【ルーシーとの別れ②(goodbye to lucy)】
「ナカナカ悪知恵が働くようだが先方の都合は良いとして、私の準備の方はどうするつもりだ?」
「サラなら、1日の繰り上がりくらい、なんてことないだろう? 違うのか?」
「そのかわり、アンタも残業よ」
「なんで!? 1日ズレるだけだろう?」
「その1日のズレで、打ち合わせの内容が全く異なってくるのよ。アンタだってそのように言っていたよね」
「あっ……」
国が相手の事業をしているからには、私たちの行動は先方にバレていると思って間違いない。
前日にアゼルバイジャンに寄ったのも、対立するアルメニア政府には筒抜けだが、ここでスケジュールを1日開けてから訪問することは相手に対する配慮と認識される。
それを1日で済ますと言うことは、アルメニアに対してもアゼルバイジャンに対しても配慮の欠ける行為として受け止められない。
当然相手は、警戒する。
ただし、それは普通に商談をしていた場合。
よほど狂った政治家や国民でない限り、誰も戦争は望まない。
だから話の内容や商談で提示するコンセプトも、お互いが分かり合え、問題を回避できるという夢を持たさなければならない。
実際問題、アルメニアはアゼルバイジャン国内に予てからアルメニア人が住むナゴルノ・カラバフ自治州と言う物があり、国民の大部分はキリスト教徒で、隣国のトルコには過去に国民を大虐殺された恨みが今も根強く残っている。
一方のアゼルバイジャンにはアルメニア国内に、ナヒチェヴァン自治共和国と言う自国の飛び地を抱えている。国民の90%以上がイスラム教徒となり、ロシアに近いながらも同じイスラム国家のトルコと仲がいい。
アルメニアは、そのトルコとアゼルバイジャンに挟まれているから、余計神経を使う必要がある。
カギを握るのはアルメニア北部と国境を接するキリスト教国のジョージアと、NATO(北大西洋条約機構)に加盟しているトルコだ。
秘書に連絡して、同じ日か次の日の午前中に国防大臣かNATO担当者、陸軍の将軍にアポを取らせると、次の日の午前中に外務大臣が会ってくれる事になった。
これで、ほぼ打ち合わせは全て旨く行く。
打ち合わせは上手く話す事よりも、誠意を行動で示す方が旨く行く。
2日間にわたる打ち合わせには秘書2名とクラウディ、それにカールを連れて行き、トルコとの打ち合わせが終わった後は秘書2名とその護衛にクラウディを付けてカーリングラードに返した。
「いいんですか? クラウディを返して」
「仕方がない、今回は重要な打ち合わせだったから秘書2名を付けたから、コチラも無事に社に返す必要がるからな」
社内の噂によると、どうも最近の私は言葉も男性みたいで素っ気なくイライラしているように思われているらしい。
たしかにメェナードさんが音信不通になってからというもの、頼れる人が居なくて独りで何もかも抱え込んでいるから気分的には虐めにあっていないだけで、あのイラクに居たときの小学生時代に似たような状況なのは自分でも分かっている。
他の社員からも年下の部長と言うだけで半ば敬遠されがちなうえに、キツイ言動も相まって社員が委縮傾向にあり私以外の業績が落ち込んでいる。
勿論、落ち込んだ分は全て私がカバーしているから、東欧支部としては数字上何の問題も無いように見えてはいるが、この状況を早期に変えなければ後々厄介なことになり兼ねない。
プライベートジェットでパリに到着すると、私はカールを連れてパリのギャラリー・ラファイエットに向かった。
「珍しいですね。寄り道なんて」
「あら、そう? だってマダ時間に余裕があるじゃないの」
「でも、いつもならパソコンを広げて……」
「い~の。たまには気分転換も必要よ」
私はここで服を買い、スーツからストライプ柄のワンピースに変え、靴も黒からクリスチャン・ルブダンのベージュのサンダルに履き替えた。
「どう?似合うでしょう!」
「似合う?じゃなくて、なんで似合うでしょう!なんだ?」
「だって、似合わない訳が無いじゃない。違うの?」
「まあ、確かに薄い水色の生地に濃いブルーのストライプが“真直ぐ”に上から下に延びるラインと襟と袖がクレリックになっていて凄く清潔感があって素晴らしいけど」
「けどってなによ!? それにストライプの“真直ぐ”は強調してくれなくてもいいから」
「サンダル、凄く似合っているよ」
「ありがと♬」
「ビールでも飲む?」
「おぉっ、いいのか!??」
「だって、まだ少し時間があるでしょう。嫌なら、いいのよ。私は御菓子を食べるから」
「い、嫌なんて、とんでもねえ!マリーアントワネット様からのお誘い断る訳がねえだろう!」




