品を売りつけていた。
“何故!?”
普通の組織なら、そのような危険な物は購入しない。
だが彼らは違う。
兵士の大半は、他所の部落を襲って手に入れた子供たちや、虐待して奴隷化した大人だから死んだとしても彼らにとっては痛くも痒くもない。
私が確認した売り上げ速報は、各支部の先月の実績を集計したものだから、既に1ヶ月も前の実績だから、販売したのは2カ月近く前と言うことになる。
ルワンダの武装勢力がコンゴに越境してくれば、再びコンゴは動乱に陥り、政治的にも経済的にも非常に不安定な状態に陥る。
そうなれば資産家は資産ごと海外に拠点を移し、隠し財産を蓄えている政治家たちも海外に逃亡し、ただでさえ脆弱な政治体制は一気に崩れるのは必至。
慌ててルーシーに連絡をするために中央アフリカ支部に連絡を試みるが、そのルーシーは数日前にPOCを退社していて、個人用携帯に連絡するがこちらも解約されていた。
嫌な予感がする。
ルーシーは一体何を考えているのだろう。
ひょっとして前に感じていた私の嫌な予感が的中しなければいいのだが……。
連絡の取れなくなったルーシーを探しに行くことは、私の今の地位と仕事量を考えれば不可能。
私の代わりにクラウディやカールを派遣したとしても、2人とも黒人では無いので旨く行くはずもなくイライラはつのるばかり。
そしてついに私の嫌な予感が現実になる日が来てしまう。
ルワンダの武装勢力が越境して、PKO国連平和維持軍として派遣され北ギブ州に展開していたナイジェリア軍を襲ったのだ。
コンゴ政府はこの動きに対して、大規模な軍隊を派遣することはせず、先ず首都キンシャサ周辺を固めた。
コンゴ政府軍は給料の未払い等で指揮系統に問題があり、首都から直線で1500キロも離れた北ギブ州に部隊を派遣することは困難と判断し、フランス政府に応援を依頼した。
これは、ある意味正しい判断だ。
もし無理にコンゴ政府軍が動き、ルワンダ武装勢力と戦いもし仮にコンゴ政府軍がルワンダ武装勢力を追い返すため逆に越境でもしようものなら戦争の図式はコンゴ対ルワンダと言う国同士の争いにも成り兼ねない。
そうなれば同じくタンタル鉱山奪取を目論むブルンジ、ウガンダ、南スーダンの武装勢力も動き出し中央アフリカ一帯は未曽有の凄惨なる戦場に成り兼ねない。
結局フランス政府は陸軍直下の精鋭である外人部隊を派遣し、コンゴ政府も少数の精鋭部隊を現地に派遣した。
リビア、そしてパリのテロミス事件に続いて、フランス外人部隊の登場に一抹の不安を覚えながら私はその動向に注視することしかできなかった。
最初にPOCの情報網に引っ掛かったのは、コンゴ政府が派遣した精鋭部隊の不審な動き。
ニョーラに進軍した精鋭部隊は、フランス外人部隊の主戦力が前線に出発した後から司令官であるアズガビ大佐からの無線は途絶え、代わりに副官のンガビ少佐に変わっていた。
しかもルワンダ武装勢力に対抗するために派遣されたにもかかわらず、ニョーラから一歩も前進しようともしないばかりか、その先のムポフィに布陣するコンゴ政府軍守備隊は音信不通。
来るはずの後衛部隊が一向に前進を始めないまま、フランス外人部隊だけが最前線に孤立する形になっていた。
いくら精鋭の外人部隊とは言え、これでは詰んだも同然だと、その時は思っていた。




