【テロの顛末(The end of terrorism)】
パリでは、やはりメヒアたちによるレイラ奪還が行われ、そのあと直ぐにテロが起きた。
テロの計画はジュジェイによって練られたもので、その第1弾はパリ市街でのサバゲ―大会。
サバゲ―の競技者に混じってテロの戦闘員を送り込めば、状況の把握や収拾は困難かつ危険。
パリ市内へのモデルガンの持ち込みは禁止されている。
ネットを使ってその募集を掛ければDGSI(国内治安総局)の警戒網に引っ掛かり、直ぐに潰される。
ジュジェイは、その伝達手段を図書館の伝言板などを利用した“口コミ”に頼った。
クソ野郎のくせに、ナカナカ大したものだ。
だがフランス当局にも切れ者が居たもので、パリ中心部に集まる各駅前に軍用のトラックを待機させ、集まった人たちに会場が軍の演習場に替わったことを伝えた。
もともとホームページも何もない“口コミ”で集まった人たちだから、競技会場が変わったことを現地で伝えられても納得は出来るだろう。
だいいち彼らだって、街の中心部でサバゲ―が行えるなんてこと本当に信用していたとも思えないし、軍のトラックに乗せてもらって本物の演習施設でサバゲ―が出来ると分かれば何も疑わずに付いて行って当たり前。
こうして第1のテロは防ぐことが出来た。
第2のテロはドローンを使ったテロ。
こっちの方もサバゲ―同様に、口コミで素人の競技者を集めICタグに見せかけた特殊な発火装置を競技者のドローンに取り付けて、修復が終わったばかりのノートルダム大聖堂を狙った。
小さなドローンに小さな発火装置だが、ドローンには満充電状態の高性能のリチウム電池が付いている。
私が独自に入手した情報によるとジュジェイが偽のICタグに埋め込んだ発火装置には、リチウムイオンにテルミット反応を起こさせるもので、その時の発火温度は1000℃にも達するから木造建築のノートルダム大聖堂を炎上させるにはドローン1機でも到着して発火すればそれで充分。
しかもドローンは小さい上に、動きもトリッキーなので余程手慣れた狙撃手でも撃ち落とすことは困難。
と言うか、そもそも100機を超えるドローンを撃ち落とそうとした時点で、フランス政府側はジュジェイの罠にかかったのも同然なのだ。
ところがテロ対策に派遣された部隊は、ドローンの仕組みをよく理解していて、ジュジェイの鼻を明かしてみせた。
この前のリビアでの戦いと言い、今回と言い、フランスにはどうやら有能な士官が居る様だ。
結局メヒアたちの作戦は失敗して、メヒアはホテルで様子を見ていたところを警察の狙撃手に撃たれて死亡。
参謀を務めていたジュジェイは、おそらくは作戦が失敗したことによりメヒアたちに喉を切られて窒息死した状態で見つかった。
護送中に奪還されたザリバンのリビア方面軍副司令官レイラの死亡も伝えられ、この一件は無事にフランス政府当局が勝利した。
メヒアを射殺したのは過去のオリンピックで、2大会連続で金メダルを獲得したピエ-ル・ベルモンド。
RAID(フランス国家警察特殊部隊)の狙撃部隊の隊長だが、噂では心の病で長期休養中だと聞いていたが、治ったのか?
それにしても気になるのは、このテロを潰したのは誰なのかということ。
DGSI(国内治安総局)には、これほどの事が出来るような切れ者は居なかった。
先のリビアでの事件を解決に導いたという、DGSE(対外治安総局)のエージェントなのか?
いずれにしてもDGSEはフランスの情報機関として、アメリカのCIAと同様に機密情報の収集や工作活動を行うので、それを実行するエージェントの名前は決して外部に漏れることはない。
「レイラって言う女副司令官は、やはり裏切ったんですかねえ」
「さあ……」
「まあ死人に口なし、ですからね」
久しぶりに戻って来る、クラウディを迎えに行く車中で、カールがパリの事件の話をした。
たしかにレイラの死亡は発表されたが、腑に落ちないことがある。
それは今回のテロにレイラの色が全くと言っていいほど見えない事。
レイラはロンドンの名門インペリアルカレッジを出たほどの秀才で、リビアでの活動も諜報活動を重要視していた。
なのに今回のテロは全くと言っていいほど、その諜報活動は無視されていて、作戦の全てはジュジェイによるもの。
捕虜になったとはいえ、リビア方面軍の副司令官の地位は雇われたメヒアより上のはず。
決してジュジェイに任せきりにするようなバカではないはず……。
モスクワ空港に到着して到着ロビーで待っているとクラウディが現れた。
過酷な任務に、また一回り大きくなった気がした。
「サラ!」
「クラウディ‼」
「すみません。メェナードさんに会えないままで……」
クラウディは申し訳なさそうに私に謝って来たが、そんなことはどうでもいい。
無事に帰って来たことだけで十分だし、あのメェナードさんがそう簡単に尻尾を見せるはずがない。
最初からメェナードさんがどこに居て、元気にしている事だけ分かればそれで充分だった。
「さあ、今夜はクラウディも無事帰ってきたことだし、飲みに行くわよ!」
「ヤッホー‼」
カールが真っ先に歓声を上げた。
「アンタは車で待機よ!」
「なんで!?パリでは一緒にレストランに入って良いって言ったじゃん?」
「駄目よ。アンタ、お酒は駄目だって言ったのにワインとシャンパンをガブ呑みしたでしょう?」
「ガブ呑み? イヤイヤほどほどなら良いって言ったじゃないか」
私は財布からArpègeのレシートを取り出してカールに突き付けた。
「食事代は1人420ユーロ(約6万5千円)のコース料理。その下のお酒代を御覧なさい」
カールが覗き込むように、レシートを見て素っ頓狂な声を上げた。
「900ユーロ!??(約14万円)」
「アホかオマエ。高い料理店では、それより高い酒を出すものなんだぞ」
クラウディにまで突っ込みを入れられて、しょげるカール。
「まあ安物のウォッカだけで我慢するなら、許してやってもいいけれど、もう一つ条件があるわ」
「なんでも聞くよ」
「じゃあ、呑んでもエロカールには変身しないこと。分かった」
「分かりました……」




