【パリが危ない!⑤(Paris is in danger!)】
DGSIに到着すると、既にパトカーに装備が装着されていたので、さっそく使用説明を始めた。
こういった開発を伴う仕事の場合、具体的に何がどのようにしたいのかを聞かないと開発は行えないが、それが何のためにいつ使われるかなどは暗黙の了解で聞いてはならないことになっている。
だから聞かないが、大至急でこの時期と言えばレイラの護送作戦に使われるのは先ず間違いないだろうが、こんな細工を施す必要があるのだろうか。
説明の節々で担当課長の男が嫌な笑みを浮かべる。
他の者たちも意地悪そうな事を考えている雰囲気が、ひしひしと伝わってくる。
エリートらしいが、私に表情を読まれるあたり大したヤツではなく、なにやらハラスメントの匂いがする。
察するに、自分の……いや自分たちのプライドを傷つけられた誰かを驚かせるために、このような装備を選択したに違いない。
質の悪いドッキリ。
何とも小さい奴等だ。
「おつかれ!」
全ての説明が終わると、DGSIの人たちは何も言わずにガレージを出て行き、一緒に居たルーシーだけが明るく労ってくれた。
こう言う粗雑に扱われることは東欧支部でもないわけではない。
特にロシアが相手の場合は比較的多い。
プライドの高い彼らは、仕事を頼むときこそ親しい態度を取ってくることが多いものの納品の時にはその真逆の態度に変貌することも稀ではないが、そう言うことでしかプライドを意識できない人間は哀れだ。
自己満足で人を傷つけるとすれば、必ずしっぺ返しが来る。
だが、そんなことは私たちには関係がない。
一つの仕事が済めば、直ぐに次の仕事に取り掛かる。
いちいち何かに引っ掛かっていたのでは、仕事の効率は上がらない。
いつもそう考えて仕事をしていた私だが、今日は妙にルーシーと話がしたくなり……いや、話をしておかなければならない気がしてイギリスの本社経由でパリ第7区ロダン美術館の斜め向かいヴァレンヌ通りとブルゴーニュ通りとの交差点角にあるArpègeを予約してもらった。
話をするには、ゆっくり食事を楽しめるフランス料理店が良い。
ブルゴーニュ通りに車を止めると、カールがルーシーと私のためにドアを開けてくれた。
「殺し屋さんも、スッカリ運転手さんが板についちゃいましたね。ありがとう」
「もともと俺は紳士だからな」
ルーシーに礼を言われたカールが好い気になって軽口を返して運転席に戻ろうとする。
「カール、一緒に来なさい!」
「でも、車の見張りが……」
「大丈夫よ、上を観なさい」
サラの言葉にカールとルーシーが上を見上げると、車の10mほど上にはドローンが空中に止まっていた。
「いつの間に!?」
「今よ」
「そんな一瞬で!?」
「ドローンは手ごろなの。もう、これからの戦争はドローン無しでは戦えなくなるわよ」
「まさか、ドローンって玩具でしょう?」
「違うわ。完全に完成形である超小型ハイテク機器よ」
Arpègeは丁度3つ角の交差点に面した集合住宅の1階、ちょうど2つの通りに架かる横断歩道の起点になる角にあった。
店に中に入ると直ぐ席に通された。
白い壁に白いテーブルクロス、その上には白いお皿に乗った色鮮やかな料理。
私たちはその白い空間を抜けて階段を地下へと降りて行くと、そこにはドーム型の地下室があった。
木の格子の入った白い壁には、所々に色鮮やかな植物の絵が直に描かれていて、木の格子を這うようにツタのオブジェが這っていた。
「まあ、素敵‼」
ルーシーが歓声を上げた。
普通なら平日でも当日に予約が取れる所ではないが、POCではこのようなプレミアムな場所を何カ所か年間契約で押さえている。
無駄な出費かと思うが、これは顧客の為でもある以上に、POCの威信なのだ。
行きたくても予約さえ取れないパリの三ツ星レストランを直ぐに押さえられるのは、絶大な信用に繋がる。
まあ今回は身内で使う訳だが、東欧支部第1部長として私はそれで人から後ろ指を刺されるほど稼いでないわけではない。
席につくと直ぐにアペリティフ(食前酒)が運ばれてきた。
メニューは、予約を入れたときに私だけに渡すように本部に伝えておいてもらった通り、店のギャルソンは私にメニューを渡した。
「ディナーのコース料理で好いか?」
「もちろん‼」
ルーシーが目を輝かせて喜んだ。
「カールは?」
「俺もOKだけど、酒は?」
「NGよ」
「……;」
食前酒で乾杯をしてルーシーに聞いた。
「なにか私に話があるんじゃないの?」
ルーシーはドキッとしたように、持っていたグラスを止めた。
「サラは何でも、お見通しなのね」
「話して頂戴」
ルーシーがチラッとカールに目をやった。
「大丈夫よ。この人は守秘義務のプロだから」
「分かったわ」




